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 第六章


「フハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! またの名を、マネージャー・ハデス! 悪のアイドル咲耶のマネージャーだ!」

 バンドコンテストの参加用紙に記入をしたドクター・ハデス(どくたー・はです)が、周囲の目もはばからず高笑いをしている。
 どうやら、また怪しげな計画を秘密裡に企んでいる様子だ。

「あ、あのボールペン返してもらっていいですか?」
「ククク、咲耶がアイドルデビューすれば、オリュンポスの知名度が上がるし、そのファンで我らオリュンポスの支持者も増えるし、グッズ販売でオリュンポスの活動資金も得られるしで一石三鳥!」
「あの〜……ボールペンを……」

 ボールペンを握りしめ、ドクター・ハデスが熱く燃え上がっているその頃、更衣室ではビキニアーマーとマント、何故かムチを持った高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)ががっくりと膝をついていた。

「今からエントリー取り消し……は、無理でしょうね。はぁ……。珍しく兄さんが二人きりでショッピングモールへ行こうって言うから、期待してたのに……」

 落胆を隠せず、しばらく項垂れていた咲耶がゆっくりと顔をあげる。
 その眼には轟々と燃える闘志の炎が宿っていた。

「し、仕方ありません。こうなったら、バンドコンテストを早く終わらせて、兄さんとデートです!」

 いそいそと渡された衣装に着替える咲耶。
 やる気に満ちた表情で更衣室を出た瞬間、何故か爆走する大量の猫たちに巻き込まれて遠く運ばれていくのであった。

「ああっ、会場がどんどん離れて……! 兄さ〜ん」

 ◇


 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)イリア・ヘラー(いりあ・へらー)がバンドコンテストの会場へ戻ってくると、ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が子どもたちに交じってギターを弾く姿が見えた。
 愉快そうに見学している長尾 顕景(ながお・あきかげ)の横に座ると、あらためてステージを見る。
 女の子がマイクを握り、横にベース、後ろではドラムを叩く男の子たち。だが、彼らの脇には、ギターを持ったウォーレンが器用に弾きながら音に合わせて踊っていた。

「無事にコンテストへ出られたみたいだね」
「そのようじゃのう」

 イリアの言葉にルファンが頷く。
 ステージの上で歌い、そして音楽を奏でる子どもたちの顔には笑顔が溢れていた。

「お疲れさん。あの子の様子はどうだったんだい?」
「単なる食べ過ぎだってさ。薬も飲んだし、しばらく寝ていれば治るって」

 顕景の問いにイリアが安心の表情で答えると、それは良かった、と笑みを浮かべた。

「それにしても、レオがコンテストに出たいって言ったときはどうしようかと思ったよ」
「結果的には丸く収まった感じじゃな」

 ウォーレンがバンドコンテストに飛び入りでも良いから参加したい! とステージ前でテンションを上げていたら、近くに居た子どもが突然苦しみだした。
 すぐさまルファンたちが駆け寄ると、どうやらコンテストに参加予定の子どもバンドメンバーの一人らしい。
 ルファンとイリアが苦しむ子どもを救急室へ、そして欠けたメンバーの代わりにウォーレンが出場することになったのだ。

「みんな! 楽しんでるかーい!?」
「おー!!」

 所々で叫びながら、ウォーレンは楽しそうにギターを弾いている。
 会場が盛り上がる様子を、ルファンは興味深げに眺めていた。

「こうして皆が一体となって楽しんでいるところを見るのも、存外悪くないものじゃな」

 ルファンはウォーレンの意外な一面を温かく見守りつつ、会場の雰囲気を楽しむのだった。