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みんなで楽しく? 果実狩り!

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みんなで楽しく? 果実狩り!

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●澄んだ青空の中、のんびりまったり果実狩り

「よっ……と。うん、よく実ってる。こんなに大きいのは、地球でも見なかったな」
 柿の枝に手を伸ばして、実をもぎ取った御風 黎次(みかぜ・れいじ)が、その出来栄えに顔をほころばせる。
「いくよ、ノエル」
「はい、黎次さん。……柿、見るのは初めてですけど、よく熟しているのが分かります。これは何の料理に使うのでしょうか?」
 黎次から実を受け取ったノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)が、黎次に尋ねる。
「柿料理って聞いたことがないなあ。洗って皮を剥いて齧りつくのが柿の食べ方だと思ってた」
「そうなんですか? 火を通さず食べられるものなのでしょうか」
「大丈夫じゃよノエル、一つ食べてみればその美味さが分かる。わらわはもう堪能しておるぞ」
 首を傾げるノエルに、ルクス・アルトライン(るくす・あるとらいん)が収穫した柿を差し出す。ルクスの足元には既に、何個かの柿の種とヘタが散らばっていた。
「……ルクスさん? ここの果実は人様のですよ? 食べかすまでそんなに散らかして……」
「お、落ち着くのじゃノエル、わらわは悪くない、これほどに美味な柿が罪なのじゃ……そ、そんな満面の笑顔を浮かべながら寄らんでくれ、迫力満点じゃ――」
 戦の時は勇敢なルクスも、ノエルの『笑顔』に対しては無力であった。
「サボってないで、ちゃんと仕事してくださいっ!」
「ゆ、許すのじゃー!」
 たまらずルクスが逃げ出し、その後をノエルが追う。
(やれやれ……ま、剣とか鎌とか持ち出さないだけ、平和だよな……)
 そんな二人を見遣って、黎次が自らの手に視線を落とす。立ち塞がる敵を刀で斬り倒してきたその手には、小ぶりなハサミが握られていた。
(……こんなのも、悪くないよな)
 微笑んで、黎次が作業を再開する。澄んだ青空から柔らかな日差しが、彼らを優しく照らしていた。

「たくさん収穫するには、やっぱ入れ物はデカくないとな! ……というわけで、こんな籠を用意してみましたサヨリ姐さん」
 魚住 ゆういち(うおずみ・ゆういち)が誇らしげに、背中に背負った籠を赤田 サヨリ(あかだ・さより)に見せる。
「まあ、すごいわゆういち君。これで色々採れるわね〜。何作ろうかしら〜、リンゴラーメンに梨シチュー、それから柿入り八宝菜はどうかしら?」
「び、微妙な組み合わせっすね……それにあくまで収穫のお手伝いっすよ? ……ま、ちょっとくらいなら」
 言って笑うゆういちが、足元に落ちていた栗を拾って、籠の中に入れる。既に半分くらいまで果実で満たされていたその籠は人目につきやすく、となるとちょっとばかり悪戯をしてみたくなるのが人というもので、今もこの農園に来ていた蒼空の生徒が一人、ゆういちの背後からこっそりと忍び寄って、籠の中へ手を伸ばそうとする――。
「むっ、悪しき気配! 今こそ籠に施された仕掛けを発動する時! ……あ、ポチっとな」
 ゆういちが手元のスイッチを操作すると、籠の蓋が勢いよく閉まり、蓋の裏に敷かれていた無数の小さなトゲのおかげで、生徒は手が抜けなくなってしまった。
「俺の商品に手を出したのが運のツキだな。さてとどのように捌いてやろうか――」
「まあ、可愛いですわね〜」
 ゆういちが犯人を確認する前に、サヨリがその犯人――見た目10代後半〜20代前半のイケメン男子――にお仕置き……もとい、抱きついていた。
「あ、姐さん……またっすか」
「だって既婚者になると〜、ロマンスとかあまり無くなっちゃうでしょ? ふふっ♪」
 言いながらさらに身を寄せるサヨリに、手を挟まれたままの蒼空生徒はどうしていいか分からないといった様子である。
「ま、好きにしてください。……俺も、好きにしますから」
 ゆういちが不敵な笑みを浮かべ、両手に栗のイガを装着して、蒼空生徒に迫る――。

「……唯乃、何か悲鳴のような声が聞こえませんでしたか?」
「んー? 私には聞こえなかったわよー。……さて、と。問題は私達でどう実を取るかよね……」
 エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)が首を傾げる横で、彼女たちにとっては遥か高くに実る果実を見上げて、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が呟く。
「では、これで撃ち落としましょう。問題ありません、私の射撃制度なら実や枝に一切傷をつけずに落とすことが可能です」
 フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)がハンドガンを抜き、実る果実へ照準を合わせる――。
「って、どう考えても問題ありまくりです! フィア、止めるのです!」
「エル、何故ですか。私は長所を生かして唯乃の力になろうとしているだけです。エルも得意の魔法で収穫すれば、唯乃も喜んでくれるはずです」
「唯乃のお役に立ちたいのは確かですけど、魔法だと燃えたり凍ったり裂けたり腐ったりで散々なのです!」
「ですから、私の射撃で撃ち落とせば、何の問題もありません」
「どうしてそうなるですかっ!」
 エラノールとフィアが言い争いをしている中、腕を組んで考え込んでいた唯乃が、うんと頷く。
「……やっぱり、コレしかないわね」
 呟いた唯乃の全身から、ほのかに闘気が立ち昇っていく。果実実る木の前に立ち、片足を前に拳を引き、静かに呼吸を整え、そして渾身の一撃を放つ!

 どかどかどかっ!

「うん、大漁大漁♪」
「って、危ないじゃないですか唯乃! せめて一声かけてからにしてくださいっ!」
「……流石です、唯乃」
 満足げな唯乃に、エラノールが抗議の声をあげ、フィアが拍手をする。
「さ、この調子でどんどん叩き落とすわ! エル、フィア、落ちた果実の回収は任せるわよ!」
 言って唯乃が、二発目の拳を幹に叩き込む!

 ぽかぽかぽかっ!

「……唯乃、何か当たったような音が聞こえませんでしたか?」
「んー? 私には聞こえなかったわよー」
 再び首を傾げるエラノールを横に、唯乃が次々と拳を打ち込んでいく。
(……い、イルミンの生徒さんは意外にアクティブなんですね……えっと、巻き込まれるのも面倒だし、別のところで収穫することにしましょう――)
 その様子を遠巻きに見ていたカライラ・ルグリア(からいら・るぐりあ)が、冷や汗を浮かべつつその場を後にしようとして、先程まで近くにいたはずのカリス・アーリー(かりす・あーりー)の姿がないことに気が付く。カライラが慌ててカリスの姿を探していると、激しく揺り動かされている木の隣で、青いシートを引いているカリスを発見する。
「んっふっふ〜。やっぱイルミンに負けてらんないってね〜! そっちが拳ならあたしは……」
 シートが隙間なく引かれているのを確認して、カリスが用意してきたヘルメットを被り、木の前で片足を引き、渾身の一撃を放つ!

 どかどかどかっ!

「うん、いい感じいい感じ♪」
「いい感じ、じゃないだろっ!」
 満足げな笑みを浮かべるカリスに、カライラのツッコミが炸裂する。
「いったーい。もう、何するのよカライラ」
「どこに行ったのかと思えば……何やってんだよ!」
「何って、収穫よ収穫。あたし流収穫術、冴えてるでしょ?」
「全然冴えてねえよ! もっとマシなやり方とかあっただろ? 誰かが巻き込まれてたらどうすんだよ!」
「うーん、その時は……ごめんね♪」
「笑って済ませるなー!」
「ほらほら、怒ってばかりいても進まないわよ。サクっと収穫しちゃいま……しょ!」
 言ってカリスが、二発目の蹴りを幹に叩き込む!

 ぽかぽかぽかっ! べちゃっ!

「な、何か当たったような音がしたぞ? それに嫌な感じの音までしたぞ?」
「んー? そうね、こう、頭で果実が潰れちゃって、見るも無残な顔になっちゃった、そんな感じよね」
 慌てるカライラを横に、カリスが冗談めかして呟いた、次の瞬間――。

 「……果物は手荒に扱うと、売り物にならなくなってしまうんですよ?」

 まるで地獄の底から響いてくるような声に、唯乃、エラノール、フィア、カライラ、カリスが油の切れた機械のように首をそちらへ向ける。
「だから、一つ一つ丁寧に、傷をつけないように収穫してたのに……それなのに、どうしてさっきから、果物が落ちてくるんですか?」
 それぞれの視界に、潰れた果実を頭から垂らした小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が映る。
 顔を俯かせたまま近付く美羽が放つプレッシャーに、誰も彼も動くことができない――!

「せっかくの果物を、そんな手荒に扱っちゃダメでしょー!!」

 どかどかどかどかどかっ!

 飛び上がった美羽が、超ミニなのに絶対中が見えないスカートを翻して、伸びのある蹴りを唯乃、エラノール、フィア、カライラ、カリスへ次々と叩き込む!
 蹴りを食らった一行は真っ直ぐに栗の木へ飛んでいき、幹に身体を打ちつける!

 ざくざくざくざくざくっ!

「きゅう〜……」
「い、痛いです……」
「不覚を取りました……」
「ど、どうして僕まで……」
「や、やるわね……その蹴り、世界を狙えるわ……がくり」
 栗の実、もちろんイガつきが一行を埋め尽くすように降り注ぎ、その中から誰も出てくることはなかった。
「ああっ、す、すみませんっ! 美羽さんがご迷惑をおかけしてしまって……」
 その様子を見ていたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、栗の実の山に向かって謝罪する。
「今回は私が迷惑かけられたの! ベア、そこの栗、収穫しておいてね!」
 ぷんぷん、と憤慨しながら美羽が作業に戻る。
「あの、えっと、後でマロンパイ作りますから、その、許してくださいね?」
 ベアトリーチェの言葉に、栗の山が微かに動いた、気がした。

(あの人……あんなに短いスカートで、あんなに激しく動いて、どうして中が見えないの? ……そっか! あの人も『ぱんつ』をはいてるんだね!)
「? 久世、どしたの?」
「ああうん、何でもないよ、何でも」
 『どうしてスカートの中が見えないのか』に結論を付けた久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、声をかけてきた生琉里 一葉(ふるさと・いちは)に慌てて手を振る。
「あれほど騒いでは、せっかく収穫した果実がダメになってしまうかもしれませんね。……もっとも、一葉が魔法を使うのと大差ないのかもしれませんが」
「ちょっとラッセ、それどーゆーこと!?」
 ラッセ・ハールス(らっせ・はーるす)の呟きに、一葉が抗議の声をあげる。
「とぼけても無駄ですよ? この前の学校での魔法実習だって、一葉の魔法で学校にどれだけの損害が出たことか……」
「あーもー、いちいちそんなこと覚えてなくていいっ! 大体、そうならないためにラッセがいるんじゃないのー? あの時どこ行ってたのよー」
 一葉とラッセの言い合いに、沙幸がふふっ、と微笑む。
「二人とも、仲がいいよね! 何だか学校生活が楽しそう」
「おや、沙幸様。私はほんの少ししか拝見しておりませんが、沙幸様も美海様と大層仲よくされているとお見受けいたしますが」
「そーよそーよ、女同士なのに見せつけちゃってくれるわねー」
「ち、違うよ! あれはその、美海ねーさまがしつこく迫ってくるからであって――」
「……あ〜ら、沙幸さん。わたくしがいつ、そのようなことをしたのかしら?」
 沙幸の背後から藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、腰と肩に手を回しながら尋ねる。
「んんっ……と、とぼけないでくださいっ……今だって、十分……んっ!」
「……まあ、いいですわ。わたくし、沙幸さんにお願いをしに参りましたの」
「お、お願い……って何?」
 ぱっ、と手を離す美海を、どこか残念そうな表情で見つめながら沙幸が尋ねる。
「あそこに成っている柿が、とても美味しそうですの。ですがわたくしでは届きませんの。沙幸さん、取ってくださるかしら?」
 美海が指差したのは、男性が跳んでも届かない位置に成っている柿だった。
「沙幸様では危なっかしいでしょう。お任せください、私がやりましょう――」
「いえ、お二方には別に頼みたいことがありますの。こちらへ来てくださるかしら?」
 行って美海が、一葉とラッセを連れて沙幸からほんの少しだけ距離を取り、木の陰に隠れて様子を伺う。
「ちょっと藍玉ー、どーしてこんなことするのー? 久世が藍玉の言う通りにしたら、恥ずかしい思いしちゃうよー?」
 一葉が、沙幸のスカートに目を遣りつつ尋ねるのに対し、美海が不敵な笑みを浮かべて答える。
「沙幸さん、この前から「『ぱんつ』をはいてるから見えないよ!」なんて言うんですの。面白いですから、ちょっと恥ずかしい思いをさせてみようかと思いまして。他の方に沙幸を見せるのは気に入りませんが……わたくしの目の保養にもなりますし、いいでしょう」
「あ、藍玉、歪んでるねー」
「……私は向こうを向いています」
 一葉が苦笑を浮かべ、ラッセがそっぽを向く中、脚立を持ってきた沙幸がそれに乗り、背伸びをして柿の実に手を伸ばす。
「よいしょ……っと」
 偶然そこを通りかかったイルミンスールの生徒が、ビックリした表情を浮かべてそそくさと歩き出す。人は、見てはいけないものを予期せず見てしまった時は、普段ぱんつぱんつ言っている人ですら目を逸らして逃げ出してしまうものなのである。
「うん、取れた! ……あれ、美海ねーさま、どこ行ったんだろ?」
 柿の実を手に辺りをきょろきょろする沙幸を陰から見つめながら、美海が思う。
(沙幸さん、相当思い込んでいる様子ですわね。……次は何をして差し上げようかしら?)
 沙幸の受難? はまだ当分続きそうである。

「メリエル、言う通りにしてやったが……それで一体何をするつもりだ?」
 メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)にせがまれて、彼女の持つ剣に氷術で巨大なハンマーを生成したエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、訝しげに尋ねる。
「エリオットくん、ここに『100t』って書くの忘れてるよ!」
「……で、どうするつもりだと聞いている」
 ため息をつきながらエリオットが指示通りにハンマーの表面に数字を刻むと、満足げに胸を反らしたメリエルが誇らしげに答える。
「これで木を叩けば、衝撃で果実が落ちてくるはず! そうすれば収穫もはかどって、あたしもスッキリ!」
「どうせろくでもないことをと思っていたが……止めておけ、そのパワーで叩いたら、木が吹き飛びかねん。それは老夫婦やミリアに迷惑をかけることになってしまうぞ。それは、収穫を妨害する輩に使うようにしてくれ」
「……む〜、それはちょっと困るかなー。分かった、じゃあエリオットくんの言う通りにするね!」
 頷いて、ハンマーの具合を確かめるメリエルの背後で、エリオットが息をついて思う。
(うっかり騒ぎを起こしては、『推古天皇』にお仕置きされかねんしな……)
 もう一つ息をついてメリエルの後を追うエリオットとすれ違うように、月森 刹夜(つきもり・せつや)ベルセリア・シェローティア(べるせりあ・しぇろーてぃあ)が姿を現す。
「ここでカンナに恩を売るのも悪くないわね。セツヤ、遅い! トロトロしてないで早く来なさい!」
「ま、待ってください、ベル」
 背中に果実の詰まった籠を背負わされ、息の上がった刹夜にベルセリアの声が飛んでくる。
(ベル、最近元気ないみたいだし、旨いものを食わせれば少しは立ち直るだろうって思ったのに……よもやこんな面倒そうなイベントになるなんて……なんだかなぁ)
 「この勝負に蒼空が勝てば、カンナはベルのことを気にかけてくれる。そうすればベルの記憶の手がかりも見つけやすくなるわ!」と意気込むベルセリアを思い出し、刹夜が思いに耽る。
(パラミタに来て半年……ベルに付き合って色々回ってきたけど、何の成果もなしか……なんだかなぁ、と呟けない状況ではあるよな……)
「……ツヤ! セツヤ! ちょっと、何ボーっとしてんのよ!」
 ベルセリアの声で我に返った刹夜の顔面に、飛んできた林檎が命中する。
「……痛いよ、ベル。せめて一声かけてからにしてよ」
「さっきから何度も呼んだのに、返事しないセツヤが悪いのよ!」
 ぷいとそっぽを向いたベルセリアが、もぎ取った林檎を見つめて、近付いてきた刹夜がギリギリ聞き取れるくらいの小声で呟く。
「……セツヤ、アップルパイ、嫌いじゃないでしょ? ……ベルが、作ってあげてもいいわよ」
「えっ……それってもしかして僕のこと――」
「か、勘違いしないでよね! たまたまなんだからね! それ以上の意味なんてないんだからね!」
 手にした林檎と同じくらいに顔を真っ赤にして、ベルセリアが抗議の声をあげ、刹夜に背を向ける。
「むむ、妨害者発見! せーの……破産分配制度ーーー!!
「せ、せっかく貯めた俺のマネーがぁぁ!!」
 前方では、メリエルのハンマーをもろに食らった蒼空の生徒が、収穫した果実を奪うつもりが逆に全部奪われてしまう。
「今度はアヤシイ人影発見! せーの……『万』じゃなくて『萬』だから!!
「ごめんなさいよく調べてませんでしたー!!」
 メリエルの二発目を食らったイルミンスール生徒……ではない、とある一マスターが現実に引き戻される。……ネタを使う時は事前準備を怠るなよ♪ あと、仕事しろ♪
「なぁ、ベル。楽しいか?」
 刹夜の問いに、ベルセリアがいつもの、どこか尊大な態度を表情に表して答える。
「悪くないわね、息抜きにはいいんじゃないかしら。……さあ、まだまだ収穫するわよ。セツヤ、付いてきなさい!」
「はいはい。……なんだかなぁ」
 先を行くベルセリアに、刹夜は苦笑を浮かべつつ後を付いていくのであった。

「確か、こうやって持ち上げると……お、取れた取れた」
 梯子の上で手を伸ばして、和原 樹(なぎはら・いつき)が熟れた梨を掴み取る。
「フォルクス、パス。落とすなよー」
「任せておけ、取りこぼすような真似はせん」
 樹から梨を受け取ったフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が、果実を傷つけないように丁寧に籠へ収めていく。
「樹、反対側に収穫に手頃な果実が実っている。移動した方がよいだろう」
「そうだな。んじゃ一度降りるか……よっと」
 梯子から降りた樹が、肩と腕をほぐすような動作をしながらフォルクスへ歩み寄る。
「ふぅ……そんなに長くやってないはずなのに、もう腕とか肩とか痛いや。この作業を長時間続けていられる農家の人ってホント凄いな。今日から「いただきます」「ごちそうさま」はちゃんとしよう、うん」
 樹の言葉に頷いたフォルクスが、「しかし……」と呟いて続ける。
「校長はまた蒼空学園と勝負だ等と騒いでいるのだな。……まぁ、収穫量で勝負する辺りはまだ可愛いものかもしれんな」
「蒼空学園ね……特に対抗意識とかはないんだけど、こう、競争要素とかあると頑張っちゃうんだよな」
「ふむ……これも校長の策なのか? だとしたら大したものだが……そこまで考えてはいないだろうな」
 フォルクスの言葉に、エリザベートが「くちゅん!」とクシャミを二回したとかなんとか。

「随分取れたなー。じゃあこれ、一度校長のところに持っていこうか」
「そうだな。少しは足しになるだろう――」
 籠にぎっしりと詰められた果実を目の当たりにして、成し遂げた達成感に浸っていた樹とフォルクスは、まさに今向かおうとしていた場所、エリザベート一行が作業をしているはずのそこから響いてくる爆音に、顔を見合わせる。
「……なあ、フォルクス。俺、嫌な予感しかしないんだけど」
「我もだ、樹。……あの校長、今度は何をやらかしたというのだ……」
 これからのことを想像して、二人はため息をつくのであった。