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第一章 祭り始めのプレリュード
「開幕まで後わずか、皆さん頑張りましょう!」
 バタバタと慌ただしいステージで一際よく動いている清泉 北都(いずみ・ほくと)に、パートナーソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)を筆頭に、あちこちのスタッフから「おう!」「了解!」等、声が返る。
「エマ・ルビィさん歌……皆川章一さんはギターで……」
 それに一つ笑んでから、手元のシートで出場者を確認する北都。
「流れもあるだろうし、ポップな曲とバラード曲の関係と順番はこちらで決めちゃってもいいかな?」
「いいんじゃないか? 持ち時間もあるしな」
 簡単ではあるがステージ準備と並行して行われているリハーサル、その音響チェックをしているソーマが頷いた。
「そうだね。とりあえず、トリ以外はこっちで決めちゃおう」
 言って北都は、それぞれのパフォーマンスや持ち時間等を考慮し、進行スケジュールを作っていく。
「……ぎゃっ!?」
 中、二人の眼前でいかにもなヒラヒラ衣装の女の子がスッ転んだ。
「だっ、大丈夫?」
「モロ顔からいったな……おお、鼻が低くて良かったな」
「うう、膝が痛い」
 それはトリを務めるSoLaLa……ではなく、その代役の市倉 奈夏だった。
 ソララの失踪と奈夏の事は、北都達スタッフには知らされている、のだが。
「こんな高いヒール、ムリだよ」
「ケガしたら元も子もないよ。ソーマ、とりあえずぺったんこな靴あるかな?、衣装にあうやつね」
「オッケー、見てくる。リハもラストだし、奈夏は大人しくしてな」
 へたり込む奈夏の頭にポンと手を置いてから、ソーマは立ち上がり。
 奈夏の膝に目立たぬよう絆創膏を貼ってやりながら、北都は最終チェックに余念がない。
「皆が楽しみにしている音楽祭、絶対に成功させたい」
 ただその想いを胸に。



「……」
「ありがとう、アイン」
 そっと差し出されたお茶、その香りに蓮見 朱里(はすみ・しゅり)目を細め、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)を見上げた。
「……うん、美味しいわ」
「確かにいい味だね。心がホッとする」
 同じく口にした城 紅月(じょう・こうげつ)もまた口元をほころばせた。
 ステージ前の緊張が解される……味もそうだが、何よりアインの心遣いを感じ取って。
「そろそろ時間かな。じゃ行こうか」
 そうして、紅月とハイタッチでもって【幸運のおまじない】を受けた朱里は、
「行って来い。そして歌ってこい……朱里の心のままに」
「ええ。アインも聞いていてね」
「当たり前だ」
 アインの見守る中、紅月と共にステージへと向かった。

「ではこれより音楽祭を開催致します!」
 北都の宣言と共に起こる歓声に、会場が揺れた。

「ステージを怖く思う気持ち、わかるね」
「ええ。広いステージ、大勢の聴衆……新人のソララが不安になるのも無理もない光景だわ」
 呑みこまれるような熱気。
 迎えるキラキラ溢れる光と歓声とに、紅月と朱里とは声なき声を交わし合う。
 向けられる期待に満ちた瞳と瞳と瞳と、失敗やハプニングを望む悪意を含んだ幾つかの瞳と。
 自然、震える身体は歓喜か恐れか……或いは両方なのか。
「私が初めて『歌姫』として活動を始めた時も、きっとこんな感じだった」
 そしてそれはそうきっと、今でもそう変わらない。
「それでも、私には支えてくれる人がいて。この晴れ舞台を無事に成功させたいという、たくさんの想いがあって。だから、今の私はここにいる」
 朱里……否、歌姫シナはすぅと息を吸い込み。
(「歌おう、『幸せの歌』を。限りない感謝と願いを込めて。全ての人を勇気づけ『激励』できるように」)
 紅月と共に歌を奏でた。
 シャンバラの宮廷の正式な楽団員である紅月が選んだのは普段、女王様に歌っている歌だった。
 楽しい歌……心が温かくなる、優しい歌だ。
 二つの異なる声はピタリと寄り添い高め合い、観客達へ、そしてその先へと広がっていった。