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リアクション
第二章 妖精の悲しみ
コマとして強制された参加者たちが、あちらこちらのマスで指令に四苦八苦している時。
サイコロの妖精は、己の作った巨大な双六盤を空中から見下ろしながら、うぬぬと唸り声をあげていた。
「用意できたマス目は12……。双六にしてはマスの数が少なすぎる。しかし我が今持っている力ではこれ以上マスを増やすわけにはいかぬ。どうしたものか……」
その時、よたよたと重い足取りで歩く、二人の巫女服姿の少女と、一人の銀髪の青年がやって来た。
「うっぷ……、歩く振動で胃が刺激されて吐きそう……」
真っ青な顔で口を押えているのは香菜である。
「おまえらなんかドーナツだから、まだましだぜ。俺なんざカフェのメニューを30品も一人で食べたんだぞ? まさかトップ3が全部巨大パフェだとは思わなかったわ……。あ―死ぬ。生クリームに体乗っ取られて死ぬ」
香菜の横で、エヴァルトが文句を言う。こちらも土気色の顔色である。
一方美緒は、袴の帯の辺りを撫でさすりながら、ため息をつく。
「魔鎧を装着する時に、また太ったとラナに怒られてしまいますわ〜」
「あ、でもほら見て。12マス目の後は続きがないから、もうあがりなんじゃない?よかった〜」
と香菜が顔を明るくして足を速めようとした時だった。
「待て! ここは通さぬ!」
と、突然、サイコロの妖精が3人の前に降り立ち、両手を広げて進路を遮ったのだ。
「どういうことでしょうか? 私たち、ちゃんと指令通りにドーナツを全部食べましてよ?」
「ちなみにズルしてるわけじゃないんだからね。ちゃんとサイコロを振って、5の目と6の目で11を出したわよ。マスは12しかないんだから、これであがりよね?さあ、さっさと外に出してちょうだい!」
妖精は俯くと、小さな声で答えた。
「……嫌じゃ」
「ちょっと、約束が違うじゃない! あがりに着いたら、外に返してくれるんでしょ?」
香菜が気持ちの悪さも忘れて声を上げる。しかし妖精は大きく首を振った。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!! 我はもっともっと遊びたいのじゃ!」
「それ、どういうことカシラ? すすませてくれないノ?」
「あ、キャンディスさんと佐山さん」
香菜が振り返る。後方からキャンディスと佐山が追いかけてきていた。美緒が首を傾げる。
「貴方がたは別々のマスにいらしたのではなかったですか?」
「そうなんだが、マスで飛ばされたのが同じシャンバラ大荒野でね。いろいろあって一緒に課題をクリアしたんだ。だから、帰ってくるタイミングが同じだったのさ」
御言とキャンディスはキマクで偶然出くわした。そして御言がキャンディスを「特大ぬいぐるみ」として扱い追手の目を欺き、キャンディスが御言の代わりに財布を取り返すという共闘を行うことでそれぞれ指令をクリアしたのだった。
そして、
「キャッ! 人がいっぱい」
「美紀、私の後ろに隠れなさい」
「ありがとう、セラフィー……」
香菜たちのすぐそばにあった12のマスから、美紀とセラフィーが飛び出してきた。どちらも肌色のユニタード姿だ。セラフィーは恥ずかしがる美紀の姿に顔が緩みそうになるのを必死でこらえながら、美紀を自分の背後に隠す。
「あ、あの、皆どうして集まってるの?」
美紀の質問に、香菜と美緒が説明する。
「そうだったんですか。どうしましょう……上がれないのなら、ずっとこのままの姿でいなきゃいけないんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。いざとなればあの妖精を成敗して脱出しましょう」
優しく美紀に答えるセラフィーの言葉に、サイコロの妖精は血相を変える。
「これこれこれ! 物騒なことを申すでない!」
「だからってホスト側がルールを破るのはどうかと思うけど? 妖精さん」
そう言って現れたのは、セレンフィリティとセレアナだった。セレンフィリティはいつもと変わらぬ元気な様子だが、その後ろから遅れて歩いてくるセレアナは顔が真っ青である。
「セレン……、あんたなんでそんなに元気なのよ……」
「セレアナがだらしないんじゃない。大盛りぜんざい七杯ぐらいでグダグダ言ってるんじゃないわよ」
「ぜんざい7杯」の言葉に香菜、美緒、エヴァルトの3人は、思わず口を押えてうめき声を上げる。
「まじかよ、何でケロッとしてられるんだよ。化け物じゃねえか……」
呟いたエヴァルトの言葉は、幸いにもセレンの耳には届かなかった。
「う……うるさいうるさいうるさい! いままで我をゴミのように捨てて、省みなかった報いじゃ! お主らはわしの気が済むまで出てはならぬ!」
妖精が地団太を踏んで叫ぶ。しかし、その首根っこを?まえて持ち上げた人物がいた。武尊である。
「あ〜? 他人には無理難題を課しておいて、自分は思い通りにならないと癇癪を起すってか〜? わがままな妖精さんには、お仕置きが必要みたいだな」
ずいぶん長い間警備員と鬼ごっことしていたらしく、息は切れ、顔は汗だくである。その鬼気迫る様子に、妖精はついに泣き出してしまった。