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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

リアクション

 イルミンスール魔法学校の校長室で、アーデルハイトが殺された。
 
 「ア、アーデルハイト様が……し、死んでいます!!
  し、しかも、2人も!!」

 第一発見者の老眼鏡の執事、セバスチャンは、うろたえ、報告する。
 セバスチャンの言葉通り、
 校長室の床には、
 エリザベートのパートナーの魔女アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の死体が
 2体転がっていた。

 アーデルハイトの死体には、それぞれ、胸と背中に銃痕があった。

 しかし、イルミンスール魔法学校校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は平然としている。
 
 「超ババ様に何かあったら、パートナーのわたしもただではすまないのですぅ」

 そのとき、校長室の扉が勢いよく開け放たれ、アーデルハイト本人が入ってきた。
 
 「私を殺すとは……しかも、2回も殺すとは許せん! 絶対捕まえて処刑するのじゃ!!」

 「ええ!? アーデルハイト様!?」

 「こんなこともあろうかと、予備の身体を用意していたから良かったものの、
  その場で復活したら、至近距離からまた撃たれたのじゃ!!」

 アーデルハイトが派手に殺されても平然と復活するという噂は本当だったのである。

 もちろん、不死の存在とはいえ、
 魔女がその場で復活するなどということは、通常では決してありえない。
 強大な魔力を持つ、特別な存在である、アーデルハイトだからこそなしえている、
 アーデルハイトの特殊能力である。 


 「よし、絶対に犯人を捕まえてやるぜ! ファイヤー!!」

 「犯人をぶっ飛ばしてぶっ殺してやるざんす!!」
 
 魔法学校の熱血男子生徒、ジャック・サンマーと、
 ザンスカールの森の精、ざんすかは、事件を前にやる気である。
 
 「超ババ様、いったい誰に恨みを買ったんですかぁ?」

 「そんな覚えはない! 
  犯人の姿は見えなかったが、
  『あたいのチャンを……チャンを返せ!!』と、言っておった。
  どうやら父親について恨みがあるらしいが……。
  私にはまったく身に覚えがないのじゃ!!」

 エリザベートの問いに、アーデルハイトは不愉快そうに断言する。

 「こういう事件の場合、一番疑わしいのは第一発見者ざんす!!
  というわけで、セバスチャンをぶっ飛ばすざんす!!」

 「え? ええっ!?」

 「お、おい、ざんすか、さすがにそれは……ゲフッ!?」

 ざんすかからセバスチャンをかばったジャックは、ラリアットで思いっきりぶっ飛ばされた。
 
 「ああっ、大ババ様あ!?」

 その隙に、アーデルハイトはまたしても殺された。
 何者かが至近距離で発砲したのである。

 「2度ならず3度までも……絶対に許さんぞ!!」
 
 またしても、復活したアーデルハイトが走ってきて叫んだ。

 この事件を解決できるかどうかは、学生達の手にかかっているのである。








 第1章 現場検証と推理大会のこと

■□■1■□■

 イルミンスール魔法学校校長室には、アーデルハイトの死体が3体転がっていた。

 (同じ顔の死体が三つもあるなんて不気味というかシュールだな。本当に死なないんだな、アーデルハイトって……)
 葛葉 翔(くずのは・しょう)は、そんなことを考えながら、校長室の惨状を見渡していた。
 「私を怒らせたこと、必ず思い知らせてやるぞ!」
 すぐ近くでは、アーデルハイト本人が息巻いている。
 (やれやれ、どうなってるんだか。今、うっかり『シュール』とか口走ったら、俺もただじゃすまないんだろうな……)
 誰にもわからないように翔は溜息をつく。
 と、そのとき、翔のパートナーのヴァルキリーアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が、死体に近づいていった。
 (たとえ魔女だろうと人が死なないなんてことは普通ありえません。やはり『この死体のアーデルハイトさんは人形か何かでどこかでオリジナルのアーデルハイトさんが魔法で遠隔操作している』に違いないです。死体を調べて真相を突き止めて見せます)
 思い込みの激しいアリアは、アーデルハイトの死体は人形に違いないと考えていた。
 ぶかぶかでサイズの合わないフルプレートアーマーは、アリアが動くたびに金属音を立てる。
 アリアはまず、死体の肌触りを調べることにした。
 「ぷにぷにしてます。人形にしてはやわらかいですね。よくできています」
 (よく、死体触れるよな。本人生きてるけど)
 翔は、そんなパートナーの様子を観察する。
 続いて、アリアは、死体の口をぱかっと開ける。
 「ちゃんと歯が生えてますね。喉の奥もまるで本物の人間みたいです。本当によくできた人形ですね」
 「お、おい、アリア? な、なにしようとしてるんだ?」
 翔が慌てて声をかけるが、アリアは宣言する。
 「ここまで調べて人形かどうか判断できないなら開いて中を調べるしかありません」
 フェザースピアを振りかざしたアリアを、翔が慌てて羽交い絞めにする。
 「やめろーっ! さすがにそこまでしたら洒落にならないぞ!」
 「離してください翔くん!? きっとこれは人形なんです、そうに違いありません」
 「誰かうちのパートナーを止めるのを手伝ってくれ!」
 翔とアリアが大騒ぎしていると、白衣姿の晃月 蒼(あきつき・あお)が現れた。
 「まかせるであります! ワタシがこれからアーデルハイトたんの検死をするでありますハアハア! アーデルハイトたんの身体に合法的にさわさわできるチャンスであります!」
 蒼は、アーデルハイトの死体をずりずり引きずって、アリアから遠ざける。
 「な、なんで似非軍人口調なんだ? というか、それだとアリアと変わらないだろ! それにそんなの、嫌だって言われて許してもらえるわけないだろ! 生き返ってるんだから、そんなことする意味ないって!」
 翔が、ばたばた暴れるアリアを押さえ込みながら突っ込む。
 「え? 本人嫌がってる? 生き返ってるから検死する意味ない? 何を言うのですか、せっかくアーデルハイトたんにあんなことやこんなことをするチャンスなのにっ!!」
 興奮のあまり、普段の口調が崩壊してしまっている蒼は、見た目はアーデルハイトとそう変わらない年頃の少女である。
 「子ども扱いしないでほしいであります〜! ワタシはもう大人なのであります!」
 「『大人』という言葉は『変態プレイOK』という意味ではないわーっ!!」
 アーデルハイト本人が、魔法をぶっ放し、そのまま蒼は壁を突き破ってぶっ飛ばされた。
 「これはこれで快感でありますー!」
 蒼の声がこだまする。
 
 そんな中、偶然、ヴァルキリーのアリアと同名である機晶姫、ルインアームズ・アリア(るいんあーむず・ありあ)が、関係者に聞き込みを行っていた。
 アリアは事務的な口調で、エリザベート、セバスチャン、ジャック、ざんすかから、アリバイと、アーデルハイトについての情報を集める。
 さらに、アリアは、こんなことも聞いて回っていた。
 「この人形の限界数、つまり復活可能回数について伺いたいのですが」
 「わたしは、セバスチャンが大きな声をあげるまで、校長室の近くの部屋で本を読んでたのですぅ。あと、わたしが超ババ様を殺すわけがないのですぅ。バカなこと聞くんじゃありませぇん。超ババ様が何回生き返るかなんて知らないのですぅ」
 「私は、校長室にお茶をお運びしたら、アーデルハイト様が倒れているのを発見したんです。取り乱してしまい申し訳ございません。アーデルハイト様は私にとって大切なご主人様です。アーデルハイト様の復活回数ですか? 復活されることをそもそも知りませんでしたので、存じ上げません」
 「俺は事件が起きてから呼ばれたんだぜ! アーデルハイト様のことは当然、尊敬してるぜ! 夏休み中止に関わる誘拐事件のときもファイヤーだったからな。あ、ファイヤーって燃えてたってことな。アーデルハイト様の復活回数なんて俺がわかるわけないじゃん」
 「ミーも、事件が起きてからここに呼ばれたざんす! アーデルハイトはごちゃごちゃうるさくてムカつくざんすが、エリザベートのパートナーなのに、ミーが殺すわけがないざんす! 復活回数なんて知るかざんす!」
 (なるほど、わかったのは、エリザベート・ワルプルギス校長様、セバスチャン様、ジャック様、ざんすか様の4人とも、事件発生時は1人であり、アーデルハイト様殺害の動機はなく、アーデルハイト様の人形の限界数も知らないということですね)
 アリアは情報を整理する。
 一方、アリアのパートナーの如月 さくら(きさらぎ・さくら)は、アーデルハイト本人に聞き込みを行っていた。
 「事件が発生したとき、何をしていましたか? それを証明できる人はいますか? 犯人の恨み節に本当に心当たりがないんですか?」
 「事件発生時は校長室で一人で仕事をしておった。『チャンを返せ!』などという言葉、私は本当に心当たりがないのじゃ。さっきから言ってるじゃろう」
 気が立っているアーデルハイトは、若干不機嫌そうな口調で答える。
 さくらに、アリアが情報を伝える。
 「……ということです」
 「なるほどね」
 さくらはうなずく。
 一方、茅野 菫(ちの・すみれ)は、女刑事気取りでスーツを着用し、刑事ドラマのように「KEEP OUT」のテープを張ったり、現場百篇と調査を行っていた。
 パートナーの吸血鬼パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)は、刑事の相棒の鑑識役として、死体が倒れていた後に枠を描いたりしている。
 菫のもう一人のパートナーである英霊相馬 小次郎(そうま・こじろう)は、刑事ごっこをコスプレと勘違いして、セーラー服を着て、ひたすらヨーヨーを練習していた。
 菫、パビェーダ、小次郎は、一様にノリノリであった。
 「おかしいな、身体に銃痕があって貫通してるのに、現場に何の痕跡もない! 犯人は本当に銃を使ったのかな」
 菫がいぶかしむ。
 「話は聞かせてもらったわぁ!」
 そのとき、巫丞 伊月(ふじょう・いつき)が、事件現場に乱入する。
 さくら、菫、伊月は、アーデルハイトを取り囲む。
 「犯人は……アーデルハイト・ワルプルギスさん……貴女です! これは貴女の自作自演による愉快犯です!!」
 「犯人は婆さん。あんただっ」
 「犯人はアーデルハイトちゃん。……被害者の自作自演よ」
 さくら、菫、伊月は、同様の推理を口にする。
 「な、何言ってるんじゃ、お前ら!?」
 「アーデルハイトさんは、自分がそう簡単に死なない事を知っている。そして、人形の残機の限界数を把握している。犯人が見えないというのは、そもそも見えないんじゃなくて自分が犯人だから。そして、ざんすかさんのラリアットの騒動中に魔法弾で自分に向けて撃ち抜けば、誰にも気づかれずに殺害できます!」
 さくらは、アーデルハイトの死体を偽物と断じ、人形と呼んでいた。
 「婆さんに怪しまれずに近づけて、婆さんが警戒心を抱かないのは? もっともそれにあてはまるのは、婆さん自身だよね。現場を隅々まで観察したけど、どうやら普通の銃が使用された形跡はなかったよ。つまり、銃を持った犯人なんて最初からいなかったんだ。婆さんのスペアボディが暴走して、自分で自分を殺害してしまったんだと思うよ」
 菫も、刑事っぽく推理を披露する。
 「少し考えれば簡単な事よね。まず、アーデルハイトちゃんの殺害が可能か。まぁ、これは可能よね。圧倒的な力か、アーデルハイトちゃんが油断していれば、難しいとしても不可能ではないはずよね。でも、普通の殺人と今回は違う。被害者は1度や2度殺したくらいでは平気な子だった……。そうなると一度でも殺害されたら、普通犯人を警戒するわよね。……なのにアーデルハイトちゃんともあろう人がなす術もなく3度殺された。……防御をする事もできないなんておかしいと思わない? 一応、その際に犯人の声を聞いたと被害者は言っているけれど、聞いたのは被害者だけ。……もう分かるわよね」
 伊月も名探偵のつもりでさまざまなことを並べるが、さくらや菫と違うのは、目が笑ってることであった。
 「ばかもん! どうしてそんな結論になるんじゃ! 予備の身体が暴走するようなやわな魔法は使っとらんし、何のために自作自演する必要があるんじゃ!」
 「それは演技です!」
 さくらは、アーデルハイトの当然の突っ込みに真顔で返す。
 「それに、私は実際に銃で撃たれているんじゃぞ!?」
 「それは魔法です!」
 「婆さんのスペアボディが銃に似せた魔法を使ったんじゃないの?」
 「なぜ私がそんな魔法を使う! それと菫、さっきから気になっておったが、私を『婆さん』と呼ぶのはやめんか!」
 さくらと菫、アーデルハイトが押し問答するなか、伊月はアーデルハイトの身体を抱え上がる。
 「詳しい事は所でカツ丼でも食べながら聞くわよぉ〜」
 嘘推理で混乱を招き、アーデルハイトを拉致監禁するのが、伊月の目的であった。
 騒ぎの中、伊月のパートナーの吸血鬼、ラシェル・グリーズ(らしぇる・ぐりーず)は、現場の状況をメモしまくっていた。
 (私がお嬢より仰せつかった仕事は現場の詳細なメモを残す事でございます。なんと素晴らしい仕事でしょう! やはり、メモを取ることは素晴らしき事なのです!)
 メモ魔であり、色とりどりの付箋をつけたメモ帳は我が身より大切な宝物であるラシェルは、あくまでポーカーフェースだったが、内心では至福の喜びをかみしめていた。
 パビェーダは、現場の写真を撮っていた。
 「まったく、菫にも困ったものよね。どうして私がこんなことしなきゃいけないのよ」
 そう言いつつも、パビェーダは内心にやりとする。
 美少女大好きなので、本当はノリノリなのである。
 写真撮影のため、服を脱がせようとするパビェーダに、ラシェルが話しかける。
 「私もお嬢より、アーデルハイト様のスリーサイズをしっかり調べるよう言われているのですが……」
 「それはいい考え……コホン、鑑識の役目として必要ね」
 ラシェルがメジャーを取り出したとき、アーデルハイトが伊月を魔法でぶっ飛ばし、ラシェルとパビェーダが巻き込まれる。
 「いいかげんにせんかー!!」
 伊月、ラシェル、パビェーダは、校長室の壁を突き破り、お星様になった。
 「ああっ、パビェーダ!!」
 菫が、壁の穴からパートナーに向かって叫ぶ。
 逃げるものがいないよう、光条兵器のお玉を構えて校長室の入り口を見張っていた、伊月のパートナーの剣の花嫁エレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)は、溜息をつく。
 「また、下等生物が馬鹿なことをやってるのです……。本当は、誰がどうやって死んだりしても別にエレノアにはかんけーのないことなのです。どーでもいいのです。あとで下等生物達を回収する仕事ができてしまったのです。まったく面倒なことをしやがるのです。早く家に帰って家事の続きがしたいのです……」
 パートナーの伊月を下等生物と呼び、厳しく調教しているつもりでも、エレノアの行動は、傍から見たら甲斐甲斐しくお世話しているだけなのである。