リアクション
第七章 閉幕、そして
観客が去った後の舞台は、静かだった。
全員、疲労感に、思い思いの場所に座り込んで、或いは壁に背を預けている。
最後に残っていた観客席──校長・桜井静香とラズィーヤは、彼ら彼女らに拍手を贈る。
「みんなお疲れ様。面白かったよ〜」
「なかなかいい見物でしたわ」
「そうだ、全て解決したことだし、打ち上げでもしましょう?」
日奈森優菜の提案に、真崎加奈が同意する。
「うん、しようよ。みんなでお疲れ様、言いたいもんね」
疲労感は、ただの疲れではなかった。舞台を何とかやり遂げたという心地よい達成感がある。
みんなで舞台を片付けて、全員でカフェテリアへ。その夜は遅くまで談笑が続いた……。
後日のこと。
「うふふふふ〜」
「何笑ってるの、上機嫌だね」
ラズィーヤ・ヴァイシャリーは、静香の問いに答えず、含み笑いを続けたまま、テレビを指さした。スイッチを入れれば、画面にアップで映し出されたのは『オズの魔法使い』のドロシーの衣装を着た静香がおろおろする姿。
「な、なんでこんなものがっ……」
「舞台のDVDですわ。観客の方が撮ってらしたの」
「駄目駄目、割るっ!」
思いあまってテレビの前に立ち、画面を体で隠す。
「あら静香さん、せっかくの舞台が見えないですわよ。おどきなさい。それに……」
ラズィーヤはテーブルに積み上げてあったロムを、扇のように広げて見せた。
「予備も購入しましたのよ?」
「購入って、まさかそれ売ってるの!?」
「ご安心なさいな、演劇部の舞台の方が長いのですわよ?」
「そういう問題じゃないっ!」
静香は脱力して、ソファに崩れるように座る。ラズィーヤは満足したような笑顔でDVD鑑賞を続けている。
静香は、いっそのこと、自分で商売をしてしまった方が、現在の境遇から抜け出せるのではないか──そんなことを考えていた。
──百合園女学院の黒歴史ノートがまた1ページ……。
ご参加ありがとうございました。『紫陽花の咲く頃に』全2話をお届けしました。
調査系シナリオということでしたが、演劇自体がこのようになるとは想定外で、書いていてアクションに驚かされることが多い回となりました。
推理が真相と近かったのは新宮こころさんでした。イジメの犯人、紫陽花の花言葉と贈る意味、碧の怪我の真贋に関してはパーフェクトです。碧が怪我に乗じてあづさを試しているという部分は、そういう心理も含まれていただろう、という感じですね。
ちなみにどうでもいい裏話ですが、「井下あづさ」の名前は、紫陽花の語源があづさい、いのしたあづさ=あじさいの下、のアナグラムになってます。シナリオ考えた当初、紫陽花の色と土壌のPHと、校庭の紫陽花の下に小鳥か何か埋まってるのでもいいかなと考えてましたが、不採用にした名残です。紫陽花の花言葉についても色々と推理をしてくださった方がいらっしゃいますが、最もよく知られている「移り気」的な意味ではなく「ひたむきな愛情」的なものでした。
今回も演劇部入部を希望された百合園生には、称号をお付けしています。
念のためですが、このリアクションにはNPCが生レバーを食べるシーンが出てきますが、アクション及び状況的にこうなるであろうという判定の結果です。ないとは思いますが、実際の生活ではきちんと管理されたものでない場合、寄生虫などによる危険性がありますので絶対に真似しないでください。
他のマスターさんも大勢いらっしゃいますので、この辺りで私自身のアクション・リアクションについての考え方を多少述べておこうと思います。あくまで現時点のもので、私個人の意見ではありますが……。
今後も私は主に百合園の内外のシナリオを書くことになりますが、その際の注意点です。
百合園女学院には、少なくとも外見性別が女性でないと校内には入れない──という設定があります。
システム上、シナリオ募集時に学校限定にすることは現在できませんし、私自身も百合園生「だけ」でシナリオを運びたいと思っているわけでもありません。
が、完全な全く気にせず校内に進入させることは世界観に反し、壊してしまいます。今後百合園自体がどう変わっていくかは勿論皆さんも作り上げるものではありますが、現時点ではまだ難しいです。
更に、少なからずいらっしゃるであろう「女子校・お嬢様学校だから」キャラを作成した方や、「百合園の雰囲気を楽しみたい」とシナリオに参加された方の気持ちをないがしろにしてしまうことになります。
これは、何も他校生に参加して欲しくない、ということではありません。
ですので、他校から参加が難しい状況設定のシナリオの場合(他校生も入りやすいシナリオというのもありますので)、入るためには百合園生よりもう1ステップ、手順を踏む必要があることをご理解いただきたいと思います。
後書きが長くなりました。
次回は、百合園女学院校長の秘密?に関わるシナリオを連作で予定しています。
では、宜しければまた次のシナリオでお会いいたしましょう。