校長室
都市伝説「メアリの家~追憶の契り」
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第8章 エピローグ(イブの宿屋) 葉月ショウたちは如月玲奈から事の顛末を聞き、ロバートに伝えた。 「ありがとう……ございました」 ロバートは肩の荷が下りたように、泣きながら何度も感謝した。 メアリの家の出来事から十日後、イブは無事に宿屋を開いていた。 宿は学生達の熱心な説得により、ほとんど改築をしなかった。説得した四人の中でも、最も熱心だった四人の学生は無料で宿屋の宣伝をすることが条件だったのだが……。 宿屋には学生はもちろん、最初の予定にはなかった子供連れの家族まで来ている。 「このままずっと宣伝してくれれば助かるのに」 「冗談じゃねえぜ! 終わったら、すぐに帰るからな! な!ご主人!」 「はい……学校の授業がありますので、本当に単位が足りなくなってしまいます……」 イブの嘆きに、ウィザードのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とパートナーでゆる族の雪国ベア(ゆきぐに・べあ)は拒否する。 「きゃあ! 可愛い!」 「写真、撮らせて下さーい」 二人のまわりには人だかりができている。可愛い白熊の姿のベアは首に大きな赤いリボンを巻かれ、風船を配らされている。 「宣伝って、こういう意味ではなかったのですが……恥ずかしいです」 ソアは顔を赤らめながらも、写真を撮らされたりチラシを配ったりしていた。ソアはなぜか白猫の耳に尻尾をつけた格好だった。首には大きな鈴がついている。 「おらぁ! 野郎は写真撮影禁止だって言ってんだろーが!」 時々、ソアを写真を撮ろうとする男がいると、ベアが目敏くしばき倒している。 そんな野性味あふれるベアの姿は、一部の若い女性から「やさぐれベア」として人気になった。 庭にはカップルの行列ができていた。庭にはローグの島村幸(しまむら・さち)とパートナーで剣の花嫁のガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が作った石碑があり、カップルで石碑に触れると、島村作曲のテクノ調の不思議なメロディが流れる仕組みになっている。 悲劇の恋人たちの石碑としているが、メアリたちの墓石はジョンも含めてちゃんと霊園にあり、今は学生達が捧げた花で賑わっている。これは時を経て結ばれた場所の記念碑として作った。早い話が、イブの商売道具である。 おまけにオープン記念として、ガートナにカップルに恋愛成就のお祈りの儀式をさせた。 「本当に立派な石碑と仕掛け、御祈りの儀式とありがとうね」 イブが満面の笑顔で島村とガートナにお礼を言う。 「いえいえ、仕掛けを作るのは得意ですから。いろいろとね」 微妙な島村の言い回しに、付き合いの長いガートナは嫌な予感がするが、イブは気づかない。 「本当に学生さんたちはみんな親切で、助かるわぁ」 「ははははっ、それでは。私達はこれで」 イブが見えなくなってから、ガートナは島村に訊く。 「幸、何か他にも仕掛けをしましたね」 「ふふふふっ、気付きましたか」 島村は低い含み笑いをこぼし、ガートナの肩を叩く。 「なかなかの趣向ですよ。この目で成果が見られないのが残念ですが。ふふふふ」 「うわあ! 声がする!」 翌日、イブの宿屋は二階の一番奥の部屋で寝ると、耳元で含み笑いが聞こえてくると噂になった。 イブが調べた結果、枕の中に一定時間重みを乗せると、声が出てくる仕掛けが施されていた。 「……まあ、今度来た時には、とびきりのお酒をふるまってあげなきゃね」 イブは枕から仕掛けを抜きながら、一人笑っていた。 「これでやっと長年の仕事が一つ減りましたね」 黒喜館の店主は、店のロッキングチェアに腰掛けながら大きく伸びをした。 足元には長年愛用していた、掃除道具と大工道具が転がり、テーブルには古い鍵が置いてある。錆びた鍵には薄らと『メアリ』と刻まれていた。
▼担当マスター
道化乱師心
▼マスターコメント
皆様、お疲れ様でした。 今回は最後にメアリの墓を立てる、メアリの墓にお墓参りに行くという方々が多くて、最後まで気に掛けているんだと感心しました。無事にメアリたちも成仏して、イブの宿屋もスタートすることができました。光零も賑やかになったと思います。 それでは、またどこかでお会いしましょう。