リアクション
第三章 改心する妖精
「あらあら」
「あーあ。泣かしちゃった」
美緒と香菜の言葉に、武尊が慌てて反論する。
「人をいじめっ子みたいに言うんじゃねえ!! だいたい、ろくに満足な双六も作れないのに、巻きこむこいつが悪いんだろうが」
仕方なく武尊が手を離す。しかし妖精は地面に座り込んだままえぐえぐと泣き続ける。
「わっ、われは、ただ人間と遊びたかっただけなのに……。昔のように、双六で遊びたかっただけなのに……」
その時、
「あれ、何だか修羅場ってるな。なんかあったのか?」
現れたのは、ローグと紅月、鈴、そして吹雪とイングラハムだった。香菜たちは事情を説明する。
「なんだ……続きはないのか。俺は結構面白いと思ったから、ちょっと残念だな」
ローグのその言葉を聞いて、妖精の泣き声がぴたりと止まる。
「まことか……?」
「ああ、俺はな。ツァンダの森でまんじゅう屋を探してる時に、怪我をしている獣人の子を見つけたんだ。で、そいつを手当てして家に連れて帰ってやったら、ちょうどそれが「つあんだまんじゅう」を作ってる店でさ。まんじゅうも一杯もらったし、獣人の家族にも感謝されたし、楽しかったんだよな」
そう言いながら、ローグは抱えていたつあんだまんじゅうを 「1ついるか?」 と香菜に渡そうとする。もちろん香菜はそれを全力で固辞した。
先ほどのローグの言葉に、紅月も賛同する。
「そうだね。僕もはじめ裁縫をやれって言われた時はどうしようかと思ったけど、最終的にはレオンにいいプレゼントができたし、結果オーライかな?」
そして、胸に抱きしめていた布製のブックカバーを見て、うっとりと頬を染めた。紅月の言葉に、鈴も続いて言う。
「わたくしもですわ。BL小説を音読するなんて、あんなに精神的に負荷を受ける経験……戦闘でも訓練でも味わったことはありません。まだまだ修練が足りませんわね。己を鍛えるいい修練になりましたわ」
その言葉に、「いやその考えはどうかと思うぞ?」と思わずローグやセレンフィリティがツッコミを入れるが、もちろん鈴は聞いていない。
「修練と言えば、私もであります」
そう言って頷いたのは、吹雪だった。始めはおとなしくモデルになっていたが、画家の 「モデル料が発生しない」 という言葉に吹雪もイングラハムのブチ切れ、結局画家を脅して早く絵を完成させたのだった。
「あれで、モデル料さえもらえたら言う事なしだったんだけどな」
イングラハムが後に続く。
「そうか……楽しかったのか……そうか」
妖精は何度も言葉を反芻する。
「あら、皆もうあがりに来てたの。残念だわあ。折角がんばって笑える誤植を100個見つけてクリアしてきたのに」
背後から皆に声を掛けたのは、ルゥだった。その横で猫耳をぴったりと下げたままの黒連が弱弱しくつぶやく。
「黒蓮はこりごりニャ。もう本はしばらく見たくないニャア……」
皆から事情を聴いたルゥは笑みを浮かべると、しゃがんで妖精の顔を覗き込み、言った。
「等身大で参加できる双六、私も結構楽しかったけど、でも参加した人が全部楽しい気持ちにならないと、ゲームにならないと思うわ。まして途中でルールを変えようなんて言語道断。そうでしょ?」
妖精は頷く。
「でも、もうこんなわがままな事しないって約束するなら、私の家に来ない? 古い双六もボードゲームもあるから、あなたはきっと気に入ると思うわ。」
思わぬ申し出に、妖精は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でルゥを見る。すると、
「あー! それはあちきの台詞ですぅ! 抜け駆けはゆるさないですぅ!」
突然横から入ってきたのはレティシアだった。
「妖精さんには風雲レティロット城のアトラクション担当として、あちきがスカウトするですぅ」
そう言ってレティシアは妖精を後ろから羽交い絞めにする。その後ろにはミスティが立っているが、何故か着衣が微妙に乱れていて、恥ずかしそうにしている。
「ま、そこはおいおい話し合いましょうか」
と、ルゥは苦笑した。妖精は呆然として、ルゥとレティシアを交互に見る。
「……まことか? 我はお主達の家で人間達と遊んでもよいのか?」
「ええ。それに、今度はちゃんとした双六を作ってくれるなら、またコマとして参加してもいいわよ?」
妖精が首をふり、美緒や他の者達の方を向くと、彼らも又頷いて同意する。
「ああ、それと、もう大食い系は勘弁してね? 太ると嫌だから」
そう付け加えた香菜の言葉に、妖精は満面の笑みを浮かべて「勿論じゃ!」と答えたのだった。
こうして<等身大のコマ>達は解放され、それぞれ元の場所に戻ったのだった。
サイコロはルゥとレティシアの壮絶なじゃんけん対決の後、ルゥの家に引き取られることになった。
今はルゥの家の双六やボードゲーム達とともに、ルゥの家族や親せきが集まった時には必ず遊ばれ、己の本分を全うしている。
初めての方はこんにちは。ご存じの方はお久しぶりです。
今回の「サイコロが主催する双六大会!?」のゲームマスターを務めさせていただきました、むぐらしげると申します。
この度は拙作にご参加いただき誠にありがとうございました。
また、リアクション公開が当初の予定より大幅に遅れてしまい、申し訳ございませんでした。
今回は特殊な試みとして、参加いただいたPLの皆様からマス目の指令内容を募集しましたが、いただいた内容がどれも面白いものだったので、原則全て採用させていただきました。
ですが、すべてのキャラクターがどのマス目にも止まるようにするために調整する必要があった為、結果的にマス目の指令内容が微妙に変わってしまったり、MCやLCのリアクションがPL様のご期待するものとは異なる内容になってしまった点がいくつかあります。ご了承ください。
また面白い試みがあれば積極的にシナリオガイドに取り入れたく思いますので、またご参加いただければありがたいです。
今後とも、よろしくお願いいたします。