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鋼鉄の船と君の歌

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鋼鉄の船と君の歌

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「よう、お疲れさん」
 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は、沙 鈴(しゃ・りん)に労いの言葉をかけた。
「……お疲れ様でした、長曽禰中佐……、うぷっ」
 ふらふらと覚束ない足取りで、鈴は艦の外の地上に一歩踏みしめる。
「相変わらず船に弱いのは治らないのか。ま、無事に陸に帰ってこれてなによりってな」
 がさつに笑う長曽禰を横目に、鈴はため息混じりの深呼吸で、地上の安寧を目一杯吸い込んだ。
「……それで、報告は?」
「……はい。物資、資材の運用データに、シミュレーション上との大きな誤差は見受けられません。より長期でのデータも引き続き収集しますが、艦の運用スペックは、ほぼ予定通りとなります」
「そうか。……格納庫で、頼んでおいた方は?」
「想定外です。カタログスペックは、日和見主義者が寝ぼけて計算していたとしか思えません」
「はははっ」
「笑い事ではありません。……中佐。【ローレライ・システム】とは、なんなのですか」
 長曽禰は大きく空を仰ぎ、どこか遠くを眺めた。
「ひとりの、女の子がいた。その女の子は特別な才能を秘めていた。その才能を利用するため、とある機関によってその女の子は、拉致された」
「バラミタ開発初期に起こった、強化人間問題、ですね」
「酷い話だが、よくある話でもある。女の子は純粋な兵器として教育され、戦地へ投入された」
「そこで、艦長と出会ったのですね」
「艦長は彼女と契約し、絆を深めていった。だがしかし、戦場は常に冷酷だ。ある日彼女は、再起不能な傷を負った」
 そこで技術科の一部の講師が、死にゆく彼女を救うため、という名目で、とある技術開発を開始した。
「それが、【ローレライ・システム】……?」
「技術内容は一部講師の間だけに伝わる、完全なブラックボックスだ。オレに知らされているのは、少女の特別な才能を利用した何か、って事だけだ。そんな曰く付きのシステムの試験運用を任されたのが、この新造戦艦ってわけだな」
 これで話は終わったとばかりに、長曽禰は大きく背伸びをした。
「これからちょいと忙しくなる。しばらくは休暇でもとって、休める時に休んでおけ」
「お心遣い、感謝します。ところで、中佐?」
「あん?」
「わたくしは、艦長の気持ちを利用し、踏みにじった今回のやり方に、酷く遺憾の意を感じます」
「……おいおい、何を――」
「あなたなのでしょう? 今回の事件、裏で絵を描いていたのは」
 長曽禰は、振り返らずに立ち止まった。
「あなたは諜報部の情報から、事前に艦長の企みは全て掴んでいた。チャンスだと思ったはずです、【ローレライ・システム】の、真価を試すための」
 鈴の言葉は、止まらない。
「教導団の剛健質実な兵器としてのイコンと、天御柱学院の未来志向的なイコンは、そもそもの開発コンセプト的に異なっています。ただ、技術科講師の一部に天御柱学院のように、独創的なイコンを造りたいと思っている者が居ても不思議ではありません。【ローレライ・システム】の実用化は、それに現実味を持たせる可能性を秘めている」
 技術科は、なんとしてもデータが欲しかった。
 今回の艦長の計画は、一見乱暴ながらも、データ収集の観点から見て試してみる価値があると、技術科の講師は算段した。
「だからあなたは、諜報部を使ってダミーを含めた情報を拡散させ、より多くのトラブルを艦に引き込もうと企てたんです」
 長曽禰は、一言も反論しなかった。
「艦長は軍法会議で、恐らく無罪となるのでしょう。外部の人間に唆されただけ。そんな風に全ての罪を、存在もしない誰かになすりつけ、彼女はまた、利用される」
「……全て、君の憶測に過ぎないな」
「はい、全てわたくしの憶測に過ぎません」
 長曽禰は、最後まで振り返らなかった。
 鈴も、それ以上長曽禰を追求しなかった。
 海の向こうに沈みゆく夕陽はまるで、この世の欺瞞を受けて輝いているかのように、美しかった。

担当マスターより

▼担当マスター

みやさかみこと

▼マスターコメント

みやさかみことです。
GMとしての初仕事です。初体験です。処女作です。
ご参加いただきました皆様、本当にありがとうございます。
皆様が望むような活躍をキャラ達にきちんと反映させてあげることができたのか、心配で鼻血が止まりません。
次回以降も機会があれば、是非ご参加くださいませ。
今回は軍事色強めな内容でお送りしましたが、決して得意でもなんでもないのが痛手であります。
艦長とローレライ・システムのお話は、もしご好評だったら膨らませていきたいなぁなどとぼんやり企んでいます。
それでは今回はこの辺りで。百合百合なシナリオが描きたいけどどう仕込めばいいのか見当もつかない、みやさかみことでした。