シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【新入生歓迎】不良in女子校!?

リアクション公開中!

【新入生歓迎】不良in女子校!?

リアクション


part3  ヴァイシャリー侵攻


 百合園女学院の存在する都ヴァイシャリーは、湖の中の島である。
 乗り物の使用を禁止されたパラ実生たちは、湖の西岸から島の岸辺まで、独力で泳がされていた。
「ふう……疲れました……。まさかこんなに風が強いとは……」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は消耗しきって岸に上がる。
 彼女はチェックポイント係を引き受けていた。自分の体力を回復する時間も待たずに、湖の方を振り向いて脱落者のチェックを始める。
「国頭武尊さん……ですね。お疲れ様です。回復して差し上げますわ」
 続いて上陸してきた国頭 武尊(くにがみ・たける)にリカバリをかける。
「ありがとよ。うーっ、冷えちまったぜ。カメラは壊れてないだろうな」
 武尊は荷袋からデジタルビデオカメラを取り出し、浸水していないのを確かめると、安堵の息をついた。
 彼は記録係を買って出ている。凶作に逆らった上級生たち、隊列を襲った他校生たちの姿も、しっかりとカメラに収めていた。
 岸辺にたどりついたみすみや魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)にレンズを向け、撮影を再開する。
 リリィがしかめっつらをした。
「ちょっと武尊さん。この状態で撮影を続けるのは無神経ですわ。女の子のはしたない格好を、未来永劫データに残すつもりですの?」
「はぁ? なにを言ってるんだ、君……あ」
 武尊はリリィの言わんとすることに気付いた。
 泳いできたばかりの生徒たちは、服が濡れて肌に張り付き、乳房の形までもが透けていたのだ。
「でもこれはだな、下世話な目的ではなく、飽くまで記録であって……」
「記録だろうとなんだろうと駄目ですわ。自粛してくださいな」
「む……」
 武尊は仕方なく、デジタルビデオカメラの電源を切った。


「ヒャッハァ〜!」
 立花 眞千代(たちばな・まちよ)はヴァイシャリーの街を駆けながら喚声を上げた。
「ご機嫌だね、眞千代」
 パートナーのフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が薄笑いを眞千代に向ける。
「ああ、久しぶりに大暴れできるからな。ちょっと運動不足なんだ」
「僕もだよ。せいぜい、楽しませてもらおうよ」
 フィーアは轟雷閃を四方八方に放つ。割れるような雷鳴が轟き、住民たちは驚いて窓から外を覗く。
 二人の役割は陽動だった。フタバスズキリュウを運ぶ本隊より先に進み、大騒ぎして敵を混乱させるのが目的だ。
 百合園の生徒会執行部、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が百合園の方向から走ってきた。
「キミたちーっ、なにしてるんだい! 百合園にパラ実の行進がやってくるのは聞いてたけど、街の人にまで迷惑をかけるなんて! 許さないんだからね!」
 ミア・マハ(みあ・まは)はパートナーのレキの後を追いながら訝しむ。
「妙じゃのう。たった二人か? 行進というより散歩ではないか」
「何、気にすることはない。百合園など僕ら二人で潰せるということさ!」
 フィーアが轟雷閃をレキに向かって放った。とっさに跳んで避けるレキ。
「やる気じゃのう!」
 ミアが天のいかづちを落とした。稲妻がフィーアと眞千代を直撃する。
「いいじゃんいいじゃん、その調子だよ! あたしをもっとたぎらせてくれよ!」
 眞千代は双眸をぎらつかせた。
 頭上から、涼やかな声が響き渡る。
「他者と対話し、互いに太平を行く事を知らぬ者……人それを愚者という」
 新たな勢力の出現かと四人が見上げれば、建物の屋上に橘 恭司(たちばな・きょうじ)が立っていた。
「愚かな者たちよ! 戦いは愛する者を助けるためだけに許される! このような争いにはなんの価値もない。双方手を引いて、大人しく巣に戻るがいい!」
「誰!?」
 レキが鋭い声で尋ねる。
「貴様らに名乗る名前はない!」
 恭司はすげなく切り捨てる。
 道化院 月夏(どうけいん・つきな)が駆けてきた。膝を手の平で押さえ、息を切らして説得する。
「みっ、皆さ〜ん。喧嘩は駄目なのですよぉ。真っ直ぐ真っ直ぐ歩かなくても、少しぐらい遠回りしてあげればいいじゃないですかぁ」
「パラ実生に迂回は無い。前進制圧あるのみ、だよ……」
「フィーアはパラ実生じゃないけどな」
 眞千代がパートナーの言葉に素早く突っ込みを入れる。
「け、喧嘩やめてくれないと、撃ちますよ? ホントに撃っちゃうんですからねぇ?」
 月夏は震える手でアサルトカービンを持ち上げた。とはいえ、その銃口は天を突いており、誰の頭にも向けられていない。
 レキが表情を険しくする。
「どいて、知らない人! 邪魔するようならキミも敵とみなすよ!」
「そんなぁ〜」
 月夏は途方に暮れた。


「ほらほら、私の手から餌を食べましたよ。なんて可愛らしいんでしょう」
 九十九 昴(つくも・すばる)は陽動隊の戦いをよそに、歩きながらフタバスズキリュウに煮干しをやって頬を緩めていた。
 シァンティエ・エーデルシュタイン(しぁんてぃえ・えーでるしゅたいん)が口を尖らせる。
「ああっ、ずるい。あたしの手からも食べろよ! ほれほれ!」
「ほらほら!」
 二人は争ってフタバスズキリュウに餌を押しつけ、フタバスズキリュウはなんとか両方を食べようと四苦八苦する。両手に花のモテモテだった。
 昴のパートナー、吉木 朋美(よしき・ともみ)はフタバスズキリュウにカメラを構える。
「フタバちゃーん、こっち向いてー! 笑ってー! にーって、にーって。ピースしてー。違う違う、パーじゃなくてチョキを作るんだよー」
「無茶言うな! 種族の壁を越えた要求だぞそれは!」
 シァンティエがフタバスズキリュウの気持ちを代弁した。
 彼女のパートナーであるフィオン・オルブライト(ふぃおん・おるぶらいと)は、遠巻きにフタバスズキリュウを眺めている。
「はしゃぎすぎて洗面器を落としたりするでないですヨ。最初はそうは思わなかったけどですけど、よく見ると可愛いですネ。触っても危険はあるますか?」
「平気ですよ。とっても大人しいですし。フィオンさんも触ってみたらどうですか?」
 昴が勧めた。
 フィオンはフタバスズキリュウに歩み寄る。
「では、失礼して、欲望のままに愛撫させてもらいますですヨ」
「エッチだなー」
 朋美が笑った。
 フィオンはフタバスズキリュウの頭を撫でる。
「ん? んん!? これはあ! ちゅるちゅるしてますヨ!? 植物石鹸物語ですヨ!?」
「シャッターチャンス! フタバちゃんが笑顔みたいな表情になってる! みんな集まってピースして!」
 昴、フィオン、シァンティエがピースを作り、朋美がカメラのシャッターを切った。デジカメの液晶を確かめると、かなりのベストショットになっている。あとで現像して皆に配ろうと朋美は思った。
 和やかなひととき。誰も彼もがフタバスズキリュウに夢中だった。
 そして、忘れていたのだ。自分たちが敵地にいるということを。
 がくん、と足が空を滑り、四人は落下した。悲鳴を上げながら地面に叩きつけられる。起き上がってみれば、そこは落とし穴の中。前方と左右には柵が設けられ、後退しなければ這い上がれないようになっている。
「やったぁ! 見てみて、優! 引っかかったよ! 僕が今日のMVPだよね。だよねっ!?」
 落とし穴を仕掛ける作戦を考えた松本 恵(まつもと・めぐむ)が、柵の向こうで両手を叩いて喜んだ。
 彼女のパートナー、赤坂 優(あかさか・ゆう)は苦笑する。
「MVPとまではいかないでしょう。こうもあっさり引っかかるなんて、逆に新鮮な驚きで僕の胸はいっぱいです」
「我が校の更衣室に突撃なんて許せないですぅ! 百合園の上級生として、いけない犯罪者さんたちはお仕置きですよぉ!」
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が、いまいち気合いの入らない口調で言い渡す。表情を精一杯引き締めているが、童顔なせいで威圧感はゼロである。
 柵を張り巡らすよう提案したのは彼女だった。織田信長が堀で馬の勢いを削ぎ、柵の外から鉄砲を撃つことで勝利した、長篠の戦い。それを参考にしたのだ。
 落下した拍子に昴が洗面器を放してしまい、フタバスズキリュウはかすり傷を負っていた。わずかながら血も滲み、落とし穴の中でピイピイ泣いている。
「よくも恐竜ちゃんに手を出したな!」
 昴がぶち切れ、綾刀を鞘から抜いた。
「今のはちょいとだけ、あたしも腹立ったぜ。目には目を、歯には死あるのみ、ってね」
 シァンティエがアサルトカービンを構える。
「あーあ、逆ギレしちゃったよお。不法侵入しようとしてるのは、そっちなんだけどっ!」
 恵はトマホークを振り上げ、振り下ろしながら落とし穴に飛び込んだ。
「敷地を通らせてくれるぐらい、いいでしょっ!?」
 朋美がマジックワンドでトマホークの刃を防ぐ。
 優が恵を援護するため落とし穴に入り、カルスノウトで朋美に斬りかかる。
「百合園の敷地は男子禁制! 君も知ってるはずですよ! そもそもなんなんですか、この作為的なルート設定は! 更衣室を通るよう選んで決めたのが明白です!」
 恵が驚いて目を見開く。
「ええっ、明白なの!? 僕は全然気付かなかったんだけど!?」
「ただし恵を除きます!」
 優は但し書きを追加せざるを得なかった。