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鋼鉄の船と君の歌

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鋼鉄の船と君の歌

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「けむぅ〜……」
 ブリッジへと通じるゲートの前で、不動 煙(ふどう・けむい)は暇を持て余していた。
 待てど暮らせど、このブリッジエリア周辺にテロリストは現れない。
 艦内の至るところで、煙が配置したグールとテロリストの戦闘が行われている。
 艦長から直接仰せつかった極秘任務である。
 煙もまさか、教導団の中にテロリストが潜んでいるだなんて思ってもいなかった。
 艦長からの直接指示により、事前に艦内中に配置したグールの召喚術式はうまく作動しているようだ。
 あとは内々のうちにテロリストを鎮圧し、熾月 瑛菜(しづき・えいな)のライブが無事に成功すれば万々歳である。
「……ん。やっと来たねぇ。待ちくたびれたよぉ」
 通路の先から、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)がやって来る。
 傍らには、ジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)ルクレツィア・テレサ・マキャヴェリ(るくれつぃあてれさ・まきゃう゛ぇり)の姿も見える。
「よぉ、お疲れさん。通してもらえるかな」
「お断りするよぉ」
「……あん?」
 煙はゲートの前に立ち塞がり、長曽禰達の行く手を阻んだ。
「オレ達、艦長に話があるんだ。キミも長曽禰中佐を知らないわけじゃないだろう? 通してくれ」
「煙は艦長から命令されてるんだよぉ。全てが終わるまで、誰もここを通すな、ってねぇ」
「……ははっ、そういう事かよ」
「ジェンニ、これ以上話しても無駄だと思うわ」
 ルクレツィアは懐からダガーを取り出し、刃先を煙へと向けた。
「中佐、ここはオレ達が引き受けます。先に行って艦長を……止めてください」
「あぁ」
 長曽禰は短く答えて頷くと、体勢を低く構えてゲート目掛けて一気に駈け出した。
「行かせないって言ってるよぉ!」
 煙は手にしたオールを長曽禰に目掛けて振りかぶる。
 ヴェルデは銃を撃ち、ルクレツィアはダガーを投げつけて煙の攻撃を妨害した。
「ちっ、テロリストどもめぇ! 冥利! スコール!」
「地祇にゃめんなよ!」
「うぉ!?」
 ゲートの影に隠れていた不動 冥利(ふどう・みょうり)が飛び出し、長曽禰に向けて体当たりをかました。
 否、それはただの体当たりではなく、中国武術八極拳必殺の一撃【八頸】である。
 不意の一撃をまともに喰らい、長曽禰は激しく壁に打ち付けられた。
「ぐぁ……っ!」
「長曽禰中佐!」
「余所見しないでよね」
 ヴェルデの背後から、コール・スコール(こーる・すこーる)が襲いかかる。
 スコールは伸縮自在の腕でヴェルデの首を掴み上げた。
「ぐぉぉ……!!!」
「ジェンニ!」
 じたばたともがき苦しむヴェルデを、スコールは床に叩きつけた。
「この……、よくもっ!」
 ルクレツィアはスコールに狙いを絞り、ダガーで応戦する。
 しかしルクレツィアの攻撃は、寸での距離でスコールに届かない。
「あーあ。なんだか僕には物足りない相手だなぁ。中佐で偉い人だって言っても、こんなおじさんじゃ……」
「……だぁれが、」
「えっ」
「おじさんだこらぁ!!!」
 冥利の油断した隙を突いて、長曽禰は起き上がると同時に冥利の腹部に蹴りを叩き込んだ。
「うぎゃ!」
 たまらずうずくまる冥利を見て、長曽禰は一瞬罪悪感に見舞われるも、心を鬼にしてブリッジへと向かった。
「くそぉ、待てぇ!」
「……プレゼントだ、受け取りなっ」
 ヴェルデは残った力を振り絞り、水晶を魔術で加工したスタングレネードを投げた。
 辺り一面が閃光と強烈な破裂音に包まれ、その場に居た全員の視界が奪われた。
「中佐、あとは頼みますよ……」
 眩い閃光の向こうでゲートを抜ける長曽禰の背中を、ヴェルデは見送った。