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7・いよいよ開催



 篠北 礼香(しのきた・れいか)は、百合園の生徒たちを大勢連れてやってきた。トラブルに巻き込まれないよう送ってきたのだ。
「じゃ、終わったら、またここに集合!」
 生徒たちはそれぞれに友人と会場に消えてゆく。
 残ったのは、礼香とパートナーのジェニス・コンジュマジャ(じぇにす・こんじゅまじゃ)氷翠 狭霧(ひすい・さぎり)だ。
「私たちは、会場の警護をしましょう」

 広い敷地は、入り口から右と左にフリマの出展者が並んでいる。左右の店を見ながら置くまで進むと、右側に子どもたちの休憩所、左側に、「とうもろこし粥」や古着を売るブースがある。
 広場一番奥の、大きな石の階段は特設ステージとなった。
 なぜ、特設ステージが必要なのか、それは後で説明することにする。

 陽神 光(ひのかみ・ひかる)は、自分のブースを飾り付けていた。遺跡探検で拾ってきた石などを陳列している。
 蒼空学園で、古文科発掘部を発足!部長をやっている光は、現在も色々な場所へ出かけては、色々な物を見つけ、気に入った物を持ち帰ってコレクションしている。
 今回、フリマに出展するのは、そのコレクションから選んだ選りすぐりの・・・選りすぐりの・・・。
「こんな、あの・・・買う方いるのでしょうか」
 どこにでもありそうな石を前に、レティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)は陳列を手伝いながら不安そうだ。
 光は、石の前に発掘場所を書いている。
「石は石でも、あった場所は珍しいんだよ、それに・・・」
 大きなバックを開ける光。
「大丈夫だよ!それにこれもあるし!」
 光が、元気いっぱいに取り出したのは、クッキー。昨日、光とレティナで、体中粉だらけにして作った力作だ。
「遺跡型クッキー、いかにもバラミタだよ♪」
 会場内を警備している鷹村 真一郎がやってきた。
「うまそうです。売れるといいですね」
 クッキーに目を留めて、光に話しかける。
「ひとつやるよ!」
 ポンと、真一郎にクッキーの入った袋を投げる光。
 受け止める真一郎、その場で一口。
「うぅ・・・・」
 真一郎の動きが止まる。
「隠し味に、バラミタの花から得たエッセンスを入れたのです。香りが素敵でしょ」
 クッキーの匂いをかいでいるレティナ。
 なんとか飲み込む真一郎。
「俺の好きな味ではないが・・・売れるといいですね」
 苦笑いを残して、去ってゆく真一郎。
「レティナ、味見はしたんだよね?」
「いいえ、私、クッキーは苦手ですから」
 山と詰まれたクッキーを見る二人。
 しかし。
 フリマが開催されると、二人が持ち込んだ品は全て完売した。
 地球人がまとめ買いしたのだ。
「腐らないかしら」
 地球人が気にしたのはその一点だ。
「味はともかく、土産物として飾っとけばいい」
 なんだそうだ。
 石にいたっては、数分で売り切れた。
「やったね!」
 大喜びの二人。
「また、作りましょうね」
 味覚オンチといわれる光とレティナだが、ちょっと自信がついたようだ。

 パラ実の棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)のブースは、地球ではやっている「エコとロハス」がキーワード。
 パラ実農学科の余剰物・・・もといガラクタを持ち込んで、簡易作業台(大岩)の上で、工作物を作って売っている。
 事前に天音が作成した資料を参考にして、手先が器用そうな子どもたちも手伝っている。

 ・雑穀類と藁とその袋
 ・枝付の木の実類とその袋
 ・畜産で余った羊毛くず
 ・醸造のお古の空き瓶
 ・曲がりくねった苗木各種+割れた鉢
 ・お古の農具
 ・お古の農作業着
 ・種いろいろ

 これらが、ブースの横に山済みされている。
 聖者の絹衣を着た守護天使、バウエル・トオル(ばうえる・とおる)は、その余剰品を使って、リースや飾りの作り方を、主に地球人に指南している。
 ここも大人気のブースとなった。
 手伝いの孤児、アトルは小柄な美少年で燃えるような赤い瞳を持っている。
 彼の身の上を思って、「孤児院建設に」と大金を置いていくものもいる。
 トオルが作る、修理した鉢と苗木と綺麗な石で作った盆栽は、地球人的に見ると「侘」なんだそうだ。
 材料を集める段階では活躍した亞狗理だったが、今は退屈している。
 そこにシー・イーが歩いてきた。
「シー・イー、なんじゃ?その頭?」
 シー・イーの頭にはたくさんのモヒカンが束になって、帽子のようになっている。
「変装だヨ」
「・・・すぐ分かるけん」
 シー・イーは、どことなく元気が無い。
「退屈じゃけん、ついていってもええか?」
「助かるヨ・・・」
 亞狗理は、大人気のブースをトオルに押し付けて、嬉々としてシー・イーの後に続く。亞狗理は、シー・イーが大好きなのだ。

「これ、同じ植物だね」
「良く見ると、少しちがうけど・・・」
 葉 風恒(しょう・ふうこう)はザンスカールの森に生えている、地球人には珍しそうな植物の写真や押し花標本を用意して、ポストカードや栞に作ってきた。
 和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が、売るのもやはり栞だ。
 設営の段階で同じものを作ってきたと知った風恒と樹は、相談した結果、いっしょに売ることにした。
 樹と二人でのんびりフリマを楽しみたかったフォルクスは面白くない。
「樹は我のものだ。あらゆる意味で手出しは許さん」
 風恒にすごんでいる。
「僕の興味は本だけだよ。心配しないで」
 フォルクスは、風恒の答えをあまり信用していないようだ。
 しかし、フリマが始まって客がやってくるようになると、三人は見事に連携して、接客をこなしてゆく。
 まず。
 植物や花についての質問に答えるのは風恒だ。本の虫、風恒の知識は半端ない。客がうんざりしようと飽きようと延々話続ける。根負けした客は、必ず買って帰る。
 次に。
 売れた栞の裏に、植物の名前をこっちの文字で入れたりとか魔術文字で祝福の言葉を書いたりするのは、樹の仕事。
 いかにもそれらしい、羽根のペンを用意している。
 そして。
 フォルクスはときどき樹の仕事を手伝う。「接客には向いていない!」と店の周りをまわったり、樹にちょっかいを出しては殴られたりしている。
 客は、ぽつぽつ来る。
 来た客は必ず買ってゆく。
 かなり楽で効率のよいブースだ。
「孤児院か・・・パラ実にそういうのができれば、人の見る目も変わってくるよな」
 樹が風恒に話しかける。
「僕に話しかけると、あなたのパートナーが睨むんだよ」
 確かに、ブースから離れた場所で、フォルクスが目を尖らせている。
「でも、今回は百合園主催ってことだからね、なんか少し残念な気もするけど、まだしょうがないのかも。いつか、こーゆー活動も堂々とパラ実主催って言えるようになるといいな」
 樹は気にせず、話し続ける。
「しかし、ザンスカールの植物は面白いよね」
 風恒は植物の話をしたいらしい。

 ゲー・オルコット(げー・おるこっと)は、どこからか「パチモン」を仕入れてきていた。
 人の話を聞かないオルコットだ、売上金が孤児院建設に寄付されるということはこれっぽっちも知らない。
「よーし、大儲けしてやるぜっ!」
 と怪しげな品をたくさん仕入れてきている。
 売り子は、パートナーのドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)だ。赤いフード(普通の)を目深に被ってトレードマークとしている。
「本当に売れるのでしょうか?」
「売れるっ!」
 ブースに大きな垂れ幕をつける。オルコット。
 そこには「全校長公認・校長コスプレグッズ」の文字が躍っている。
 勿論、公認などとっていない。そのことは商品をひと目見れば誰にでも分かる。
 なんと行っても「安物」なのだ。
 オルコットが目利きした、パチモンには一つ一つ、売り宣伝が仰々しい飾り文字でかかれている。

 ・これであなたも電子の女王。御神楽校長着用の近未来風サングラス。
 ・本店だけの特別提供。その青き御髪は魔力の源。エリザベート校長の髪の毛使用ミサンガ。
 ・急な雨でも傘いらず。フサ飾りも完全再現。金校長の変な帽子。
 ・寄せたり上げたり出来ない人もこれで安心。桜井校長愛用のピンクのフリフリ付きAAブラ(男女兼用)
 ・いつでもどこでも浮かれ気分でカーニバル。ジェイダス校長の赤い羽根。

 しばらく様子を見ていたオルコットだが、手に取る客はいても売れ行きは今ひとつ。
「ちょっと出てくるぜ!」
 販売をドロシーに任せて、ふらふら外に出てゆく。

 瓜生 コウ(うりゅう・こう)のブースは、他とは違う異様な熱気に包まれていた。
 人垣が幾重にも出来ていて、中を覗くことも出来ない。
 フリマ会場に来ていた高月 芳樹(たかつき・よしき)とパートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、気になって人垣を割って中に入ってゆく。
 コウのブースで行われていたのは、本人にはたぶん全く意識はないのだろうが、「ショー」だった。
 中学まで、あるお嬢様学校に通っていたコウは、その頃の制服や私服を多く出品している。
「サイズが分からないので、着てみてくれませんかぁ」
 いかにも柄の悪い男が甘い声で、コウに頼んでいる。
「ほんとーにこんなんでいいのか?」
 さっぱりとした気性のコウは、快諾。
「小せぃぞ!」
 中学の体操服を無理やり着るコウ。
「うぉーーーーーーー」
 地響きのような声が観客から起こる。
 体の線があらわになっている。
「んー、やっぱちょっときついなぁ」
「かったぁ!!」
 どこからか声。
 芳樹がアメリアにささやく。
「買ってみようか」
 芳樹の腕をつねるアメリア。ちょっとムッとした表情だ。
「何で怒ってるんだ?」
 芳樹も、コウと同じで、そっちの方面には疎いらしい。
 アメリアに腕を引っ張られ、外にでる芳樹。
 コウのブースは、まだまだ盛り上がっている。
 殆どの服は売れてしまった。