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みんなで楽しく? 果実狩り!

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みんなで楽しく? 果実狩り!

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●皆さんで収獲した果実を、美味しくいただきましょう

「うん、たくさん採れた。これだけ詰め込んだらイルミンスールの生徒たち、ビックリするだろうな」
 額ににじんだ汗を拭って、高崎 しずる(たかさき・しずる)が籠一杯に詰められた林檎に満足げな表情を浮かべる。
「どれどれ、一つ失礼して……うん、旨い! 甘くてよく熟してるなー」
 ぴかぴかに磨いた林檎を齧ったしずるが、あっという間に芯を残して平らげる。
(……これで、他の生徒とも話とかできたら、よかったんだけどな。なかなかそうはいかないよね)
 呟くしずるの、耳につけられたヘッドフォンから聞こえる音楽が、どこか遠いもののように聞こえてきたその時、その音楽をも飛び越えて聞こえてくる声にしずるが振り向く。
「おーい! 手が空いてるなら、手伝ってくれー!」
「このままじゃ俺たち、カンナ様に向ける顔がないぜ」
「カンナ様の勝利に、私たちも貢献しましょう!」
 しずるの視界に、蒼空の生徒たちが手を振って自分を呼ぶのが見える。
「……いざ呼ばれると、どうしたらいいのか分かんないや。……ええい、とりあえず行っとけー!」
 意を決して、しずるが蒼空の生徒が集まる場所へ駆け出していく。

「どうしてオレともあろう者が、このようなことをしなければならないのだ……」
「いいじゃん別にぃ。あ、もう少し右……違うわよ、そっちは左でしょ」
 ため息をつくジョヴァンニイ・ロード(じょばんにい・ろーど)が肩車するその上で、リリィ・マグダレン(りりぃ・まぐだれん)が不敵に微笑みながら果実に手を伸ばす。
「んふふ、採れたてのフルーツは新鮮でいいわぁ。ついつい味見したくなっちゃうわ」
 葡萄の実を摘んで口に入れるリリィ、零れた汁が顎を伝い、下にいるジョヴァンニイにかかる。
「ぐお! 汁が目に! 貴様、何をする!」
「あらぁ、零しちゃったかしら。しょうがないわねぇ」
 リリィがハンカチを取り出し、ジョヴァンニイの顔を拭っていく。
(ぬ……意識しないようにはしていたが、こうも近くでされては……)
 そのハンカチから漂うリリィの香りに、ジョヴァンニイは自らの鼓動が高鳴るのを嫌でも意識せざるを得なかった。そうでなくても肩車という密着状態において、意識しない方がおかしいというものである。
「ちょっとぉ、ココ、赤くなってるわよ。あんたの肌、白いからすぐに分かるわぁ」
 リリィの楽しむような声が聞こえ、ジョヴァンニイは自分の耳を触られる感覚に思わず身体を震わせる。
「もしかして、興奮しちゃったとか? ダメよ、こんな人の多いところでなんて」
(!!)
 もはや顔全体を赤く染めたジョヴァンニイが、無言のままそっとリリィを降ろすと、顔を見られたくないとばかりにダッシュで逃げ出し、その姿は木の陰に隠れて見えなくなる。
(お、覚えてろ、いつか貴様にこの屈辱、まとめて返してやるからな!)
 雪辱を誓うジョヴァンニイを知ってか知らずか、独り残されたリリィが手にした葡萄の実を摘んで、その滴る汁を舌で掬い取りながら呟く。
「この程度で逃げ出すなんて、馬鹿な下僕だわ」

「おい、アル! これ虫に食われてるじゃねーか。それにこっちは傷んじまってるし、もっと選んで採れよな!」
「なんだいアーサー、またお説教かい? 君のお小言は聞き飽きてるよ」
「なら、俺に説教させないようにしろ! ったく、昔は素直だったのに、今じゃああだのこうだのと反抗ばかり……」
「もう! アルもアーサーも、喧嘩しないでちゃんとやってよ!」
 収獲のことで言い争いを始めるアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)アーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)を、半ば呆れながらミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)が仲裁に入る。
(どうして喧嘩ばかりするのかな……仲良くしてほしいんだけどなあ)
 ミレーヌの心配をよそに、アルフレッドとアーサーの口喧嘩は激化の一途を辿っていた。
「事あるごとに君は昔がどうのこうのと! いちいち比べないでくれ、この眉毛!」
「なんだとこのバカ!」
「バカって言う方がバカなんだぞ!」
「ならこの――――! ――――! ――――!」
 9歳の女の子が聞いたら後の発育に影響を及ぼしそうな罵詈雑言を並べ立てるアーサー、そして負けじと反論しかけたアルフレッドを、見かねたミレーヌが一喝する。
「アル! アーサー!」
 その澄んだよく通る声に、アルフレッドとアーサーの口がぴたり、と止まる。
「喧嘩を止めないと、あたし本気で怒るよ!」
「ミレーヌ、ゴメン、分かったよ。君に免じて喧嘩は止めるよ」
「そうだ、今の俺は紳士……ガキの言葉でいちいち怒るような俺じゃねーんだ」
 アーサーの言葉にアルフレッドが睨み付けるが、ミレーヌの険しい顔に視線を外して呟く。
「じゃ、収獲を再開しようか。……アーサーには負けないからな!」
 言って背を向け、アルフレッドが果実を採り始める。
「ふん、俺に敵うかよ」
 吐き捨て、アーサーも負けじと果実を採り始める。
「もう……これじゃどっちが年上だか、分かんないよ……」
 ため息をつくミレーヌ、彼女の受難はまだ当分続きそうである。

「アイリス、どうですか? たくさん採れましたか?」
 背伸びしながら果実に手を伸ばすアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)に、果実が一杯に詰められた籠を背負ったジャンヌ・ダルク(じゃんぬ・だるく)がやってくる。
「はい、たくさん採れました。凄いのです。これほどの量は、初めて見るのであります」
 採った林檎を両手で抱いて、アイリスが頷く。籠に林檎を収めて、そして振り向いたアイリスの視界には未だに、見渡す限りに実った果実が映りこんでいた。
「確かに、凄いですよね。……私の故郷でも、梨がたくさん実っていました」
 ジャンヌが、地面に置いた籠から梨を一つ取り出して、それを懐かしむように見つめる。その様子を見ていたアイリスが、小さく呟きを漏らした。
「……ワタシはどこで造られ、そして何のために造られたのでしょう。ワタシが『故郷』と呼べるものは、一体どこにあるのでしょう」
 その言葉に、返す言葉もなくジャンヌが佇み、辺りに沈黙が降りる。それを打ち破るかのように、一匹の犬が吼えながら二人のところへ駆けてきた。
「……霜月が呼んでいるみたいですね。アイリス、行きましょうか」
 籠を背負い直したジャンヌに頷いて、アイリスも籠を背負って歩き始める。槲と名付けられた犬の先導を受けて辿り着いた先には、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が微笑みながら二人の帰りを出迎えてくれた。
「アイリス、先程の話ですけど。……私も何のためにここにいるのかは、よく分かっていません。ですが……今私が帰るべき場所は、『故郷』は、ここなのだと思います」
「ここが、『故郷』……」
 静かに呟いたアイリスの目に、優しげな笑みを見せる霜月が映る。『故郷』を知らぬ少女、そして『故郷』を失った少女が得た、新しい『故郷』。
「…………」
 無言のアイリス、しかし表情に表れた微かな笑みが、言葉以上の何かを語っていた。

 続々と集められていく収穫物を前に、倉庫の前でリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)が落胆した面持ちで佇んでいた。
「面白い企画だと思ったのだが、参加者が誰もいなかったのだ」
「リリ、そんなに落ち込まないで下さい。ほら、おいしいブルーベリーを摘んできましたよ」
 言って、ユリが籠に収められたブルーベリーの一粒を摘んで、リリの口に入れてやる。……自分の見落としならごめんなさい。でも、誰も書いてなかったと思うんですよ?
「まあ、こうして収穫物の番人をしているのも悪くないではないか。それに、リリの言う『収穫物を餌にして不心得者をおびき寄せ、そやつ等を懲らしめ賠償として収穫物を取り上げる』は、おそらくさほどの効果を得られなかったのではないだろうか。そもそも略奪を行おうとする者が、まともに収獲をしているはずはないのだからな」
 ララの意見に頷きつつ、リリがまだ残念そうにため息をつく。
「この水晶玉も無駄になってしまいましたね。……ちょっとやってみましょうか。さあ、天におわしますマスター、当選番号を教えて欲しいのです。……食費の愚痴はいりませんからね?」
 最近700円になったから、もう愚痴なんて言わないもん! ……はい、サイコロ振りました。
「おお、本当に数字が浮かんできたぞ。なになに……『6』だな」
「もし参加するつもりだった人、参加してたよって人の中で『6』を選んだ人、おめでとうございます! 当選金の分配は残念ながらありませんが、ワタシのブルーベリーでよければお裾分けしますよ?」
「それはダメなのだ。ユリのブルーベリーはリリが全部いただくのだ」
「あ、こらちょっとリリ!」
 リリがユリの籠を奪い取り、背を向けてブルーベリーを摘み始めるのを、ユリとララが顔を見合わせて、そして微笑みながら見守る。

「よし、採れた。次によさげな果物は……っと」
 木の上に登り、よく熟した果実を収獲したカノン・コート(かのん・こーと)が、次の標的を定めて木の上を身軽に移動する。
「カノン君、ボクからお裾分けですよー」
 そこに、羽を羽ばたかせて、仁科 響(にしな・ひびき)がやってきたかと思うと、持っていた栗のイガをカノンへ投げつける。
「おわっと!? おい響、何しやがる――いってぇ!!」
「あっ、ゴメンね間違えちゃった」
「響、絶対わざとやってるだろ!? このやろ、後で覚えとけよ!」
 笑いながら去っていく響に吐き捨てて、カノンが刺さったイガを地面へ投げ捨てる。イガはころころと地面を転がり、カディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)の足元で止まる。
「おっと、こんなところに危ないですね。もしここで僕が倒れたら、大変なことになってしまいます」
「そ、そんなにしょっちゅう倒れているの?」
 イガを拾ったカディスに、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が心配するような声をかける。
「ええ、それはもう。こうして高い所にある果物に手を伸ばしただけで――ああっ」
 言葉通りに、カディスが果実に手を伸ばしかけたところで、その足がふらつく。
「……なるほど、それで先程から栗拾いをしていたんだね。身長あるのに何かもったいないね」
「はは、確かに。まあ、高いところに成っている果物の収獲は、樹に任せますよ」
 呟くカディスのちょうど真上では、箒に乗った水神 樹(みなかみ・いつき)が持った籠に果実を収めていた。やがて一通りの収獲を終えた樹は、地上で収獲作業をしていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)のところへ向かっていく。
「弥十郎さん、採れましたか?」
「樹さん。ええ、樹さんに負けていないと思いますよ」
 言って弥十郎が、自らが収獲した分を樹に見せる。栗は大量に、そして葡萄は一つ一つ丁寧に梱包されていた。
「わあ、凄いですね。私も頑張りましたけど、負けちゃったかも」
「樹さんも凄いですよ。……今日は、晴れてよかったですね」
 樹の隣に並んだ弥十郎が、随分と西に沈んだ太陽の光を受けながら、蒼く澄んだ空を見上げて呟く。
「いつも、樹さんのことを思いながら、空を見上げていました。今日はこうして二人で見られることを、とても嬉しく思います」
「そ、そんな、恥ずかしいです、弥十郎さん」
 弥十郎の言葉に、樹が恥ずかしげに頬を染めて俯く。
「あっ、そうでした。ワタシまだ、収獲していない果物があるんでした」
「そうなんですか?」
「ええ。ちょうどあちらの方に――」
 言って向こうを指す弥十郎、その指す方向に樹が首を振り向けた瞬間、顔を近づけた弥十郎の唇がすっ、と樹の頬に触れる。
「!?!?」
 撫でるような吐息、そして頬に伝わる濡れたような感覚に、樹が神速の勢いで振り返れば、その頭に触れる弥十郎の手。
「樹さん、あなたという果実を、ですよ。はい、採っちゃいました」
 髪の結び目の部分をヘタに見立てて、弥十郎がそんなことを口にする。
「…………採られちゃいました」
 もはや顔全体を、熟れた林檎よりも真っ赤にして、樹がそっと口にする。カノンと響、カディスと真名美が微笑ましげに見守る中、二人だけの優しい時間が流れていた。

「あーあ、残念だなー。せっかくタツミの女装、カヤノに見せてあげよーって思ったのに、カヤノもレライアさんもいなかったねー」
「そ、そうですね」(お二人には悪いですが、よかった……本当によかった……)
 とても残念そうな様子のティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)を、リヤカーに果実を乗せて運搬していた風森 巽(かぜもり・たつみ)は表面上同意するように頷き、心の中では女装しなくて済んだことに心底安堵していた。……そうなんです。カヤノとレライアは少々忙しかったのです。意図に沿えなくてごめんなさい! 個人的にも女装は歓迎です! お待ちしています。
「でも、ボク諦めないよ! カヤノもレライアさんもイルミンスールに住むことになったんだし、いくらでも会う機会はあるんだからね! さってとー、今度はいつ会えるかなー。その時はタツミに何着せよっかなー♪」
「あ、あはは……」(か、勘弁してくださいよ、はぁ……)
 早くも次のことを考えているティアに、巽が心でどっと疲れたようなため息をつく。
「そういえば結局、蒼空とイルミンスール、どちらが勝利したんでしょうね? あちこちで爆発があったりで、まともに収獲作業が進んでいたかどうかは怪しいところですが」
 そんな巽の心配をよそに、向かった先の倉庫には、見上げてもまだ足りないくらいの果実の山が出来上がっていた。
「うわー、凄いねー、みんな頑張ったんだねー」
「……いや、これ、どうやって出来てるんですか!? 普通こんなに積んだら、瞬く間に崩れるでしょうに」
「む、君たちが最後のようだな。収獲物を渡してくれ、収穫量に反映しよう」
 果実の監視に加え、管理まで行っていたララ サーズデイが二人に歩み寄って言う。
「えっと、どっちが勝ったのかな?」
「詳しくはまだ出せていないが、拮抗しているようだ。もしかしたら君たちので、ひっくり返るかもしれないな」
「へーそうなんだー、だったら何かいい気分だね、タツミ!」
「ええ、そうですね」
 ようやく巽が微笑んで、ララに果実を託してその場を後にする。
 既に、太陽は紅く燃え上がり、橙の世界が訪れようとしていた。

「おお、こんなに収獲してくださるとは、ありがたやありがたや」
「ミリアちゃんの生徒さんは優秀な子ばかりだねえ」
 収獲を終えた頃になって、老夫婦に付き添っていたミリア・フォレストがやってきた。
「みんないい子たちなんですよ〜。そうだ、お礼にこの果実で、何か作ってあげましょう。済みませんけど、少しお裾分けしていただいてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。おかげさまで当分の貯えは出来ました。後は好きにしてくだされ」
「ありがとうございます。近々催し物があるみたいなので、その時に使わせてもらいますね」
 微笑んでミリアが、大量の果実の山を前にうん、と頷いて腕を振るうべく準備を始める。
「ミリアさん、よければ私もお手伝いしますよ。ちょうど皆に栗ご飯を振る舞おうかと考えていたところなんです」
 そこに、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、大量の栗を抱えてやってきた。
「ありがとうございます〜。じゃあ、お願いしますね」

「栗はこうして漬けておくと、皮が剥きやすくなるんですよね」
「そうですね。涼介さんも料理を嗜まれているんですね」
「いや、それほどでもありませんよ。ミリアさんには敵いません」
 涼介が用意したレシピによって作られた水に、皮を剥かれた栗が次々と放り込まれていく。ミリアの包丁捌きは流石のものだが、涼介の手つきも決して劣るものではない。
「お兄ちゃん、これ、洗い終わったよ。次はどうすればいいのかな?」
「ああ、じゃあ水に浸しておいてくれるかな。三十分経ったら上げて、水を切ってくれ」
「うん、分かった!」
 米ともち米が配分されたそれを抱えて、クレアが水場へ向かっていく。
「カフェのお仕事は大変でしょう」
「好きでしていることですから、そんなことないですよ〜。セリシアさんとレライアさんがお手伝いに来てくれますし、カヤノちゃんとリンネちゃんがいて楽しいです。そうそう、ミーミルちゃんが最近モップスさんに料理を教わりに来るんですよ。モップスさんは付き合わされてるみたいですけど、面倒見はいいみたいです」
「へえ、そうなんですか。今度私も顔を出していいでしょうか?」
「ええ、どうぞいらしてくださいね」
 ミリアと涼介が親しげに会話をしているのを、クレアが複雑な面持ちで見つめている。
(おにいちゃん、楽しそう……私も料理ができたら、おにいちゃんともっと仲良くなれるかな?)
 張られた水に映し出された自分の顔を覗き込みながら、そんなことを思うクレアであった。

「はわぁ……いい匂いがしますねぇ。私もうお腹ぺこぺこで、背中とお腹がくっつきそうです」
「本当にそうだったらいいですけどね」
 ちらり、と馬宿が豊美の、特にお腹の辺りに視線を向ける。
「ど、どこ見てるんですか!!」
「ああ、申し訳ありません、見るのはこちらでしたね」
 言って馬宿が、そこから視線を上に向ける。
「そ、そこも見ちゃダメです!!」
「…………ふっ」
「なんですかそのため息は!! ハッキリ言われるよりよっぽど心に痛いですから止めなさい!!」
 そんなやり取りをしながら、今や調理場と化した倉庫の前に辿り着いた豊美に、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が駆け寄ってそのまま抱きつく。
「豊美ちゃんだぁ〜! 今ね今ね、ミリアおねえちゃんとお菓子作ってるんだよ。できたら豊美ちゃんにも食べさせてあげるね!」
「本当ですかぁ!? 楽しみですー」
 ヴァーナーにはぐはぐされながら、豊美が楽しげに答える。
「豊美ちゃんは柔らかいです。特にこの辺とか触り心地が最高です」
 ヴァーナーの手が、豊美のお腹の辺りをこちょこちょ、とくすぐる。
「そ、そこは止めて下さい、くすぐったいですから……あと、誉められてもちょっと嬉しくないですからっ」
 戸惑う豊美の視界に、クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)が入ってくる。
「どうしましたか?」
 尋ねる豊美に、クレシダがぽつり、と呟く。
「魔法少女、ってなあに?」
「えっと、何て説明したらいいんでしょう……ってこれ二度目ですよね?」
「一ついいことを教えてやろう。おば……トヨミちゃんは魔法少女だが、実は1465歳だ」
「……そうなの?」
「うっ……ちゃんと記録されてますからね……はい、その通りです」
 豊美の答えに、クレシダがふーんと頷いて、そして言い放つ。
「若作り?」
「…………ウマヤド、私泣いていいですよね? ハッキリ言われるのって、こんなに心が痛いんですね……」
「さっきはハッキリ言われない方が痛いって言ってたじゃないですか……」
 うるうると目を潤ませる豊美に、馬宿がやれやれとため息をつく。
「クレシダ、そのくらいにするのですわ。トヨミ、お詫びにとびきりのマロンケーキを振る舞いますわ。たんと召し上がってください」
 セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)がクレシダとヴァーナーを引き取り、調理場へ向かっていく。
「うぅ……そうですね、甘いものに癒されてきます。甘いものは正義です!」
「……時に悪魔になりますけどね。巷では『白い悪魔』などと――がふっ」
「ウマヤド、それ以上私をからかうと、殴りますよ!」
「……もう、殴っているではないですか……」
 杖を振りかざして怒る豊美の一撃を受けて、馬宿が地面で身体をぴくぴくと震わせていた。

「いい匂いですぅ〜。早く食べさせるですぅ」
「お母さん、もう少し待っててくださいね。皆さん今準備しているみたいですから」
 出張カフェテラスのように、敷かれたシートの上に様々な料理が並べられる中、長時間の正座ですっかり足が痺れたらしいエリザベートが、ミーミルにおぶわれて早く早くとせがんでいた。
「あれでは、どちらが母か分からんのう。……ま、今日ばかりはエリザベートも頑張ったからの、何も言わんでおいてやるか」
「ちょっと甘やかしすぎなんじゃないかしら。あの調子でよく今まで校長が務まってきたわね」
「魔術を志すものは皆、思うところはありつつもエリザベートのことを信望しているのではないでしょうか。人の上に立つものには、やはり何かが備わっているのだと思いますわ」
 言って、ルミーナが環菜を見つめる。
(そう、あなたにも、きっと……ね)
「申し訳ない、そこを退いてもらえないだろうか」
 そこに、ジャムのたっぷり乗ったマロンパイやアップルパイ、それに果実をふんだんに使ったお菓子の乗った皿を抱えた葉月 ショウ(はづき・しょう)が通りかかる。
「給仕にしては無礼なヤツですぅ」
「本物の給仕じゃないのよ。……手伝わせてしまっているみたいで、済まないわね」
「あ、い、いえ! 俺が言い出したことなんで、問題ないです! はい!」
 環菜の姿を認めたショウが、かしこまりながら皿を並べていき、足早にその場を後にする。
「ふぅ〜、ビックリしたぜ。蒼空とイルミンスールの校長、それにパートナーが勢揃いと来たもんだ」
「そうなの? ショウ、無礼なことしてないでしょうね?」
「し、してねえよ! ほら、さっさと料理よこせよ、手足りないんだろ?」
 葉月 アクア(はづき・あくあ)から受け取った料理の載った皿を手に、ショウが駆けていく。調理場にはその他にも有志で集まった者たちが、思い思いに自慢の料理に腕を振るっていた。
「ごめんなさいね、手伝わせちゃって」
「大丈夫ですよ、みんな好きにやってることですから。……そう、みんな、好きなんですよ、ここが」
 アクアの言葉に、ミリアも同意するように頷く。
「そうですね〜。私も皆さんといると毎日が楽しいですわ。こうしてずっと、皆さん仲良しでいられたらいいですね」
 ミリアが微笑む先では、待ちきれずに皿に手をつけ始めたエリザベートをミーミルとアーデルハイトが窘め、呆れた様子の環菜をルミーナが優しく見守っていた。
「美味しいですー。いくらでも食べられちゃいそうですー」
「……もう、何も言う事はありません。明日になって泣きつかないで下さいね」
「そんなことはしませんよー。……あっ、皆さん集まってますよ、行きましょう、ウマヤド」
「ちょ、ちょっと待ってください、おば……トヨミちゃん」
 そして、ケーキを抱えた豊美と馬宿も一行に合流し、賑やかな歓談が開かれる。
「これから、ますます賑やかになりそうですわね」

 こうして、概ね穏やかな収獲の一日は、終わりを告げた。
 豊美と馬宿は正式にイルミンスールの一員として加わることになり、また新たな歴史の一ページがここに刻まれることとなった――。



 そして、翌日。

「な、何という屈辱……これほどのものとは、私も想像できなかったわ……」
 昨日の収穫量バトルの結果、負けてしまった蒼空学園、その普段は学園を象徴する旗が掲げられている場所には、エリザベートが描かれた旗が代わりに掲げられていた。ご丁寧にアッカンベーをしている辺りが、環菜の苛立ちを余計に掻き立てていた。
「見てなさいよエリザベート……私が受けた屈辱、倍にして返してあげるわ」
 校長室に座る環菜が、冷静な顔立ちを歪ませてリベンジを誓う。その横で、ルミーナが穏やかな笑みを浮かべつつ、心の中で一つため息をつく。
(……お二人が歩み寄るには、まだまだ時間が必要のようですわね。……少しずつ、確実に行きましょうか)

 一方、イルミンスール、ミーミルの計らいによって用意された豊美と馬宿の住処では。
「ウマヤド〜、また増えちゃいましたぁ〜!」
「……おば上、昨日あれほど忠告したはずです。泣きつかないで下さい、服が濡れます」
「お、おば上って呼ぶのダメ! 私はトヨミちゃんです!」
 こちらも、色々な意味で前途多難なようである――。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 『ねこみやの しょくひが 200えん あがった!』
 
 栗ご飯美味しいです。【食費は1日700円】猫宮・烈です。
 ……愚痴っぽく聞こえてしまったようでごめんなさい。コメントはいつも難しいです。そろそろNPCの皆さんにこの場をお譲りしましょうか。それだとマスターコメントじゃなくてNPCコメントですね。
 
 とまあ、それはひとまず置いといて。
 
 いつも魅力的なアクションをありがとうございます。
 個別にコメントを返したいところですが、それをやると作業量がとんでもないことになるので、本文中で失礼します(そういう書き方はアリなのか
 
 ちなみに、蒼空VSイルミン、収穫量バトルの結果をここでお知らせします(どんどんぱふぱふ
 
 判定の結果……(どろどろどろどろ
 
 蒼空27ポイント イルミン28ポイント
 
 イルミンスールの勝利!!(ぱぱぱぱぱぱぱん
 
 判定の方法については長くなるので割愛させていただきますが、物凄い僅差でした。
 環菜のデータ戦術も、イルミンスールの人望(ミーミル人気が大きかったです)に一足及ばなかった、そんなところでしょうか。

 今回で、ようやくとトヨミちゃんこと『飛鳥 豊美』(あすかの・とよみ)がNPCとしてイルミンスールに加わりました。
 ……ウマヤドくん、『飛鳥 馬宿』(あすかの・うまやど)もいるんですけどね。制約上仕方ない、というところで。
 
 さてさて、トヨミちゃんの働きかけで、環菜とエリザベートの因縁は解消されるのでしょうか。
 パラミタを巡る攻防も少しずつ活発になってきているところ、ここは一つ『蒼空・イルミン同盟』を組む話になるのか、それとも対立が深まるのかは、皆さんの働きかけ次第といったところでしょうか。
 
 それでは、またの機会に、よろしくお願いいたします。