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双子の魔道書

リアクション

 第 8 章

 シャンバラ教導団 金 鋭峰(じん・るいふぉん)の執務室――

「――以上で報告は終了です。逮捕したアンジャック・ソエリーへの尋問もいつでも始められます」
「わかった、その手配は私から指示を出そう。ご苦労だった、即興とはいえ他校の者にも協力してもらった功績は大きいであろうな……感謝する」
 ルカルカの報告に頷く鋭峰は、ルカルカの後ろに立つイーシャンとシルヴァニーに視線を移す。叱られる事は重々予想していた2人は生唾を飲んで鋭峰の言葉を待った。その様子にいち早くルカルカが察して進言する。
「金団長! 青の書には罪はないの。怒らないで上げて下さい、お願いします!」
 ルカルカだけではなく、彼女に鋭峰への進言を頼んだナオキを始め寛大な対応を望む声が多い事に鋭峰も小さく溜息を洩らす。
「まだ何も言っていないであろう。ただ、今回の件で2冊の魔道書の存在が君達に知れる事となった……これをどうしたものか考えただけなのだよ」
「……金 鋭峰団長」
 イーシャンがルカルカの前に足を踏み出すと静かに話し始める。
「僕達が力を2つに分けている理由、僕とシルヴァニーが揃って力を使えば何が起こるのか……彼らにはそれを知る権利があると思います。話す事をお許し願えませんか?」
 暫く思案した鋭峰は珍しく自分の意志をみせたイーシャンとシルヴァニーの願いに2冊の魔道書の存在を明らかにする事に同意したのだった。


 ◇   ◇   ◇


 イーシャンとシルヴァニーがなるべく簡単にと話し出す。
「結論から先に言っちまうが、俺とイーシャンの力が揃うと【時間魔法】が可能になる……過去と未来とを行き来する事がな」
「書物や遺跡、僅かな口伝で伝わってきた歴史を直に見る事もこれから先に起こる事もその目で見る事が出来るんです」
 静かに聞いてくれている様子に1つ息を吐くとイーシャンは続けた。
「その魔法の方式は意図して組まれたものではなく、全く別の研究から偶然見つかったものでした。でも僕達を『魔道書』として書いた人はこの魔法を封じてしまったのです……そのために2冊に分かれました。力と知識に分けたのは時間魔法を解読されないための、いわばフェイクですね」
 それまで黙って聞いていたメシエがタイミングをみて質問を投げかけた。
「イーシャン、1つ質問をいいですか? 今回持ち出されたのはシルヴァニーのみでイーシャンは無事だった……あの研究者、何故2冊を持ち出さなかったのだろう」
 同じ疑問を持っていたのか、鉄心も軽く頷く。
「そうですね、でも理由は単純なんです。僕は『力』シルヴァニーは『知識』研究対象としては知識を解読する事を重要視していました。むしろ、攫われたのが1人だったから良かったかもしれません……シルヴァニーの話だと、魔道書の解読を試みた用心棒が居たそうですから」
「あ、そういえば辿楼院 刹那と一緒にいたヤツも青の書に用があるとか何とか言ってたわね」
 セレンフィリティが思い出したように呟くと、捕まえられなかった事に悔しそうな顔を見せる。そんな彼女をセレアナがよしよしと宥めにかかるのを目にしたシルヴァニーが呟いた。
「今更だが、寒くねえのかあの姉ちゃん達……いいもの見れて俺は嬉しいけど」
 その途端、イーシャンが顔を引きつらせながらシルヴァニーの足を思い切り踏んづけていた。


 ◇   ◇   ◇


 【時間魔法】の事を知った鋭峰が2冊の魔道書を教導団内部で保護し、書を分けた影響から彼らの意志で使用と拒絶が出来ない状態の改善を研究者達に任務として依頼していた。その矢先の誘拐であったため、改善させる研究は一時中断となってしまった。
「僕達は教導団が所持する魔道書という立場はそのままですが……もし、力を貸せる事があればいつでもお手伝いします」
「借り、というには随分でかいからな」

 シャンバラ教導団を後にする海達を見つめながら、イーシャンが1つの願いを口にする。
「彼らを見ていたら、パートナーが欲しくなったね……」
「奇遇だな、俺もだ」

 長い1日はゆっくり更けていき、人は夢を見る時間を迎えていった――

担当マスターより

▼担当マスター

小湊たまご

▼マスターコメント

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
第3作目「双子の魔道書」を読んで頂けてありがとうございます。

初めて参加された皆様、そして再びお目にかかれた皆様に参加していただけた事を改めて感謝致します。
魅力的なアクションが多く、全てを採用する事は叶わなかったのですが楽しく執筆させていただきました。ただ、今回は特別に多めに書いてしまっている印象です。ですが皆様のアクションに助けて頂いた作品であると同時に私自身も色々学ばせて頂いたものが多いと感じています。

またの機会に再びお目にかかれる事を願いつつ、ご挨拶といたします。