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ライブの下見

「うゅっ♪ アテナといっしょっ♪ アテナといっしょっ♪」
「エリーといっしょっ♪ エリーといっしょっ♪」
 アテナとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は手をつなぎ歌うようにして瑛菜たちの前を歩いている。まさしくピクニックといった感じだ。もちろん二人とも冒険者を短くはない時間やっているため、ちゃんと周りへの警戒は忘れていない(そうは全く見えないが)。
「ったく……アテナのやつ、さっきまでいじけてたってのに……」
 楽しそうに歩くアテナを見ながら瑛菜は複雑そうな顔をする。たしかにアテナのためにモンスターと戦わなくてすむように森の調査とライブの『下見の下見』をしてきたが、あそこまで楽しそうだとエリーさえいればそんなに気にする必要なかったんじゃないかと瑛菜は思ってしまう。
「あら、瑛菜もしかして嫉妬してるの? ならこっちもこっちでイチャイチャしましょうよ」
 そう言ってわざとらしく腕を絡めてくるのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。日頃から瑛菜とはバンドを組み親友といった間柄だが、そのわざとらしさはスキンシップというよりからかいの色が強い。
「あー!もう腕にあたってる胸が気持ちいいじゃん! ローザ離れて!」
 なんだか前後がつながってないことを言いながら瑛菜はくっついているローザマリアを離す。
「あら残念。くすくす」
「そんなこと全然思ってないくせに」
 ちっとも残念そうじゃないローザマリアを瑛菜はジト目で見る。
「お二人って本当に仲がいいですよね」
 そんな二人を好ましそうに見ながら騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はそう言う。こちらもからかいの色が若干含まれている。
「それは否定しないけどこれはなにか違うじゃん……」
 はぁとため息を瑛菜はつく。ついでに大きく息を吸い込むと新鮮な空気が美味しかった。
「ここでライブできたら最高に気持ちようさそうじゃん」
 ローザマリアや詩穂からも同意の声が上がる。瑛菜はライブがさらに楽しみになってきていた。

「……って、アテナ? エリー? どうんしたんだよ止まって」
 気づくと前を歩いていたアテナとエリーが止まっていることに気づく。
「むこう、ゴブリンとコボルトが、たたかってる、の」
 エリーの指差す方向を見ると木々の間から木が生えていない空間が見え、そこではゴブリンとコボルト達が争っている様子が見えた。
「瑛菜部長。少し近くで観察してみましょう」
 詩穂の言葉に他の三人は頷き、警戒をしながら近づいていった。
「こんな抗争をずっと続けているんですね……」
 近くで見るゴブリンとコボルトの抗争は凄惨だった。
「この抗争、詩穂たちで終わらせることはできないでしょうか?」
「そりゃ……できるならそれが一番だよ。でも具体的にどうやって?」
 どうにかしたいという詩穂の意見には瑛菜も賛成だった。でも実際にどうすればこの争いを止められるのか。
「ここは詩穂達らしく音楽でどうにかしましょう♪」
「そりゃ、あたしららしいかもしんなけいどさ、それでどうして――」
「――おと……きこえる、の」
 瑛菜がしゃべっている途中でエリーが言葉をはさむ。
「ホントだわ……森の奥から聞こえてるわね」
「アテナも聞こえるよー」
 ローザマリアもアテナも耳を澄ましながらそう言う。
「……ホントだ。なんだかサックスの響きと似てる」
 瑛菜も耳を澄ます。するとエリー達の言うとおり音が響いているのがわかった。普段アテナが吹いているサックスの音に近い。
「あれ? 瑛菜部長。ゴブリンとコボルトたちが帰っていきますよ」
 詩穂の言葉にまた瑛菜はゴブリンとコボルトたちに注意を向ける。詩穂の言うとおり双方引き上げを始めていた。ついっさきまで激しく戦っていたのにどうして……と瑛菜は思うが、そこで一つの仮説を思いつく。
「詩穂……あんたの言ってた音楽でどうにかする作戦、意外にいけるかも」
 ポンとアテナの頭に手を置きながら瑛菜はそう言った。