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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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激闘! 格闘羽子板大会3

 さらに白熱する羽根突き会場では、第二コートで十倉 朱華(とくら・はねず)ウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)清泉 北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)の蒼学対薔薇学のダブルスが行われていた。
 実は第一コートの樹月 刀真(きづき・とうま)鈴木 周(すずき・しゅう)による試合もそう登録されているのだが、それは髪色や髪型がにている裸でおなじみの薔薇の学舎の友人に扮装して登録したからだ。同じ学校の周と闘っても違和感がないように、そしてハロウィンでの負けっぷりで校長が大変お怒りだと聞いていた刀真は、そんな友人の手助けが出来ればと思っていたのだ。
(まぁ、もう1つの手助けも上手くいってくれれば良いのですが)
 ちらりとコートの端を見れば、パートナーだから特別に近くで応援している月夜レミの姿。順調に2本取り今は2対1、油断さえしなければ勝てるはずだ。
「周、賭けを覚えていますか。負けた方が勝った方の願いをひとつきく」
「うるせー! 俺がここから挽回すりゃいい話だろ!」
 これはもう、最後の手段を使うしかないか……焦りの表情でレミを見る。しかし、その顔が不安げに見えたのかレミは周の意外な表情に胸を高鳴らせて拳を強く握る。
「せ、せっかくだから、応援したげるね! 周くん、がんばれーっ!」
(応援はいーから! 光条兵器の出番が近いんだ、よろしく頼むぜ!)
 けれども、刀真が月夜に視線を送ると前と一緒にレミはコートの外へ連れ出されてしまう。
「え、あれ? お、おい!! どこ行くんだよっ!」
「俺との勝負に余所見ですか。余程勝つ自信があるようだ」
 続いてのサーブ権に刀真が勢い良く羽子板を振り落とす。周はとっておきの作戦を実行するなら今しかないと、羽子板を強く握りしめた。
 一方隣のコートではいい具合に接戦だ。運良く体力の少ない朱華のチームは軽めで動きやすい狩衣、対する北都のチームは体力はあったが羽織袴を選択したため、スピードは五分五分だ。
「くっそ! ……せめてジャタ族の衣装が着れたらなぁ」
 昶が1本取り、煩わしそうに羽織りを脱ぎ捨てる。用意された和装指定ということを失念して動きやすく着慣れた物をと思ったが、実際は動きにくく重い服で闘わねばならず、思った以上にハードだ。
「負けたら振り袖だからなー!」
「何度も言わなくても分かってるよ」
 1対1で衣服が少し軽くなった今、北都側が少し有利だ。緊張した面持ちで隙無く構える朱華たちに、北都はサーブを打つ。
 ――ワォンッ
 北都の羽子板に取り付けられた振動センサーのおかげで、彼が打つ度に犬の鳴き声が聞こえる。それに加えて犬の絵が描いてあり、北都自身も超感覚で反応速度を上げるべく、犬のタレ耳とくりんとした尻尾がついており、なんとも可愛らしい姿をしている。
「朱華、頼みますよ!」
 ルール上、魔法は不可だが身体能力を上げるスキルの制限は無い。それに伴い試合前にパワーブレスを使用しているため、通常よりも強いスマッシュが打てるはずだ。
「……よっと」
 ――カンッ
 振り回しやすいよう、少し細めに30cmくらいに作られた羽子板。色は髪や瞳と同じ赤系にしたおかげで統一感と新年を祝うめでたい感じになっている。今のところ、この対戦では羽根が耐久力に耐えかねて爆発するということは無かった。けれども、後半の試合ともなれば今までの試合を見てきてパターンも掴めてきたようだ。
 ――ワォンッ
「朱華、今です!」
 返ってきた羽根に朱華が神経を張り巡らす。ソニックブレードの要領で羽子板を振り抜くスマッシュは、普段通り腕が動かないので音速とまではいかないが、かなりのスピードで北都の横を通り過ぎ、昶の足下で水を撒き散らす。
「うお、冷たっ!? もう必殺技ぶっ放してきたのかよ」
 水たまりの大きさを確認して、滑らないようにしなければと思う昶を余所に、慎重に羽根について考えていた北都が確信したように笑みを浮かべる。
「今のタイミングでの必殺技……向こうも確信してたってことだよね」
 自分の計算は間違っていなかった。それを決定づけてくれた朱華たちに感謝しながらも、1対2の今は油断が出来ない。
 朱華によるサーブを、北都は唾を飲んで羽子板を構えるのだった。
 そうこうしている内に、第一コートの試合が終わった。結局、周の作戦は通じず3対1で敗北することになった。光条兵器で目くらましをしようと思っていたのだが、重い袴にタイミングを掴み損ない失敗してしまった。こればかりは上半身裸で闘っていた刀真が狡いと思ってしまう。
「さて周、俺の願いですが……とある女性をナンパして頂きたいのです。
「は? なんだそれ」
「芯の強い女性なんですが、全力でナンパしてもらえますね?」
「もちろんだって! で、その子はどこだ!?」
 レミのいない今なら、思う存分ナンパが出来る! とても試合に負けたバツゲームだとは思えない待遇にガッツポーズをすれば、向こうから月夜と前の姿が。
「刀、どうだった?」
 にっこりと微笑めば、背中に隠れていた女の子に前へ出るように促す。白いふわっとした素材のタートルネックにコサージュを付けて、チェックのロングスカート。肩より少し長めのピンクの髪をゆるく巻いた清楚で大人しめの印象を与える子が、おずおずと前に出る。
「え……この、子?」
 どこが芯の強い子だ。月夜の袖を握って今にも背中に隠れてしまいそうな子を捕まえて何て失礼な。そう思いながら膝に手を乗せて前屈みになるような体勢で声をかける。
「俺、初詣まだなんだ。一緒に行こうぜ!」
「いいけど……周くんは、お腹空いてない?」
「………………は?」
 たっぷり10秒黙って、何が起きているか考える。初対面の子が名前を呼んだ、誰かと似たような声で誰かと同じ呼び名で。そういや、誰かさんも髪の色はピンクだったような……と思考を巡らして、わざわざナンパがバツゲームだった理由に気付く。
「おい刀真! てめぇ、どういうつもりで……!」
「周、君の女性に対する情熱や優しさは好きです。今日はそれをいつも傍にいてくれるパートナーに向けて下さい」
 それでは、と爽やかな笑顔を浮かべて去る刀真に悔しそうに頭を掻く周。その様子に恥じらっていたレミも段々いつものトーンに戻ってくる。
「周くん、まさかあたしだと気付かないで声かけてた……?」
「当たり前だろ! いつも髪束ねてるくせに……光条兵器の目くらましも失敗するし最悪だぜ」
「……目くらまし?」
 あ、と口を押さえてももう遅い。わなわなと震えていたレミは高く手を掲げる。
「何に使うのかと思えば……周くんのぶわかああああっ!!」
 ――パァアアアンッ!!
 積もり積もった怒りが込められた怒りの一撃。それは、先ほどの試合で食らった特大の火薬玉よりも強烈な一撃になったのだった。
 そして、第二コートでの試合も終わる。勝利を収めたのは、薔薇の学舎だった。
(これで……少しは機嫌が直ってくれればいいんだけどねぇ)
 さすがに疲れたのか北都はコートの上で膝をつき呼吸を整える。そんな彼に手を伸ばしたのは、朱華だった。
「おつかれー、まさか僕の自信作が壊されちゃうとは思わなかったよ」
 何の仕掛けもしてなかったけどさ、と屈託無く笑う顔は先ほどまで対戦していたことを忘れさせるようだ。それに驚いて見上げていると、朱華は慌てて手を引っ込めて両手を上げる。
「悪い、もしかして馴れ馴れしいとか思われた? 別にそういうつもりじゃなかったんだけど……」
「あ、ううん。その、あんまり慣れてないからびっくりしただけ」
 対戦相手に手を差し出すなんて、しかも負けたのに悔しがることもしないで笑顔でいる。自分とは違う環境で育ってきたのだから彼にとっては普通なのかもしれないが、何を考えているのかわからない態度にどう返せばいいのかわからない。
「そっか。僕は争いごとってあまり好きじゃないんだけど、こういうゲームの対戦だったらまたやってみたいと思うよ」
「……負けるかもしれないのに?」
 勝てば何だって手に入る、目に留めて貰える。負けて良いことなんて1つもないのに。けれど朱華は、不思議そうな顔をする。
「んー、負けるのは悔しいけど、次頑張ろうとか楽しかったって思えるならそれも良いと思うよ。逆に勝ってばかりもつまらなそうだし」
 勝つことが当たり前になってしまったら、勝っても嬉しくも楽しくもない。それが当然だから。それは、何にでも当てはまる物なのだろうかと北都は欲しがっていた言葉と温もりを思い返す。
(欲しいと思う前に与えられる方が幸せだと思ってたけど……人は貪欲だしね)
 1つ出来れば次も次もと切望するパターンもあるだろう。けれど、負けを楽しめる心の広さは、ほんの少し見習いたいと思うのだった。
 そうして、長かった試合も最終戦。ルカルカダリルの試合が始まった。体力が尽き、羽子板が割れ、最後まで残ったのは互いに鍛え合ってきたパートナー同士の2人だった。
「ふふっ、宜しくお手合わせ願いまぁす☆」
 ニコニコと微笑むルカルカに少々戸惑いながら、ダリルは試合前の握手を交わす。
 彼女とは良き相棒だし、世界が敵になっても敵にはならないつもりでいた。出来れば表彰台を独占したいと思っていた以上、こうなることを予想してはいたのに実際向かい合うと迷いが生じる。
「ダリル、貴方と戦えて嬉しいわ。全力でお願いね」
 力強い瞳で言われれば、相棒としてその真摯な想いには応えたい。ダリルは迷いを振り切るように羽子板を握りしめた。
 2人の服装は同じ男性の袴。襷掛けで袖の処理をし動きやすく、足袋は滑り防止のため底がゴム製。同じ学舎で一緒に学んできた2人は、体力はほぼ同じ程度。羽子板のサイズも振り回し易く当て易いテニスラケットの長さで、薄い鉄板の天地を木板でサンド構造と衝撃耐久性を増しているところまで一緒なあのだから、あとは作戦と運が勝敗を決めることになるかもしれない。
 1本目のサーブはルカルカから。正々堂々闘うべく、妙な小細工はしないが正面から威嚇はする。飛び上がってサーブを打つ瞬間に見せた微笑みにダリルが身構えたところ、いきなり鬼眼を使ってきた。
「えいっ!」
 ――ヒュュウンッ!!
 ぞくりと背筋を走る戦慄。1歩反応が遅れ、大きめの羽根を選択していたルカルカの一撃はダリルの羽子板の先を掠りそのままコートに爆風を巻き起こす。
「くっ!!」
 離れた位置に落下したおかげで直撃を免れたが、あれを食らっていれば死ぬことは無くてもタダじゃ済まないだろう。
(……そう思いたいものだが)
 シュウシュウと黒い煙を上げるコートでは大きな焼け跡があり一部凹んでいるように見える。これは本当に軍事訓練ではなく他校交流会の競技で使用される物なのだろうか。
「ダリルー、どんどん行くわよ!」
 次にルカルカが選んだのも大きな羽根。数種類あった羽根の中で1番耐久力が低いようなので、さほど打ち返してはいられないだろう。ルカルカが飛び上がった瞬間、ダリルはあえて目を閉じる。先ほどと同じ手をくらわないためと、殺気看破を使用してルカルカが撃とうと意識する方向を見切れないか試す為だ。それでなくても、軍人として十分に鍛えられたダリルは神経を研ぎ澄ませば感じる物がある。空気の流れ、相手の呼吸、全てを感じ取れば最善の方向へ自然と体は動いていた。
「そこだ!!」
 今ルカルカが立っているであろう場所から1番遠いポイントを狙って打ち返し、彼女のコートに墨の水たまりを作ることに成功した。
「ふふ、そうでなくっちゃ! でも、これならどう?」
 ダリルが羽根を取りに行く時間を利用してドラゴンアーツでパワーを、そしてヒロイックアサルトでで反射と速度をブーストし、次の一手に備える。中国の英傑夏侯淵の「疾風」を利用した身体強化系のヒロイックアサルトはダリルには使えないスキル。ここで対等だった2人の能力に差が出来たことになる。
「さて、どうだろうな」
 やり合う前は躊躇っていたが、実際始まると本気の彼女と戦える機会は練習試合でも滅多とないからか気分も高揚してくる。彼女の本気に応えるためにも鋭いサーブを打ち出すが、当然それでルカルカが倒れるわけもない。比較的ゆるやかな攻撃で羽根の滞空時間を延ばし、その間にブラインドナイブスと隠れ身でルカルカが打ち返そうとする一瞬を狙い相手の視界から消える。当然ルカルカはどこを狙えば良いのか分からず、迷いが出た打球は不安定なままダリルのコートへ飛ぶ。それを狙っていたダリルは姿を現し即チェインスマイトで打ち返す。これは、ルカルカも同じ作戦を考えていたので、2発目にくるのが本物だと思い打ち返した。だが、不敵な笑みでダリルがそれを羽子板でキャッチすれば、その後に自分の後ろから聞こえる破裂音。どうやら2発目がダミーだったようで、後ろからはラベンダーの香りがかなりの濃さで漂ってくる。
「油断したな、ルカ。2発目のはコイツだ」
「み、みかん……!?」
 試合に行くというのに何故かみかんを2個ほど携帯していたダリル。今の今まで、それは試合が長引いたときに何処かへ取りに行かなくても何か食べれるように用意しているのかと思っていたが、まさかこんな使い道をしてくるなんて。
 予想外過ぎる攻撃に、もう気を抜く物かと真っ直ぐ見据えるルカルカのため、1番耐久力が強いであろう小さい羽根を選ぶ。それは偶然にも普通の羽根を引いてしまったらしく、激しい攻防戦が長く続いた。そして――
「はぁ……壊れちゃった」
 鉄板を挟んでいるから壊れることなど無いと思っていたが、次第に木の部分が削れていき原型がわからなくなったので、あえなく失格となってしまった。
「木をきちんと乾かしていなかったか、最初の素材選びのときか……まだまだ鍛錬が必要だな」
 残念がる彼女の頭を軽く小突いて、ダリルは少し安堵したような微笑みを見せる。生涯のパートナーを見つけた彼女の隣には、せめて頼れる相棒として隣に立っていたい。そのためにも彼女に負けるわけにはいかないのだと、ダリルはより一層自身を高めることを誓うのだった。