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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

リアクション


=====act4.第二波=====

「毒蛇暗殺団!」
「え?」

 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が声のした方を見上げると、太い木の枝に魔法少女・ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))が立っていた。
 その手には気絶した≪カメレオンハンター≫の襟が掴まれている。

「勝負はまだ、ついちゃいないよ!
 魔法少女・ろざりぃぬ、世に蔓延る悪を討つ!」

 気絶した≪カメレオンハンター≫を離すと、ろざりぃぬは高らかに宣言をした。
 しかし、どんなにかっこよく決めていても、ボロボロになった格好では滑稽に見えた。
 
 ここに来る途中に、ろざりぃぬは多くの罠を起動させてきた。
 連続して爆発に置きこまれ、大量の槍に襲われ、鉄の網に捕らわれたりもした。
 
 そんなろざりぃぬの衣装はすでにボロボロになっており、擦り傷や切り傷だらけ。おまけに肩からは、罠で使われた大量のチェーンが引っかかったままだった。

「よっと……」

 ろざりぃぬは枝から飛び降りる。
 すると――

 ポチッ

 と何かボタンを押した。

「んにゃんとおっ!?」

 ろざりぃぬは慌てて飛び退く。
 次の瞬間――地面が爆発した。 

「ふふふ、この私を何度も罠をかけるとはやるな……だが!」

 土煙の中、どうにか爆風で吹き飛ばされただけで済んだろざりぃぬは、起き上がると同時に姿を現した≪カメレオンハンター≫へ向かっていく。
 肩にかかっていたチェーンを掴み振り回す、ろざりぃぬ。
 服がボロボロになったことへの文句をいう姿は、タダ八つ当たりをしているようにも見えた。

「1……2……」

 ろざりぃぬは攻撃が当たった回数を数えた。
 1に相手の足をすくい。
 2に脇腹を叩いた。
 3に振り下ろして肩を攻撃。
 4に吹き飛ばして二人同時にダウンをとる。
 そして―― 

「GOOOOOOOOO!」

 5に腹に叩きこんで相手に片膝をつかせた。

「きた! まじかるパワーが全身にたまってきた!」

 ≪カメレオンハンター≫の目に、一瞬ろざりぃぬの頭上で「R」の文字が輝いてみえた。

「くっらえぇぇぇ!」

 ろざりぃぬは、まじかるパワーを込めて【神の目】を発動する。
 眩い閃光に≪カメレオンハンター≫は目を手で隠す。
 その隙に、ろざりぃぬは一気に駆け込んだ。

「まじかる☆シャイニングウィザァァァァド!!」

 片膝立ちをしている足を踏み台にして、ろざりぃぬは相手の顔面へ横から飛び蹴りをかました。
 勢いよく転がる敵。
 ろざりぃぬも地面を転がり、服が汚れた。

「あぁ、また私の衣装が……許さん!」

 ろざりぃぬは八つ当たりを始めた。


 暴れているろざりぃぬを見ながら、フレンディスが呟く。

「毒蛇暗殺団って……カメレオンハンターの間違いですよね」
「そうだと思うよ」 

 フレンディスにアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)が同意する。
 すると、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が【サンダーブラスト】を放ちながら叫ぶ。

「おい! 二人ともサボってないで働いてくれ!」
「は、はい! すいません、マスター!」
「むぅ……」

 ベルクの援護に向かうフレンディスの後ろ姿を、アリッサは不満そうな表情で見つめていた。
 アリッサにとってフレンディスは、好意を寄せる相手であった。
 それ故に、ベルクの存在は邪魔だった。
 どうにかしてフレンディスから遠ざけたい。
 
 考えた末、アリッサは意地の悪い笑みを浮かべた。

「ベルクちゃん。そこら辺は罠があって危険だから、あっちの木の間とかで戦って!」
「わかった」

 ベルクは【ディテクトエビル】を発動させながら、指示のあった場所へと移動していく。
 【ディテクトエビル】で反応があったのは数えるほど。その中にはアリッサの存在もあるのだが、常時のことだから気にしなかった。

「うわっ!?」

 だから、まさか落とし穴が仕掛けられた場所に誘導されたなど、考えもしなかった。
 ベルクは尻餅をつきながら、上空を飛行するアリッサを睨みつけた。

「おい、無機物クソガキ! これはどういうことだ!」

 アリッサはベルクを見下ろすと、あっかんべーして立ち去った。

「あんにゃろぅ……」

 落とし穴は大がかりだった。
 範囲は広く、深さはベルクの身長の約二倍。
 足場は泥が溜まり、移動を制限する。

「仕方ない」
 
 ベルクが闇氷翼を広げ飛び立とうとすると、≪カメレオンハンター≫が穴に降り立ち、剣で斬りかかってきた。
 とっさに暗黒龍の杖から仕込み刀を抜いて応戦するベルク。

「くっ、俺に接近戦をやらせるんじゃねぇよ!」

 相手の剣劇を刀で受け、目の前で散る火花。
 どうにか攻撃を防ぐが、敵の素早い動きに防戦状態に追い込まれる。
 距離を空けて体制を立て直したいが、足場が悪すぎた。
 転倒し、泥だらけになりながらどうにか致命傷を避ける。
 
「フレイなら、こんな風にはならねぇだろうな。
 今度から一緒に訓練でも始めるかな……」

 どうにか距離をとるものの、息が上がり始めたベルクに対して、敵はまだまだ余裕が見える。
 慣れない泥場での戦いが体力を予想以上に奪っているのだ。
 明らかに敵はこういう状況下での戦いに慣れている。
 
 敵の攻撃が再開する。
 足が動きにキレがなくなってきたベルクは、二の腕に攻撃を受け、一瞬の隙で仕込み刀をはるか後方へと飛ばされてしまう。
 
「まずいっ……」

 武器を失ったベルクは、とっさに呪文を唱えようとするが、間に合わない。
 もう――だめだ。

 覚悟を決めた瞬間――

「マスタ―!!」

 上空からフレンディスが助けにやってきた。
 
 フレンディスはベルクと≪カメレオンハンター≫の間に入ると、忍刀・霞月で相手の剣を止めた。
 そして力任せに押し返すと、泥の障害など感じさせない動きで【魔障覆滅】を放ち、一気に勝負を決めた。
 一瞬で勝負が決まったことに、ベルクは暫し呆然としていた。

「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……助かった」

 胸に手を当てて微笑むフレンディスは、心底ベルクのことを心配していた様子だった。
 すると、フレンディスのブルーの瞳が、怪我したベルクの肩に止まる。

「大変です。怪我してます。少しの間じっとしていてください」

 フレンディスは自分の衣服を切り取って、ベルクの傷口に巻いた。
 身体を近づけるフレンディスからいい香りがした。

「ほ、放っておけば治ると思うぜ」
「だとしても、手当てはしておいたほうがいいですよ」
「そ、そうか。悪いな」
「いえ、マスターのお役に立ててよかったです」

 フレンディスがニッコリと笑った。
 ベルクの鼓動が急速に早くなる。
 立ち上がるために繋いだ手の体温を妙に意識してしまう。
 
「それでは、戦線に戻るとしましょう」
「あ、ちょっと待って……」
「?」

 長い髪を揺らして、フレンディスが振り返る。
 ベルクは特に用事があったわけではなかった。
 殆ど反射的に呼び止めただけだった。
 
 なかなか言葉を発しないベルクに、フレンディスは重要な事を告げるのではないかと、身構えていた。
 ベルクはどうにかフル回転させて、言葉を絞り出した。

「りょ……料理楽しみだよな」

 フレンディスは目を瞬かせていたいたが、言葉の意味を理解してパァと笑顔を浮かべた。

「はい! 一体どんな味なのでしょう。
 私、とっても楽しみです!」

 【超感覚】で生えたフレンディスの尻尾が、忙しなく振られていた。
 その様子に苦笑いを浮かべつつ安心するベルク。
 そんな二人の上空では、アリッサは悔しそうハンカチを噛んでいた。


 生徒達が戦いに集中している間に、姿を隠した≪カメレオンハンター≫が荷車に近づく。
 すると荷車の陰から、七殺の獅子が気配を察知してゆっりと近づいてきた。
 あまりの迫力に≪カメレオンハンター≫は後ずさる。
 体毛はからまるでマンチカンに見えなくもない。
 しかし、その大きさから第一印象で可愛いと思える人間はそうそういないだろう。

 それでも、どうにか隙をついて≪スプリングカラー・オニオン≫を奪おうとする≪カメレオンハンター≫。
 荷車の前で七殺の獅子と向かい合う。
 緊張のにらみ合いが続く。
 その時、≪カメレオンハンター≫が小枝を踏んだ。と、同時に腹へと強烈な一撃が入る。

「……悪いな。許可がない奴は通さないことになっているんだ」

 身を隠すエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、うつ伏せに倒れる≪カメレオンハンター≫を見て呟いた。
 すると、次の敵が荷車に近づいていた。

「しつこい奴らだ……」

 エヴァルトが移動を開始する。
 次の奴は、姿を隠す気がない。
 それどころか≪スプリングカラー・オニオン≫を奪う気はないようだ。

 近づいてきた敵は大柄な体格が小さく見えるほどの、巨大な剣を担いでいた。
 その剣で、荷車ごと≪スプリングカラー・オニオン≫を破壊する気なのだ。
 
 荷車の前までた敵、巨大な剣を振りかざす。
 七殺の獅子が噛み付くが、服の下に着込んだ重鎧がその攻撃を阻んだ。
 両手で持った剣が、全身の力を持って振り下ろされる。

「!?」
 
 が、それが荷車に届くことはなかった。
 剣は見えない壁に阻まれるように、空中で制止してしまったのだ。
 力を加えたり動かそうとするが、ビクともしない。
 すると――

「一撃だ……一撃で終わりにしてやる」

 剣が止まった先からエヴァルトの声が聞こえる。
 状況を悟った敵が行動を移すより先に、零距離から放ったエヴァルトのバイタルオーラが、鎧を粉々に砕いた。