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リアクション
第7章 倒錯 【放課後】
その頃、プールサイド。
支倉 遥(はせくら・はるか)は、泳いでいる女子の水着姿をたっぷり堪能していた。男子とはいえ、一見女性にしか見えない彼もまた、のぞきに対する価値観がズレているようだった。
「水着姿だけで至福のときを過ごせるのに、こそこそのぞきをする部活なんて……さてと」
バスタオルをバサッとはためかせ、立ち上がるその姿は、スクール水着だ。パートナーベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)のお古を借りたようだ。その上に、袖口にダンダラ模様の入った浅葱色の羽織を着込み、髪を結い上げている。大きめの黒縁眼鏡をかけたちょっと異様な姿で闊歩するその足に、無駄毛は一切ない!
支倉は女子更衣室に堂々と入るが……そこにはちょうど美羽が居合わせた。
「ヘイ。ミス男子。ダメよ」
当たり前のように男子とバレていた。
「ベアトリクスなら呼んであげるけど」
「……お願いします」
ダークグレーのスーツで更衣室内をチェックしていたベアトリクスは、美羽に聞いて、出入口にやってきた。
ベアトリクスのスーツは昔日本で流行ったというクールビズ仕様だが、うなじが汗ばんでいる。支倉はそれを見るだけでも満足し、つい顔がにやけてしまう。どこか歪んだ支倉は、あっさりと重大なことを告げた。
「女子のみんなに伝えてください。男子更衣室では、もう穴開け作業は終わっています」
キャーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!
衝撃の情報は一瞬にして女子更衣室を駆け巡り、大混乱を巻き起こした。
「あわわわーっ!? そこどいてくださいですーっ!」
パンダ隊の広瀬ファイリアが慌てて更衣室中央に向かう。
「落ち着いて。みんな落ち着いてですーっ! 男子更衣室には、ちゃんとのぞかれないように目を光らせているキリン隊がいるから、大丈夫。キリン隊を信じて!」
パートナーのウィノナもフォローする。
「ボクたち、怪しい男子をリストアップしてあるから落ち着いてください。ね。沙幸ちゃん」
久世沙幸は、また下着姿のまま大股広げてのぞき穴を探していた。
「え?」
沙幸は慌ててバスタオルを羽織って身を隠す。
「またやっちゃった!」
「また見ちゃった!」
小谷愛美もまた見ていた。
みんなに見られて恥ずかしい沙幸は、ピーン! 閃いた。
「そうだ!」
今や、女子更衣室の全女子の注目を浴びながら、沙幸が作戦を語る。
「キリン隊とかいう人達がのぞき部を探してくれてるんなら、私たち、探しやすいように協力した方がいいんじゃないかな」
「どうやって?」
「のぞき部は、きっとさりげなく静かにのぞいてるから見つけにくいと思うの。だったら、もっと興奮させちゃうのよ。夢中になってボロを出すように、あえて……」
「まさか……?」
バサッ!
沙幸がバスタオルを放り投げた。
「みんな、脱ごうッ!!!!!」
一度は慌てて制服を着込んだ女子生徒たちが、恥ずかしがりながら、少しずつ、少しずつ服を脱ぎはじめる。
ちなみに、狭間と大草のロッカーには依然として貼り紙があり、作戦失敗継続中。だが、耳で楽しんだ。
荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、こんなこともあろうかと準備していた。
「大丈夫ですわ。脱いだって水着なんですから恥ずかしくないですわ」
とパートナーの日野 晶(ひの・あきら)を説得する。晶の制服の下には、一見下着に見える小さめのビキニを着させてあるのだ。さけは「にこっ」と微笑んでみせ、
「いい? セクシーに脱ぐのよ」
「はい……」
晶は想定したのぞき穴をじっと見つめると背中を向けてみたり、ブラウスを肩からスルリとズラしながら振り向いてみたり。
そこに入ってきたシャンバラ教導団のプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)は、放送ものぞき部も知らなかった。
「なんでみんな恥ずかしがってるんだろう? まあいいや」
童顔で背が低く、見た目は子供のプリモがさっさと服を脱ぐ。スクール水着に着替えて、ベンチにちょこんと座った。
のぞき部にロリコンがいたらたまらないだろう。
プリモの背後からは、朝野 未沙(あさの・みさ)の声が聞こえてくる。
「愛美さんの肌って、すべすべで柔らかい〜」
未沙が、ここぞとばかりに愛美の腕を触っている。
「未沙さん、どうしよう。マリエルを待たせてるのに」
「マリエルさんには悪いけど、みんながんばってるしねえ……」
「そうだよね。協力しなくちゃね!」
愛美はブラウスをそっと脱ぎ、恥ずかしそうに前を隠す。
「お姉ちゃん。無理だよー」
未沙のパートナー朝野 未羅(あさの・みら)はバスタオルを広げて愛美を壁から隠そうとはしているが、壁は広い。のぞき穴の場所によっては見え見えだろう。
未沙はもう愛美に夢中で、未羅を無視して愛美のやわらかい二の腕をつんつんつんつん。そして、つーっと滑らせて、
「ほんと、すべすべ〜」
その手はさりげなく胸まで滑って、そうなると滑った方も滑られた方も思わず、
「や〜ん」
だんだんおかしくなってきた女子更衣室の雰囲気に、恥ずかしがっていた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)までもが勇気を振り絞る。
「わ、私だって、やれば出来るんですからっ!」
体のラインが見えないようにバスタオルを使いながら、壁に背中を向けながらゆっくり脱いでいく。とはいっても、スカートを降ろしたそのお尻のラインはセクシー過ぎる。のぞき部の鼻血が何リットル出てるか予想もつかない。
「小谷さん。私の体つきって……どうですか?」
本来の愛美なら優希の質問に丁寧に答えるはずだが、残念。今はもうそれどころではない。どんどん愛美の周りに女子が集まってきている。
未沙はいつの間にか着替えてて、ビキニにパレオ姿で愛美に迫る。ふちがフリフリの白いワンピースの水着を着た未羅は、ただただ「お姉ちゃ〜ん」と困っていた。
愛美はまだブラウスを握りしめたままで、スカートも履いている。未沙は、その愛美の足に注目した。
「愛美さんって、足長くてキレイ〜」
未沙は、愛美のストッキングをスーッと降ろしてしまう。
「え。え〜……」
抵抗できない愛美は立ちすくむのみ……。
今、女子更衣室の中は錯乱が錯乱が呼び、集団倒錯していく乙女たちの熱気で充満している。
そんな匂いを感じたのか、百合園女学院からロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)がやってきた。
「おーほっほっほっ! ロザリィヌ・フォン・メルローゼですわよっ!」
ロザリィヌは後からの参加とは思えないほどの順応速度で、まっさきに愛美に迫る。
「ああ、危ないですわ! あちらから視線を感じましたわ!」
身を挺して守るという体裁で、愛美の足に抱きついて、さわさわ。思わずぎゅっと抱きついたその手は愛美のスカートの奥の方に触れたのか、愛美の肌がびくんと撥ねる。
「あっ……」
ちなみに、このときロッカーの狭間が興奮の限界。泡噴いて失神。のぞき作戦、完全に失敗。
百合園女学院の生徒は風を読むのか、匂いでわかるのか、知らぬ間にステラ・宗像(すてら・むなかた)が来ていた。というより、脱いでいた。
「ふふ……楽しい時間の始まりですね」
露出はそれほど高くはないが、セクシーなデザインの黒い下着を身に纏い、愛美に迫る。
「緊張してると、相手を警戒させて囮になりませんわよ」
と脇の下をつん! と触る。
「きゃっ!」
愛美は思わずブラウスを落とした。
「なるほどね〜」
ステラは愛美の身体をじろじろと品定めしながら、あっという間にブラのホックを外してしまう。愛美は、今度はブラを押さえなくちゃいけなくなった。
いきなりのステラの狼藉を、パートナーのイルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)が耳打ちしてたしなめる。
「ステラ。少しやりすぎで――ええっ!」
ステラはイルマの背後にまわって抱きしめていた。自分の胸を押しつけながら、イルマの胸も揉んでいる。
「こんなに立派で、うらやましい……!」
「ステラ……やめ……なさい……」
ちなみに、大草はいつの間にか泡噴いて失神。
愛美を中心とした女体の群れ。そこに波羅蜜多実業のリンダ・ウッズ(りんだ・うっず)が何かに突き動かされるように入ってきた。
いやらしくブラウスを脱ぎ、悩殺ビキニで参戦。
「ビキニのあなた、危ないですわ」
ロザリィヌがリンダを守るふりしてそのビキニの紐に手をかける。
危ない! 肩からズルリとさがってリンダの乳房が露わに!
「こんなこともあろうかと……」
用意周到な荒巻さけがすかさず絆創膏を貼ってやり、乳房の頂きがのぞかれることは免れた。
「ありがとの……」
荒巻さけは、なんでも準備している。
「この洗剤を、のぞき穴にぶち込んでさしあげますわ」
とベンチに置いておいた洗剤を手に取るが、それは間違い。誰かが置いたローションだった。しかも……
「きゃあああ!」
さけはコケタ。
と同時に、ローションがチュウウウウウ〜〜〜と噴出!
女体の群れがぬるぬるになって蠢く。
リンダは、もう完全にたがが外れた。
「そがんことじゃ足りなかけんねぇ。男子に聞こえるように、音を立てた方がこたえるじゃろう。ほうら。こうじゃ」
愛美にからんで、体を揺らし始める。
ベンチが揺れる。
ギシギシ。ギシギシ。ぬるぬる。ギシギシ。ぬるぬる。ぬるぬる。ギシギシ。
「声ももっと出した方がえーがいになるじゃろう。ほうら。出させてやるけんのう」
大切なところに触れる。
ちょんちょん。ぬるぬる。ぬるぬる。ちょんちょん。ぬるぬる。ぬるぬる。ちょんちょん。
リンダに乗せられて、みんなも身体を寄せ合っていく。
「んんっ」
「いや〜ん」
「ああん」
「はふう」
「えっ」(←愛美)
「ちょっとお〜」
「どうしよう」
「そ、それは……」
「はう」
「あっ」(←愛美)
「ちょ……」
「あん」
「あん」
「あん」
「なにこれ」
「やっ」
「ああんっ」(←愛美)
「そんな」
「まって」
「だめえええ」
「い、いく〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」(←?)
「今よ!!!」
これだけやれば、のぞき部の連中は壁に釘付けになっているはず。
美羽が壁をぶち破ろうと、光条兵器を繰り出す。そこに爆炎波を乗っけて火を噴く――
刹那!
パンダ隊のクレア・アルバートが、美羽の肩を掴んで止める。
「待って! まだキリン隊からの指示はないわ」
肩を掴まれた反動で、美羽の体はクルッと回転。爆炎波は反対側のロッカーに向く――
瞬間!
目の前のロッカーの扉が壊れて開く。
中には、狭間が気を失ったまま立っていた。
「ユズ!」
狭間のパートナー、アラミル・ゲーテ・フラッグが叫んだ。
美羽の爆炎波が、狭間にもろにぶち当たる――
直前!
アラミルが、爆炎波の向きを天井に逸らす。
狭間は、少し焦げるくらいで助かった。
が、まだ目が覚めぬまま。
「なんてバカなの……」
アラミルはハリセンでぶっ叩き、連れて出て行った……。
「まだ他にもいるかもしれないわ!」
女子は、ロッカーというロッカーを開けて中を確認していく。
そして……
「キャー!!!!!!」
気を失った状態の大草が発見された。
目が覚めても大丈夫なように、荒巻さけが素速く布を巻いて大草の目を隠す。
「あ。あれ?」
ようやく目が覚める大草。視界は真っ暗。何が何だかわからない。
「もしかして、この状況。この匂い……」
「覚悟はできてるだろうね」
大草は悟った。
目隠しされてるのに遠くを見るようにというのはおかしな話だが、しかし、彼は遠くを見つめて、澄んだ目で呟いた。
「ふっ。本望だよ……」
カッコつけてる余裕は一瞬で消えた。
大草は地獄を味わった。
支倉のパートナー、ベアトリクスが女子更衣室から出てきた。
「全て終わりました」
ベアトリクスはどっと汗をかいていて、支倉がタオルと冷たいジュースを差し入れる。
支倉は呟く。
「女子更衣室は一種のファンタジーワールド。男子が直接見たら、たちまち幻想は砕け散ってしまうよ」
羽織をバサッと着て去っていくその背中には、大きく萌の文字。
理解不能の「人格者」支倉はプールを後にした……。
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