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 第三章


「はい、ど〜も〜っ!!」

 テンポのいい掛け声と共に舞台に登場したのは芦原 郁乃(あはら・いくの)荀 灌(じゅん・かん)だった。

「ボケを担当している姉の郁乃で〜すっ!」
「ツッコミを担当している妹の荀灌です」

 明るい笑顔で元気よく出てきた郁乃に対し、荀灌は緊張した面持ちだった。
 手に持ったハリセンをぎゅっと握り、動きもぎくしゃくとしている。

「二人合わせて『二人鷹』で〜すっ!!」

 決めポーズをとる二人に、そんな絶妙のアンバランスさが受けたのか、観客席から笑い声が聞こえてくる。
 そこへ、舞台の何もない所から声が聞こえてきた。

(おい姉ちゃん、なすびいらねぇ〜か?)

 すかさず反応した郁乃が荒ぶるポーズをとったままツッコミを入れた。

「鷹だからなすびは買わないよ」

 郁乃の台詞に、何も聞こえていない荀灌が焦り出す。

(ど、どうしよう。台本に無かった台詞を言ってるです。こ、こういうときは……)

「お客さまはそんなこといってません」

 覚悟を決めた荀灌は、ハリセンを叩いて郁乃にツッコミを入れる。
 その様子に、再び観客席から笑い声が流れてきた。

 ◇


「「どうも〜〜」」

 綺麗にハモった声でお笑い大会の舞台に上がった神凪 深月(かんなぎ・みづき)狼木 聖(ろうぎ・せい)

「初めましてなのじゃコンビ名……MIBなのじゃ!!」

 聖のサングラスと黒いスーツを見た深月が自信満々に言う。

「いやちゃうやろ!! わいの服装だけ見て決めんなや! 第一わいはあれに出てくるピカーって光って記憶失わせるような真似できへんで?」
「大丈夫じゃ。ちゃんと用意してきたのじゃ」
「あるんか!? 何でもありやなパミラダ大陸……」
「はいなのじゃ」

 深月が聖にそっとインフィニティー印の照明弾を渡す。

「さあ消すのじゃ!!」
「消えるかドアホウ!! これで消えるんは記憶やのうて視力や!! 見に来たお客さん目潰してどないするねん!」
「見たくない現実を見ないように……」

 顔を逸らした深月がぼそっと言う。

「暗!? いったいお前に何があったんや!! ってお客関係あらへんやんけ!」
「ほら、こう言うのじゃ。『お客あってのわらわたち』じゃと」
「意味がちゃうわ! お客にどんだけ責任押し付ければええんや!?」
「お主はなんちゃって関西弁でツッコミ入れてるだけじゃから気楽でいいのぅ」
「何かワイをディスってきた!? わいが何したっていうんや……もうええわ。話を最初に戻そか? わいらのコンビ名やコンビ名」
「おおそうじゃったそうじゃった。わらわ達のコンビ名は……なんじゃったっけ?」
「忘れたんかい!! もおええわやってられへんわ」

 聖がオチのツッコミを入れると、二人は笑い声に包まれながら「ありがとうございました」と舞台を降りていった。

 ◇


 幽霊怪盗現る。
 その話を聞きつけた霧島 春美(きりしま・はるみ)は、相棒のマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)を連れ出してショッピングモールへと向かった。

「これはまた随分と広い場所だな」
「二手に分かれて調査しましょう!」

 広大なショッピングモールを見て呆れていたマイトは春美の提案に頷くと、人にぶつからないように注意しながら駆け出した。
 猫の大群が爆走していたり、中年の押し売りがくねくね踊っているが、今回の対象ではない。
 噴き出る汗を拭いながらマイトが外周を一回りすると、激しく動く春美を見つけた。
 どうやら攻撃を受けているらしいが、相手の姿が見えない。
 マイトが咄嗟に庇いに入ると、春美はほっとした表情を浮かべて一歩下がった。

「幽霊のポルターガイスト? いいえ、それにしては妙ね」

 規則性に乏しいポルターガイストと違って、この攻撃に明らかなパターンがある。
 それを感じた春美は、当たる強さと軌道から一点を割り出していく。

「レストレイド君、犯人はその植え込みの中よ!」

 春美の言葉に、隠れていた犯人が逃げ出す。
 だが、マイトは素早く取り押さえると、その腕に手錠をかけた。

「怪我は大丈夫?」
「ああ、問題ない。それよりもよく分かったね」

 春美の心配に、軽く全身を確認したマイトが笑顔で答える。

「初歩の推理よレストレイド君」
「はいはい、流石『マジカルホームズ』……刑事は感心させられるばかりだよ。さて、せっかく来たんだし、ショッピングでもしていくかい?」
「モールでお買い物? ふふふ、なんか恋人同士みたいね」

 犯人を引き渡すと、二人は並んで歩きだした。