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第五試合
「ちょっとした……トラブルで……遅く……なりました……」
「第五試合、マスクド・キリーと、セモベンテM40、入場!」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)が先導してきたのは、マスクを身につけたセカイジュオオカマキリだ。じゃきん、じゃきんと、ハサミを振り上げて威嚇している。
 逆サイドからは、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)の2人とともに、パラミタオオコガネムシのセモベンテM40が入場してきた。地球の乗り物「戦車」の名を冠するにふさわしい、迫力の巨体だ。
「じゃ、始めなさい!」
 試合開始! と同時に、マスクド・キリーが飛び上がった!
 まず左の鎌、続けて右の鎌を振り下ろす!
 ガンガンっ!
 セモベンテM40の堅いボディに、2発の鎌が命中した!
「いいですよキリー! 特訓の成果が出ていますね!」
「キリーさん、気をつけて! 相手が動きますわ!」
 セモベンテM40も攻撃の体勢に入った。
「ヴィーヴァ! セモベンテ!」
 応援の声にこたえて、突進するセモベンテM40!
 勢いよく体当たりした……ように見えたのだが。
「あ、あれ……?」
 マスクド・キリーは多少のダメージを受けたものの、見た目のインパクトほど強力な攻撃ではなかったようだ。
「見た目は戦車みたいですけど、パワーは実はそれほどでもない……みたいですね」
 輝月は、まともな解説をした。本当はいつも通りのウソ解説をしようと思っていたのだが、先ほどのゴキブリ事件で精神力を消耗した観客に対し、ウソを言う気にはなれなかったのだ。
 再びマスクド・キリーの攻撃!
「セモベンテ!」
 当たれば負ける。そう思ってアクィラが目を閉じた、その時!
 すかっ。なんと、マスクド・キリーの攻撃がハズレたのだ!
「外れた……攻撃が……」
「これだから勝負は何が起こるかわからない。小さな確率だけど、回避する可能性だってあったんだ!」
「も、もしかして……もしかして勝てちゃうのですかぁ?」
 クリスティーナは目を丸くしている。正直、セモベンテM40が一勝することなどありえないと思っていたようだった。
「勝てたなら、今夜は大好きなスパゲッティ・ボロネーゼよ〜!」
 声援を聞いたセモベンテM40は、全身の力を振り絞って、マスクド・キリーに体当たりをぶちかました!
 どんっ!
 大きな衝撃のようには見えなかった。だが、堅さに不安があるマスクド・キリーにとっては、痛い攻撃だった。
 ふらりとマスクド・キリーの身体が揺れ、場外に落ちていった。
「か、勝った……勝った、勝った!」
 誰もがマスクド・キリー有利と思っていた中、神様のいたずらで、セモベンテM40が勝利したのだった。
「キリー、落ち込まなくてもいいですからね」
 優斗は、やさしくマスクド・キリーをねぎらった。
 テレサは、対戦相手だったセモベンテM40のセコンド2人に歩み寄った。
「いい試合をありがとうございました。ここで戦えたのもご縁ですわ。客席から、セモベンテM40さんのことを応援させていただきますね」
「ありがとう……!」
 セコンド同士、がっちりと握手を交わした。

第六試合
「いよいよ……Cブロックの……最終戦」
「パラミタノコギリクワガタのデスペラードと、ザンスカールアゲハチョウのよしえ、入場っ!」
 ここまでの試合で、何匹かノコギリクワガタは登場した。だが、同じノコギリクワガタといえど、その能力や個性にずいぶん差があるものだ。
 このデスペラードは、とにかくボディが堅そうに、輝いている。
「勝利のおまじない……じゃないけどさ」
 ジェニス・コンジュマジャ(じぇにす・こんじゅまじゃ)は、自分の長い金髪を一本抜き、デスペラードに巻き付けてやった。
「あなたを信じていますよ? デスペラード」
 篠北 礼香(しのきた・れいか)は優しく、でも力強く、デスペラードをバトルステージに送り出した。
 ばさ、ばさばさ。美しい羽を広げて飛んできたのは、この地域でしか見られない品種、ザンスカールアゲハチョウだ。
「はい、おばちゃんちょっと通るからね。ごめんねごめんね〜」
 アゲハチョウのよしえを連れてきたのは、宮下 信子(みやした のぶこ)
「そ、掃除のおばちゃん!」
 信子は、イルミンスール魔法学校の生徒たちにはおなじみ、校内清掃のおばちゃんだった!
「エリザベートちゃんが、数あわせにどうしても出てっていうからねぇ。おばちゃん頑張っちゃったのよ」
 堅さ自慢のノコギリクワガタ対、実力未知数の信子&よしえ。客席はざわついている。
「試合、始めなさい!」
「よしえちゃん、行ってらっしゃい!」
 信子の指示に従い、よしえが舞い上がった!
 羽を使い、切るような攻撃を繰り出した。
 ガンッ!
 堅いデスペラードは、その攻撃をはじき飛ばした。
「あらぁ、堅いんだねぇ」
 信子は困り顔だ。
「デスペラード! あんたの実力、存分に見せつけてやんな!」
 デスペラードの攻撃! 体当たりがよしえに当たる!
 軽いよしえは、勢いで離れたところまで飛ばされた。
「追い打ちだ!」
 デスペラードがさらに攻撃を加えようとした時!
「おばちゃん、抵抗しちゃうよ!」
 なんと、信子から火術が放たれた! デスペラードは驚いて立ちすくむ。
「お、おばちゃん……?」
 宮下信子、49歳。彼女の正体は、一体何者なのだろうか。
「さあ、よしえちゃん。もう一度だよ!」
 再びよしえが羽で斬りつける! 多少のダメージは与えられるものの、非力なよしえでは、堅いデスペラードに致命傷を与えることが出来ない。
「もう、全力でいけーーー!」
 デスペラードにセコンドから捨て身の指示が飛んだ。それに反応してデスペラードは、決死の突進を仕掛ける。
「よしえちゃん!」
 ふわあ!
 デスペラードの突進……というよりその風圧で、よしえは場外まで飛ばされてしまった。
「勝者、デスペラード!」
「あーあ、おばちゃん頑張ったのに。でも、おもしろかったよ!」
 負けた信子も、満足げな笑顔だった。
「ふふ、やはりやってくれましたね」
「よっしゃ、よく頑張った! さすがあたしの子分!」
 Cブロック最終戦の勝者は、デスペラードに決まった。