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リアクション
アペリティフ
「わあ、これがいいな。考えてたメニューにもぴったりだし」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は明るいイエローグリーンをベースにした、キュートなデザインのメロンソーダの制服を選んだ。
「そうですね、制服とメニューのコラボ、いい感じです」
セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)がうなずいて、揃いの制服に身を包む。
「メロンソーダフロート♪
地球じゃありきたりなんだけど、詩穂はこの発想をした人がすごいと思うよ」
「メロンソーダにアイスクリームを浮かべて、アイスクリームの上には対照的な色のチェリーを飾る。
デザインもキュートでポップな感じですね」
セルフィーナは厨房でグラスにメロンシロップとソーダを注ぎ、特別にオーダーしたシャンバラ山羊のミルクアイスを浮かべる。その上にナナメにチェリーをそっと載せた。
「今回のアイスクリームは特別。アイシャ様と詩穂様のお2人の関係が深まることを祈って」
詩穂はできばえを満足そうに眺め、ストローを正対するように2本配置した。
「……うふふ。カップル用にストローを2つよ☆」
「志穂様……簡単なのでわたくしでも作れました。
誰でも作れて材料も少なくてしかも美味しいメロンソーダフロート。
すばらしいメニューだと思います」
セルフィーナは小さな器に作ったものを試食して、力強く頷いた。
ドアベルが軽やかな音を立て、アイシャ・シュヴァーラが小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)を伴って入ってきた。後ろからやや遅れてたま☆るも入ってくる。
ルカルカは、ルカに向かって、ひそひそとささやいた。
「表向きは試食しに来ているけど、内緒だけど一応覆面警護なのよ。アイシャのね」
「不埒者は、ルカがアーツ使って各スキル活用の肉弾戦してぶん投げる、アコはアイシャを非難させる、だね!」
「その手順でオッケー」
アイシャらのいるテーブルのそばに席を取った。たま☆るがせっせと絵を仕上げており、その横でたいむちゃんはみなと歓談したり、試食したりしている。
「……ちょうどお店のそばで、アイシャ様にお会いしたんだぬ。
ご……ご一緒にって誘われてしまったんだぬ」
緊張するたま☆るに、たいむちゃんが言った。
「店長さんも試食して、新メニューを一品きめたらいいわ」
「……わ、私が決めるのかぬ……」
「みんなの意見を聞いて、決めたらいいわよ」
たいむちゃんの言葉に、みなが頷く。
「アイシャも新メニューを試食するんでしょう? せっかくだから美羽も参加するよ!」
「ルカももちろん参加するよ!」
「ルカルカももちろんよ。
前線に居る事も多いから会う機会は滅多に無いし、万博に感謝ね。こうしてアイシャと会えるんだもん」
「私も楽しみにしていて。
皆さんで検討してゆっくり決めてはいかがですか?」
アイシャが八重歯を覗かせてにっこり笑うと、ふと花が咲いたように空気が一変する。さすが女王である。
「楽しみよね」
ベアトリーチェも微笑んで、6人はゲスト席へと移動した。そこへ詩穂がメロンソーダフロートを持ってやってきた。
「うわあ、きれいで可愛い、暑いところから入ってきたから、ドリンクはうれしいな」
美羽が叫ぶ。
「ストローが2本なのですね?」
アイシャが首をかしげると、詩穂がアイシャの向かいの席に座って実演してみせる。
「二人で向かい合わせに座って、見つめあいながらひとつのドリンクを仲良くストローで飲むのです。
アイスはゆっくり溶かしながら……こんな風に。
同性ならやりやすいけど異性だと難しいサービスなのですよ☆」
「……じゃ、私も。これからいろいろ試食だし、一個を二人でならちょうどいいかもね
アイスを溶かしながらなら、冷たすぎないし」
美羽が言って、ベアトリーチェとソーダを飲む。
「うーん。おでこごっつんしそう……」
「そ、それがいいんですって☆」
詩穂が力説した。たま☆るは緊張した面持ちでアイスとソーダを味わっている。
ルカルカは、じーっとたま☆るとたいむちゃんを見つめていた。
「たま☆るさんは可愛い猫さんね。もふもふして肉球もふにふにしたい!
たいむちゃんも思わず抱きしめちゃいそう。もふもふしたい! モフモフさせて貰ってもいい?」
「あはは、いいわよ」
背中をふかふかされながら、たいむちゃんはニコニコ笑っている。たま☆るはどうしていいかわからず、もじもじしている。
「ルカもルカも! たま☆るさんのそのテレの仕草がたまらない!
アイシャも、もふもふしてご覧よ……あ、アコとは初めましてだね」
アイシャもそっとたいむちゃんの背中に触れてみる。
「まあ、ふかふかなのですね……お二人、よく似てらっしゃるのね」
アイシャがルカルカとルカに向き直る。二人は異口同音に叫んだ。
「双子じゃないんだよ」
ベアトリーチェは人心地つくと、たま☆るを見つめ、心の中でそっとつぶやいた。
(「博識」が役に立ちますように)
そして、口に出してはこう言ったのだった。
「たま☆るさんは素敵な絵を描く絵師さんですよね。
そこで提案なんですが、店内にアイシャさんの肖像画を飾らせてもらう……というのはどうですか?」
「……と、言うと?」
たいむちゃんが身を乗り出す。
「アイシャさんの許可が出れば、たま☆るさんにアイシャさんの素敵な肖像画を描いてもらっては。
それを店内に飾るというのはいかがですか?」
たま☆るが目を見開く。
「じ、自分がそんな……だいそれたむにゃむにゃ……」
「私はかまいませんよ。良い影響があるといいですね」
アイシャが屈託なく微笑み、美羽が元気良く言った。
「決まりねっ!」
ベアトリーチェはたま☆るがスケッチするさまを眺めながら、一人思った。
(たまカフェが「素敵な女王の肖像画が飾られているお店」として、人気が出てくれたらいいな
ステキなお店だし)
紅色のリボンをしらったキュートなアイスコーヒーの制服の、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、店内のあちこちを回っていたが、たま☆るがスケッチを終えるのに気づき、厨房へ戻った。
フィリップ君に頼んで、アイスコーヒーを淹れてもらう。トレイにグラス、ミルクなど一そろいを乗せると、たま☆るの元へまっすぐに向かい、冷たいアイスコーヒーを差し出した。
「またチラシ配りにいくんだろ? お疲れさん。一杯飲んで一休みしていけよ。
……と言っても、店のだけどな。あ、砂糖とミルクは必要か?」
「ありがとだぬ」
「あ、たれちゃん!」
ルカが声をかける。
「お、久しぶり。元気か?」
「元気だよ!」
「さて、チラシ配りに行ってくるんだぬ」
よっこらしょっとたま☆るが立ち上がる。朝霧は空のグラスを受け取ると、
「暑いし、気をつけて行けよ。
従業員にはなれないけど、いつでも手伝い来るからこれからもヨロシクな!」
そう声をかけてたま☆るを送り出した。
学生達から噂話を聞いて、皆川 陽(みなかわ・よう)と、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、試食、試飲で新メニューを選べれば、とカフェにやってきた。
(自分には料理なんて出来ないし、内気だから接客なんかムリだし……)
陽はそんなことを思いながら、カフェを見上げた。夏の日差しの中に、ピンクの大型テント。
「なんかここのお店、気になって。繁盛して欲しいな」
テディのほうはひたすら食べることしか考えていない様子だった。
「試食試飲なら僕にまかせろー! なんでも食う! なんでも飲む! どんと来い!
どんな劇物にも耐える! 気合いだ! 気合いだー!!」
「……劇物って、テディ、お店なんだからそんなとんでもないものが出るわけはないよ」
「わかんねーだろ?
マズいものはハッキリと、今HPが減ったぞ! って言う!」
「それはスマートでないよ……美味いマズいは、オーラでそっと漂わせるのが奥ゆかしさってものだろう?」
はっきりするのも場合によってはいいが、試食メニューを考案、調理した人にとって、マイナスの評価ははっきりしすぎると、傷つくだろう……。どうもテディはデリケートな思考にかけるんだな……でも、自分ははっきりしなすぎて、優柔不断になってしまっている面もあるのかもしれない。陽はそんなことを考えていた。
テディに突っつかれて、陽は物思いから覚めた。
「なにボーっとしてるんだよ。行こうぜ」
「あ、うん」
2人はカフェに入っていった。
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