シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

約束のクリスマス

リアクション公開中!

約束のクリスマス
約束のクリスマス 約束のクリスマス

リアクション



0・洞窟での生活


 薄暗い洞窟で泥のように眠っている男がいる。王大鋸(わん・だーじゅ)だ。大の字の形でうつぶせに寝ている。天井を向いたモヒカン頭はびくともしない。
 洞窟には、以前にラスコーと子供たちが書いた壁画がある。躍動感あるパラミタの生き物が壁画から大鋸を見ている。
「この壁画も持ってきてーな、なあワンちゃん!」
 大鋸に語りかける声がする。しかし、大鋸はびくともしない。
「だめ、毎日起こすのたいへんヨ」
 シー・イー(しー・いー) が空っぽの大なべを持ってやってきた。
 壁画を見ている声の主、国頭 武尊(くにがみ・たける)になにやら身振りで合図を送っている。
「こうかぁ?」
 シーをまねて武尊が両手で耳をふさぐ。シーが大なべを壁にたたきつける。
 大きな音が洞窟内に反響する。
「うっせーぞ」
 どうにか大鋸が声を出す。
「ダージュ、友達だよォ」
 洞窟の外からは子供たちの笑い声が聞こえている。
「ダージュ、もう食べ物がナイよ」
「おう!」
 どうにか目を開ける大鋸、
「ウッ!」
 目の前に近づいている武尊の顔に驚く。
「なんだぁ?朝っぱらから」
「なんだじゃねーよ、ワンちゃん、ミズクセーぞぉ、孤児院建設予定地の古い集落跡を見つけてきたのはオレだぜ。一人で何やってるんだよ」
「うっせぇー」


 学校再建のために列車強盗を計画したはずなのに、なぜか、盗掘現場で働いていた子供たちを引き取ることになり、以前より金欠に悩まされた大鋸は、子供たちの提案でフリーマーケットを開催した。しかし、大鋸はフリマに参加しなかった。四天王を目指す自分がするべき行動でないと悩んでしまった。今、そのことを恥じている。

「一人でやりてーんだょ」
 その言葉に、
「ふざけんなぁ」
 武尊は叫んだ。
 大鋸が誰にも相談しないで孤児院を作る集落を見回っていた。そのことを武尊は知っていた。というか、孤児たちに関わったみんなは気がついていた。
「わんちゃんにもプライドがあるんだよ、しばらく一人にしてあげようよ」
 誰かが言った。しかしである。
 みな、ここまで関わったのだ。ここから大鋸一人に任せるわけにはいかない。
「ワンちゃん、もっとドーンと行こうぜっ、こまけーことは気にすんなぁ!」

 急に、洞窟の外から聞こえていた子供たちの声が消えた。
 不審に感じる大鋸。
「みんな授業にいくノダよ」
 シーがいう。
「はぁ?」
 聞き返す大鋸の背中を武尊が押す。
「子どもらはやつらに任せて、俺らは蟻退治だ!」


1.自給自足計画

 寝ぼけ眼で外に出た大鋸。
 目の前には珍しく防寒具を着込んだ羽高 魅世瑠(はだか・みせる)がいる。
「なんだぁ、朝っぱらから」
「ワンちゃん、おはよぉ!」
 普段は裸同然の魅世瑠が珍しく着込んでいる暖かそうなコートを見やる大鋸。
「なんだぁ、そのナリ?ばっくれるのかぁ?」
「まさか、どこにだよ!もうすぐクリスマスだろ・・・まぁ、あたしらには関係ねぇけどよ、子供はお祭り騒ぎ大好きだろっ」
「チキン食いてぇーかと思ってよ」
 横から口を挟むフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、子どもたちにコートを着せていた。
「とり肉タベたい!」
 既に少し先に進んでいたラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が叫んでいる。
「子供たちにも王さんにも精をつけて貰わないとね…うふふ」
 妖艶に微笑むのは、アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)だ。
 普段は裸同然の4人が服を着込んでいるので、大鋸は逆に目のやり場に困っている。
「じゃ、蟻退治任せたぜ!おーし、あたしらは狩りにいくぜ!ついでに子供らにいっちょ狩りの厳しさを教えてやっか!」
 魅世瑠たち4人は、7,8人の子供を引き連れて、森の中に入っていく。
 その中には、大鋸になついている孤児、レッテの姿もあった。
「だーちゃん、待ってろよ!肉持って帰るぞっ!」
 やせて貧弱だったレッテだが、この数週間で急に背も伸び女の子らしくなっている。
「おうっ!」
 返事をした大鋸、去ってゆく魅世瑠とレッテたちを見ている。
「やんちゃは魅世瑠に任せて、残りは・・・」
 武尊が見る先には、子供たちとにこやかに話しているロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がいる。
「セリナは護身術を教えにきてくれてよー、これで俺らも心置きなく蟻と戦えるってわけだ」
「おせっかいばかりだな」
 大鋸は大きくため息を付くと、血煙爪を持ち、愛用のスパイクバイクに揚々とまたがった。


 それぞれが出発して、洞窟周辺に残っているのは、ロザリンド・セリナとシー・イー、それに狩りを怖がって残った数人の孤児たちだ。
 列車から救出されたとき20名ほどいた孤児は、現在12名にまで減っている。弁天屋 菊(べんてんや・きく)ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)のインターネットを使った里親探しが功を奏して、実の両親に再会できた子供や、暖かな家庭に引き取られた子供もいたからだ。
 現在残っている子供は、それぞれに過去に引きずられている子どもが多い。引取りを希望する里親が見つかっても大鋸や友達との暮らしを選ぶ子もいた。

 ロザリンドが対峙している5人の子供たちは、それぞれに心に傷を負い、言葉でのコミュニケーションをうまくとることができずに成長していた。

「まず並んで、真似するノダ」
 シーが子供たちに声をかける。
 先生のロザリンドが棒を持ち前に立ち、シーや子供たちが横に並ぶ。
「私が教えるのは、倒すための戦い方ではなく護るための戦い方です。覚えておくと、人を傷つけることも自分が傷つくこともなくなります」
 その言葉に、シーが大げさにため息をつく。
「ダージュに教えてあげたいヨ」
 子供たちは大鋸の傷だらけの顔を思い出して、くすっと笑った。
「いいですか、まず棒は腰に構えて。利き手を後ろに引いて、反対の手は支える程度で。押し出す時には手首を軽く捻って棒を回転させるように」
 言葉にすると難しそうだが、動作は簡単だ。どの子もさっと覚える。
「次に私が左右に動きますから、私の体の真ん中を棒の先端に捕えるように。こうしておけば棒が邪魔になりますので、こちらは前に進みにくくなるんですよ。」
 みな真剣な顔で聞き入っている。
「では一人ずつ・・・」
 その言葉が終わる前に、一人の男の子がロザリンドに突進した。目が血走っている。
 かわすロザリンド。
「アキラ、駄目だよ、落ち着けよ」
 別の男の子が、アキラを背中から抱える。
「大丈夫だよ、この人は敵じゃない、前に一緒に帽子を作ったんだ、いい人だよ」
 男の子はエナロ。以前あったとき、フリーマーケットに出品する帽子をロザリンドにほめてもらった。そのことをずっと覚えていた。
「ありがとう、エナロ」
 シーがアキラの肩を抱く。
「この子は2才から盗掘現場で働いていたヨ、小さいと狭い場所に入れるカラ・・」
 硬直するアキラの手をとるロザリンド。
「自分やみんなを守るために戦い方を学ぶのです。王さんが、よい家を作ってれます。みんなでその家を守りましょう」
 頷くアキラ。
「ロザリー、今度はアタシが相手だョ」
 大げさに構えたシーがロザリンドの前に立つ。
「どちらが上手か、勝負です」
 シーのコミカルな動きに子供たちから歓声が沸いた。