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第2章 突風波浪の注意報

「カーラは強いなあ。うわぁ〜!」
「(寛太さんではまったく相手になりませんね・・・)」
 横向きに転がり鳥羽 寛太(とば・かんた)カーラ・シルバ(かーら・しるば)は、“相撲”をとっている。
 どうやら彼らなりの相撲らしい。
 ドスンドスンッ
 互いにぶつり合う拍子に、服の繊維が空気中に舞う。
「わあ〜止まりません〜」
 寛太は大袈裟に転び無駄にゴロゴロ転がり続けていると、フワフワと宙に浮かぶミニミニの姿を見つけた。
「何で屋敷の外にいかないんですか?」
「ここのほうが面白いからだよー」
「これじゃただの内弁慶だよ。外で思い切り暴れたらきっと楽しいよ。2人で行けば怖くないよ。ほら、僕も力を貸すから」
「どーしよーかなー」
「大きく成長すれば度胸も出ますかね?」
 考え込んでいるミニミニの近くに、ゴミ箱をひっくりかえし埃を乱暴に踏む。
「そうだ、ここからずっと西に行けばツァンダという都市があります。あそこで暴れたら気持ちいいともっぱらの噂ですよ」
「―・・・せ・・・・・・うる・・・せぇ」
「はい・・・・・・?」
 寛太はミニミニの小さな少年のような声から、突然変わった低い声音を耳にし目を丸くする。
 まるでどこぞのヤクザのような声音だった。
 真っ白な丸い円盤状の身体が灰色に変わっていき、ミニミニは3cmから15cmへと徐々に大きくなっていく。
「オレ様はここで暴れたいつってんだろうがぁああー!!」
 風速100mの暴風により、寛太は床に転がされてしまう。
「あぁああぁあっ、うぁああーっ!ンぐぁっ!!」
 バリィイイインッ。
 飾り棚にぶつかってしまい、花瓶が割れてしまった。
「ヒャァアアハッハハァア!転がれぇい、もっと転がって埃を撒き散らかせよぉおおっ!」
「とっ止まらないぃいー!?」
 大広間中をド派手にぶつかりながら転がり続ける。



「相撲しましょう。相撲とはほぼ裸で抱き合う遊びです。さあ脱いでください。出来るだけ裸に近付いてください。私も脱ぎます」
 もっと強そうな相手に挑戦したいと思い、カーラはオメガに声をかけた。
 首についけているアクセサリーを取ってみせる。
「えっ・・・服を脱ぐんですの?」
「はいそうです。いいですか、まず『はっけよーい』と言ってください。その後私が『のこった』と言うのでそれがスタートの合図です」
 カーラが相撲の説明をする内容というか、人前で服を脱ぐことに対してオメガは困り顔で戸惑う。
「―い・・・いけません!オメガさんにそんなことさせちゃ・・・」
 台風たちを説得しようとしていた緋音が気づき、とっさに割って入り止める。
「いいじゃないですか相撲くらい」
「そっそれに怪我しちゃうかもしれません!」
 詰め寄るカラーに緋音とひなは首を左右に振り、ガードするように両腕を広げオメガの前に立つ。
「―・・・えぇと・・・それじゃあ・・・」
 引き下がりそうにないカーラに、オメガは仕方なくブーツだけ脱ぐ。
「じゃあそれだけでいいです。(合図も私がしたほうがいいみたいですね、まだ理解してないないようですし)」
 カーラは眉を潜め、しぶしぶ承諾する。
「はっけよーい、のこ――」
 最後まで言い終わる前にカーラは、猛スピードでゴロゴロォオオッとオメガに向かって転がっていく。
「い・・・ぃやぁあぁああ!!」
 ぶつかった拍子に柱に打ちつけられ、衝撃のショックでオメガは悲鳴を上げてしまう。
 ゴゴゴォオォォオッ。
 建物内がガタガタと揺れだし、魔力を放出し始めたオメガの周囲にバチィッバチバチッ火花が飛び散る。
「―・・・オメガちゃん!(ショックで怯えてしまったのでしょうか!?)」
「何も怖いことありませんから大丈夫ですよ!」
 ひなと緋音が優しく声をかける。
「ほ・・・本当ですの?」
 床に座り込んでいるオメガは、恐る恐るカーラを見上げた。
「えぇただの相撲ですから。怖がらせるつもりは・・・」
「そうでしたの・・・・・・」
 オメガはほっと安堵し、屋敷内の揺れも徐々におさまっていく。
「どこか怪我していませんか?」
 怪我を負っていないか見てやり、ひなは心配そうな顔をする。
「えぇ大丈夫ですわ。少し擦りむいてしまっただけで・・・」
「よかったですー」
「私が治してあげますね」
 緋音はヒールでオメガの怪我を癒してあげた。
「ありがとう」
 ニコッと微笑む魔女に、緋音も可愛らしく笑いかける。



「わぁー・・・喋る台風なんて初めて見たよ。もしかしたら乗れたりするのかな?」
 フィーニ・レウィシア(ふぃーに・れうぃしあ)は屋敷内を我が物顔で好き勝手に跳びまわるミニたいふうを見上げて呟く。
「あ・・・こらっ、フィーニってば・・・ちゃんと掃除しなきゃダメでしょ!」
 静電気で埃を吸着するハタキを手に、七瀬 瑠菜(ななせ・るな)が階段の手摺を掃除ながら睨む。
「だって気になるんだもん!」
 好奇心旺盛な彼女は、頬をぷぅっと膨らませる。
「よぉおし試してみちゃおうーっ」
 絨毯を引っ張りだしミニミニの上に被せ、階段から勢いよく飛び降り乗ってみた。
「てぇいーっ。あはははー面白ぃ〜早い早いー♪ちょっ・・・回転速度・・・が・・・!?あわぁああわわー!」
「何しやがるんだこの小娘がぁあっ、前が見えねぇじゃねぇかよ!」
 凶暴化している台風は凄まじい風速80mで進み、ギュルル回転しながら振り落とそうとする。
 空飛ぶ絨毯というロマンチックの欠片もない、どこからパラリラパラリラと聞こえそうな暴走絨毯という感じだった。
「きゃぁああっ退いて退いてぇええ、ぶつかっちゃうよぉおおー!」
「―・・・何?えっ・・・ちょっとフィーニ・・・!?あっち行って!こっちに来ないでー!!」
 迫り来る暴走絨毯から逃れようと必死な形相の瑠菜は、ハタキを振り回しながら全力で屋敷内を駆け回る。
「だから退いてってばぁああーっ」
「もぉおお、だから来ないでって言ってるでしょー!」
「あうっ・・・手が滑って落ち・・・る・・・?―・・・うきゃぁああっ!?」
 絨毯を掴んでいた手がツルリンと滑り、ギュィイインッと頭から飛んでいく。
「あわわぁっ避けてぇええー!」
「いっ・・・ぃやぁああぁああ!!」
 振り落とされたフィーニは真っ直ぐに瑠菜の方へ飛んでいき、ミサイル頭突きをくらわす。
 ゴォオーンッ。
 凄まじい衝撃音となって、除夜の鐘のような音が鳴り響く。
「はぅあうぅう〜・・・お星様が見えるよー・・・お煎餅みたいー・・・、食べられるのかなー・・・?」
「―・・・何を言っているんですかー・・・・・・あれは飴ですよ・・・・・・」
 気絶しそうになって床に倒れ込んでいるフィーニと瑠菜の視界には、頭上にキラキラ輝くお星様が回っているように見えていた。



「オメガちゃんに呼ばれて捕まえにきたです〜!」
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)はミニたいふうたちを捕まえる協力をしにやってきた。
「あぁあー、これは酷いねー・・・」
 花瓶やガラス細工が粉々に砕け散りゴミ箱がひっくり返され、床が水浸しになってしまっている状況を見てウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は顔を顰める。
「―・・・って、きゃーっ!スカートめくらないでですーっ!」
「ひゃぁっ!?・・・・・・エッチな事をした奴はどこだーっ!!」
 ミニミニが2人の傍を通り過ぎ、彼女たちのスカートがバッとめくれてしまい、一瞬丸見え状態になってしまった。
 近くにいた一部の男子たちが、その光景を見てしまい鼻血をブバァッと噴出す。
「ミニミニちゃん、ミーミちゃん!狭い部屋の中で暴れたら駄目じゃないですか!部屋がメチャクチャになったら、オメガちゃんが困るですっ!」
「ここで暴れたいんだもーん♪」
「はっ!ヤなこった!!」
 ファイリアの注意をまったく聞かず、無視してミニたいふうたちは笑いがならはしゃぎ暴れる。
「きゃはははっ、捕まえてごらーん!」
 ミニミニはファイリアたちの周囲をグルグルと回り飛び去っていく。
「これだけ言っても聞かないなんてっ、悪い子にはペンペンしてお仕置きしちゃいますよー!」
「あわっまたスカートが!待てこらぁああー!!」
「待ちなさいーっ」
「フフフーン♪待たないもーん」
「ここまで来てみな、ジャリガキどもが!」
「くぅう〜・・・優しく言ってるのにそんな態度をとるなんて・・・、もう容赦ないんだからっ!」
 小馬鹿にしたような態度をとるミーミとミニミニに、普段は優しいファイリアとウィノナでもさすがに限度が超えてしまった様子で、眉を吊り上げ怒りを爆発させて追い駆けていく。



「さて・・・ミニたいふうを捕まえようと思うんだが・・・どうやって捕まえようか。やっぱりここはアノ作戦しか・・・」
 猛スピードで屋敷内をめちゃめちゃにしている台風たちを見ながら、マシュ・ペトリファイア(ましゅ・ぺとりふぁいあ)はどうやって捕まえようか考えていた。
「(やけにスカートの中がスースーするが気のせいじゃろうか?)」
 ロミー・トラヴァーズ(ろみー・とらばーず)はマシュの傍で首を傾げ、疑問符を浮かべたような顔をする。
「それにしてもすばしっこいやつらじゃのう」
 ミニミニが廊下を通りすぎ、その強風に煽られスカートが少しめくれてしまい、台風が見惚れる様子はまったくなかった。
「(オスだと思ったが・・・まさかの無反応!?)」
 ノーリアクションで通り過ぎていくミニミニに、ゴム手袋で捕まえようとしていたマシュは驚愕の表情をする。
 生まれたばかりに近いミニミニの感情には、お色気というものが理解できないようだった。
「な・・・何もはいていないだと!?」
「これが本物というヤツかぁあっ、うほぉおぅっ強烈〜!」
 見てしまった七尾 蒼也(ななお・そうや)国頭 武尊(くにがみ・たける)は、いいモンを見せてもらったとだらしない顔をする。
「むっ、今・・・見たのか?」
 明らかに女子の声音ではない低い声が聞こえてきた。
「あぁ・・・しっかり見ちまったぜ・・・」
「なんだと・・・ならばしっかり見るがいい、この私を!」
 マントの下に何も身に着けていない変熊 仮面(へんくま・かめん)が武尊の方へ振り返る。
「そっちじゃねぇよ!うぁあっ・・・悪夢だ。さっきの光景が脳内に上書きされちまったぜ・・・。ちくしょう・・・もう思いだせねぇえ」
「どうして目を逸らす・・・?さぁ・・・どこでも好きなところをじっくりと見ろっ」
「ざけんなっ、寄るんじゃねぇえー!」
 ズンズンと追ってくる変熊から一刻も早く逃れようと、武尊は必死な形相で駆けていく。
「―・・・・・・!?」
 ロミーがスカートの中に何もはいていないことに気づき、マシュはギョッとし一瞬その場に凍りつく。
 彼は慌てて彼女をお姫様だっこで抱えた。
「なっ何をするんじゃ!」
「ちょ・・・待て、暴れるな!見えるだろぉおが!」
 見ないように抱きかかえているが、状況を把握してないロミーは逃れようと暴れる。
「見えるとは何がじゃ!」
「そ・・・それは・・・。とっとにかくこの部屋から出るぞ!」
 マシュはロミーを抱えたまま、急いで部屋を出て行く。



「たしか塵埃を与えない方が良いみたいだったな?話を聞く限りあまり塵埃を与えない方が良いみたいだし、台風を探すついでに通った場所に霧を撒いておこう」
 薬品の入った霧吹きを手に、カーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)はシュッシュッと撒く。
「舞台などでは埃が舞って喉がやられたりするのを防ぐために、水霧を撒いておくのだと聞いたことがあるし」
 空気中に埃が舞わず、ついでに消臭効果もバッチリだ。
「お前もこのオレ様を捕まえようというのかぁああ?捕まえられるもんなら捕まえてみやがれぇええ!」
「すでに巨大化しているのか!?」
 塵と埃が舞ってしまった影響で、すでにミニミニは巨大化し態度も乱暴者へと変貌してしまっている。
「あんなのが突っ込んできたら、風穴が開いてしまいそうだ・・・どうやって捕まえる?」
「まかせておけ、ちゃんと捕獲方法を考えてある!」
 風速110mのスピードで暴れ凶暴化し続ける台風を見据え、自信満々に言い蒼也は不適な笑みを浮かべる。
「よし近くまで来たようだな・・・。(うまくカーマルのスカートにもぐりこんだら、速攻捕まえてやる!名づけてイタズラな風さんキァアンッイヤァンッバカァンッのパンチラ大作戦!!)」
 彼はスカートをはいているカーマルを、ミニミニが向かってくる位置に立たせ捕獲しようと待ち構えた。
 特に興味を示さずに台風はビュインッと通り過ぎていく。
「どういうことだ・・・スカートにもぐりこむと思っていたんだが。あっ!な・・・なんていうもんをはいているんだ・・・!!」
 カーマルはその下にズボンをはいていて、蒼也が考えていた捕獲方法は失敗に終わってしまった。
「―・・・何か問題でもあったか?」
 床にへたり込んで沈んでいる蒼也を見下ろし、カーマルは首を傾げて声をかける。
「なんで・・・どうしてズボンを・・・」
「ファッションではくことだってあると思うが。おかしなヤツだなー」
 カーマルはクスッと笑った。
「(こんなミスをしてしまうなんて・・・ちくしょう・・・)」
 捕まえ損ねてしまい、彼は悔しそうに拳をドスドス床に殴りつける。
「ふむ、見失ってしまったようだな・・・」
 武尊を追いかけていた変熊は彼を見失い、キョロキョロと屋敷内を見回す。
「それにしもてフフフ・・・オメガちゃんの恥ずかしがりやさんめ。言ってくれればいつでも話し相手になってあげるものを!」
 変熊は武尊を探すのをやめ、屋敷内のどこかでミニたいふうたちを追いかけているオメガを探すことにした。
「むっ・・・あれは・・・。まてぇい!貴様の逃亡もここまでだ!」
 20cmにまで巨大化したミニミニを見つけ、ビシィッと人差し指を指す。
「ハンッ、知るかボケ!」
 口汚く暴言を吐き台風は馬鹿にするように、変熊の股の下をすり抜けてしまう。
「コ・カ・ン・フリーダム!!(なに?この初夏の草原に吹く風のように爽快で、それでいて自然の激しさを秘めた感覚は!?)」
 ゴゥウウッと吹きぬける暴風に対して、彼は妙な気分になった。
 よからぬことを思いつき、クククッと一人で不気味に笑い始めた。



「こんにちはオメガ。ケースからミニたいふうが逃げちゃったんだってね?捕まえるの大変みたいだし、協力しに来たわよ」
 正面玄関の扉を開けて十六夜 泡(いざよい・うたかた)はオメガに軽く挨拶し、捕獲に協力しようと屋敷内に入る。
「皆で捕まえましょう!」
 泡の肩の上でリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)も意気込んでいる。
「えぇ助かりますわ・・・」
「ビニール袋に詰め込もうと思っているんだけど・・・どうかな」
「かなり丈夫ないと厳しいかもしれませんわね・・・」
「うーん・・・そっか。とりあえずどれくらい袋が耐えられるか試してみよう」
「ケースに戻す時の手段に使えるかもしれませんからね」
 泡の作戦につけ加えるように、リィムが提案してみる。
「たしか体長3cmでしたっけ?どこにいるんでしょう・・・」
 リィムは台風たちがどこかに隠れていないか、床や天井もチェックしていく。
「―・・・あっ、見つけました!」
 ぐいぐいと泡の銀色の髪を引っ張り、花瓶の傍にミーミがいることを知らせる。
 騒動の影響で5cmくらいの大きさになっていしまっていた。
「あいたたっ、分かったから・・・そんなに引っ張らないで!」
「もたもたしていると逃げてしまいますよ。こうなったら私が捕まえてみせます!」
「えぇっ、ちょっと・・・あぁ!」
 ぴょんと泡の肩から飛び降り、ミーミを捕まえようとする。
 台風の目の中にスッポリ入ってしまい、リィムは捕まえ損ね逃がしてしまう。
「うぅう・・・ぐすっ・・・すみません・・・・・・」
「まぁ・・・探してればまた見つかるから・・・」
 泡はリィムを慰めてやり、肩に乗せると台風たちを探し始めた。