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双子の魔道書

リアクション

 第 7 章

 両脚をダリルに撃ち抜かれた研究者は、ティーとイコナの治療で出血も止まり歩ける程には痛みも治まっていた。取調べは教導団に戻ってからという事でルカルカはシャウラへ連絡を取る。
「シャウラ、青の書は無事に取り戻せた?」
「……一応、取り戻せたけどちょっと厄介な事になってる。増援頼むぜ……!」
 一呼吸置いてからのシャウラの報告にルカルカとダリルは顔を見合わせ、イーシャンの護衛と研究者の見張りを鉄心とティー、イコナに任せて軟禁部屋へと向かった。


 ◇   ◇   ◇


「そこの、青の書に用があると言ったでしょう……怪我をしたくなければどいて下さい」
 再び自らの周りの空間から武器を出し、放たれたがローズが【真空波】、貴仁が【シュレーディンガー・パーティクル】で相殺させる。
「またつまらぬものを斬ってしまった……」
「でもロゼさん、綺麗に真っ二つって中々出来ないですよ」
 エースは【エバーグリーン】で植物の壁を作り、ガードする間にウィルとファラが一気にファンドラとの間合いを詰め、ウィルがガントレットで飛んでくる武器を受け流し【神速】を使ったファラがファンドラへ連続打撃を当てようとすると急に間合いを取って退いた。
「ファラさん程、速くは動けませんが、力と技なら負けませんよ……っファラさん!?」
 ファラが答える前に、ファンドラの前には突然刹那がレーザーマインゴーシュを一閃させていた。
「ほう……わらわの攻撃を察知するとは中々じゃな」
「ギリギリまで気配を消しておくとは……貴公、暗殺の心得でもあるのじゃろうか」
 ふわりと、体重を感じさせない動きで着地した刹那はシルヴァニーを真っ直ぐ見据える。
「青の書、ファンドラへ協力してもらうからの」
「俺に命令すんなら、それらしい口上じゃないと知識は提供しねえぞ」
 間髪入れずにシルヴァニーが反論すると、シャウラが空飛ぶ箒を取り出してそれをシルヴァニーへ放り投げるが彼に届く前に一筋の弾道が阻む。
「敵、認識中……青ノ書確認、ソレ以外……狙撃対象」
 ゆっくりライフルを構えたイブがシャウラとナオキへ狙いを定めると、複数の足音と同時に「ちょっと待ったぁーーーー!」と声高に響いたと思えばイブのライフルは天井へ向けて発射されていた。セレンフィリティの剣がイブのライフルを下から一閃させ、引き金を引く前に狙いを外させる。
「さてと……共犯の容疑で一緒に連行されてもらいましょうか」


 ◇   ◇   ◇


 教導団では通信を回復させたジョンが、ルカルカ達と連絡を取ろうとしているものの酷いノイズが無線を遮っていた。
「ジョン、ルカルカと連絡取れないし……僕達も向かう? 解決していれば戻ってくるはずだし、ここまで遅いって事は何かあったんじゃないかな。イーシャンさんも同行してるし、護衛に加わった方が……」
「そうですね……通信を繋いでもこちらへハッキングしていた回線からの侵入はありませんから、情報攻撃を仕掛けてきた輩はこの作戦から手を引いたと見ていいでしょう。それに、惇とドリルはお仕事がなくて体力を持て余し気味のようですからね」
 チラリと2人へ視線を送るとにっこり微笑んだジョンは暁へ向き直る。
「あなたは、どうしますか? 確かパラミタに来たばかりとおっしゃっておられましたが……」
「足を引っ張っちまうかもしれないし、助けにもなんないかもしれねえけど……連れてってくれるなら俺も行きたい!」
 決まりですね、とジョンが軽く手を叩くと早速向かったのでした。


 ◇   ◇   ◇

 
 海と柚、そして三月がシルヴァニーを護って駆けつけたルカルカ達の後ろへ回り込んだ。丁度、刹那とファンドラを挟み撃ちにした陣形にジリジリと距離を縮めていく。
「この先の部屋にイーシャンがいるわ! あなたはまず彼と合流して! 海、頼むわね」
 ルカルカが海に向かって叫ぶと、柚や三月と一緒に向かうのを見送ると刹那とファンドラ、イブの逮捕に囲もうとしていた。
「……依頼主も逮捕されたからの、わらわの仕事はここまでじゃ。ファンドラ、青の書は諦めるのじゃ、何れ機会もあろう――」
「逃がすと思っているの? さっきのお返しまだしてな……っ」
 刹那が袖に隠していた【しびれ薬】を周囲に浴びせ、怯んだところをイブの牽制射撃で気を逸らしている間に気配を消し去ってしまっていた。
「……仕方ないわ、主犯は捕縛したのだし雇われた盗賊紛いの人達も順次連行しましょう」
「じゃあ、俺は裏口の方に潜んでる連中がいないかどうか見てきます。撤退する時に邪魔されても困りますからね」
 裏口を見に行くという貴仁にローズと詩穂が付いていき、部屋の内外で転がったままの見張り達を捕縛するとひとまず鉄心達のところへ戻っていった。


 研究者は捕縛したとはいえ、どこに仲間が潜んでいるかわからず念の為イーシャンとイコナはティーの作ったトリップ・ザ・ワールドの結界内にいた。鉄心が近くの部屋を探って人の気配がない事を確かめ、戻ると意外な人物がそこに居た事に驚く。
「キミも来ていたのか、カル。ああ、そうそう……アジトの特定ご苦労だったな」
「いや、まあ……ここを突き止めたのは実はジョンでさ。通信状態悪いし、連絡取れないから来てみたけど殆ど解決してたみたいだね」
 それでも護衛として惇とドリルはイーシャンの傍に立つと周囲に注意を払っている。割れた窓ガラスからこっそり室内を覗く吹雪も建物の周囲に研究者の仲間が残っていないかどうか確かめ、護衛の人数が増えた事でひと安心とでもいうように壁を背にして座り込み、休憩時間にしてしまうのだった。


 ◇   ◇   ◇


 その後、連行するための人手を頼んでいたカルの手配で捕縛した全員が教導団へ連行された。イーシャンとシルヴァニーも再会し、2人で改めて頭を下げる。
「ありがとうございました、皆さんには本当にお世話になりました」
 さりげなく、イーシャンがシルヴァニーの頭に片手を置いて下げるように促している。
「あ、そうだルー少佐……なんとか青の書が叱られたりしないように頼んでやってくれないか?」
「勿論、そこは私も口添えするつもりよ。今回の事は彼のせいじゃないもの」
 思い出したようにナオキがルカルカへ進言すると、その答えに安堵の声が方々から上がると教導団への帰路につく。その道すがら、泰輔がシルヴァニーに耳打ちするのだった。
「なあ、シルヴァニーは魔法の知識を提供するんやろ? ほたら、古来あまたの人々が望んでもホンモノを手にする事が出来なった魔法の知識……」
「泰輔……」
 顕仁が呆れたように呟くものの、泰輔は構わず続ける。
「『人を好きにさせる魔法』……これ、1つだけとは限らんやろ? ありったけの『人を好きにさせる魔法』の知識、並べ述べてくれんか?」
 暫く呆気に取られてポカンと口を開けていたシルヴァニーだったが、おもむろに泰輔の肩をぽん、と叩くと真剣な面持ちで述べ始めた。
「そりゃあ、確かに人類歴史において未だ決定的な魔法は確立されていない……てことで、俺も持ってない知識なんだなこれが! あ……頼むから落ち込むなよ。でもさ、お前みたいな知識の使い方ならむしろ俺も歓迎なんだ。面白そうじゃん」
「泰輔、恋の手管は己で工夫して好いてもらわねば意味はあるまい」
 顕仁がピシャリと締めくくり、泰輔とシルヴァニーがコソコソと文句を言う横で柚がイーシャンに話しかける。
「あの……イーシャンさん、どうして海くんに助けを求めたんですか?」
「……え?」
 イーシャンも目を丸くして聞き返そうとするも、恋人同士らしい様子があった事から訊ねた理由は何となく察していた。
「イーシャンさん、柚は海の夢に入れていいなって思ってるんですよ」
 驚いているらしいイーシャンの助け舟に、三月が柚の訊ねたい事を代弁すると海も複雑な顔をしてしまう。
「というよりですね、海さんの夢に入ろうとして入ったわけではなくて……あの、やっぱり妬けてしまいますか……?」
 イーシャンが聞き返すと、今度は柚が顔を赤らめたが海が助け舟とばかりに柚の頭をポンと撫でる。
「寝てる時だったから、夢の中で聞いた感じになった――て言えば納得してくれるか?柚。それにイーシャンの声で集まったのはオレだけじゃないしな」

 報告のため、一緒に教導団へ向かう彼らを海は振り返りながら告げるのだった。