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攻城戦・あの棒を倒せ!

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攻城戦・あの棒を倒せ!

リアクション

 さて、その頃、先頭を切って演習場を飛び出して行った神代 正義(かみしろ・まさよし)は、後方の集団とかなり距離が開いたところで立ち止まり、くるりと振り向いた。そして、後方からやって来る紅軍の生徒たちに体当たりをしたり、飛び蹴りをしたりして邪魔し始めた。
 「ふーん、そうきたか……」
 紅軍のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、朝霧 垂(あさぎり・しづり)松平 岩造(まつだいら・がんぞう)に目配せをした。三人は、クレアのパートナーの守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)、垂のパートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と一緒に、正義の攻撃を避けながら集団の後方に下がった。
 (……? 何か作戦があるのか?)
 クレアたちと並走していたデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)は、その動きを不審に思い、ペースを落として一緒に下がった。しかし、
 「ええい、邪魔くさいわ! どけ!」
 岩造のパートナー武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)が正義に体当たりし始めたのを見て、正義は弁慶に任せて体力を温存するのかと思い直した。
 弁慶と正義はしばらくガツガツとぶつかりあっていたが、
 「あまり熱くなると、最後までもたないぞ」
 パートナーの猫花 源次郎(ねこばな・げんじろう)に言われて、正義が引き下がるかたちで決着した。

 『オフェンス、ゲートまであと500メートル!』
 場内放送が、オフェンスが間もなく帰って来ることをディフェンスの生徒たちに告げる。
 「風紀委員長、確認しておきたいのだが」
 黄軍陣地の中で配置につこうとする風紀委員長李鵬悠(り ふぉんよう)に、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は声をかけた。
 「『新星』は引き続き、風紀委員会に協力したいと考えている。そこで、今後の方針なんだが、表向きは『白騎士』潰しには動いていないことを装いつつ、裏で足を引っ張る、ということで良いのか?」
 「少し違うな。対立しているのは既に周知の事実。そこを今更つくろっても意味はない。だから、叩ける機会さえあれば、表立って叩いても構わない。……ただし、あくまでも公然と叩ける理由があれば、だが」
 銃のチェックをしながら、冷ややかに鵬悠は答える。
 「我々がすべきことは、彼らの失点を探すことと、彼らより上位であり続けることだ。このうち、失点を探すことと、上位であり続けるために彼らを抑止することは、どちらかと言えば査問委員の担当だ。『教導団の風紀を正す』ことが風紀委員の任務であるなら、風紀委員自身が風紀を乱すような行動を取ってはならない。『新星』が裏で動きたいなら、俺よりむしろ妲己と行動すべきだろう。パートナーの口から言うのも何だが、あれは一筋縄では行かない女だがな」
 「……わかった」
 クレーメックが答えたその時、
 『オフェンス、ゲートまであと200メートル!』
 場内放送が再度、オフェンスの接近を告げた。先頭の生徒がゲートをくぐると同時に、銅鑼が乱打される。攻城戦の始まりだ。
 「あんころ餅だけ競技に出るなんてずるいです〜、早くこっちへ来やがれ、です! あ、でも林田様は頑張ってくださいです!」
 走って行く生徒たちに向かって、安置所から、林田 樹(はやしだ・いつき)のパートナーの機晶姫ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が声援?を送る。
 「聞こえてるんだよ、からくり娘……」
 樹のもう一人のパートナーである『あんころ餅』こと英霊緒方 章(おがた・あきら)は、ジーナの方を振り向いてぼそりと呟いた。
 「洪庵、配置につくぞ!」
 クロス・クロノス(くろす・くろのす)と、パートナーの吸血鬼カイン・セフィト(かいん・せふぃと)と並んで盾を構えた樹が、章を呼んだ。章も盾を構え、歩兵科のケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)とパートナーのドラゴニュートアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)の前に立つ。
 「よしッ、紅軍に一泡吹かせてやろうぞ!」
 心の中では紅軍ではなく、紅軍に居る『白騎士』のヴォルフガング・シュミットに一泡吹かせたいケーニッヒの号令と共に、黄軍の生徒たちは進軍を始める。

 「いよいよ始まりですね。すごい迫力ですぅ……あれ?」
 パートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が作って来たサンドイッチをつまみながら、観客席から競技の様子を見ていたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、サンドイッチを持っていない方の手でごしごしと目を擦った。
 「……赤い方、何だか人数が多いような気がするですぅ」
 「こういう競技なら、最初にチームの人数をあわせると思うのですが……」
 もう一人のパートナー、英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)も首をひねる。バリケードからちらほら見える赤い防具の数が、どう見ても黄軍より多いように思えるのだ。
 「黄軍の方は、見えないように隠れてるんじゃない?」
 保温マグから暖かい紅茶を飲みながら、セシリアが言う。
 「紅軍の方が隠れるのが下手っていうことですかぁ? うーん、そうかなあ……」
 メイベルはさらに首を傾げる。
 
 「俺たちは先に行くぜ!」
 「レナ、遅れを取るな!」
 黄軍のアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)とパートナーのクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)とパートナーのレナ・ブランド(れな・ぶらんど)は、盾で守られたケーニッヒたちに先行して戦場に飛び出した。
 「む、若い者に負けてはおられん! ここは執事二十年の腕の見せ所!」
 パートナーのバルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)の掲げる盾に守られながら、セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)もそれに続く。この状況のどこに執事の腕の見せ所があるのか、とつっこんではいけないらしい。
 対する紅軍のディフェンスは、じっくりと守りを固めて、敵を引き寄せ、迎え撃つ作戦のようだ。
 真っ先に飛び出したアクィラ、クリスティーナ、ゴットリープ、レナは、まず、土で作られた遮蔽物に隠れた狙撃兵からの狙い撃ちを受けた。
 「きゃあっ!」
 弾丸を避けるスキルのないレナが、ここで早々に脱落する。アクィラとクリスティーナはジグザグに走って、ゴットリープはスウェーを使って何とか狙撃をかわした所に待ち構えているのが、『光学迷彩』対策に掘られた水壕だ。巾は2メートルほど、水が濁っていて深さは良くわからない。しかも、そのすぐ向こう側に外側のバリケードがあり、着地できる足場がほとんどない。
 「これは、飛び越えてバリケードに掴まるしかないか!?」
 アクィラは、思い切り助走をつけてジャンプした。が、
 パン!
 銃声と共に、アクィラの腹にペイント弾が命中した。
 「結構役に立つじゃない、この銃眼♪」
 アクィラを狙撃したのは、バリケードの中に潜んでいた黒乃 音子(くろの・ねこ)だった。紅軍のバリケードはサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)の提案であちこちに隙間や穴が開けてあり、そこから敵を狙い撃つことが可能になっていたのだ。
 「この調子だと、陣地の中で乱戦にはならないかも」
 「乱戦になっても良いように、色々準備はして来たでござるが、陣地の外で敵を殲滅できればそれに越したことはないでござるからな」
 白兵戦要員として待機している音子のパートナーフランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)が言う。その間に、
 「ど、どうしましょう、あ、わっ、きゃーっ!」
 壕を跳び越そうか跳び越すまいか、弾を避けながらうろうろしていたクリスティーナは、うっかり足を踏み外して壕に落ちた。
 「や、やだっ、立てないっ」
 足をつく場所が見つからずにばたばたもがく。戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が掘っていた壕は、樹海でも活用されたV字型の壕だった。深さはたいしたものではないのだが、足をつくことが出来ないため、一度はまると上がるのは難しい。
 「はわわわわ、こんなトラップ、反則ですぅ〜」
 (……どうする、助けるか?)
 もがくクリスティーナを見て、ゴットリープは一瞬迷った。もともと自分もレナも敵に弾丸を消費させるためのやられ役のつもりだったので、レナが撃たれた時は迷わずに走り続けた。が、クリスティーナはそうではないだろう。その迷いが、命取りになった。
 「ごめんなさいっ、でも運動会とは言え負けたくないの。容赦はしませんっ!」
 音子同様、狙撃手としてバリケードの中に待機していた月見里 渚(やまなし・なぎさ)は、その隙を見逃さずに引金を引いた。ゴットリープの胸に、黒いペイントが広がる。
 そして、もがいている間に、クリスティーナは狙撃の的になってしまった。そのままそこでもがいていると色々と危険なので、審判役の教官が手を伸ばし、クリスティーナを引っ張り上げる。
 「ああもう、あんたたち馬鹿ぁ!?」
 アクィラとクリスティーナのあまりなやられ役っぷりに、アクィラのパートナーのアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)が、観客席から悲鳴のような叫び声を上げた。
 「いいんだよ、どんな罠があるか味方に教えるのが目的なんだから!」
 安置所に向かいながら、アクィラはアカリに怒鳴り返す。
 「それにしたって、やりようってもんがあるでしょ!」
 叫びながら、アカリは立ち上がり、観客席とフィールドを仕切る柵を飛び越えた。
 「……はわわわわ、アカリさん、お説教に来るつもりですよ……」
 びしょぬれになったクリスティーナが寒さからだけではなく身体を震わせる。そして、彼女の予想通り、二人は安置所でアカリにこってりと絞られたのだった。

 アクィラたちが安置所に向かう間も、もちろんフィールドでは競技が続いている。
 「兄者、参るぞ!」
 バルバロッサは盾を掲げたまま紅軍の陣地めがけて突っ込んだ。バーストダッシュも使って壕を跳び越え、そのまま体当たりでバリケードを壊そうとする。しかし、跳んだことでセバスチャンとの間が開いた。
 「今だ!」
 慎重に狙撃の機会を狙っていたロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)が、ここぞとばかりにバリケードの上からセバスチャンを狙い撃つ。
 「くっ、無念……」
 顔面にペイント弾を受け、顔を真っ黒にしたセバスチャンは地面にうずくまる。一方、バリケードに体当たりをしたバルバロッサの方は、板を破って内側に転がり込んだが、
 「仔猫ちゃん……と言うにはちょっと大きいでござるが、歓迎するでござるよ!」
 待ち構えていたフランソワに、至近距離から背中を斬られてあえなく競技終了となった。