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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

リアクション



プロローグ

 年も明け、冬の長期休みも終わった薔薇の学舎にもみの木が再び搬入される。
 地球ではクリスマスは先月の25日で終わってしまう地域もあれば今頃まで行われる地域もあるので、その様子は特別目立って違和感があるわけではないのだが、対になるように向かいの広場で組み立てられる真っ赤な鳥居と並ぶ姿は異様な光景だった。
 昨年、各校の交流会を名目に開催されたハロウィンパーティ。その実態は、より自分の学舎が優れているのだと校長同士が主張するパーティとなってしまったのだが、パラ実と開催地である薔薇学は敗退という結果に終わってしまう。表向きの交流会は成功したものの、開催地の学舎が敗退するなど言語道断。校長の怒りを沈める為に何とか再戦をしようと教師であるヴィスタ・ユド・ベルニオス(う゛ぃすた・ゆどべるにおす)とイエニチェリである真城 直(ましろ・すなお)で企画を練りました。
 今度こそ負けは許されず、かといって得意分野で勝負を仕掛けるわけにもいかず……表向きには交流会を維持し、リベンジ精神が剥き出しにならないよう美しく勝利を収められそうな方法と、この時期特有の催事を組み込んだウィンターパーティ。直が日本人ということもあり、案は日本式のお正月とクリスマスに落ち着きました。
 校長が好きな和装も取り入れ、長い期間やっているクリスマスとしてロシア式の物を導入し、冬の2大イベントの同時開催となりましたが、ハロウィンと違い出店も仮装も無く競技として競うことにしたようです。直とヴィスタは、大きな広場に二分された会場へ最終確認に向かいました。



「ヨールカ、ねぇ。どう見てもクリスマスツリーだな」
 大きなもみの木に様々なオーナメントを付け、どこからどう見てもクリスマスツリーだというのに呼び名が違う。近くにはサンタクロースの家らしきファンシーな建物まであり、中身は言葉通り「おもちゃ箱をひっくり返した」ような家だ。
 ジェット・マロースと呼ばれているらしいが、直自身も各校に案内を出すときにサンタの家と記入してしまっていたし、最早呼び名しか違いのないものを区分けする必要も無いだろうとヴィスタはクリスマス会場の下見を続ける。
 ここで行われるのは巨大パンケーキ作りとジェット・マロースのお手伝い。直径1.5mもの鉄板でパンケーキなど簡単に出来るものじゃないだろうに、本場ではパーティのメインとして食べることももちろんだが、何十人と集まってパンケーキをひっくり返す祭りも執り行われるくらいメジャーな物らしい。現地まで確認に行ったわけではないので、どこまで資料が正しいのか疑問に思ってしまうのだが、こちらも企画した以上は後には引けない。鉄板のサイズや基本材料に道具、中にはダミーの材料と道具もあるが、生徒たちの自由な発想で祭りを盛り上げて欲しいと思う。
 マロースのお手伝いも、ようはサンタのプレゼント運びを真似たような物で、自分の特徴を書いてもらうカードも貸し出しするポラロイドカメラも届けるプレゼントも参加者分揃っている。
「競技っつーよりゲームだな。交流会としては、これくらいで十分か」
 料理が苦手な人が大惨事を巻き起こす可能性があるにしろ、イベントの雰囲気も手伝って失敗もご愛敬で済むかもしれない。クリスマスの競技が交流会としての雰囲気重視に対し、直が最終確認に向かった正月用の会場はと言うと……。
「墨、よし。火薬、よし。フレグランス、よし。……他の物も十分取りそろえ、中身も規程量のようだね」
 なにやら物騒な品目が混ざっているが、規程量が定められているということは死に至らない程度の物が仕込まれているのだろう。その他にも、競技に使用される物を細かくチェックする様子を見れば、この正月部門での競技が新の戦いの舞台となるだろうことは明白だ。
(庭園や神社の出来も十分な物だったし、目玉となるのはこの競技かな……)
 人気の高かった羽根突き。注意を促すような書き方をしたから、一般的な物とは違うと察してくれているだろうが、どんな激闘を見せてくれるのか楽しみだ。直は、入念に競技用アイテムのチェックを行うのだった。



冬のごった煮祭り!? バトフェス・ウィンターパーティ編開幕!!

 主にアジア諸国で広まっている干支。パラミタにも干支の概念は伝わったようだが、開発のタイミングで広がり方がずれてしまったのか、地球のそれとは10年ずれており、今年2020年の干支は虎。他校生を迎え入れる入り口には、雪だるまの周りを走る凛々しい虎の絵が門を飾っており、なんとも言えぬごった煮感がすでに醸し出されていた。
 それを気にすることなく、サンタクロースの格好ではしゃいでいる者、和装でお淑やかに参加する者と様々で、競技への意気込みを仲間と語っている姿も見られる。そんな楽しげな様子を、ルイ・フリード(るい・ふりーど)リア・リム(りあ・りむ)は持参したポラロイドカメラに収めていく。
「皆さん良い笑顔ですね、これは形にしないともったいない」
 撮影許可証を首からぶら下げ、ルイはカメラからすぐにプリントアウトし、被写体となった参加者へ配る。その場ですぐ見られるのがポラロイドの利点だが、昔は撮った写真は平らな場所で色が安定するまで待たないといけなかったりと、何かと不便な点が多かった。今ではデジタルカメラとプリンターが一体型で、用紙もにじみを押さえた物が販売されている。このようなパーティ会場で使わずしていつ使うのだとルイは多くの笑顔を残すことに意気込んでいる。
「ルイ、この案はきっと皆に喜ばれる。必ず成功させるぞ」
 写真を配り終わったのを見届けて、笑顔の瞬間を見逃さないように、そして安全のために小型飛空艇を徐行させるリア。様々な場所を取材するという理由から小型飛空艇の使用許可を貰ったが、会場内では多くの人が行き交うのだからあまりスピードを出さぬよう注意を受けているからだ。
「待ってー!」
 ゆるやかに走り出した小型飛空艇を追いかけるのは、羽入 勇(はにゅう・いさみ)ラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)。最近は催しといえば自分たちが楽しんでしまって、めっきり取材活動を行うことが少なくなっていると思った勇は、ルイたちと同じ許可証と一眼レフのカメラを首からぶらさげて、取材班として参加するようだ。
「はぁ、あのっ! 受付で……聞いて……写真っ」
 似たような目的で場内の写真を撮ろうとしている人がいると聞き、広い会場を手分けしてまわることは出来ないかと提案したかったのだが、手のひらに少し余ってしまう大きなカメラを大事に抱えて全力疾走してきたせいか、息は上がってしまっていて上手く話すことが出来ない。
「私たちは大会の取材に来たのですが、よろしければ手分けをして撮影しませんか?」
 三脚や望遠レンズなど機材が入った箱を軽々と持ち、小脇にレフ板を抱えて同じく勇の後を追いかけていたラルフが涼しげな微笑みでルイに提案する。写真にかける情熱が溢れている勇たちなら、任せても素晴らしい写真を撮ってくれるだろう。ルイが輝かんばかりの笑顔で息を整えている勇むに手を出し、提案を受け入れてくれたことに安心して勇も微笑み返しながら握手をしようと思ったのだが。
「ご協力、感謝します」
 にっこりと微笑んで手を取ったのはラルフで、少し驚いた顔をしている3人の視線など気にすることもなく、受付で貰った地図を広げる。
「手分けするとなると、ここから遠い位置には僕らが向かった方が効率がいいな。これもあることだし」
 制限を受けたとは言え、あるのとないのとでは移動力に差も出るだろう。地図を見ながら担当する競技の分担、途中で落ち合う場所などを相談し、参加者に喜んで貰える写真撮影をするために作戦を練るのだった。
 やる気を出しているのは、何も競技へ参加する者や取材班だけではない。神社の一角を借りて蕎麦作りに励むのは志位 大地(しい・だいち)とパートナーのシーラ・カンス(しーら・かんす)出雲 阿国(いずもの・おくに)。本来であれば、今頃愛しのあの子が着て来るであろう晴れ着を褒め、着慣れぬ衣服に足を取られてしまわないよう、それを口実に手を差し伸べて2人寄り添って初詣をしたり庭園を散歩したり――。
「……している、はずだったのですが」
「大地! わしはいつまでもたげばいーんじゃ。もうすることみてたぁで!」
「はいはい、ただいま!」
 麺を打つのは大地、茹でて麺を締め温め直すのはシーラ、最後の仕上げは阿国と分担作業になっているため、どこかで手が止まれば後ろに控える人は暇になってしまう。いつまでも嘆いていたって、彼女が遅れてやってくることは無い。今日の催しはクリスマスとお正月だが、その間にある風流な催事も知って貰おうと、大地は誰もが食べやすい蕎麦を心がけた。
 そして、そんな阿国の作る出汁の香りに惹かれてか、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は大会応援前の祈願に立ち寄った神社で先に大地たちが用意している蕎麦の前で思わず足を止める。
「凄いね、蕎麦って凄く難しいんでしょう?」
「あら、お目に留めて頂けて光栄ですわ。シーラさん、あとどれくらいで茹で上がりそう?」
 先ほどまでの広島弁はどこへやら。お客が来た途端に営業スマイルを浮かべて丁寧な口調になる。よくあることなのか、パートナーたちはさして驚いた様子も無く、黙々と自分の作業をこなしていく。
「もう茹で上がりますよ〜でも、1度締めますからもう少しだけ待っていて下さいねぇ」
 冷たい水で滑りを取っている様子を見ながら、アリアは出来上がりを楽しみにする。けれども、覗いたザルの中は確かにうどんよりも黒っぽいが蕎麦というには白っぽい。不思議に思って、隣で蕎麦を切っていた大地に声をかけた。
「このお蕎麦、何が入っているの? なんだか見慣れてる物より白っぽく見えるんだけど……」
「小麦粉と卵です。そば粉だけだと切れやすくなってしまって食感の良い物は難しいんですよ。なので、今回は中華蕎麦風なんですよ」
 蕎麦など余程でない限り家で打つ機会など無いだろうに、大地は料理が好きなのかよく知っている。少し関心したようにその手際を見ていると、どうやら完成したようだ。
「大変お待たせ致しました。お箸とフォークを用意してるので、使い慣れた方で召し上がって下さいね」
 にっこりと阿国が差し出したお盆には、刻んだネギと紅白カマボコ、味付けした油揚げが添えられたシンプルな蕎麦。近くの簡単なテーブルには薬味として七味唐辛子や柚子胡椒、すりおろしたショウガ等が置かれていて、小腹を満たすには十分過ぎる持て成しだ。
「長寿や金運上昇を願う縁起物なんだけど、年を越えてからはうどんなのよねぇ」
「シーラさん、そんなこと言ったら俺が蕎麦を打った意味がまるでないじゃないですか……」
 まだ神社を訪れる参加者が少ない中で繰り広げられる、笑いを交えた会話。そちらに夢中になってしまわないよう、早速どんな食感なのかとドキドキしながら口をつければ、蕎麦の香りが口の中に広がるのに食感は滑らかで、とても食べやすい物だった。
「美味しいです! 卵が入ってるお蕎麦って聞いたこと無かったけど……凄く美味しい!」
 友達の応援が終わったら連れてきますねと約束をし、アリアは満面の笑みで食べ進めるのだった。
 そして、パンケーキ作りの会場へ向かう遠野 歌菜(とおの・かな)譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、仲良く寄り添いながら歩いていた。
「大和がいれば100人力だよ! イルミンの優勝にためにも頑張るね」
「ええ、応援しています。……けれど、出来れば学校のためだけでなく俺のためだと嬉しいですね。手料理、楽しみにしています」
(言われなくても、出来上がったパンケーキを真っ先に食べて欲しかったのは審査員でも誰でもなく大和なのに……)
 けれども、そんなことを口にすれば甘い言葉は倍になって返ってきそうで、歌菜は口をモゴモゴさせるだけで何も答えない。
「大丈夫、伝わってますから。さぁ、準備に取りかかりましょうか」
 会場につけば、与えられたテーブルに材料や道具を用意している面々が。どうやら、準備を整えてから試合開始となるようだ。
 小麦子に砂糖、ボールに……と用意していると、先日のクリスマスパーティで会ったヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が真剣に材料を見つめていた。
「こんにちはヴィナさん。料理も出来ちゃうなんて、ヴィナさんは何でも出来るんですね」
「いや、全く出来ない……こともない」
 じゃあ何故、この競技に参加しているのだろう。少し驚いたような顔でヴィナを見れば、照れくさそうに頭を掻いた。
「いやね、たまには娘におやつの1つでも作ってあげたいなーと思ってさ。練習しようと思って」
(練習の成果を見せに、じゃなく……練習、なんだ)
 なんだか嫌な予感がする。大きなボールと手当たり次第に材料を取って行くヴィナに、かける言葉が見つからない。チラリと振り返れば、テーブルで待っている大和の姿。彼と一緒に参加している以上、自ら敵対する学校のヴィナと協力して成功させましょうとは言い出せない。
「あの……頑張ってくださいね」
 なんとかそれだけを伝えると、出来るだけ手にしている材料を見ないふりして自分の必要な材料集めに向かう。自分は何も見ていない、小麦粉じゃなくタピオカ粉を取っていたことも、ベーキングパウダーではなくゼラチンを取っていたことも、バターではなく牛脂を取っていたことも。
(うん、何も見なかった……! ヴィナさん、ごめんなさい!!)
 彼が何を作ろうとしているのか、そもそもパンケーキの作り方を知った上でのアレンジなのか。それは、真面目に調理して屋敷の厨房を爆破させ、以前のお持て成し講座でもオーブンを破壊した彼に問うてはいけない質問だ。
 今回は鉄板なので、まさか爆発するとは思いたくないが嵐を巻き起こしてくれるのは事実。歌菜はヴィナから味見を頼まれた際は断るように、大和へと伝えるのだった。
 そうして、全てのテーブルの準備が整った。シンプルに勝負を賭ける者、アレンジを加えて美味しく仕上げようという者、それぞれが緊張するように指示を待つ。
「それでは、巨大パンケーキ制作……開始ッ!!」
 スタッフのかけ声と共に、粉を振るう者、直接ボールへ山のように入れる者。様々な調理方法で口火が切られた。美味しさに拘りすぎると、柔らかく仕上がってひっくり返すときの難易度が上がり、それに気を取られると固くて美味しく無い物が出来上がってしまう。
 その間を縫ったような美味しいパンケーキを焼き上げるチームは果たして現れるのか……美味しい物が食べられることを期待している観客は、満足する物を食べられるのかは、参加者次第。どんな作戦を考えてきたのかを見守りながら、心弾ませるのだった。