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【新入生歓迎】新入生歓迎騎馬戦!

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【新入生歓迎】新入生歓迎騎馬戦!

リアクション

 「始めまして。白瀬 歩夢です。キミの名前は?」
「アゾート・ワルプルギス……だよ」
 白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)は会場で黙々と本を読むアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)に声を掛けた。
「アゾートさんか、宜しくね。早速なんだけど一緒に騎馬戦に出ませんか?」
「騎馬戦……」
「そう。今あたしと歩夢だけなの。負けてもアゾートの所為にしたりしないし、どうかな?」
 白瀬 みこ(しらせ・みこ)は屈託無く笑う。
「それなら……」
 何回かの説得の後、アゾートも何とか了承をしてくれた。
「ありがとう。宜しくね」
 「次も攻めるわよ」
 みこの元気な声で歩夢達の騎馬は動き回る。
(アゾートさん、キレイだな……)
 揺れるアゾートの髪は動きに合わせて、キラキラと揺れアゾートの可愛らしさを強調していた。歩夢の目は後ろのアゾートにばかり注意が行ってしまっている。
「ほら、歩夢ちゃんと前を見て」
(……いけないいけない)
 みこの言葉にハッと我に返り、再び周囲を見渡す。
(けど運動は得意には見えないかな。私が彼女が動きやすい様に騎馬相方としてリードしてあげて、まずは上手く動けるようになりたいな)
「ねえ、アゾートさん」
「何……?」
「アゾートさん。鉢巻をこちらは取り易く相手は取り難い、位置取りってあると思うんだ。一緒に見付けて頑張ろうね」
 アゾートが気になるのか、歩夢は積極的にアゾートに話しかけていた。
「ふ〜ん」
 頭上のみこには何となく分かった様な顔をしていた。
(むむ……歩夢の幼馴染のあたしにはピンと来た!結構アゾートの事が気になってるみたいだね〜)
 歩夢とアゾートには分からない様にムフフと笑う。悪戯を考えている子供の顔だ。
(よし!ここはこのみこちゃんが一肌脱いであげよう!先ずは――)
「「足開き過ぎ気味だよぅ。二人共もう少し寄って!」
(接近作戦!これで2人の距離を一気に近づけちゃうわ)
「あ、ごめん。アゾートさんももう少し前に進んでくれるかな……」
「分かったよ」
 みこの一言で2人が僅かだが、更に距離を縮める。
(あたしってばまさに天使のようなキューピッドかも?照れた歩夢も可愛いし)
 「ねえ、僕達と協力して攻めない?」
 不意にフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)から歩夢達に声が掛けられた。
「え、でも……」
 歩夢は其処で言い淀む。少し迷っていた、即戦力として戦えるのか。自分たちのチームだけならば、失敗しても自分が責任を取れば良い。だが、相手のチームにまで迷惑を掛けるのは辛い。
「良いよ」
 歩夢が迷っているとアゾートがOKを出してしまった。
「だけど、迷惑じゃ?」
「いやいや、そっちはスキルを使ってこっちをサポートしてくれれば良いよ。此方から頼んでるんだ。失敗したって構わないさ」
 フィーアは前と上の立花 眞千代(たちばな・まちよ)戸次 道雪(べつき・どうせつ)に、そうだろ? と聞く。
「あたしは構わないじゃんよ」
「わしも異論はないの」
 眞千代は不満そうな顔を見せるわけでもなく了承した。道雪についても同様だ。
「はい、決まりね。じゃあ早速頼んだよ」
 「分かったよ」
「ふぅ……了解です」
 渋々といった感じだが、やるからにはアゾートに良い所を見せたい。フィーアが攻める瞬間を見越して、『奈落の鉄鎖』を解き放つ。
「『アシッドミスト』」
 アゾートがそれに合わせて、濃霧を発生させる。
「何、何が起きたの?」
 『アシッドミスト』にて視界を奪い、『奈落の鉄鎖』で反応を鈍らせる。フィーアの作戦通りに、事は進んでいく。
「う、動き辛い」
 濃霧から出ようにも四肢が重くなり、直ぐに回避が出来ない。
「鉢巻は貰うの!」
 道雪のゆったりとした声とは裏腹に素早く手は動き鉢巻を頭から奪った。騎手が道雪の手を払おうとするが、眞千代の『鬼眼』でその一瞬を遅らせる。
「当ったり前だ」
 眞千代は当然という顔でフィーアの作戦を褒める。
「歩夢達も中々いい援護になってる。次も頼むよ」

 観客席の最前列。何やら忙しなく動き回る1人の男がいた。伊大知 圍(いたち・かこむ)は、女性の騎馬に完璧に引っ付いてカメラのシャッターを押しまくる。
「中々良い動きじゃないか!」
 手に隠し持ったデジタルビデオカメラで盗撮する。
「さてと、収穫はどうかな?」
 あれだけの運動とは対照的に画像は、ピンボケしたものしかカメラのバックモニターには映っていなかった。これでは何が何だか全く分からない。
「おっかしいな。今日は上手く撮れん」
「おい、何してんだ?」
「う、うちのムスメを撮ってるんですよぉ」
 いつの間にか、大将席まで移動して涼司に声を掛けられるが、常套句で涼司を退ける。
「?」
 家族ならと、涼司は簡単に引き下がってしまった。
「そして、イルンスミールだ」
 ぐるりぐるりと騎馬を追いかけ続け、気が吐くと今度はイルンスミール大将のエリザベートの方まで来ていた。
「何をしているんですかぁ?」
「う、うちのムスメを撮ってるんですよぉ」
 お決まりの常套句だ。
「へぇ、そうなんですかぁ」
 エリザベートはニコッと笑うが、カメラが火を噴いた。
「あ、アッチ」
 余りの熱さに圍はカメラを落としてしまう。カメラは赤熱すると、黒い消し炭になっていた。
「なんて言うと思いましたかぁ?」
 後ろを振り返るとエリザベートが仁王立ちで立っていた。
「……可哀想な体型に興味はねえよ」
 エリザベートをちらりと見ると、さらりと言ってはいけない事を口にしてしまう。
「はぁ?」
 刹那、ギリギリと空間が歪んでいる音が聞こえた。
「ちょっとこちらへどうぞぉ!」
 圍は控え室に放り込まれると、その後は口に出来ない惨劇だったという。

 「これも戦…その命(鉢巻)貰い受ける!」
 戦闘モードの昴の口調が荒くなる。
「さぁ昴、思う存分あばれちゃいなさーい!」
 朋美の『パワーブレス』を受け、対峙する蒼空学園の騎馬からの攻撃をかわし、昴は鉢巻を奪い取った。
 数日前の事だ。
「朋美、聞きましたか?騎馬戦です。騎馬戦だなんて……朋美が好きそうなイベントですね」
 九十九 昴(つくも・すばる)吉木 朋美(よしき・ともみ)のやりたそうな顔を見て、クスッと笑ってしまう。
「じゃあ、私達も参加しようよ!」
「え、参加するんですか?」
「参加しなきゃ、楽しくないじゃない」
 腰に手を当てて、当然のように朋美は思う。
「はぁ、分かりました。今日の内に申し込んでおきます」
「ありがとう昴!ほんとだいっすき! !」
 ぴょんと昴に飛びつくと、頬ずりをする。
「わ、分かりましたから。離れてください」
「昴〜」
 「えっと、僕はイルンスミール側ですか?」
 高峰 雫澄(たかみね・なすみ)は呆気に取られた顔をしていたに違いない。
「うん。そだよ」
「あれ、昨日は?」
 昨日の会話を思い出そうとする雫澄だが、昨日の会話が思い出せない。
「まあまあ、良いから良いから」
 ぐいぐいと会場へと押され、騎馬にさせられてしまった。
「う、分かりました。イルンスミールの為に今回は頑張りましょう」
 ドーンという激しい爆発が蒼空学園側の陣地から起こった。
「な、何ですかぁ?」
 エリザベートも不意に椅子から落ちてしまいそうになる。
「あー、ごめんねぇ。ちょっっっと強すぎたかな」
 雫澄が競技場の端っこに仕掛けた威嚇用のトラップが派手に爆発した。
「な、マジかよ?」
「どうすんだよ?」
 蒼空とイルンスミールの両方が顔を見合わせてしまう。
「ぴー。そんな仕掛けはダメですよ」
 慌てて加夜が走ってくる。本人も顔が少し青くなっている。
「え、これしか大きいのは仕掛けてない?本当ですか?じゃあ、ちょっと待っててください」
 事情を聞くと加夜は放送席へと走っていく。
「やあ、大吾だ。今のは何か間違いがあったみたいだ。あんな爆発は無いから、安心して騎馬戦を続けてくれ」
 という事が開始直前にあった。

(イルミンの一生徒として、ミンストレルの歌姫として頑張りますわ!)
 そう決意するのは、後ろの騎馬を担当するセルフィーナ・クレセント(せるふぃーな・くれせんと)だ。
「セルフィーナちゃん、騎馬やってくれるの……?じゃあ、私騎手やるね」
 のんびりと喋っているのはアシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)。眠いのか、瞼が落ちかかっている。
「そうよ、イルミンの為に頑張ってアシュリー!」
「うん。頑張る……」
「アシュリー……」
 神無月 桔夜(かんなづき・きつや)は半ば諦めた顔で後ろの背中のアシェリーを見る。背中のアシュリーはゆらゆらと傾きながら、寝息を立てている。
「すー、すー。あ、ごめん。寝てた。えっと、じゃあ皆・・・ファイト」
 何とも切ない応援である。当の本人は直ぐに眠りについていた。
「いや、寝てもいいんだけどね……。せめて騎馬戦が終わるまで待ってもらえると嬉しいんだけどね。……まぁ、もう半分夢の世界だろうから聞こえてないんだろうけどね。……こうなった以上、僕が頑張るしかないんだろうけれど、ね」
 『半ば』だったのが、『殆どあきらめた』に桔夜は変わっていた。
「セルフィーナ。ここは僕と君に命運がかかってるよ。気合いれて行こうか」
「ええ、私に任せて。私はミンストレルらしく『恐れの歌』を使いますわ〜」
 口から発する美しい音色は確かに聞く価値がある。
「ら〜ら〜ら〜ら〜♪」
「そうそう、セルフィーナは歌を歌ってって。……なんか効いてる気がしないんだが本当に歌発動してるのか?ねえ、こっちに騎馬が向かって来るよ!」
「あいつらさっきからあそこで止まったまんまだ。鉢巻ゲットだぜ」
 蒼空学園の騎手がアシュリーの頭へと手を伸ばす。
「ん〜」
 眠りながら、勝手にフラフラとしている頭ががハチマキを狙う手を避ける。
「な、武芸の達人なのか?」
 完璧とも取れる回避運動に騎手も驚く。
「今だ、逃げるよ」
 大きく振りかぶった所為で、騎手がバランスを崩した隙をついて3人は逃げ出した。
「って、何か踏みましたわ」
「え?」
 セルフィーナの足が地から離れると、高峰 雫澄の仕掛けた地雷が発動した。小規模な爆発が騎馬のバランスを崩す。
「きっつーしっかりしゅーちゃんを支えてあげてー! ?いたた、……皆大丈夫ですの?」
 セルフィーナがゆっくりと目を開ける。
「きゃー!きっつー、私としゅーちゃんの胸触ってますわー!」
 高速でセルフィーナの手が桔夜の顔に振られる。崩れた際に桔夜の手が2人の胸に押し当てられていた。
「……うわっ……ってええ、ちょ、ま、待って違うこれは不可抗力だ!」
 
 「よう、良く来たな」
「いったい何の御用ですか?」
 朝になってレティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)は競技場へと呼ばれた。山葉からはその理由を聞かされていない。強引に会場へと連れて来られたレティーシアはいきなり騎馬を組む事になってしまった。
「悪いんだけど、レティーシアと騎馬を組んでもらえるか?」
「え、良いですけど」
「ああ、こっちも構わないぜ」
 藤川 隼(ふじかわ・はやぶさ)新庄 ハヤト(しんじょう・はやと)は突然の珍客に驚きながらも快く引き受けてくれた。
 「何故、わたくしが騎馬戦に?」
「まあまあ、気にするなって。可愛い後輩と親睦を深めるだけだ」
 納得のいかないレティーシアだったが、それでは快諾してくれた2人に申し訳ない。レティーシアも騎馬戦に参加する運びとなった。
 「宜しく御願いしますわ」
 騎馬を組み終えると改めて、レティーシアが挨拶した。
「宜しく御願いします」
「こちらこそ」
 騎馬戦が始まり、両校の騎馬が入り乱れる。
「こっちも始めるぜ」
「ああ、お預けだったからな」
 後衛として待機していたハヤト達だったが、漸く出番が回ってきた。
「先ずは突入して、派手に暴れてやるか」
 隼は有無を言わせず、イルンスミールの中央へと走りこむ。
「『サイコキネシス』」
 地面にある砂を巻き上げ、空中に浮遊させる。
「っ、目が」
 周囲にバリアを張るように浮遊させ、接近する騎馬の目を奪う。
「右に回れ」
 イルンスミールの騎手の利き手を使わせないように、逆へと回り込む。砂が目に入った解きの、目を擦る手から利き手をハヤトは判断する。
「人はまず利き手を使おうとする。逆の手を使ったほうが楽だったとしてもだ。今回は特に利き手を使いたくなる」
「貰うぜ!」
 騎手の手が上手く届かない位置からハヤテは鉢巻を掠め取る。
 「今度は左だ」