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16・襲撃は続く



 百合園女学院の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)もバイクでフリマ周辺を巡回していた。
 雲ひとつない青空が急に曇りだしたとき、小夜子は胸騒ぎを覚えた。突然、空から銃声と呼応する銃撃音が聞こえた。音の気をとられていると、空からは大粒の雨が降ってくる。
 バイクの急ブレーキ音、突した音と、大型車のタイヤが滑る音が続けて聞こえてくる。
 次第に小夜子に近づいてくる。
 トラックが小夜子の横を猛スピードで走り抜ける。
 急発進する小夜子のバイク。
 近付いてバーストダッシュで飛んでいき、バイクを乗り捨て、トラックの上に飛び乗る。
 幌の中を覗くが誰もいない。
 少しずつ、運転席に近寄ってゆく小夜子。
 幌の前方に手が届いたとき、トラックが大きく左右に揺れる。
 振り落としに掛かっていうのだ。
 必死にしがみつく小夜子だが、トラックが縁石に乗り上げ片方の車輪を浮かせて、幌を叩き壊そうとしているのを知り、トラックから飛び降りる。
 大怪我は免れない・・・はずだったが、なぜか小夜子は男性の腕の中にいる。
「おおお、嬉しいのだ。会いたいと思っていた冬山小夜子が空から降ってきた縲怐v
 小夜子を抱えたのは、変熊 仮面だ。
「みてみて縲怐A俺様のこの冬流行の新モード。かっこいいでしょ縲怐B」
 変熊は、下腹部を覆ったミトンをことさらに、小夜子の前に強調する。
「さっき、孤児さんから買ったんだよ」
 ゴホン、咳払いする変熊、
「これは御幾らかな?」
 次は子どもの高い声で、
「おじさん、服も買えないんだね・・・安くしておくよ。」
 またオジサン声で、
「あ、ありがとう。」
 一人二役を小夜子に披露する。
 得意げな変熊。
「あら。神様へのお祈りは済みましたか?」
 小夜子は、平然とした顔で変熊を見ると、不届き者に天罰を下した。

 暴走トラックに乗っているのは、一人。
 これまでの情報で教導団の比島 真紀(ひしま・まき)は確信している。
 突然の雨で会場内は混乱している。会場入り口に様々な仕掛けがあるものの、そのまま進めば大惨事になる。
 真紀は、トラック接近の情報を得て、氷術で地面を凍らせてまっすぐに走れないようにした。
 ドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、真紀とは反対側の少し前方で待機している。
 トラックが横転した場合に、殺すことなく犯人を確保するためだ。
「組織の情報を得るチャンスであります、生きて確保!」
 真紀の言葉に頷く。
 トラックは既に左側面を大破していた。
 真紀は、運転席の男にライフルの照準を合わせる。
 運転する腕を狙うのだ。
 どこか見覚えのある男は、真紀の姿を見て、にやっと笑った。
 瞬間、その姿が消える。
 主を失って、氷の上で暴走するトラック。
「サイモン、無人です。飛び乗って!止めて!」
 物陰に隠れていたサイモンが飛び出て、運転席に手を掛けたとき、ぬぅっとカーシュが顔を出した。
 ドアを思いっきり開けて、サイモンを叩き落とす。

 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)の目の前を通ったとき、トラックは既にぼろぼろだった。
「これではもう売り物にはなりませんわ」
 リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が、切ない溜め息をつく。
「まだ、走っていますよ。我に勝算ありです」

 トラックはフリマ会場入り口に迫っている。
 大岡 永谷(おおおか・とと)が道路上にまいた水風船が次々に破裂する。
「ここまで、来たのか!よし、俺は、俺の全力を尽くすだけだ」
 トラックは前面のガラスがひび割れ、雨が直接に運転席に振り込んでいる。カーシュは前方が良く見えないので、勘だけで走っている。
 熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が描いた布が誘導する道をひた走るカーシュ。
 その道は、フリマ会場から離れていく。
 突然、前方に壁が現われる。勿論、こんどは本物の壁だ。
 避けようとして横転するカーシュの乗るトラック。一回転して、再び動き出そうとするが、カーシュは頭に銃が突きつけられていることに気が付く。トラック横に小次郎が立っていた。
「壊しすぎです。これでは売り物にはなりませんが、一応貰ってゆきます。」
 永谷が駆け付ける。
 永谷とファイディア、小次郎とスリースに囲まれて、カーシュは観念しているようだ。トラックでの激走で、額や腕から血が流れている。

「わるいが、この子とそいつを交換してくれないか。そいつはまだ必要なんだ」
 バイクにまたがったレン・オズワルドが茂みから飛び出してくる。
 腕に抱えているのは、レッテだ。
「逃げようと思ったら、向こうからやってきたよ。王を探してるらしい」
 レッテは、腕の中で暴れている。
 カーシュも周りを見回した。
「そーいやぁ、王の姿がねえなぁ」
 ゆっくり立ち上がると、ふらふらレンの元に歩いてゆくカーシュ。
「悪いな、今度捕まえてくれ!」
 捨て台詞を残して、走り去る三人。
「レッテ・・・レッテが連れ去られた!」

 三人が乗るバイクを軍用バイクで追いかける永谷と小次郎、教導団の面子にかけても逃すわけには行かない。
 急に空が晴れる。
 雨雲が消え去り、太陽が顔を覗かせる。

 レンら三人が乗るバイクの前に、王大鋸が仁王立ちしている。両手を大きく広げている。
「王!」
 レッテが声を上げてバイクから身を乗り出す。
 大鋸が頷く。
 全速力で走るバイクから、飛び出すレッテ。王が走っていって、地上に落ちる寸前で受けとめる。
「あいつは、馬鹿だな」
 レンが呟く。
「ああ」
 カーシュは出血が激しく、意識が朦朧としていうようだ。カーシュの姿に、苦笑いをするレン。

 大鋸に駆け寄るシー・イー。
 横を2台の軍用バイクが駆け抜ける。永谷と小次郎だ。
「捕まえるのダ、絶対」
 二人は大きくエンジン音を響かせて、レンを追ってゆく。


16・晴れろ!

 雨が上がって、それぞれのブースには客が戻ってきた。みな襲撃には気が付かなかったようだ。
 フリマが終わる時間を待たずに殆どの店が売り切れている。あの売り上げ、0かと思われたラルク・クローディスのブースも、健康用品が売り切れている。
 売れ残りが心配された、ゲー・オルコットの偽グッズも、途中で「偽グッズ!ユニーク商品!」と大書したのがよかった。変わったものを欲しがる地球人がまとめ買いしていった。
 「売れ残りだよ」
 朝霧 垂は大きな袋を大鋸に渡す。中に入っているのは、教導団で穴が開いたり破けたりして使わなくなったテントや寝袋などを、垂が自分で修復した物だ。売れ残りと垂は言っているが、孤児のために用意したものに違いない。
 早川 あゆみは、先ほど渡せなかったスモックを孤児たちにプレゼントしている。昨夜、夜なべして仕上げたものだ。


 皆がメイベルに売上金を持ち寄っている。
「ありがとうございますぅ。孤児院が建設されたら、必ず皆さんにお知らせしますぅ」
 大きな拍手が起こる。
 孤児の数は減っている。無事、両親に引き取られた子どもが多いのだ。

 後片付けも無事にすんだ。
 帰路に着くものも多い。
 大鋸がメイベルに近寄ってくる。
「迷惑かけた・・・」
 言葉が続かない。
「いいんですぅ、王さんのために頑張ったんじゃありません。この子たちのためですぅ」
 孤児たちを見る。
「私…」
 そういったメイベルがこくん、と眼を閉じた。
 心配して駆け寄る一同。
「寝ている…」
 メイベルからは寝息が聞こえる。
 よほど気が張っていたのだろう。

 大鋸は夕焼け空を見上げる。
「オレの頭じゃ、迷わずいくしかねぇ、だろ?」
 傍らでシー・イーも空を見ている。

                                        おわり。

担当マスターより

▼担当マスター

舞瑠

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございます。舞瑠です。
王大鋸の奮闘を描く予定でしたが、出来上がってみると「ひたすら悩む」王大鋸になっていました。
パラ実らしくないかもしれませんが、ご容赦下さい。
続き物にするつもりはなかったのですが、話が終わらず、次回は「孤児院建設」のシナリオガイドを提出する予定です。
宜しくお願いいたします。

11月25日修正しています。
文字化けとコメントです。
コメントは時間があるときは全員にお出ししています。
誤字は申し訳ないです。気をつけているのです。でも多いです。すみません。
近日中に、謝罪と言い訳のブログを作ろうと思っています。宜しくお願いいたします。