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シー・イーのなつやすみ

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シー・イーのなつやすみ

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「ぬぅ……」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は一人、苛立ちの声を漏らしていた。彼の周りには魔方陣がいくつか浮かんでおり、何がしかの魔術、もしくは特異術法を使っているのだろうと知れた。
「ぬ? どうしたラルク」
 相方のアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)後退の時間に入ったのか、ワンドを肩に引っさげて彼の元まで歩いてゆく。
「ぬ〜〜……、いやな……。さっきから情報撹乱しかけてんだが、やるごとに上書き食らって、こっちの理がまるで通りやしねぇ……」
「そうなのか? そっちのほうのスキルは持っていないからなんともいいがてぇが……」
「あぁ。いやらしい術式組みやがって……。おかげでこっちの通信は丸つぶれだ……。なんとかつぶさねぇとやべぇぜ、色々……」


「ふ……、中々に単純な術式だな。あくびが出る」
 とか抜かしているのは森の外。蛮族たちのキャンプの中、即席ではあるが豪華なつくりの椅子に座り込み余裕の笑みを浮かべている男がいた。朱 黎明(しゅ・れいめい)という男である。
「そちらの方は方がついたのですか? 朱」
「えぇまぁ。順調ですよ、中々」
 ヌッと気配もなく現れたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)に対して、朱は特に驚いた様子もなく手を振って返す。
「パラ実四天王とやらを仕留めると息巻いていましたが、中々上手くいっていないようで?」
「まぁ、もう少ししたら結果が返ってきますよ。生憎と敵にも妨害されているので現状は伝わりきっていませんが」
「ふぅん……」
 などと二人が話していたら朱の相方ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)が森から戻ってくる。
「おや、いいところに」
「ふむ?」
 肩についた木の葉を払いながら、足早にネアが二人の下へやってくる。
「お待たせいたしました黎明様」
「いや、いいよ。今回の首尾について聞かせてもらってもいいかな? 彼女がどうにも急いでいるらしくてね」
「ふん。まどろっこしいと言っているだけですわ」
 軽く毒を吐くガートルードを特に気にもせず、では、とネアが口を開く。
「王大鋸はすでに味方のせいで倒れていました。今回の戦闘中には復帰は不可能のようです」
「は?」
 空気が、凍った。
 一瞬、二瞬と間を置いて、
「ブアッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
 ガートルードが爆笑する。
「ふっふっふ……! やはり策を練るとどうにも的外れたものが出るが、今回はまさにそれだな。単体戦力が消えたところで向こうには対した支障は出ていないということか!」
「悪かったですね、的外れで……」
「いや、いいよ、いいよ。中々笑わせてもらった! ウィッカー!」
「どうしたんじゃガ親分。しばらく様子をみると先ほどほざいとったじゃろうが?」
「あぁ、ものの見事に楽しく終わったさ! こちらから打って出る。向こうさんにはどうにも楽しい輩が多いようであるからな!」
 ダガーを構え、どうにも腑に落ちない表情をするシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)を従え、ガートルードが森へと向かう。
「朱よ、お前はそのまま撹乱を続けているといい。竜の首とドラゴンスレイヤーの称号を引っさげて戻ってくることを約束しよう!」
「まぁ、期待はせずに待っていますよ? あなたが言うには手ごわい人達があふれているようですし?」
「うむ、楽しみだ」
 吐かれた毒を気にもかけず、ガートルードが森の奥へと向かってゆく。
「ふん……?」
「いいのですか? こちらが手薄になっているようですが?」
「かまわんよ。いくら戦力があっても本懐をなせんのでは意味がないし、どだい私はお前しか信用していない」
「黎明様……」
「ふふ……。……む?」
 と、一人余裕の表情を浮かべていた黎明の表情がこわばる。
「いかがなされました?」
「ぬぅ、小癪な真似を使う……!」


「ふっふっふッ……! なめるなパラミタど根性! よもや術式を詠唱開始から片っ端から放棄して追加しているとは思いもよるまい!」
「その術式に魔力流し込んで継続処理してるのは俺なんだが……」
「しばし我慢してろ! このまま野郎の血管ぶっちぎってやる!」
 基本術式を空中に構成すると同時に破棄。あとは継続をするか否かの状態で後はウィザードのパートナーに魔力を無理矢理補給させ無理矢理展開持続。相手の脳の血管もブチ切れるだろうがこちらもブチ切れる荒業どころか半分自爆技である。


「くぅ!? 多重詠唱!? こんな真似が人間に出来るのか……!? ハッキングが追いつかない!」


「確かに上手い手さ。こっちのスキルに使った魔力まんま使ってそちらさんは損害ゼロだ。けどな、そんな小ざかしいもんじゃどうにも通じない押しの強さってのがあんだよ、これがな!」


「ふん、これまでか……。ネア退くぞ」
「え、よいのですか?」
「当たり前だ。奴は捨て身でこちらの妨害を潰しにかかった。ならば、奴等の士気はかなりのものなのだろう。白兵戦でも負ける確立はかなり高い」
「まぁ、ペシュ、でしたか。彼等は。ペシュの部族のもっていらした装備では流石に彼等には劣るでしょうね」
「うむ。こちらも同じように捨て身で行けば潰せたかも知れんが、生憎とここで終わる程私は急いでいるわけでもない。今回は花をもたせてやろうよ」
「御意」
 誰にも気が付かれない程に気配を消し、彼等はヌッと姿を消す。その場にいたもので、彼等が消えたことに気が付いたものは皆無だった。


「よぉぉし、勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
 が、実感としてそれを知れたものがここに一人。が、
「わぁぁぁぁぁ!? ラルクの頭が爆炎波ぁ!!?」
 限界がきたのか、頭から噴水がごとく血が飛び出る。本当に頭の血管がブチ切れたようだ。
「あぁ、なんだか頭がすっきりしてくほにゃらぴょ〜ん……」
「うおぉぉぉぉ!? 不思議世界〈トワイライトゾーン〉へ逝ってしまわれたぁ!? 救護班! 救護班ォォォォォォォォォ!!?」
 が、ほとんど回復役がバテている状態でこれる奴もいないわけで。
「ったく、しょうがねぇなぁ……」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょう。下手したら死にますよ、この人」
 とかなんとか言ってたりする二人以外は。
「ん? てめぇは確か国の字。きてたのか?」
「うっす」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)のコンビである。シーリルは挨拶もそこそこにさっさとヒールをかけにいく。
「てめぇがいるなら前線にでも出てると思っていたが?」
「こまけぇことは気にすんな。ただライフルの調整がビッと決まらなかっただけで」
「他人任せで脱皮だけみようと思ってたんですよね〜」
「成程……」
「まぁ、気にすんなよ……」
 アインのジト目から視線をはずし、あさっての方向を見る武尊。
「お、なんぞやってるな。折角だから俺はあっちを手伝いに行くぜ〜」
「「あ、逃げた」」

 武尊が視線をやった先には、えらいアレな感じの中国人的なうさんくささあふれまくってメルトダウン起こしそうな女が一人。マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)である。
「? こいつぁ一体なにをやってんだ?」
「ぬ? 貴兄も手伝いでありますか?」
「まぁ、ちと気になったんでな。なんだい、こりゃ?」
 ヨウを覆う土壁に沿うように色々と物が雑多に置かれていて、なにやら珍妙な雰囲気をかもし出していた。
「風水であります。地脈の流れなどを利用して幸運を呼び込む。まぁ、まじないの一種であります」
「ふ〜ん?」
 そういって、武尊は周りを見る。アジアンテイストな珍妙なお面やだるまだかなんだかよく分からない石。挙句には干し首なんていうものまである。
「これ、どっからもってきたんだ?」
「もちろん私物であります」
「まじないって、呪いって書くんだよなぁ……」
 まさにその場は胡散臭さをふくめ”呪い”の最中であった。武尊は生首持たされる前に、さっさとその場を後にするのだった。
「お、終わったよ〜……」
「うむ、謝々。同士ルルルルルー」
「その呼び方もちっと何とかなんない?」
 疲労困憊の姿で武尊と入れ替わるように訪れたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)であった。
「けど、こんな首とかでなんとかなるのかな〜?」
「呪い的にはなるであります。人の首というものは先にぶら下げると呪いを引き受けてくれる触媒となり、安全に先へ進むためのアイテムとなるのであります」
「つまりはあの人の未来への厄を引き受ける触媒、と?」
 同じく先ほどから首を吊り下げていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が手渡された首をプランと目の前に垂らして言う。
「ウイムシュー。褒美にチューしてあろうかであります」
「勘弁してくれ、逆にのろわれそうだ……」
 本気で嫌そうな顔をダリルはしていた。