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空飛ぶ箒レースバトル!

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空飛ぶ箒レースバトル!

リアクション

 植物系の魔物の蔦に絡まれたエリシア。腕、足、胴体とあらゆるところを拘束されている。
 しかし、エリシアの赤い瞳に宿る闘志の炎は消えていない。
「まだまだ、で・す・わー……ッ!」
 エリシアは蔦に縛られながらも、前進することを止めない。
 ネバーギブアップの精神と持ち前のパワーで脱出しようと試みる。
「勝負は――」
 蔦の網が音を立てて破けていく。
 それは、また一本また一本と続いていく。
「これからですのよ!」
 声が響くと同時に、エリシアは蔦から逃げ切った。

 その頭上。大花に煙を吐かれながらも、グラルダは華麗に避けきっていた。
「……くそっ、どうしたらいいの」
 大花の動向に細心の注意を払いながら、グラルダは頭をフル回転させる。
 下にいけば植物型の魔物の餌食、かと言ってこのままでは少し不味い。
(……どうすればいいの? もしかして、ワタシ負ける?)
 諦めにも似た思いがグラルダの頭をよぎった。
 ――だが。
「んな分けないでしょうがーっ!」
 逆にその思いが、超強気なグラルダの心に火を点けた。
「こんのクソ花、見てなさいよっ。女は度胸ってとこ見せてやるわ!」
 グラルダは大花に向かい、全力飛行。
 もちろん、大花はグラルダに向かって紫色の煙を吐いた。
 ――だが、それより速く。
「うらぁぁああっ!」
 ぎりぎりのタイミングで身体をひねり、煙を回避。
 そのまま、大花の脇を横切って、奥地から脱出した。

「うおっ、すげぇーな。あの二人」
 離れたところで様子を見ていたアレイは、素直な感想を洩らした。
 奥地に突っ込んで生還したのはあの二人のみ、いつの間にか数十人はいた選手たちも居なくなっている。
「さて、そろそろオレも動くか」
 そう呟くアレイの視線の先には、暢気そうに飛び回る魔法の玉。
 危険な場所から離れた今を好機と見たのか、アレイは魔法の玉目掛けて一直線に飛ぶ。
「へへっ、周りに誰もいねぇし楽勝だな」
 そうアレイが気を緩めたとき。
「――おっ先〜」
 と、のんびりとした口調を残して、千結がアレイを抜き去った。
 それは、スリップストリームという技。モータースポーツ等で直前の相手を抜き去るときに使われる技術だ。
 千結もアレイの後方でずっと好機を待っていたらしい。
「あっ、ちょ、いつの間に!? ってか、卑怯だ!」
「へっへーん、油断したほうが悪いよう〜」
「――そうですね。油断した人が悪いです」
 得意気な顔でアレイを振り返る千結の脇を、レイカがすごい速度で突っ切った。
 それは、先ほど千結が抜き去るときに使ったスリップストリーム。
 どうやら、レイカも二人と同じように機会を待ち続けていたらしい。
「うわー。待って、待ってよ〜!」
「すみませんが、待ちません。それでは」
 少しSっ気を感じる言葉と共に、レイカはぐんぐんとスピードを上げていく。
 二人もあとに続くが、所詮は貸し出された箒。スピードの上限は同じのようだ。
「いただきました!」
 レイカは魔法の玉を掴もうと手を伸ばした。
 あと少し、数メートル。と、いったところで。
「そうはいくかぁぁ!」
「待ちなさーい!」
 横からグラルダとエリシアの体当たりを受け、レイカの動きが止まる。
 その隙に、魔法の玉はそそくさと逃げていった。
「ちょっと、なにをするんですか!」
 レイカの怒りを孕んだ言葉が、森に反響する。
「うっさいっ、これは勝負なのよッ!」
「……まだまだ決着はつけさせません!」
 それ以上の迫力で言い返されたことにより、レイカは口ごもった。
「やっと追いついたよ〜」
「まだまだだぁぁっ!」
 その間に千結とアレイも追いつき、その場に留まる三人を置いていく。
 グラルダとエリシアもすぐさま二人の後を追った。
「……もう少しでしたのに」
 レイカは残念そうにそう呟くと、四人に追いつくために駆け出した。

 五人はほぼ横並びになり、魔法の玉を迫る。
 徐々に魔法の玉との距離は肉薄していき、あと一歩というところ。
「先ほどの、無念を――っ!」
 列から飛び出したのは、レイカ。それは、千結を抜き去ったときに使ったスリップストリーム。
 レイカは身を乗り出して、手を伸ばし魔法の玉を掴もうとした。
「あれ?」
 しかし、伸ばした手はむなしく空を切り、魔法の玉は上へと回避した。
 それを予測していた者が、ただ一人。
「一瞬に勝負を賭けるぜ!」
 アレイは一人だけ反応し、魔法の玉に追随した。
 グラルダとエリシアは先ほどの疲れが残っていたのか反応が遅れる。
 誰もが、アレイの優勝を確信した。それは、アレイ自身でさえも。
「もらったっ、オレの勝ちだ!」
 無意識的な慢心。そこで生まれた僅かな隙。
 それは、アレイの行動を少しだけ、ほんの少しだけ遅らせることになった。
「いただきだよ〜!」
 アレイすら予測していなかった、バレルロール並みの千結のアクロバット飛行。
 無茶な軌道を描きながら、千結も魔法の玉を追随する。
 慌てて、アレイは魔法の玉を我が物にしようと手を伸ばした。
 負けじと千結も手を伸ばす。
「……ッ!」
 数秒、いやコンマ何秒といった差。
「やったよ〜っ!」
 ――魔法の玉を手に入れたのは千結だった。