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街道づくりの事前調査

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街道づくりの事前調査

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モンスターの調査

「大分森の奥へと来てしまいましたが……郁乃さまは本当にこちらにいるんでしょうか」
 モンスターたちを避けながらもパートナーを探し森の奥へと進んでいた秋月 桃花(あきづき・とうか)はそう不安を漏らす。
 彼女の契約者である芦原 郁乃(あはら・いくの)が村の片隅に家を借り、村の伝承や森の生態を調べているのは既に村の風物詩となっていた。。今回の街道作りの事前調査にも目的が大部分一致して参加していたのだが、その途中でコボルトの群れに襲われて桃花と郁乃は離れ離れになってしまった。パートナーとしての勘を頼りにここまできたが、ここまで奥に来るとなるといろいろな意味で不安になっていた。
「あ……郁乃さま……よかった」
 そんな不安を押し殺しながら進んでいると草葉に隠れるようにしている郁乃の姿を桃花は見つける。その隣には今回の調査に参加している人の姿もあった。
「あら、あなたこの子の保護者かしら」
 桃花の姿に気づいたニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は笑顔でそう聞いてくる。
「えと、あ、はい。……もしかして、郁乃さまを護ってくださっていたんですか?」
 外見と喋り方の差異に少し戸惑いながらも桃花は状況を判断してそう聞いた」
「ええ。この子ったら一人でふらふらと奥に進んじゃうんだもの」
「あ、はは……郁乃さまは夢中になると周りが見えなくなることがありますから」
 苦笑いしながら村に来てからの郁乃の行動も桃花は思い出す。調査に没頭するあまり動物に踏まれたり、熱出して寝込んだりしたことは桃花や村人たちの記憶に新しい。
「本当にありがとうございます」
「もう、かたっくるしいわね。女同士なんだからもっと仲良くしましょ」
 と、どう見てもあれな人の発言。調査前に村長様にもこんな挨拶していたことを桃花は思い出し、そういうものなんだなと割り切る。
「いえ、この話し方は素なので……はい。女同士仲良くしましょう」
 女同士(?)のかたい友情が結ばれた中、郁乃は草葉の向こう側をきらきらとした表情で観察している。郁乃が何かに夢中になっている表情だった。
「うわー……薬草をそのまま食べてる。向こうもそうだったけど美味しいのかな?」
「郁乃……さま? 何を見……っ!」
 郁乃が何を見ているのかと桃花も草葉の向こう側を覗く。そこには数えるのも嫌になるくらいのゴブリンたち、そしてその奥には周りにいるゴブリンたちよりも一回り以上大きいゴブリンの姿があった。
「い、郁乃さま……ここってもしかしてゴブリンの巣なんじゃ……」
「あ、桃花。よかった合流できたね。うん。ゴブリンの巣だよー」
 慌てた様子の桃花に対しいつもの調子であっけらかんとそう返す郁乃。
「見つかる前に逃げないと危ないですよ」
「んー……それはきっと大丈夫だよ」
「大丈夫って……郁乃さま、何を根拠に……」
 何も気負った様子なくそう返す桃花は混乱する。
「それは、あれを見れば分かるんじゃないかしら」
 そう言ったニキータの指差す方向も桃花は見る。そこにはこちらの様子をずっと見ているゴブリンの姿があった。
「あたしら、最初から気づかれてるのよ。だから襲ってくるつもりならもっと早く襲ってくると思うわよ」
 ニキータもニキータでなんでもない事のように言う。
「……それで郁乃さま。何か分かったことはあるんですか?」
 いろいろなものが飽和して一周りし、逆に冷静になった桃花は郁乃に調査の成果を聞く。
「うん。まずゴブリンとコボルトの中に一匹だけ大きなのがいたよ。たぶんこの森における二つの種族を率いてる王様みたいなものじゃないかな」
「コボルトって……もしかしてコボルトの巣にまで……」
「うふふ……あたしがちゃんと護衛してたから大丈夫よ」
「……郁乃さま。続けてください」
 既になんでもよくなってきている桃花。常識人の辛いところだろう。
「次にゴブリンもコボルトもこれだけ巣に近づいても警戒するだけで襲ってきたりはしないよ。村長さんの話だと凶暴だって話みたいだけど、もしかしたら温和なんじゃないかなぁ」
「温和……ですか。だとしたら桃花たちが襲われたのには他に理由が……。他に何か気づいたことはありますか?」
「うん。ゴブリンもコボルトも巣で怪我した傷を薬草で治してるみたいだよ。あと生で薬草食べたりしてたけど美味しいのかな?」
「美味しいかどうかは知りませんが傷薬として使われてる薬草を生で食べて体にいいとは思えませんのでやめてください」
「えー……桃花のいじわるぅ」
 口をとがらせてそう言う郁乃を可愛いと桃花は思ってしまうが保護者としてダメだと念を押す。
「……これだけ調べれば十分でしょう。一度村に帰りましょう郁乃さま。……あの、帰りもお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。頼ってくれて嬉しいわ」
 そうして三人は調査を終えて村へと向かっていった。


「これにて任務終了でありますね。まとめ作業の方はどうでありますか?」
 ぜーはーぜーはーと息をついて倒れ込んでいるマイト・オーバーウェルムと神崎 荒神の二人、そしてそのまわりに二人と同様に倒れ込んでいるゴブリンたちを遠目に、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はパートナーである上田 重安(うえだ・しげやす)に作業の進捗状況を聞く。
「少し待ってくださいね吹雪殿……と。終わりましたよ」
 吹雪が気づいたことを重安は紙にまとめ終えそう返事をする。
「では、村に帰るでありますか」
「そう急ぐこともないでしょう吹雪殿。まだ調査を続けている人も多いようだ」
 のんびりとした口調で気負いなく重安はそう言う。
「では、これから自分らは何をするのでありますか?」
「調査した内容を要約して再確認しておきましょう。実地の雰囲気を忘れないうちにね。……森の入口付近の薬草が生えていた場所に行きましょうか。あそこならモンスターに囲まれるという事はなさそうだ」
「了解であります」
 そうして二人は調査の場から離れ森の入口付近へ向かっていった。

「まず一つ目。この森におけるゴブリンとコボルトたちは異様にしぶとい。そうだね? 吹雪殿」
 木へと体をあずけ楽な格好をしながらまとめた調査書を見ながら重安はそう確認する。
「でありますな。攻撃力や素早さは一般的なゴブリンやコボルト並でありましょうが体力と防御力だけは比べ物にならないのであります」
「マイト殿や荒神殿達はほぼ格闘のみだったから分からなくも無いですが、輝夜殿達の攻撃は並のゴブリンやコボルトなら死んでいたでしょう。……素手で戦っていた輝夜殿はともかく後の二人は……」
 吹雪や重安から見ても死んでいないのが不思議だった。
「それに連携も上手いのであります。特に仲間のいのちを守る行動に関しては自分らも見習うべき所があります」
「結論として、この森のモンスターたちは旅慣れた冒険者達には危険性こそないが排除するとなると歴戦の冒険者でも苦労しそうというわけだ。それにそれがし達は見ていないが連携の上手さを考えれば統率する存在もうかがえる」
「それとゴブリンとコボルト達が争っている場所はいつも――」
「――薬草が生えているところだよねぇ。吹雪さん」
 吹雪と重安が話している所に天野 木枯(あまの・こがらし)が言葉をはさむ。
「おや、木枯殿ではありませんか。そちらの調査も終わって?」
「ええ。私たちは動物たちがゴブリン、コボルトの縄張りを調べていたんだよ」
「その中でゴブリンとコボルト達が抗争している場所や人が襲われる場所全て薬草が生えている場所だって気づいたんです」
 木枯の言葉に続けるのはパートナーの天野 稲穂(あまの・いなほ)だ。
「森の動物たちにも話を聞きました。ゴブリンとコボルトたちは薬草をめぐり長い間抗争を続けているみたいです」
 特技の言語を使い知ったことを稲穂は更に続けた。
「なるほどであります。しかし、それならば何故ここはゴブリンやコボルト達に狙われないのでありましょうか」
 吹雪は木枯たちの説明に納得しながらも疑問に思ったことを聞く。
「ここはゴブリンとコボルト、そして他の動物達が話し合い、動物たちの領域となったかららしいですよ」
「話し合いで決まるのであればゴブリンとコボルトもそうすればいいと思うのでありますが……」
「単純にそこは仲が悪かったみたいだねぇ」
「は、はた迷惑な話で有りますな……動物や人にとっては……」
 長年続いている抗争がただの仲違いというのは……、と吹雪は思う。
「そうでもありませんよ。彼らの領域に生えている薬草を取ろうとしなければ襲ってくることはありませんし、薬草が生えている所以外は縄張り意識も弱いみたいなんです」
「そこをうまく利用すればきっと街道作りもうまくいくんだよ」
 木枯の言葉に吹雪や重安も納得し、光明が見えた気がした。