校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
ポロリ 肝心のポロリこそ露になっていないものの、なんやかんやで観客もある程度盛り上がり、浮島では数々の激しい攻防が繰り広げらている。 そんな浮島相撲も、いよいよ終わりの時が近付いていた。リング上ではまだ何名かの選手が争い合っており、リングの外では気絶した選手や氷水の寒さに震える選手が多く見受けられる。 青島 兎(あおしま・うさぎ)とパートナーのマギハーリク・ファル(まぎはーりく・ふぁる)は、そんなリング外の選手たちをサポートする救護班として活動していた。 「また一名様御案内〜」 兎がざばっ、と水面から選手を拾い、マギハーリクの元へ連れていく。 「やはり氷水の影響か、寒さで気を失っている選手が多いようですね」 マギハーリクはテントを設営しており、救護体制は万全のようだ。そのテントに運び込まれたのは、氷水と化したプールに最初に落下した詩穂だった。詩穂は目を閉じており、起きる気配がない。それを見た兎とマギハーリクは互いに目で合図すると、こくんと頷き合った。 「命に別状はなさそうです、ならば……」 「やることはー、ひとつ〜」 ふたりは、眠っている詩穂の体に触れようといやらしい手つきで近づいた。眠っているアイドルに悪戯。これも、売り出し中のアイドルあるあるであり宿命とも言えるだろう。 「さて、まずはスリーサイズでも……あれ、兎? どうしました?」 マギハーリクが、彼女の異変に気づく。看病、という名目で詩穂の体に触ったり、あわよくば人工呼吸くらいしてやろうと目論んでいた兎だったが、彼女はその場所からピタリと止まったまま動かない。 「……兎!?」 よく見ると、唇がガタガタと震えていた。それもそのはず、彼女は救護という目的のため水面で長時間待機していたせいで、選手よりもよっぽど寒い思いをしていたのだ。ガクガクと震えだした兎は、そのまま志半ばにして倒れこんだ。 「ど、どなたかお医者様はいませんか!?」 救護テントでそう叫ぶマギハーリクは、ちょっぴりシュールであった。 ◇ 一方、浮島の上ではバトルが佳境に入っていた。 東軍のサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は、西軍の天津 のどか(あまつ・のどか)とクッションをぶつけ合っている。奇遇にも、このふたりはそれぞれ控え室でパートナーに知恵を授かっていた。 試合開始前、両控え室。 「いい? サっちゃん、相手が女性で上下別の水着を着ていたら、下から上に向かって振り上げるように攻撃するのよ」 サレンのパートナー、ヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)が一生懸命サレンに戦い方を教えていた。 「ヨ、ヨーさん、それは何か理由があるッスか?」 ポロリ以外の理由は当然ない。が、ヨーフィアは適当に誤魔化した。 「ボクシングでも、一番威力があるのはアッパーでしょ? つまりそういうことよ」 「なるほど、分かったッス!!」 サレンが素直な子で良かった、とヨーフィアが思った瞬間だった。 その頃西軍の控え室では、のどかのパートナー、ペルディータ・ビドル(ぺるでぃーた・びどる)がのどかに水着を着せていた。それは、偶然にもヨーフィアが言っていた通りの水着であった。白いホルターネックの三角水着は体を覆う面積が小さく、首と背中、腰で結ばれた紐はあえて解けやすいように緩く結ばれている。 「ねえ、のどかちゃん」 ふっ、と耳に息をふきかけて、ペルディータがのどかに囁く。その手は、水着越しにのどかの胸を触っていた。 「ちゃんと、ポロリしてきてね」 「あんっ」 ぴくん、と体が動いたのを返事と受け取り、ペルディータはにっこりと笑った。 そうやって控え室のやり取りを済ませたふたりは、今浮島でパートナーたちの思惑と共にクッションをぶつけ合っていたのである。サレンもサレンで赤のビキニというなかなか刺激的な格好をしているため、このふたりの戦いは圧倒的に観客の注目を集めた。 「ああっ、なんて数の視線なんでしょうっ……!」 興奮のあまり思わず身悶えたのどかが、顔を紅潮させながらクッションを振り被る。上段から仕掛けようとするその姿勢は、胸ががら空きになっていた。 「突くべし、ッス!!」 そこを、サレンの突きが襲う。むしろわざと胸を空けて狙わせた感もあるが、ともかくサレンの一撃はヨーフィアの言葉通り、下から上へ向けて放たれた。 「ああっ」 ヨーフィア、のどか、ペルディータ3人の思惑通り、その一撃でのどかの水着は綺麗に剥ぎ取られた。 「わ、わわっ、大変なことになったッス!」 この状況を予想していなかったのは、サレンただひとりだった。ついにポロリが! 観客のボルテージも高まる。 が、しかし。 どういうわけか、のどかはそのままサレンに抱きついてしまった。当然胸はサレンの体で隠れ、観客には見えない。あれだけ見られたがっていた彼女なのに、どうしてこのような行動に出てしまったのだろうか。その理由は、すぐ判明した。のどかはサレンの耳元に口を近づけると、彼女にしか聞こえないボリュームでそっと告げた。 「あとは、分かりますよね?」 「えっ? えっ? なんスか?」 そう、のどかは興奮するあまり、ポロリを飛び越えてその次のステップに行こうとしてしまったのだ。もちろんこれはろくりんピック協会が黙ってはいない。 「ポロリまでは許容範囲だけど、それ以上は駄目だよ」というやや不条理な規制により、のどかはサレンごと警備員に連行されていった。 「ま、まだお楽しみはこれからですのに……っ!」 「ヨーさん、大変なことになってるッスよ!」 声を上げながら姿を消すふたり。同時に、観客の盛り上がりも段々と消えていった。結局ポロリは見れないのかよ、よ。盛り上がり損じゃないか、と。 そんな観客たちの落胆をよそに、実況席からは声が聞こえてきた。 「さあ、いよいよ最後のバトルか? まだ戦っていないのはあの4人だ!」 最後の希望を込めて、観客が浮島を見る。そこに立っていたのは、東軍の風森 望(かぜもり・のぞみ)とパートナーノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)、西軍のイレイン・ハースト(いれいん・はーすと)とパートナー近衛 涼子(このえ・りょうこ)だった。望は普通にユニフォーム着用だが、ノートは蒼空学園の水着を着ているのでポロリチャンスは充分にある。対するイレインと涼子は、ふたりともセクシーな黒ビキニとアニマル柄ビキニを着ておりかなり期待値は高い。 「勝つのは、西シャンバラチームだよ」 「何が何でも、負けないもんね!」 気合充分のイレイン、涼子組に対し一方の望、ノート組はいまひとつ集中力を欠いているようだった。 「……どうしましたの、望?」 ノートが隣の望に話しかける。 「いえ、最初は私も乗り気だったんです。楽しませてもらいましょうか、なんて具合に」 「では、どうしてそのようなテンションに?」 「この状況を見れば、誰だってそうなると思いますけど」 ノートは言われて、周囲を見渡す。まず隣。望。ユニフォーム着用。続いて前方。イレイン。黒ビキニ。その隣、涼子。アニマル柄ビキニ。最後に自分。ほぼビキニ。 「……もしかして」 「いえね、本当にやる気はあったんですよ。何かしらご褒美でもあれば嬉しいですね、なんて思ったりもしてましたし。ただ、何でしょう、この場違い感」 「の、望! そんなことありませんわ! ほら、水着だけでなく水に濡れたユニフォームだってそれはそれで……」 「それも思ったんです。思ったんですよ。ですけどね、もう一度状況を見てください」 ノートは再びぐるりと視線を泳がせた。イレイン。巨乳。涼子。イレインと似たような体格。自分、Dカップ。 「……」 「何ですか? その沈黙は何ですか?」 「……望、ここはわたくしに任せておけば大丈夫ですわ!」 ノートは何かを悟ったように、あるいはそれ以上その空気に耐えられなくなったかのようにイレインたちのところへバーストダッシュで突進していった。 「参りますわよ! そぉい!!」 ノートのそれを、あろうことか上手投げで迎え撃とうとするイレイン。加速力のついた体当たりを投げ飛ばせるわけもなく、イレインはノートの一撃必殺を食らい瞬く間にプールに落下した。 「これが必殺、アクセルバレストですわ!」 珍しく格好ついたのが嬉しかったのか、ノートは決めポーズでカメラに映りこんだ。攻撃をもろに食らったイレインは水に落ちる間際、実はポロリしていたのだがノートの技が下手に派手だったため観客の注意がそちらに向いてしまっていたのだ。 加えて、イレインが欧州育ちなためか、まったくポロリに動揺せず一言も声を上げなかったため誰もその事実に気付かなかったという隠れた悲劇もそこにはあったのだった。 残った涼子は望に攻撃をしかけるが、望が「こういうのはアリでしょうかね」と言いつつ胸を突いたり、「想像してください、タンスの角に足の小指をぶつけるところを」などと言いつつ足元にクッションをぶつけたりとネチネチ応戦しているせいでなかなか狙いを定めることが出来ない。望のその攻撃には、どこか恨みがこもっているようにも見えた。 「なかなかやるね」 望とウレタンクッションを交えながら、涼子が言う。が、望の意識は眼前で揺れる胸にいっていた。 「まったく、揃いも揃って……大きさなんていうものは……」 なにげなく呟いた望のそんな一言。しかしそれが、思わぬ火種となった。 「いやあ、本当にね、その通りだと思うよ。みんな大きいひとばっかり応援して、露骨すぎると思うんだ」 「オルフェも、ずっと悲しいままなのです……」 不意に聞こえた声に望は振り返る。そこには、東西で争っていたはずの終夏とオルフェリアがいた。さらに、その後ろからは千代も近づいてくる。 「昭和の女だって、負けてられない!たとえ胸パッ……じゃない、ええと、とにかく負けてられない!」 ぱっと見それなりに大きく見える彼女だが、どうやら今言いかけた言葉から察するにそれは入れ物のお陰だったようだ。しかし、団結した彼女たちにとってそれは些細な問題だった。むしろ共感出来ることだった。そして、この団結力の前に東や西という概念は関係なかった。 「そう、私たちは」 会場の熱気にあてられちょっとテンションが高くなってしまったのか、彼女たちが声を揃えて普段なら言わないようなことを高々と告げた。 「東シャンバラでも西シャンバラでもない、貧乳シャンバラよ!」 会場がどよめく。ある者はブーイングをし、ある者は拍手でそれを迎えていた。 その会場の様子を感じ、ここまでアピールされては対抗せざるえを得ないと思ったのか、何名かの女性が彼女らの前に立ちあがった。 「私たちだって、いつだっていい女と言えるように頑張ってるのよ!」 「胸が大きいことの苦労も知らないくせに」 それは、冴子と彩羽だった。後ろからは退場したはずののどかが、サレンの腕を引っ張りながら「胸の話ですか? 卑猥な話ですか?」と首を突っ込もうとしていた。 「あなたたちが貧乳シャンバラだと言うなら……」 こっちも会場の異様な空気に毒されたのだろうか、この先二度と言わないようなことを叫ぶ。 「貧乳シャンバラと戦う、巨乳シャンバラよ!」 会場からは歓声が起こる。どうやら客層的にはややこちらが有利らしい。 「これはとんでもない事態になりましたね」 実況席で解説の志保に話を振ろうとした時、これまで自ら前に出て発言することのなかった絃弥のパートナー、アナスタシアががっつりマイクを握って解説を始めた。 「たとえ胸が小さいとしても、勇気を持って行動すればこのような大きなうねりを起こせるということですね。素晴らしいです。とても素晴らしいです。ある種の貧しさが、彼女たち、そして多くの女性に心の豊かさを与えたと言えるのではないでしょうか」 「ア、アナ……?」 パートナーの突然の貧乳擁護発言に、否、興奮気味に話すその様子に驚く絃弥。 実況席で懸命に貧乳の素晴らしさを語るアナスタシアがいる一方で、浮島付近では留美や又吉が集まった巨乳をカメラに収めようとせっせと動き回っている。 「これはチャンスですわ! 待ちに待ったシャッターチャンスですわ!」 「たくさんカメラを持ってきたかいがあったってもんだ」 ポロリを待ちきれず、ふたりは様々なアングルから女性陣を映し出していた。 そして、浮島では争い合う貧乳と巨乳。 「……これは何だ? リコ」 「私も分かんない」 これにはVIPルームで慎ましく応援していた東西の代王、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)と高根沢 理子(たかねざわ・りこ)も困惑の表情を浮かべるばかりである。 「とりあえず、頑張れって言っとけば大丈夫だと思う」 「そういうものなのか……」 ◇ このままでは収拾がつかない、そう感じた大会本部は「そういうのは後でやってください。お願いします」と選手たちを説得し、熱くなったスタジアムをどうにか元に戻すのだった。が、一度固い結束が成された以上、もはや東西に分かれて戦おうという意識は彼女たちになかった。誰かがぽつりと呟く。 「なんで私たちは、東西に分かれて戦っていたのだろう」 いつだってライバルは、自分の胸が決めてくれていた。ついに真理に到達してしまった彼女らは、最終的に浮島相撲という競技を放り出した。 「……えー、ちょっとよく状況が分かりませんが、とりあえずこちら側で東西の勝敗だけは決めてしまいましょう」 実況席で、手元の資料を見ながらぽに夫が言う。 「これを見た限りでは東軍の勝利ですね。東軍の皆さんおめでとうございます」 「おい、それって自分が東軍側だから言ってるだけじゃ……」 絃弥の突っ込みが入るが、ぽに夫は勝ち誇ったようにその紙を見せた。 「これにちゃんと書いてます。ちゃんと全員分の攻撃判定とその結果が」 彼の言う通り、そこには各々の選手の戦績がばっちり書かれていた。絃弥もそれを見て諦めたのか、最後のイベントに移る。 「なら仕方ないか……じゃあ、あとはMVPの発表と表彰だな。MVPは?」 一同は浮島を見る。みんな、おっぱいの話しかしていない。 「これ、どうするんだよ」 「……ええと、じゃあ、ちゃんと最後まで仕事をした解説の志保さんで」 「俺!?」 選手じゃないのにまさかのMVP選出に驚きを隠せない志保。というより、それは実況が決めるものなのかと疑問を抱かずにはいられなかった。 「ま、まあ貰えるというなら……」 この期に及んでこの競技のMVPにどれほどの価値が残っているかは分からないが、とりあえず彼はそれを受け入れることにしたようだ。 実況席で、BGMもないまま表彰が始まる。トロフィーが志保の手に渡されると、ぽに夫のパートナー巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)がやってきてインタビューをし始めた。 「!!!!!」 「え?」 「!!!!!」 「ちょっと言葉が分から……」 「!!!!!」 人には理解できない言語を喋るだごーんのせいで、せっかくのインタビューが無意味となってしまった。が、どのみち観客の大半は浮島の女性たちに夢中でそんなもの聞いていないのでさして大きな問題ではなかった。 問題があったとすれば、規格外のだごーんがスタジアムに乗り込んだことで観客席の一部が崩壊したことくらいだろうか。もっとも、それも女性の胸という宇宙の前では微々たる出来事である。 「こ、これにて浮島相撲は終了となります。皆さんお疲れさまでした」 「お疲れさまでした……」 最後にやり切れない思いを感じながら実況・解説が一通り挨拶し、強引に浮島相撲は終わりを迎えた。 「そう言えば、あれだけポロリポロリ言っておきながら、結局大々的なポロリは一度もありませんでしたね」 マイクのスイッチを切った後、実況席でぽに夫がなにげなく呟いた。 「そうだな、まあそれはそれで平和に終わったってことで。それに……」 志保が、ネクタイを緩めながら辺りに目を向ける。 「ポロリが期待できそう、って触れこみもまったくの嘘ってわけでもないようだしな」 彼の視界には、観客席。そこには、長いことずっと観戦し続けてきたのに女性の胸ひとつ拝めず悲しんでいるたくさんの観客たちの姿があった。そのあちこちで、鼻をすする音が聞こえてくる。 「ほら」 潤んだ瞳が、彼らの足元に雫を落とす。ポロリ、ポロリと。