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第3章 頭上にご注意落雷注意報

「ミニたいふうって触ったらどんな感じなんでしょうね・・・。綿みたいにフワフワなのかな?」
 台風たちを探しながらヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は触れてみた時の感じを想像する。
「もしかしてどこかに隠れていたり・・・?」
 コート用のクローゼットの中を覗き、ミニたいふうたちがいないか服の間から確認してみた。
「あなた・・・だぁあれ?」
 泡たちから逃げてきたミーミが、コートのポケットからひょっこり現れた。
 小さな白い雲がクルクルと回転し、中心には台風の目の穴が開いている。
「ボクはヴァーナーです。ミニミニちゃん、ミーミちゃん友だちになりたいです」
「お友達・・・・・・?」
「はい♪えっと、どっちのほうかな」
「ミーミだよぉ。あたしと仲良くしてくれるのー?じゃあ一緒に暴れようよー♪」
「うーん・・・それはちょっと・・・。あれ・・・ミニミニちゃんは・・・」
「他のお部屋にいるかも?」
「そうなんですか・・・」
 ヴァーナーはちょこっと残念そうな顔をする。
「あっ、触ってみても・・・いいですか?」
「え・・・あたしに?」
「ふわふわなのかどうなのか気になっちゃって」
「いぃよぉ、ヴァーナーちゃん優しい子みたいだし♪」
 フワリと浮かぶミーミに、ツンと指でつっついてみた。
「うあぁ〜ふわふわですー。綿よりも柔らかくて・・・わたあめのような感じもする・・・。お菓子じゃないから手に砂糖がついたりしないからベタつきませんね・・・。なんだか不思議な感じです」
「きゃははっくすぐったぁーい」
「えいっ、ぷにぷに・・・ちっちゃくって可愛いですね♪」
 ヴァーナーはミーミを小動物をいじるように触る。
「くすぐったいぃよぉー」
「まっ待ってくださいー!」
 ミーミは部屋を出て行ってしまい、少女は小さな台風の追っていく。
「あぁっ、よくやく見つけたぞ!」
 ミニたいふうを捕まえようと探していた陣は、リベンジに燃えていた。
「ふふーんだ♪」
 簡単に手をすり抜けてしまい、頭上に落雷を落とされてしまう。
 ズガァアアアンッ。
「ぎゃぇえええっ!?」
 プスプスと焦げてしまった。
「陣くんしっかりー!傷は浅いよーっ」
 ビシビシビタンッ。
 リーズが陣に往復ビンタをくらわし、気絶している彼を叩き起こす。
「うー・・・」
 陣は起き上がって髪に触れると、何故かごわっとした感触があった。
「どうした小僧、今・・・凄まじい音が聞こえたようだが・・・。―・・・くっ・・・ぷふっ!」
「―・・・?」
 出会いがしら磁楠に笑われ、壁にかけてある鏡を覗き込むと、落雷によって頭がチリチリのアフロヘアーになってしまっていた。
「な・・・なんなんこれ!?(まるで雷様やないか!)」
「またこんな所で何をやっているんですか・・・」
 別の場所を掃除をしようと通りがかった望が顔を顰める。
「これには深いわけが・・・」
「触らないでください、アフロがうつります!」
 話を聞いてくれというふうに、服の袖を掴もうとする陣の手を箒でバシッと払う。
「今は髪型を気にしている場合ではありません。一刻も早くミニたいふうを掴めてください」
「うぅ・・・分かってるって」
「―・・・湿気ったマッチ・・・」
「じゃかぁしいぃいー!!」
「だって本当のことだもん♪」
 近くでボソッと言うリーズを、陣は顔を真っ赤にして怒り狂い、全速力で追いかけていく。



「こまめに掃除していけば、ミニたいふうたちの巨大化を防げるはずです・・・」
 埃を吸わないようにマスクをつけ、目にゴミが入らないようゴーグルでガードし、今井 卓也(いまい・たくや)は箒を使って掃き掃除をしながら靴の下に雑巾を敷いて丁寧に屋敷内の掃除をする。
「ほらルーメイもサボらないで!オメガさんのためでもあるんだから」
 必要のない部屋を覗くような輩がいないか見張っていたフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)の眼前に箒をつきつけ叱りつける。
「―・・・地味にでも頑張ればオメガさんにだって感謝されるんじゃない?」
 そっぽを向いてやる気ゼロのフェリックスに、卓也は言葉を選んでボソッと言う。
「で、何をしたらいいんだ?」
「(この光の如く態度の変わりようは・・・)」
 パートナーの極端な変わりように、思わず顔を顰める。
「窓を拭く時は・・・隅々までこうやって・・・」
 掃除の仕方をフェリックスに手本を見せて丁寧に教えていく。
「簡単だろ?ほらやってみて」
「面倒だな・・・なぜ俺がこんなことを」
「あらルーメイさんこんな所に埃が残っていてよ」
 指で窓の溝を拭いチェックし、フゥッと指についた埃に息を吹きかける。
「こんなことも出来ないのではお嬢様には相応しくないわ」
 まだ汚れている部分を指差し、フェリックスに掃除のやり直しを要求した。
「君は掃除夫の星を目指すんだ!」
 ビシビシと掃除のイロハを教え込み調教する。
「ちくしょう・・・なんだってこんなことに・・・・・・」
 何度も同じ箇所をやり直させられ、泣きそうな顔をする。
「おいっ、何とろとろやってんだよ」
「焦らせるなよ、もう・・・これくらいでいいだろう!」
 ぱっと振り返ると卓也ではなく、そこには25cmに巨大化してしまっているミニミニの姿があった。
「ぐひゃぁああぁぁっ!?」
 頭上に落雷を落とされ、トレンディーなクルクルパーマにされてしまう。
 さらにせっかく掃除したところが、雷によって黒い焦げ跡ができてしまっている。
「あぁあああっ、何てことをするんだー!」
 頭からシューシューと湯気を出し、怒鳴り散らすがミニミニは何事もなかったかのように、飛んでいってしまった。
「こらっどこへ行くんだ」
 追いかけようとするがバケツの水を替えに行っていた卓也に腕を掴まれ、床の焦げ跡を指で指し“掃除しろ!”と言われてしまう。
「(水を替えに行っている間に何があったんだ?)」
 フェリックスのヘアースタイルが昔の西洋の音楽家になっているのを、疑問符を浮かべた表情で見つめ卓也は首を傾げた。



「拙者と一緒に風神の術をやるでござるよー」
 ソファーの方で暴れているミニミニに話かけながら、ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が近寄っていく。
「このオレ様に追いつけたらな!」
 ミニミニは風速105mでギュィイインッと屋敷内を駆け回る。
「さすが台風、早いでござるなー」
 フムフムと関心したように言うナーシュに、傍らで井ノ中 ケロ右衛門(いのなか・けろえもん)が疲れたようにため息をついた。
「ちょっと待て・・・あれに追いつくつもりか?」
 普通の一般人が追いつけないような速度で移動するミニミニを追いかけるナーシュに、“無謀だ!”という目で見ながらも後を追う。
「どこへ行ったんでござろうか?」
 途中でミニミニを見失ってしまい、ナーシュは1つ1つ部屋の中を探していく。
「―・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」
 疲れきったケロ右衛門は呼吸をゼェゼェと荒くし、床に座り込んでしまった。
「よぉ・・・どこ探しているんだ?」
 天井にフワフワを浮かび、ミニミニがナーシュたちを見下ろす。
「あんな所に・・・。おーいっ、拙者と一緒に・・・」
 最後まで言い終わる前に、身体をグルグルと回転させナーシュの周囲を高速回転する。
「ヒャッハァアッ、お望み通りにしてやんぜぇええー!」
 ケロ右衛門を突き飛ばし部屋の外へ出ると、竜巻となって廊下中を爆走し始めた。
 竜巻の中心にはナーシュが巻き込まれ、“これは風神の術では!”と思い、楽しそうに笑っていた。
「凄いスピードでござる!バイクよりも早いでござるなーっ」
 風速105mをその身で体感し、眼の前の景色が一瞬で通り過ぎていくのを目を輝かせて楽しんでいる。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・お・・・おーい、待てよ・・・!」
 後を追うケロ右衛門は、すでに体力を使い果たしそうになっていた。