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お祭りなのだからっ!? 

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お祭りなのだからっ!? 
お祭りなのだからっ!?  お祭りなのだからっ!? 

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● ○ ● 『尽くすのも尽くされるのもダメなんだ』 ○ ● ○

「こんなもんか。騨くん、味見してもらってもいいかな?」
 喫茶店の厨房で料理をしていた無限 大吾(むげん・だいご)は、隣に部屋でパーティーの準備をしている早見 騨(はやみ・だん)を呼んだ。
 騨は小皿に乗せられた春巻きを箸で摘まむと、おもむろに口に運ぶ。
 上下の歯で挟んだ瞬間パリッと音を立てて春巻きが裂ける。中から溢れる肉汁。ネギやシイタケに旨み成分がしっかりと染み込み、噛むほどに味が拡がっていった。
「おお! これなら全然おっけーです。あゆむも喜んでくれますよ」
「よかった……」
 決して自信がなかったわけではなかったが、騨からのお墨付きを頂いて大吾はホッと胸を撫で下ろした。
「他にも何か作る予定?」
「そうだね。後は照り焼きチキンとかボロネーゼとか……オードブル形式で色々用意するつもりだよ」
 祭りの日まで数日残されている。大吾はそれまでに残りの料理についても味見してもらおうと思った。
「なにやら美味しそうな香りがします」
「あ、セイルさんおかえりなさい」
 大吾のパートナーセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が両手に食材を抱えて厨房に入ってきた。
「もう始めているのですか。では、私も早速よりをかけて――」
 料理に取り掛かろうとしたセイルの前に、大吾が両手を広げて立ちふさがる。その表情は険しい。
「セイルはダメだ。お前の料理は威力がありすぎるだろ」
「いつも言っていますが、料理は破壊力です」
「破壊力!?」
 驚く騨を余所に、大吾とセイルはお互い一歩も引かず相手を睨みつけていた。固唾を飲むほどの緊張が流れる。
 どちらかが引くか、相手を押しのけるまで終わりそうにないこの状況。そんな中で、先に折れたのはセイルだった。
「仕方ありません。また今度にします」
 退院祝いを台無しにしたくない気持ちはセイルも一緒だった。自分の手料理で喜ばせたいがそれが難しいことである以上、大人しく身を引いて別のことで喜んでもらおうと思った。そう接客という手段で。
「そうだ。ネコミミとメイド服を借りることはできないでしょうか? せっかくなのでそれを着てお手伝いをしたいのですが」
 セイルの提案に、騨は思考を巡らせた。
「そうだな……たしか以前作って貰ったやつがしまってあると思うんだけど、もしサイズが合うならそれを使ってもいいよ。合わないようなら作ってくれたジーナさんにでも調整してもらったらどうかな?」
「どうもです」
 騨の回答にセイルは嬉しそう笑う。そして倉庫からメイド服と猫耳を見つけ出すと、それを手に急いでジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)の元へと店を飛び出していった。
 厨房に顔を出すイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)
「騨くん、これ当日まで倉庫を置かせてもらいたいんだけどいいかしら?」
「はい、どうぞ」
 騨はポケットから倉庫の鍵を取り出して渡す。すると、イーリャが大事そうに抱えていた、包装された四角い長方形の箱に目がいく。
「あゆむへのプレゼント? 中身は?」
「それは当日までの秘密よ♪」
 イーリャは鍵を持った手の人差し指を唇に当てて微笑んだ。他にも多くの知り合いからプレゼントが送られる予定で、あゆむは泣いて喜ぶんじゃないかと騨は思った。
 ふとイーリャの背後に立っていたジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)と目が合うと、彼女はぷいっとそっぽ向いてしまった。
「言っとくけど、あたしからプレゼントなんてないからね!」
 騨は苦笑を浮かべた。
「騨ちょっと来て〜」
「あ、はい! いま行く! それじゃ、終わったら鍵は厨房のキーストッカーにかけといて!」
 今度は店の外からルカルカ・ルー(るかるか・るー)に呼ばれ、騨はイーリャ達と別れた。
 退院祝いの準備を進める生徒達の間を抜けて店の外へ。すると――
「うわっ!?」
 喫茶店の前に酸素カプセルのような装置がおかれていた。所々破損しているようであったが、騨はそれに見覚えがあった。
「これって機晶石の適合率をあげるカプセル装置ですよね?」
 先日まで騨のパートナー≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむは記憶が消えるかもしれない事態に陥っていた。この装置はその原因となっていた問題を解決するために使われた物だった。
 運び終え、壁に寄りかかって一息ついていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がルカルカに変わって説明する。
「先に手を打っておこうと思ってな。こいつがあれば急な再発にも対処ができるだろう。設計図が見つからなかったから新品を用意することはできなかったが、どうにか使えるように修理しておく」
「と、ダリルが言っているんだけどどうかな? ここに置かせてもらえる?」
「……ありがとう。ちょっと待ってて、地下室に置かせてもらえないかマスターに聞いてくるから」
 深い感動を受けた騨は大急ぎでマスターの元へ駆けて行く。しばらくして息を切らして戻ってきた騨は、ルカルカ達にカプセル装置を裏手から地下室に入れるように伝えた。
 騨は皆に心から感謝しつつ、準備にとりかかる。

「そろそろ買い物に行ってきます」
 小一時間ほどが経過し、騨は籠を手に買出しに出かけようとしていた。
「あああ、あのあの!」
 すると慌てた様子でリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が駆け寄ってきた。
「どうしかした?」
「とっ、当日は私の友達も手伝いますっ、ので! だ、だから、よろしかったら、お食事は……」
「わかってる。ちゃんと皆の分も考えて用意しとく」
 リースの表情がパァと明るくなり、瞳を湿らせながら深々と頭を下げた。
「すいませんっ!」
 騨は笑いかけると手を振って店を後にした。
 店の外は熱気に満ちていた。大量の荷物を持った人達が行き来する中、様々な声が街中に飛び交う。
 一緒についてきた皆川 章一(みながわ・しょういち)は物珍しげに周囲を見渡していた。
「まだ始ってもいないのに人がたくさんいるな。これは当日が楽しみだね」
「どっちかというと、僕はあゆむが迷子になるんじゃないかってそっちの方が心配だね」
 楽しげな章一に騨は苦笑いを浮かべていた。
「プレゼントはもう決まったのかい?」
「いや、まだなんだよな」
「早くした方がいいな」
「そうですよ。ギリギリになってから行動するのはよくありませんから」
 章一のパートナーであるエリィ・ターナー(えりぃ・たーなー)は、どんより落ち込む騨の顔を覗きこむ。
「どんな物を送りたいとか、希望はないんですか?」
「あるんだけどなかなか決まらないんだよ。あゆむはきっと何をプレゼントしても喜んでくれるから、だから思い出に残る物を送ろうと考えると余計に悩んじゃって……」
 肩を落とす騨。章一は励ましつつ時間の許す限る相談に乗ることにした。
 その後三人は必要な物を購入をしつつプレゼントに最適な物を探して回った。
「章一さん見てください」
「なんだ? 飛空艇で花火を鑑賞。こんなのがあるのか」
「飛空艇で花火……」
 エリィが見つけたポスターを、騨は章一と一緒にまじまじと見つめていた。