リアクション
【12月】 耳を澄ませばあちらこちらから聞こえる鈴の音、鈴の音、鈴の音。それが実際にどんな音色やリズムでも、頭の中で響くのは、たったひとつのリズム、ジングルベル。 ──今日は12月24日、クリスマスイブ。 イルミンスール広大な森の一角は、今日は朝から騒がしい。 鈴の音、鐘の音、お喋りに笑い声。 金銀赤青、きらきらお星様にお月様、可愛いリボン。ジンジャーマンの飾りがクッキーに紛れて、間違って食べようとしてひと騒動。雪の結晶のこっちは、本当にアイシングされたクッキーで、今度はペットが食べてしまってまた大騒ぎ。 静かになるどころか、お昼が過ぎて夕方になっても、一層賑やかになる一方。 「ずいぶん進みましたねぇ」 夕方になる頃には、上空から見た木々はすっかり飾りつけられて、立派なクリスマスツリーになっている。“空飛ぶ魔法↑↑”で舞い上がった神代 明日香(かみしろ・あすか)は、一通り眺めを確認すると、高度を下げた。 森の中に立つ、木製の小屋のテラスまで高度を下げて、再び飾り付けを開始する。 (これだけ綺麗なんですからぁ、きっとエリザベートちゃんも喜んでくれますよねぇ。プレゼント交換してぇ、私のプレゼントを開けたエリザベートちゃんがぁ、すっごく可愛い笑顔で「ありがとうですぅ」って言ってくれてぇ……) 妄想に思わず笑みがこぼれる明日香だったが、 「あのー、もういいと思いますよ」 「え?」 声にふと手元を見れば、目の前の枝はところ狭しと飾られたオーナメントで垂れ下がり……、今にも重みでぽきりと折れてしまいそうになっていた。明日香は慌ててオーナメントを握って紐を解きつつ、 「あわわ、いつの間にっ……は、は、……くちゅんっ」 くしゃみをひとつ。 「マフラーしてくれば良かったかなぁ」 ひとりごちる明日香に地上から、先ほどの声の主──コートにマフラー、手袋で身を包んだ神崎 輝(かんざき・ひかる)が冗談めかして綿の雪を差し出した。 「代わりにこちらはどうですか? 暖かいですよ」 「私もツリーになっちゃいましょうかぁ」 明日香は受け取った綿を枝の間にかける。 輝もまた、腕にかけた、電飾やオーナメントがたっぷり入った籠から、色とりどりのグラスボール、雪の結晶、天使などなどを取り出して、枝にくくりつけていった。 ひとつの枝にフェルトのトナカイをぶら下げ、次の枝に向かおうとして、 「一人じゃさみしいよね」 振り返って、赤鼻のトナカイの傍にサンタをつけた。 はるばる蒼空学園から一人で来た輝が、こうやってみんなと飾り付けをできているんだから、トナカイもひとりぼっちじゃ可哀想だ。 「ただでさえ寒いしね」 言ってみて寒さに気がつけば、空からちらちらと、雪が降り初めていたのだった。 「皆さん、お疲れ様。温かい紅茶を入れてきたから休憩にでもしませんか」 二人が飾り付けに勤しんでいると、紅茶が乗ったトレイを手に、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が顔を出した。 「今年もイルミンスールは、ホワイトクリスマスになりそうですね」 空に目を配りながらティーカップを配っていると、彼の背後からも声がした。 「こんばんはぁ。ちょっと早いですけどぉ、来ちゃいましたぁ」 「確かに真夜中には早いですね」 「ふふふ、たまにはこんな服も良いですよね?」 赤に白のもこもこ縁取りの帽子と上着、お揃いのスカート。可愛らしいサンタの少女が、胸に大きなリボンをかけたプレゼントを抱えている。 百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だ。これから始まるクリスマスパーティの参加者だった。 「今日はお招きいただいてありがとうございますぅ」 「寒い中ありがとうございます。宜しければどうぞ」 「嬉しいですぅ」 涼介が差し出す湯気の立つティーカップをメイベルは受け取り、口をつけた。この季節特有のクリスマスティーの、オレンジピールとスパイスの香りが鼻先をくすぐる。 皆、紅茶で暖まりながら話がはずむ。今日のパーティのこと、プレゼント交換のこと、ケーキに秘密の演出に、この一年あったことに……、 「今日はきっと沢山の方がいらっしゃるんですよねぇ」 あれから顔を見ていない友人にも会えるんでしょうか、とメイベルが思いを馳せていると、 「メリークリスマス!」 ──空から声した。 見上げた彼らの目に映ったのは、一人のサンタ。 「まさか本当のサンタさんでしょうかぁ」 小型飛空艇に乗ったサンタは、ゆっくりと地上に滑り降りる。 メイベルは期待に満ちたまなざしを向けているが、いくらサンタが近代化しても、飛空艇に運送会社のマークを付けたサンタはいないだろう。 「残念だけどサンタじゃない、ただのバイトさ。けど、本当のサンタにも負けないプレゼントを持ってきたよ」 サンタが雪を払い落とすべく帽子を脱ぐと、その下から如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の顔が現れた。 彼は帽子を被り直し、鞄から分厚い手紙の束を取り出した。 「はい、手紙。じゃ、届けたからな」 「せっかく来てくれたんだ、紅茶でも一杯飲んでかないか?」 「悪いな、まだまだプレゼントを待ってるお客さんがいるんだ。遠距離恋愛の恋人たちに、パパサンタを待つ子供に、な」 正吾は地上に着いたばかりだというのに、すぐさまひらりと飛空挺にまたがると、そのまま空へ舞い、西の空へと消えてしまった。 「じゃあな、パーティ楽しんでくれよ」 残された生徒たちが手紙の束を解いてみれば、それは色鮮やかなカードたち。 空京から、ヒラニプラから、タシガンから、地球から。 家族の、親友の、恋人の、知り合いの、かつて事件でかかわった人たちの。 沢山の、そしてひとつの祝福の言葉。 Merry Christmas! 担当マスターより▼担当マスター 有沢楓花 ▼マスターコメント
※初めにお知らせです。 |
||