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着ぐるみ大戦争~明日へ向かって走れ!

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着ぐるみ大戦争~明日へ向かって走れ!

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第1章 北の坂場通りには

『ぐぅぅぅぅぅぅぅど、もおぉぉぉにぃぃぃぃぃんんんぐ、ぱらみたあぁぁぁぁぁぁぁ!!』
 朝から有線の校内放送が盛大にがなりたてている。教導団放送「グッドモーニング、パラミタ」の朝放送である。
 ここはパラミタ、シャンバラ地方、そのヒラニプラ北方外縁にあたる場所である。シャンバラ教導団は現在、ここに分校、通称「三郷キャンパス」を設置している。現状ではヒラニプラを中心として展開する教導団の北の護りの要といえる。三郷キャンパスはこの一角、小さな丘の上に作られており、傍目には城のように見える。周辺は開けているが、街道の周りは起伏が多く、坂道は訓練には最適といえよう。
「♪俺〜の○○○は〜今日ぉも元気だ〜!1、2、3、4、1、2、3、4!」
 下品な歌を歌いながら走っているのは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)である。その後ろからはウサギ、ハムスター、シマリスのぬいぐるみ?が列をなして集団で続いている。彼らはこの近在の「ラピト族」の面々である。よく見ると普通のシャンバラ人も混ざっている。「ラピト族」というのはこの近辺に住むシャンバラ人の総称であり、特定の民族を指す言葉ではない。それ故、人間もいればゆる族もいる。正確に言えばこのラピト周辺にいてまとまっている「ラピト共同体」と言う方が意味的には正確であろう。しかし実際のラピトは規模が大きい割には体制が整備されていない感があり、村的にまとまっているため、「ラピト族」の名称で呼ばれている。この周辺にはこういう「○○族」というのが多いらしい。
「あ、あの〜。は、恥ずかしいですわ……」
 併走しながら小さな声で言うのはリース・バーロット(りーす・ばーろっと)である。
「そうですよ……。戦部らしくもない……」
 同様に周りをきょろきょろしながら続いているのはルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)だ。ツンツン頭がその度にくるくる動く。
「はあ、こういうのは苦手なんですけどねえ……。これじゃナンパできないじゃないですか」
「しょうがないですよ……。軍隊の訓練ってこれが定番です」
 打って変わって丁寧な口調で言う戦部。本人も納得いっていないようだ。
「お二人は男性だからいいですけどこれはセクハラですわ。これは正すべきでは!」
 バーロットは顔を恥ずかしさと義憤で真っ赤にしている。
「まあ、待て待て……今はまずいよ」
 慌てて戦部は止めた。実は現在、教導団三郷キャンパスではラピト族兵士と「合同訓練」を行っている。ラピト族は今までまともに戦いをしたことがなく、それ故この合同訓練により練度向上を考えているが、これに対し目を血走らせて喜んだのはむしろ教導団の新入生達であった。普段厳しい訓練できゅうきゅう言っている彼らは自分が教官役ができるとあって、我がちに立候補、俺が俺がととっくみあいの喧嘩になり、それなりに負傷者を出す結果となった。この合同訓練で教官役をやっている連中は概ね自己顕示欲が強く、隙あらば自分が教官役を取って代わろうと虎視眈々と狙っている。そのため、甘いと思われるような迂闊なことができないのだ。戦部などは上層部から比較的まともといわれている。下手にシゴキしか考えていない連中に訓練を任せる訳にはいかない。今、走り込みをやっているのも、まず基礎体力の確保からと考えている。実のところ、基礎からの訓練をきちんと考えている者は少なく、ほとんどの者は訓練と称して自分の得意技を見せびらかしたがる者ばかりである。戦部が最初の訓練をしているゆえんである。
「それにしても……思ったより頑強じゃないか?」
「そうですね…」
 戦部にメルヴィンが同意した。かなり走りこみをしているがラピト兵士は割とついてきている。むしろバーロットの方が先に倒れそうだ。
「よーし、もういっちょ!……♪可愛い〜あの娘に会いたいと〜」
「♪可愛い〜あの娘に会いたいと〜」
 走りながら部隊全部で合唱である。
「お家の窓まで忍んで行けば〜」
「お家の窓まで忍んで行けば〜」
「隣の軍曹と鉢合わせ〜」
「隣の軍曹と鉢合わせ〜」
「おーし次は模擬格闘だ〜…です」

「おかしなところはないですねえ」
 パンパンと体を上から叩いて調べているのはクロス・クロノス(くろす・くろのす)であり、調べられているのは椎名 真(しいな・まこと)である。
「お、俺全然怪しくないよ……」
 腕を頭の後ろで組んだまま椎名は答えた。
「そっちはどうですかあ……?」
「とりあえず、異常なしであります!」
 ベン・レイザック(べん・れいざっく)は張り切って答えた。レイザックも、葉月 ショウ(はづき・しょう)を取り調べている。クロノスとレイザックは今回の合同訓練は不審人物が潜入するのに絶好と見て警戒を強めていた。ゆる族に扮する敵勢力が紛れ込んでいないか注意していたのだ。尤も今のところラピト族兵士に怪しいところはない。そういう意味では二人ともがんばっているといえよう。迂闊に容疑をかけるようなことがあれば友好関係にひびが入るので、余計なことはするなと上層部から五寸釘を打たれている。鬱々としていたところへ鴨到来とばかりに他校生徒を発見したので嬉々として尋問しているのだ。
「お、俺は飛空艇が不時着しただけだよお〜」
 やや情けなさそうな声を出す椎名である。
「私たちは見学に来ただけですわ〜」
 葉月 アクア(はづき・あくあ)も口を尖らせるようにして言っている。
「現在、警戒中である!、第一、不時着した等というのは却って怪しい」
 レイザックは三人を胡散臭そうな目で見ている。
 「はい、ご苦労様」
 身分証明書のチェックをしていた沙 鈴(しゃ・りん)が顔を上げた。
「IDは異常なし、本物のようね。とりあえず解放して」
 紗の声にレイザックは不満そうだ。
「あなた方三人はとりあえず、体験入学扱いになります。これを着て」
 そう言って教導団の制服を取り出す。但し、腕章がついており、体験入学者であることがわかるようになっている。現在、三郷キャンパスでは少数枠だが体験入学を認めている。このあたりは本校とは若干異なっている。本校では他校生徒の侵入に神経質であり、風紀委員が取り調べを行っているが分校ではそこまでではない。尤も、噂の域を出ないが見えないところで監視体制が強化されているとの話もあり、真実は分校生徒ですらわからない。何しろ、三郷キャンパスは規模が小さい分、練度では本校を上回るという話がまことしやかに流れている。つまり、本当にスパイなら、検挙するより闇に葬るという噂である。あくまで噂だが。
「迂闊に脱がないでくださいね。事と次第ではその瞬間に問答無用で逮捕します」
 さらりと綺羅 瑠璃(きら・るー)が言ってのけた。葉月達は服に袖を通すと、見た目ちんまい女の子が出てきた。
「さあ〜、こっち、こっち」
カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)がぴょんぴょん跳びはねながら一同を招き入れると小旗を持った教導団員がいる。
「皆さん、よろしいでありますか?それでは案内するのでしっかりついて来るで在ります!」
マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)がツアーガイドよろしく前に立って行く。
「えー、まず、注意事項があります。集団生活をしているので起床と就寝、入浴時間は厳守であります。次に…」
 そのまま校内散策?が始まった。

「よーし、まず、肝に銘じて置くことは銃器は教導団においては自分の身を守る最大の武器であるからして、その扱いは細心を極める。まあ、何だ気持ち的には彼女の扱いより大事にだな」
 得々とレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は銃器の扱いについて説明している。まずは銃器の分解、清掃、組み立てである。基本は自動小銃。三郷キャンパスでは男性兵士はアサルトライフル、女性兵士と一部指揮官はやや小型のアサルトカービンである。弾薬は共通で5.56ミリNATO弱装弾を用いている。これはアジア系の女性兵士にとっては通常弾の反動はきつすぎるからだ。その分、射程、威力が小さくなるが補給の統一性を優先し共通となっている。弾倉自体が共通なので交換もしやすい。
[マスター注:三郷キャンパスシナリオでは、男性兵士のアサルトカービンは自動的にアサルトライフルとして扱います]
「よし、そこ、やってみろ!」
「おしっ、やってやるぜ!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が早速、自分のライフルを組み立て始める。ラピトの面々はこういった作業は苦手なのか皆四苦八苦している。意外と手早く緋桜は組み立てを終え、持ち上げる。
「よしっ!」
 と思ったら、とたんにハンドガードが外れ、ばらけてしまった。
「こら、そこ、もう一度!」
「もう一回!」
 再度挑戦する緋桜、腕章付き教導団の制服の裾からイルミンスール制服のひらひらがはみ出ている。
 少し離れたところでは、白兵戦、刀剣の訓練をしている前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)がそのひらひらを横目に構えを訓練している。割と謹厳実直な前田から見れば緋桜の服のひらひらは何だあれは?と言う感じである。しかしながら、前田に取って一つ困ったのは、刀剣を受講中の兵士が少ないことだ。これはなぜかと言えば、今回の合同訓練におけるラピト兵士は原則『兵士』だからだ。教導団の基本はソルジャーであり、武器は銃器の使用が最優先に考えられている。そのため、白兵戦は素手格闘と銃剣道が基本優先となっている。教導団の者達は我がちにあれこれ教え込もうとしているが実は却って効率が悪い。事実、基礎体力や銃器の扱い、銃剣道、展開時の動きなど基本を教えることが急務であり、実際、そういうことを教えている者達の方がラピト兵の習得も早い。前田はもっぱら訓練用のタンポ付き木銃での銃剣道訓練の相手をしている。
「よぉし、次!」
 次々と構えて突っ込んでくるラピト兵士を竹刀を使って右に左に華麗にさばく。このあたりの体術はさすがといえよう。
「そんなことでは外された直後にやられてしまうぞ!突っ込むときはもっとしっかり腰貯めに構えるのだ。それから下手に受け流そうとするな。受けるならきちんと受けろ。でないと敵の刃が滑って手をやられる」
 前田はやや眉をひそめた。皆覚悟は十分だが、一度期にあらゆる技術は教えられない。できればラピトの隊長格を鍛えたかったが、なかなか余裕はないようだ。

 分校の一角では人数が大勢集まって作業していた。訓練も兼ねて設営が行われている。
おーえす、おーえす、と十数人がロープを引っ張っている。滑車でパーツを組み上げているのだ。イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は作業指示に忙しい。
「ゆっくり!ゆっくりだ!慌てんじゃねえ!」
 セルベリアは大声で言って回っている。ぬいぐるみのようなウサギやハムスターがロープを引っ張っている。そんなセルベリアの口元は密かにゆるんでいる。
(ぬいぐるみ……ぬいぐるみ……)
 思わず抱きしめたくなる。
「セルベリア〜涎〜」
 はっと気がつくセルベリア。脇でトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)がその姿を指摘する。ロットはゆる族でも珍しい植物系ゆる族、チューリップぬいぐるみである。なにやら幼稚園のお遊戯のようだ。
「どうだ?設営は?」
 長身の影が声をかけた。歩兵科主任士官山科 宗司(やましな・そうじ)である。校内で歩兵科を統括している人物だ。
「まもなく完了だぜ」
 実際、形ができつつある。半円形のスチール板宿舎、いわゆる『カマボコ兵舎』である。訓練要員のため設営が進められる。自分の寝床は自分で作れと言うわけだ。ちょうど、昼時である。皆さすがにくたくたで食事にありついている。
「それにしてもこんなところまで来て大変だ」
 一色 仁(いっしき・じん)はやや同情を含んだ顔でラピトの面々を見渡した。皆々トレイのピラフと唐揚げをかきこんでいる。
「いやはや、まあ、訓練は大変ですが……これも必要なことですじゃ」
「そうそう、このままではなあ……」
 ハムスターとシマリスが顔を見合わせて言った。
「最近、変化が?」
 やや憂い顔で聞き返したのはセラフィーナ・デニス(せらふぃーな・でにす)である。
「十年ほど前までは今のようになるとは思いもしませんでしたのお」
 ウサギがしみじみ言った。パラミタが日本上空に出現した頃である。
「そうだ、そうだ、その頃はワシらは畑耕してるのが人生だと思ってたもんなあ」
「皆さんは普段は畑を?」
 ハムスターの言葉にミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)が興味深そうにしている。
「んあ、そうそう、春小麦の収穫が終わったところでな」
「なるほど、今はある意味、農閑期なのですね……?」
「それでは変化は十年ほど前、ですか?」
 デニスの言葉に、皆頷いている。
「まあ、ワシらも日本に行ったりしてましたからのお」
 「日本へ?……失礼ですが皆さんの中で日本に行ったことが在るのは?」
 二十人以上が手を挙げた。
(こんなにいるんかいっ!)
 教導団の面々の心の中で突っ込みが入った。
「いやああああ、結構楽しかったですのお」
「そうそう、ウサギの格好だと皆可愛いといってくれますからねえ」
「デパートの前で子供に風船配るのも悪くなかったですぞ」
 皆々一昔前の話題に花が咲いている。概ね『日本よいとこ一度はおいで』のノリだ。かなり日本文化に傾倒しているようである。どうやらラピトゆる族は受け優先でウサギやハムスターの外見を選んだ者が多いようだ。割とミーハーである。
「ただ、その頃からですかのお、あちこちで小競り合いの話を聞くようになったのも」
「そうですな、近隣となぐりあいなぞ、百年に一度もないことでしたのに」
「不穏になってきたと言うわけですか……それでは今はだいぶんきな臭いと」
 一色は目を光らせている。どうやら重要なことらしい。
「ワイフェン族とは昔は仲が悪くなかったのですが……、むしろ爺さんの代まではモン族の方と言い合いが多かったらしいですから」
「ワイフェン族?」
 それまで黙って聞いていたハヴィエル・オルト(はう゛ぃえる・おると)の目がきらーんと光った。
「東の部族です。あそこの連中は頭が固くてのお」
「そうそう、ウサギやハムスターの方が可愛いのに何を好きこのんで狼やら豹やらの着ぐるみを選ぶのか、連中の感性はよくわかりません」
(どう違うんだ?)
 再び教導団員の心の突っ込みが入った。ゆる族同士でもそれなりに流儀やセンスの違いが在るようだ。そのワイフェン族とやらが最近の悩みの種らしい。どうやら、敵対勢力とはワイフェン族と呼ばれる連中のことらしい。
「では敵はワイフェン族か!」
 蒼 穹(そう・きゅう)は顔を上げた。
「そうです。連中はどういう訳か皆さん地球の方々を嫌っておりますからな」
「『尊王攘夷』とか叫んでますなあ」
「そのせいですかな、むしろモン族の方が仲いいですよ、今は」
「『尊王攘夷』?王というのは……」
「シャンバラの古王国のことかしら……」
 蒼の疑問に点灯するデニス。現状でシャンバラで王国といえば一般的に古王国を指す、それが崩壊して以来、特に王国らしきものはできていない。