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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

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第七章 ――地下・第二層――

・地下組

「く……どうにも困りましたね」
 最深部へ行く途中の地下の一室、リヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)らは突然の閃光の球による迎撃に見舞われてる。
「今の声、誰かが上で妙な真似でもしたのか?」
 黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が険しい表情で言う。守護者の声とその内容から察すれば、上階で何が起こっていても不思議はないのだ。
「このままじゃキリがないよ!」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は踊るように攻撃を交わしてこそいるが、相手の正体が分からないためになかなか完全な攻めに転じることが出来ない。それは彼のパートナーの森 乱丸(もり・らんまる)も同様であるらしい。
「リヴァルト殿を守らねば……しかし、分が悪すぎます」
 部屋そのものは広い。だが、一箇所に固まらずに散っていても、人数分の光球は否応なく迫ってくる。
「バラバラにならないで下さいっ! 埒が明かないなら慎重にいくべきですっ」
 攻撃により散り散りになりかけていたところで、桐生 ひな(きりゅう・ひな)がまとまるように促す。その間も容赦なく光球が降り注ぐ。
「これが魔法攻撃だってんなら……」
 佐伯 梓(さえき・あずさ)がディテクトエビル、エンデュアで魔法に対する防御力を高め、応戦する。一箇所に集ったことにより、その場に微弱ながらも結界を展開し、耐える。
 しかしそれでも、光球によるダメージは積み重なっていく。
「どうやら俺達を消毒……って事は無さそうだねぇ。当たればかなり痛いし、傷も負うからねぇ」
 どれだけ協力しようとも、完全に防ぐ事は難しい。それどころか、時間を追う毎に攻撃精度が上がっているようにさえ感じられる。
「皆さん、回復は任せて下さい」
 御堂 緋音(みどう・あかね)がヒールを使い、その場の者の傷を癒していく。
「私も手伝いますっ。でも魔法や技を使った人はそっちの回復を優先しないといけませんねっ」
 ひなはSPタブレットと驚きの歌により仲間のSPの回復に努める。それと並行して、緋音とともにヒールも使用する。
「わらわも手伝うとするのじゃ」
 ひなのパートナー、アリスのナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)もSP回復のため、アリスキッスを消費が多い者から順に施していく。
「助かるよ。さて、俺が足手纏いになってちゃ悪いし……」
 にゃん丸は剣を構えているリアトリスや鈴木 周(すずき・しゅう)の背後に回りこむ。だが、それでも光球は彼を追いかける。
「……仕方ないねぇ」
 自らに迫る光球をブラインドナイブスによって斬り裂く。だが、新たなるそれが彼に狙いを定めようとしている。
(人数分の光球。倒しても沸いてくる。それに、追撃機能。という事は部屋の何処かにセンサーか制御装置がある筈)
 にゃん丸の推測によれば、攻撃は部屋にある何らかの設備が、彼らの存在を感知しているために起こっているということだった。
(守護者とやらの仕業なら、力を送った媒介や装置みたいなのが部屋のどっかにあるかも。
それ壊しても消えるかは……消えたらいいな。でも、なんで人数分なんだろう? 迎撃するだけだったらもっと一杯出せば効率もいいのに)
 人数分の謎までは解けていなかったものの、装置の存在いついては彼も気づいたようだった。にゃん丸がそれを探そうとしているのを行動を見て察し、目配せをする。
(にゃん丸達がどうにかできるものを探すみたいだな。だったら……)
 周が部屋の中心での固まりから抜け出してた。
「こっちだぜ、玉っころ!!」
 彼は囮となって攻撃を引きつけようとしているようだ。だが、自動追撃もあるかもしれない光球にそれが効くかは分からない。
「『こっちだぜ』って、もー!! また無茶するーっ!!」
 周のパートナー、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が呆れ半分に叫ぶ。
「くそ、この玉っころ、一度狙いを決めた相手にしか行かないのかよ!? だったら――コイツはどうだ!」
 光球は標的を追うものの、出現した直後はある程度固まっていた。周はそこに爆炎波を放ったのである。そこにあったものは、一時的にではあるが消滅した。
「やったか!?」
 しかし、一息つく暇もなく消し飛ばしたのと同じ数が再び現れる。もちろんそれで全てではなく、消せなかった一つが攻撃の制御装置のようなものを探す梓に迫っていた。一瞬の隙があったために、魔法の展開が遅れる。
「……!」
 そこへ現れ攻撃を防いだのは、彼のパートナーのオゼト・ザクイウェム(おぜと・ざくいうぇむ)だ。さらに彼は奈落の鉄鎖によって距離のある位置からでも光球を斬っている。
「サンキュー、助かったぜー」
 それからオゼトは梓の護衛に徹しながら反撃を続けていった。
「皆さんにばかり負担をかけるわけにはいきません。私も出ます」
 当事者としての責任感なのか、リヴァルトもまた反撃に出ようとした。
「リヴァルト君。大丈夫、ここは僕達に任せて!」
「しかし……」
「まだこの先にも何かがあるかもしれなから、無理しちゃダメだよ。当事者だからこそ、無事でいなきゃいけないんだよ」
 リアトリス、蘭丸の二人が一歩前へ出る。
「すいません、ありがとうございます」
 剣を構えつつ、リヴァルトは前へ出そうとした足を引っ込める。
「く……この玉っころ、だんだん復活するペースが早くなってやがる!」
 スキルを駆使して光球を斬り、時間稼ぎをしている周だったが、少しずつ追い込まれていた。
「周くん、ここはあたしに」
 レミが周に対してヒールをかける。
「他のみんなも、これで」
 続いて近くにいる他の者達にはリカバリを施す。
「ありがとよ、レミ!」
 体勢を立て直し、周は再び攻撃に転じる。その時、リヴァルトがあることに気づいた。
「復活するペースこそ早くなってますが、一つ一つはタイムラグが発生してますね。同時には発動出来ないようです」
 それを聞いた攻撃組は、
「だったら、その順番を上手く見極めるだけだよ!」
 対抗策が見つかるまでの間とはいえ、順当に斬っていけば均衡は保てる。現在攻撃に徹している者は四人、対し光球は十一。一人当たり三つを始末していけば他の者達に被害は及ばなくて済む。回復役も四人いるから、バランスは取れている。
(あれは……)
 その時、にゃん丸が天井であるものを発見した。梓もそれと同じものを、壁沿いで見つけていた。
(光る魔方陣。あれが制御装置なのか?)
 半信半疑ながら、その可能性があると考える。
(あの魔方陣の効果を失くすことが出来れば、よし)
 梓が壁の魔方陣に向かって魔法を仕掛ける。サンダーブラストだ。雷がそこへ直撃し、轟音が響く。
「壊した、のか?」
 魔方陣自体はその光を失っていた。にゃん丸の見つけた方はまだ光を放っていたため、同様に破壊する。
 だが……
「な、消えない!?」
 光球は相変わらず狙いを定めて襲ってきていた。さらに最初に壊した方の魔法陣を見ると、
「光が戻ってますね。もしかしたら……」
 天井を見上げるリヴァルト。壊れた魔法陣に少しずつ光が戻っていく。さらに、また別の魔方陣が見つかった。
「この部屋の魔方陣は全て同時に破壊しなければいけないようです。確信は持てませんが」
その総数は五。天井のものはちょうど部屋の中心部にあったが、他は全て壁面に描かれている。同時に破壊するためには分散するしかないようだ。
「それなら、私達でどうにかするしかありませんね」
 緋音が攻撃態勢に移る。可能性があるなら、その方が有効だからだ。周達が光球を引き受けている間の今がそれを破壊するチャンスなのである。
「模様に傷さえ付けられれば、効力を失うはずですっ。私もやってみます!」
 ひなもまた動き出す。
「リヴァルト、この天井のヤツを頼む。俺はあの遠くのを狙う」
 部屋は直方体のようであり、中心から見たら東西の方が距離がある。にゃん丸は西にあるものを狙うため、素早く駆け出していく。緋音とひなの女性陣はそれぞれ、北と南である。
「最後の一つは俺がやるよ。合図はリヴァルト、宜しく!」
 残りの東側のものは梓が受け持つ事になった。
「了解です。皆さんの準備が整い次第、行きます。おっと!」
 リヴァルトは背後の光球を振り返らずに器用に薙ぐ。リアトリスや蘭丸が護衛を受け持っているとはいえ、対処には限界があるのだ。
「ごめん、大丈夫!?」
「ええ、このくらい問題ありません」
 剣を構え、天井を見据えるリヴァルト。
「突破口が見つかったみたいだな。なら、こっちも全力で支えてやるぜ! レミ、光条兵器だ!」
 パートナーからバスタードソード型の光条兵器を受け取る周。
「ちっとばかり引っ込んでな、玉っころ!!」
 その力を用いて一気に光球を消し飛ばす。しかし、復活まではほとんど時間がない。彼が消しきれなかった分はリアトリス、蘭丸、オゼトが斬り裂いた。そして、
「こっちは準備出来ました」
「いつでも大丈夫ですっ」
 北と南は魔方陣のポイントに辿り着いていた。
「俺も準備完了だ」
「みんないいみたいだぜ――リヴァルト!」
 リヴァルトはそれらの声を受け、一度全員を見渡して告げる。彼の目標は天井。そのため彼は一度剣を鞘に収め跳躍する。
「今です!」
 声と同時に抜剣。リヴァルトの剣が魔方陣を天井ごと斬り裂く。
 同時にひなはチェインマストで、にゃん丸は光条兵器によってそれぞれ魔方陣を捉えた。梓と緋音はサンダーブラストを魔方陣にぶつける。
 攻撃が終わると同時に、魔方陣が火花を上げて――爆発した。

        ***

「さっきの声、私達を排除すると言ってましたね」
 地下へのエレベーターの中、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が口を開いた。ちょうど地下へ到達し、扉が開いた時だった。
「それが聞こえたのって、ちょうどリヴァルト達が地下に行った頃だったっけ……という事は、今一番厄介な事になってる可能性があるのは彼らかな」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)は彼の言葉を受け、答える。排除するという言葉が本当なら、先にいるリヴァルト達が危険な状況に見舞われている可能性もあるのだ。
「そうなると早く合流したいですね」
 東間 リリエ(あずま・りりえ)もまた、この状況を懸念しているようである。続いて一歩先に通路へと出たレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が呟く。
「……これ、一本道、か?」
 暗がりの通路はずっと先まで続いているようだった。
「そのようですね。とりあえず明かりを、と」
 ウイングが光精の指輪で辺りを照らす。
「おっと行く前に、後続組が困らないようにしとかないとね」
 終夏は紙とペンを取り出し、『扉を閉めると地下に行けます。アトラス遺跡調査団』と書いた。それを部屋の中に置く。
「この部屋の性質上、こうでもしとかないと後の人達は分からないだろうからね。それに先に人がいるって事は万が一に備えて知らせとかないと」
 万が一、というのはこの先で自分達が危機に見舞われた時のことだ。遺跡が動き出した以上、安全である保障など、どこにもない。
「この先に待ち受けているのは何か。この本にそのヒントでもあればよかったんですが……どうやら魔道書のようです。ただ、敵が現れれば何か役に立つかもしれません」
 ウイングが持っているのは、ちょうど図書館の守護者との戦いの鍵となる古代の魔道書だった。しかし彼にそれを知る術はない。
「先を急ごうぜ。みんなが心配だ」
 そして一行は通路の奥へと進んでいった。

「気になったんだけど、ここって上と大分雰囲気違うよね。なんか古代の遺跡っていうより、科学の発達した近未来的な施設のような感じだよ」
 終夏が通路の周囲を見渡す。上の階層は綺麗過ぎるとはいえ、石造りのような壁などからそれらしい雰囲気が漂っていた。もっとも、それは遺跡を覆う幻覚のせいであったのだが。
「古王国は今よりも発達した文明だったようですが……それにしても、これは妙ですね」
 ウイングもまた訝しげだ。
「なぜこんな遺跡がずっと見つからなかったんでしょうか。やはり誰かが呼ばれている、ってことなのでしょうか?」
 不安げにリリエが言う。謎は深まるばかりだ。
「リヴァルトが記憶を取り戻してきているってのも奇妙な話だ」
 リリエのパートナー、ドラゴニュートのジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)も頭を悩ませている。
「リヴァルト、にしてもアイツなんだって勝手なマネを。もしあの二人に何かあったら……」
 レイディスは分断されたことも含め、独断専行したリヴァルトに憤っているようだ。歩きながらも、不安は拭えない。それが顔に出ていたのか、
「悪い方悪い方に考えなけりゃ、これが結構何とかなるもんだよ」
 と、終夏に励まされる。彼女はリズミカルに壁を叩きながら歩いてた。特に先行組を心配する様子はない。それから何かを持った手を差し出した。
「チョコ食べる? 食べると元気出るよー?」
「……こんな時に随分と余裕そうだな」
「こんな時だからこそ、気持ちに余裕を持たないとね」
 軽く笑って見せた。そのおかげで場の緊張感はわずかにだが、緩んだ。
 しばらくして、行き止まりに当たった。
「行き止まり……いや、これはシャッターか? まさかこの先に?」
「開けるための装置は近くにないみたいだぜい。どうやって入ったもんかね……」
 レイディスのパートナー、シュレイド・フリーウィンド(しゅれいど・ふりーうぃんど)が近くの壁沿いを調べるも、仕掛けの類は見つからない。
 シャッターのような扉の中からは何やら声が聞こえてくる。先行組はどうやらこの中にいるようだ。
「間違いない。この先に皆が……何とかして開けないと!」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が焦りの色を見せた。閉ざされた道の先には、分断された仲間がいるのは中の音を聞けば明らかだった。
「落ち着け、クライス。騎士たるものこういう時こそ冷静にならねばならぬ」
 彼のパートナーのローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が静かにクライスを諭す。
「クライス、俺に任せろ!」
 レイディスがシャッターのようなものに向かって轟雷閃を放つ。そのまま前に飛び出し、高周波ブレードで斬りつける。しかし、
「く、ダメか……」
 それはびくともしなかった。続いて、ウイングが前に出る。
「光条兵器ならばばこの程度……!」
 自らの光条兵器を呼び出し、攻撃を仕掛ける。それすらも弾かれてしまう。
「なんて頑丈な。一体何で出来ているんですか」
 傷一つない状態を見て、思わず驚嘆の声を上げてしまう。
 その場の者達は立ち尽くすしかなかった。だが、異変はすぐに訪れる。
「……中の音が、止んだ」