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猛女の恋

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猛女の恋

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 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)とアリスは紅茶にジンジャーエールとレモンを入れたアイスティーを作っている。小声で歌いながら氷を砕いているミーナ。
「マルハレータの目的って綺麗な女の子を集めることなんですか」
 ヴァーナーは以前から気になっていたことを加奈に聞いてみる。
「カノンおねえちゃんの綺麗な目と声を奪ったって聞きました。だったら綺麗な女の子になる為に女の子の綺麗な所を集めてるんじゃないかなって思うんです。だけど何かほかに思いつく事ないですか?静香校長先生が本当に狙われる理由、知りたいです」
 アリスは首をひねりながら、
「そうね。でも、その目的ならば静香校長よりも手に入れやすい女の子がいると思うのよ。」
「うわっ、じゃアリスが狙われちゃうかも!!ヒャッハ〜!アリスが欲しけりゃこのミーナちゃんが相手だー!」
「ミーナ、考えすぎだわ・・・どちらにしても、カノンさんは間違っている。真剣な想いならなおのこと、昔のいかついが純朴なカノンのままでアタックするべきよ。カノンを助けてあげたい!」
「正直、カノンは自業自得だよ」
 ミーナが口を挟む。
「だけど、それにしても、乙女の恋を利用するなんざ、魔女のかざかみにもおけない奴!こういう陰険な手を使う奴はだいっキライだ!」

 フィルのバイオリンが始まり、皆が聞きほれている。
 次にメイベルが歌う。カルメンの歌詞を少し変えて、恋に大切なものは本当の自分を見せること・・・心のこもったメイベルの歌。

「静香さまはご存知なんですか?オウムの歌にまつわる魔女とカノンの話・・・」
 真口悠希が、小さな声で切り出す。
「うん、これだけ騒いでるとね。ただ信じていないよっ、亜津子さんはいい人だもの」
 悠希は静香の優しさに打たれる。
「僕はオウムの噂は真実だと。だけど信じています・・・同士の皆さんが魔女を倒してくれる事を。それまで、ボクが・・・いえボク達が、静香さまを守ってみせます」

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)和泉 真奈(いずみ・まな)は、その会話を少し離れた場所で聞いていた。
「あたしも静香校長が好き。こうなったら亜津子くんに元に戻ってもらって、それからフェアな勝負で仕切り直させてもらうよっ!」
「あまり暴走しないでくださね」
「さて、魔女は見つかったのかな?」
「友人が探しているところですわ。見つかるまで待ちましょう」
真奈は、熱く語るミルディアがいつも心配なのだ。


 笹原乃羽は、亜津子の周りをぐるぐる回っている。
 夏野菜のキッシュをちょっと食べては、亜津子におすそ分け、「美味しいよ、食べなよっ!」。マンゴーのプリンを一口食べては、「おお、夏の味だよ、食べなよっ」
 どうも、魔女の襲撃を気にしているようだ。
「乃羽、落ち着いて!どうしたの?」
 真崎加奈がやってきて、乃羽に耳打ちする。
「だって、何とかしたいじゃん。あたしは校長だけじゃなく、亜津子も助けたいんだ。だから、魔女の奇襲攻撃に備えないといけないじゃん」
 周囲を警戒して、小声になる乃羽。
 加奈だって同じ考えだ。二人の恋を応援したいと思っている。だけど・・・
「でも、外見だけで相手を好きになるのはどうなのかな……?恋をした事のない僕が言っても説得力がないと思うけど、大切なのは心だと思うの。亜津子さんが本当にカノンさんか分らないけど、もしそうだったら、やっぱり外見より先にカノン・ハルトヴィックと言う自分の事を知ってもらう方が先だと思うよ。元の姿に戻る事ができて、自分で話す事があればそこから始めてみるといいんじゃないかな」
「あれ、いないじゃん、亜津子さん」
 亜津子の姿がお茶会から消えている。

「亜津子さんは手を清めに・・・マリカが一緒です、安心してください。」とリーゼロッテが言っている。

 同行していたマリカが亜津子を柔道部部室に誘っている。
「亜津子様、疲れませんか。眼が見えないのに、あちこち歩いて。ここで少し休みましょう。こんなカビ臭い所は亜津子様には失礼かと思いますが、お許しください」
 亜津子の靴を脱がせて、亜津子の手を畳に触れさせる。
「こんな貧相な体ですが、あたし、柔道部員なんです。教導団へ出稽古に行った時に稽古をつけて貰ったお姉様を尊敬しているんです。強くなるためには、くじけない。それがあのお姉様に認められる事だと思うから。ズルをして強くなっても「本当の自分の力」じゃない、そんなものじゃお姉様に認められない、軽蔑されると思うから。いつもかんばってるんです。また稽古をつけてもらいたいなぁ…」
 カノンは両手で顔を隠している。泣いているのかもしれない。
「いっぽ〜ん!!・・柔道って気持ちいですよね、迷いがなくなります。本当に、また稽古をつけてもらいたいない・・・つまらない話をしてごめんなさい」
 パートナーのテレサが二人を探していた。
「あら、こんなところにいたのですね。人気のない場所は危険ですわ。お茶会に戻りましょう」
 二人を促すテレサ。

 リネンとユーベは、亜津子から魔女の居場所を聞き出そうと画策していた。亜津子と二人になれる機会を狙っていると、マリカがそっと連れ出したので、その後ろをついていたのだ。二人の話を物陰から聞いていたリネンとユーベ。
「あぁ美しき愛情!女同士の愛情っていいですわね!まぁ、それは後の楽しみとして・・・魔女をほおっておくわけにはいきませんわね。」
 ハイテンションのユーベル。ユーベも同じ想いだ。
「カノンに筆談で話を聞いて、地図を描いてもらえば場所は分かると思ってたけど、どうも無理みたいだわ。だけど、今回、カノンや静香が助かっても魔女が生きていればまた同じようなことが繰り返される。・・・こんなやり方をする魔女を生かしておくのは危険だわ」
「そうね・・・ここは出て、オウムを探しにいきましょう。オウムに『リネンも静香に興味がある。しかしやはり容姿に自信がない。ノンのように魔女に合えれば・」と噂を流してもらうのですわ。きっと魔女が現れますわ」
「魔女が近寄ってくれればいいけど・・・」
 ユーべは魔女を退治するために、おとりになる覚悟だ。二人は百合園を後にする。

 女装したウィングも亜津子と二人きりになれるチャンスを狙っている。ウィングは、亜津子から魔女の居場所を聞き出して、魔女退治に向かうつもりだ。魔女との契約のさいに、なんらかの強い力が二人を結び付けているはずだ。それがわかれば、魔女の居場所までたどり着けるはずだ。
 ほかに、もうひとつウィングには目的があった。亜津子、すなわちカノンに喝を入れること!
「好きな人に会いたい!」というはじめの目的を忘れて、魔女の言いなりで、それ以上を望むカノンは間違っている!そのことを言いたかった。そして、カノンに魔女との契約を打ち切りたいという意思をもたせる。これは契約を破棄する場合は通常、双方の同意が必要だからだ。しかし、お茶会で彼女の後をついているうちに、ウィングは亜津子(カノン)が既に契約を後悔していること、そして、もう十分に傷ついていることを知った。ウィングもカノンに会わずに百合園から外にでる。