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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 第10章 ドラゴンサーフィンの波は非リア充の味方である。

「わぁ……すごいや、海ってこんなに広くてきれいなんだね!」
 本物の海を間近にして、ヴィータ・ウィステリア(う゛ぃーた・うぃすてりあ)は感動したように瞳を輝かせた。すごく嬉しそうだ。
「ぼく、いままで1度も海を見たことがなかったんだ。おねえさん、つれてきてくれてありがとうっ!」
「喜んでもらえて何よりよ。私も、来て良かったわ」
 鷹野 栗(たかの・まろん)も黒鱗のワイバーン、シェリダンと共にいられて嬉しそうだ。
 海にはサーフィンをする若者もいる。隣にはワイバーン……
 ――ハッ、もしや新たなるエクストリームスポーツの誕生!?
 そう閃き、栗は今日、新たなスポーツを試しにやってきたのだ。
「こんにちは! 立派なワイバーンだね!」
 その時、彼女に元気な声が掛けられた。八薙 かりん(やなぎ・かりん)を連れた葦原 めい(あしわら・めい)が歩いてくる。2人共、百合園女学院の公式水着姿だった。普段から公式水着をアレンジしたバニー風パイロットスーツを着ているめいは、海でもあまり変わらないかもしれない。
 彼女は、ツァンダの東の獣人の村に蒼空王国機甲という会社を作っている。専門は――
「めいはねー、動物型イコンを専門に作ってるんだよ。だから、巨大動物を見るとついつい観察したくなるんだ。戦闘以外で巨大動物とじっくり触れ合える機会って、なかなか無いよね」
「? そういうものですか?」
 動物や魔物、シェリダンと居ることが多い栗にはピンと来ないが、普段、彼らと一緒に暮らしていない人々から見るとそうなのかもしれない。
「触らせてもらってもいいかな? 実際に乗ってもみたいけど……もしよかったら、一緒に海で遊ばない?」
 触るだけでなく乗ってみた方が、イコン新型機の参考になりそうだ。
「乗る……この子は私も振り落とされそうになるくらいなので……。ただ、そうですね実は私、彼らと共に行えるスポーツを考えついたのです」
「スポーツ?」
「要領はカイトサーフィンとおおよそ同じものなのですが、凧ではなく飛龍に引いて貰うのです。名付けてドラゴンサーフィンに挑戦です」
 そう言って、栗はワイバーンの鱗を優しく撫でる。
「シェリダン、宜しくお願いね」
 かりんはそれを聞いて、少し心配になったようだ。
「ドラゴンサーフィン……それは、少々危険ではありませんか?」
「危険? 契約者たるもの、フロンティア精神を忘れてはなりません……!」
 何だか、並々ならぬ気合である。
「ヴィータも乗る?」
「……どらごんさーふぃん?」
 誘ってみると、話を聞いていたヴィータは興味を持ったらしく頷いた。
「うん、ぼくもやってみようかなぁ」
「いざとなったら、歴戦の防衛術で受け身をとるんだよ」
 歴戦の防衛術……。
(けいやくしゃのスポーツってたいへんなんだねえ……)

 まあこれでもワイバーンの飛ぶスピードを体感できるだろう、とめいは1度だけ栗の後ろに乗せてもらうことになった。彼女の腰にしっかりと掴まる。
「わあ、なんかどきどきするねーっ!」
「ではいきますよ。たとえ海に叩きつけられようとも……あっちょっと速いです思いのほか速いです!」
 想像以上の速さと荒っぽさで、ドラゴンサーフィンはスタートした。栗は何とか落ちるのだけは免れたが大慌てだ。
「わああ!?」
 だが、めいは後ろから落ちてしまい――

「大丈夫でございますか?」
 出動した魅華星と夜刀龍に助けられた。
「う、うん、ありがとう……。って、この龍すごいかっこいいね! 長い尻尾に……それに、手に珠を持ってるんだね。フォルムも……。ねえ、ちょっと乗せてもらってもいいかな?」
「少しなら構いませんけれど……」
「やったあ!」
 そうして、監視員の海上見回りという名目の下、めいは夜刀龍に乗った。
「……もう、めいったら折角海に来たのにまた新型イコンの事ばかり考えてますね」
 魅華星の後ろで楽しそうに、物珍しげに龍を見ているめいを見守りながら、かりんは仕方ないですね、と苦笑した。

              ◇◇◇◇◇◇

 栗達がサーフィンを始めるちょっと前。
(海ー、潮風が気持ちいいな……)
 双葉 京子(ふたば・きょうこ)は海でのんびりと泳いでいた。浜に立てたパラソルの下では、椎名 真(しいな・まこと)が荷物を挟んで七枷 陣(ななかせ・じん)と話をしていた。その前では、七分丈の水着を着た綾女 みのり(あやめ・みのり)が砂浜で遊んでいる。執事服の上着を脱ぎ、シャツにベストという格好の真の肩の上では双子のティーカップパンダがくつろいでいた。
(……真くん……海でも執事服なんだよね……)
 真の服装に、京子は何と言えば言いのか……という感じに内心で突っ込む。そんな彼女に、はしゃぎながら海で泳いでいたリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が声を掛けてきた。
「京子ちゃん、今日はセパレートの水着なんだねー♪」
「あ、うん。セクシーなのは恥ずかしいから、スポーティな感じのを選んでみたんだ。……似合うかな?」
「とても良くお似合いですよ、京子様」
 浮輪を使い、海にゆったりと身を任せていた小尾田 真奈(おびた・まな)が微笑んで言う。リーズも、それに同意した。
「うん、京子ちゃん似合ってるよ! ところで〜」
 リーズはそこで、にしし、と笑う。
「真くんとの仲って、最近どうなってるのかな〜、なんて」
「! え、え? 真くん?」
「……んに? もしかしてまだ……全然?」
 突然聞かれ、京子はたじろぐ。その反応に、リーズはちょっとびっくりしたようだ。確かに全然は全然だけれど、「うん」とは言わずに京子はえへへ、とごまかすように笑った。少し、困ってしまう。
「う〜ん……」
 すると、リーズはやや難しい顔になって、彼女に言った。
「ボクとしてはね? お互いが好き合ってるのなんて皆周知の事実同然なんだから、早く返事を貰っておいても良いと思うんだよ。まぁ、最終的には京子ちゃん達の意志1つなんだけどさぁ……」
「あ……」
 その言葉に、京子はあの時のことを思い出す。バレンタインの、あの日のことを。
(告白はしてもらってるんだけど……返事、ちょっと待ってと言ったけど……なかなか言い出せる機会がないんだよね……)
 返事をしていないのは、私の方。答えるまでは今のままの関係でいてほしい、と返して――真くんは、今まで通りに主と執事の関係を続けてくれている。
 自然と数えてしまう。あと――
 そこで、真奈が静かに口を開いた。
「京子様や真様の間にしか分からない何かが、これ以上の歩みを留まらせているのだと思います。しかし老婆心ながら言わせて頂ければ……貴女は貴女です」
 まっすぐに、真奈は京子の目を見て続ける。
「別の誰かではない、双葉京子という『貴女』です。そして彼は、『貴女』を好いてくれていると思いますよ。だから、あまり気に病まずに向き合って良いかと」
「…………」
「不安なのは分かりますが、案ずるより産むが易しと言いますし、ね?」
 そう言って、真奈は穏やかににっこりと笑った。
「……ありがとう、2人共」
 親身に自分達のことを考えてくれる彼女達に、京子もまた笑顔で返した。
 あの時の返事。
 時間が無いのは、分かってるから。
 ――でも。
 ひとまず、今は。
 楽しまなくちゃね。

「わぁ……」
 水平線の向こうから不定期に、涼しげな音と共に寄せて引いていく、波。大きめの波が音を立てた時、みのりは自然と声を上げていた。
(うみ、ひろいし大きいなぁ……なんだか気持ちいいな……)
 海は初めてだし、勿論泳いだこともない。怖いからできれば砂で遊びたいかなと思い、砂の上を横歩きするカニを追いかけてみたり砂を掘って貝を見つけてみたり。
 遠くでは巨大な砂のお城も建設途中で、もこもこな巨大生物も見える。
(巨大生物さんもいるなんて素敵だなぁ。そういえば……真さんのお友達……、陣さん達とゆっくりすごすのは初めて……かな?)
 そうして、パラソルの下の真と陣を、みのりはちらりと振り返った。
(海かー、みのりは初めてかな?)
 真もまた、荷物番をしながらのんびりと砂で遊ぶみのりを眺めていた。その真に、陣はリーズと真奈との近況を話しつつ言う。
「で? 告白とA辺りはもう済ませたんか?」
 京子との仲についてそれとなく遠回しに話そう、というつもりだったが全くもってド直球である。
「……!」
 突然の話題に驚き、真はぴた、と動きを止めた。コンマ数秒後に硬直を解き、陣の方に首を向ける。来る前から、何か弄られる予感はあったのだが……。
「陣さん、君は一体何をド直球に……!?」
 実際、どこが遠回しだという感じだが、陣は気にした風もない。
「もう2年は経とうって所だし、覚悟完了も充分だろ。そろそろハッキリとした返事しても良いんと違う?」
「…………」
 意外にも真面目な口調と内容に、真も浮き足立っていた気持ちを落ち着かせた。手元に目を落とす。
(皆には言ってはないけど、気持ちは伝えたんだよね……)
 待ってもらってもいいかな、と言われた。
 それまでは、今までの関係を――
 ベストの左胸に、上からそっと触れる。そこに入っている名刺入れには真と京子の主従誓約書が入っていて、影で、誓約書をそっと開いてみることもある。
 期限はもう――
 ――1年も無いんだな……
 そんな、ちょっと複雑な気分になっている時に限って、この話だ。
「デパートで、あんな事件もあったんだ。伝えられる機会がある内は……さっさと伝えてしまえばえぇと思うよ。
 後悔だけは、して欲しくないし」
 陣の言葉からは、どこか切実な響きを感じた。だがそこから一転して、陣は真ににやにや笑いを向ける。どこにでもあるような、彼女持ちが彼女無しの友達をひやかすような、得意気な表情。
「まぁ、それは建前で、本音はお前もリア充仲間にな〜れ〜って事なんですけどね?」
 そう言って立ち上がると、陣は海で遊ぶリーズ達に混ざりに行った。残された真は、何となくぽかん、としてその背を目で追う。
(それにしても、Aって……陣さん達はどこまでいってるんだろうって……)
「あー! もう!」
 真はいきなり立ち上がると、陣に続いて海に入っていく。頭を冷やそうそうしよう。
「…………」
 ちょっとだけ波にあたりながら砂遊びをしていたみのりは、こっそりと盗み聞いていたその話を思い返してまとめてみる。
(えーっと、陣さんは2人のお嫁さんがいて……真さんをせっついて……)
 ――あああのひとリア充なんだ大波で濡れればいいのに。
 近くでドラゴンサーフィンが始まって、皆は海から引き上げてくる。
 ざっぱー……ん……
 陣がサーフィンの煽りを受けた大波を被ったのはその時だった。

「うわあ、おいしそうだねえ……」
 用意したバーベキューセットに食材を乗せて焼いていく。それを見て、みのりは楽しそうに箸を持った。こういったことも、初めてなのかもしれない。
「食材はたくさんありますから、いっぱい食べてくださいね」
 良い匂いが漂う中、真奈は、真と京子の新しい一歩を願いながらトングを持ってひっくりかえしていく。何故か1人だけ大波を被った陣は、楽しそうに真を弄っていた。何とかかわそうとする真は、恋の話題に少し顔を赤くしていた。
「ん〜? で、実際はどこまでいったんや? ん?」
「だ、だから……陣さん、いい加減にしないと鉄板奉行の権限使うよ……?」
「ご飯だご飯だ♪ これ、もう焼けたよね」
 そして、背中を押すだけ押したリーズの興味は、完全にバーベキューに移っていた。焼けた食材を、次々にお皿に載せていく。だが、もぐもぐとしつつ海の家を振り返ってまだ何か足りない顔だ。
「真くん達が色々持ってきてくれたけど、もうちょっと何か増やしても良いよね。ラーメン、焼きそば、イカ焼き、焼きもろこし、カレー、カキ氷、後は後は……」
 ぐいっ。
「自重しないちみっ娘の食い意地は粛清っと」
「って、痛いよぉ〜! 髪引っ張んないでよぉ〜!」
 陣にもみ上げを引っ張られ、リーズはじたじたと暴れながら涙目で抗議する。それを、まぁまぁと真奈が取り成した。
「ご主人様、それくらいにしましょう……ね?」
「おーい、陣さん、コレとかいい具合に焼けたよ食べたらいいさ」
「おっ、サンキュー」
 そこに、真が先程のパプリカっぽいもの三連串を持ってイイ笑顔でやってきた。陣はそれを、普通に受け取る。
(あれ、真くん顔赤い……? って、手元のアレ……たしか……!?)
 恋話の名残が見られる真の顔に京子は首を傾げ、そして気付いた。陣は何も気づかず、というか多分パプリカだと思い込んで受け取ったのだろうが――
「ぶほっ! ! ! ! ! !」
 ――それは、ハバネロ3連串。
 弄られるだけではなく、見事に鉄板奉行として弄り返した真だった。