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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

リアクション


・守護者戦、決着

 降り注ぐ光の矢。その大部分は一階で戦う者達へと襲い来る。
「シャロット!」
 ランツェレットを庇うように前に出たシャロットは、光の矢を落としていく。それも目にも止まらぬ早さで。身体強化の魔法の影響だ。自分達の周囲の矢はほとんど撃ち落とされた。
「おい仮面野郎、守護者のくせに施設の備品壊すつもりか!」
 刀真が叫ぶ。だが、
「まずい!」
 光の矢は彼の近くを移動していた関谷 未憂(せきや・みゆう)リン・リーファ(りん・りーふぁ)をも捉えていた。
「月夜!」
 刀真はパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を振り返る。銃を構え、光の矢の群れに向けて連続で引き金を引いていく。それでも落としきれなかったものは刀真が黒の剣で落とした。
「大丈夫ですか?」
 今度は未憂達を見る。
「はい、なんとか」
 どうやら無事であるらしい。彼女は手に一冊の薄い本を持っていた。本、というよりはノートのようである。
「まさか紙片だと思ったものが本に戻るなんてね」
 リンが言う。ちょうどその事に気づきいて気を取られた隙に矢が降り注いだらしい。
「私はこれを読んで何か策がないか考えてみます」
 刀真に向けて未憂が告げるや否や、背後を大きな光が包み込んだ。二階からの強大な魔法攻撃が宙に浮く残りの光の矢を吹き飛ばしたのだ。
「分かりました……これは?」
 刀真が気づいたのは本棚に当たった光の矢が、一切それを傷つけていないという事実だった。本棚や壁に当たった矢はそのまま消滅した。
「なるほど、守護者の魔法はこの遺跡を傷つけないようになっているというわけですか」
 敵の魔法はあくまでも侵入者のみを攻撃対象としている。そしてそれを調整するだけの力があることを悟る。
「姉ちゃん、これ」
 その時、ミーレスが身体強化型の魔道書を三冊抱えて持ってきた。
「ありがとう、ミーレス。樹月さん!」
 ランツェレットは刀真に魔法を施す。

「んーとこれはハズレっぽいから、イラにゃい〜。これは何んだか使えそうな気がするにゃ〜」
 魔道書を探していたイングリットはある程度の検討をつけて魔道書をエレンディラのもとへと運んでいく。
「ありがとうございます」
 エレンディラがそれを受け取る。その後三階の方を見上げ、
「それと、どなたか存知ませんがありがとうございます」
 と頭を下げた。遠いために相手の顔は分からなかったが、三階から自分の所へ探している魔道書を降ろしてくれたのだ。
「ご丁寧に身体強化型と直接攻撃型を分かるようにして下さって……葵ちゃん!」
 彼女は身体強化の魔法を葵に施した。
「何だか力が湧いてきた……超感覚発動、封印解凍……全力全開、いっくよー!」
 葵は守護者の方へと駆け出していく。
 しかし、ちょうどその時守護者の前へと踊り出て行く男の姿があった。フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)である。
「おお、僕はあなたみたいな存在を探していた! 是非ともお友だ……ぐはっ!!」
 何やら対話を試みようとしていたが、あっさりと吹き飛ばされる。衝撃波のようなものを放ったらしい。そのまま勢いは止まらず、本棚に激突する。
 それに続き、今度は二階から守護者の結界に向かって飛び込んでくる人影がある。ディエーツ・トヴァ(でぃえーつ・とう゛ぁ)だ。その飛び降りた位置には、吹き抜けを覗くようにしてパートナーのディエーツの ドラゴニュート(でぃえーつの・どらごにゅーと)が静観している。
 だが、当然のごとく結界に阻まれ弾き出される。
「ぅー……」
 唸りながらもよろよろと立ち上がり、再び守護者へと立ち向かっていく。そこへもう一人、
「オラァア!」
 と結界を破った者がいた。強化魔法を施されたリシトだった。だが、結界内でも守護者は一対一で対峙出来る相手ではない。不可視の衝撃がリシトを結界の外へと弾き出した。
「ぐは……」
 腹部を圧迫され吐き気がこみ上げるものの、他に傷はない。
 この三人の行動は、守護者に対して攻勢に移るための時間稼ぎとなった。
「月夜、本を一冊下さい」
「……刀真、粗末にはしないで」
「大丈夫ですよ」
 刀真は一冊の本を抱え、守護者へと飛び込んでいく。その本は盾にするつもりであった。光の矢も館内のものは壊せないのだから、十分効果的だろう。
「よーっし!」
 葵が結界を破り敵の間合いに侵入する。その直後、刀真もまた結界を破る。その隙にシャロットもまた攻撃態勢に入り結界の内側へと侵入する。
「援護しますよ!」
 ランツェレットはひとまず攻撃型の魔道書は温存し、サンダーブラストで守護者を狙う。結界の破れた位置から侵入し、それは守護者を捉える。結界内に入った三人は既に敵を斬りつけるところまで来ていた。
 しかし、ここにきて守護者がついに動いた。
「えっ……!?」
 思わず目を見開く葵。それまで一歩も動かなかった敵が魔道書を抱えていない方の腕を振りかざす。
「―――――――!」
 詠唱。古代語であるためか、何と言ったのかは聞き取れない。
 守護者の足下の魔方陣が光を放つ。同時、攻撃に飛び込んだ三人が宙に浮く。動こうにも自由を奪われ身動きが取れない。
「去れ」
 敵の魔法が発動しかけたとき、守護者の結界が完全に破られる。それを察知し、守護者は三人にかけようとした魔法を解除し、攻撃を塞いだ。
「エレン、ありがと!」
 葵のパートナー、エレンディアが攻撃魔法の書を使用したのだ。
「任せて下さい!」
 光る魔道書はまだ残っている。さらに、
「こちらも選別完了じゃ。攻撃型、強化型、ダミー、全て分けておる。カス君」
「おう! そらよ、受け取れ!」
 マトーカが選別した魔道書をカシスがエレンディアやランツェレットへと投げる。しかし彼女達だけではない。
「二階にあった分も確保してきたぜ。こいつも使ってくれ!」
 螺旋階段を駆け下りてきた藤原 和人もまた、魔道書を渡していく。
「ふふ、助かりますよ」
 一度結界を破ったためか、強化の効果は弱まっているようだった。もう一度施す必要がありそうだ。
 刀真達は一度安全圏まで身を引き、再び機を窺う。
 が、そこで敵の様子が一変した。
「これはさっきの……いや、この魔力は!?」
 守護者の魔道書、魔方陣共に強い光を放っている。それだけではなく、
「ダミーの魔道書の光が!?」
 マトーカが選別し積み上げたダミーの魔道書から光が失われる。その魔力もまた敵の持つものへと流れ込んでいるようだった。
 天井に浮かぶのは今度は矢ではなく、剣だった。ほとんど実体にしか見えないほど精度の光の剣。

「俺を……忘れてもらっては……困るな」

 突如、守護者を背後から斬りつけようとした者の姿が現れた。一度結界が破れた際に入り込んでいたのは三人だけではなかったのだ。しかし、その攻撃は当たる事なく、むしろ反動で結界の外へその身体が弾き出される。
「く、幻覚は……効いてなかった……か」
 上手く体勢を立て直して、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が吐露する。
(こいつが敵であることは分かったが……その身を蝕む妄執は……聞かぬか。と、いう事は一切視覚に頼ってないわけだな……)
 気付かれてない事を生かし、上手く気配を絶ちながらいったつもりだったが、抜刀する際の殺気で感付かれたのである。
(もしやこっちの気や魔力を……読んでいるのか?)
 クルードは考察する。
 ただ、彼の攻撃のおかげで一時的に守護者は集中を乱したらしい。宙に浮く光の剣がわずかにその形を崩していた。
 そこへ新たに三人の人物が現れる。
「よっと、苦労してるみたいじゃねえか。クリム! この辺皆強化が必要みたいだぜ!」
 駿河北斗と彼のパートナーの二人だった。
「さすがに人数分も強化型はないわよ」
 クリムリッテは魔道書を開きながら、北斗を一瞥する。
「だったら……魔法使いか魔女がいたら協力して欲しい!」
 北斗が全員に聞こえるように叫ぶ。
「分かりました!」
「もちろんそのつもりですよ!」
 エレンディラ、ランツェレットが応じる。それとともに周囲の人間に強化魔法を施していく。
「この魔法は一定時間しかもちません。やるなら今です」
 最初に魔道書を使用したからこそ、ランツェレットはその事に気付いていた。
 本の数はマトーカの選別や、三階からの支援――瑠樹とマティエが下へ降ろしたものもあったため、数は十分だった。だが、今全員に使えばそのほとんどをここで消費することになる。
 クリムリッテから強化を施された北斗は守護者を見据えて、声を上げた。
「はっ、魔力に、魔法に、結界ね。遺跡に頼りきって強者面かよ。ちいせえちいせえ! そんなんじゃドージェには全然足りねえぜ!!」
 それは守護者に対する挑発というよりは、挑戦だった。どれだけ言おうと相手が途方もないほどの力を持っている事に変わりはない。
 だが、それでも倒すというのだ。
 無貌の魔道士は沈黙を保ったままだった。だが、彼の言葉に答えるかのような変化が訪れた――足下の魔方陣の光が消える。それは結界が消失したことを意味する。

愚かなる者達よ。なぜそれほどまでに抗う? 何故求める?

 最初の排除宣言以来、久しく聞こえてこなかった声が響いてくる。男とも女ともつかないその声には調査団の真意を試すかのような含みもあるようだった。
「力を得るためだ!」
 と、北斗は答えを返す。

ならば貴様の言う力を以って――ここから消えてもらおう

 守護者の持つ魔道書が手元を離れ、胸の前当たりに浮いている。両手が自由になった守護者はその手で何かを描いているようだった。
 図書館内部に現れたのは、それまでの光の矢、剣の比ではない。全ては魔力によって実体化されただけに過ぎない存在ではあるが、ありとあらゆる武器が室内を埋め尽くしている。
「へ、上等だ!!」
 北斗が飛び出していく。強化魔法のおかげで、降り注ぐ武器の雨を交わす事が出来るようになっていた。
「力がみなぎって、結界がなくなった今なら……」
 音井 博季(おとい・ひろき)もまた僅かに間隔を空けて守護者へと立ち向かっていく。
「では、先程のお返しといきましょう」
 優梨子もまた一歩を踏み出す。怪我はヒールによってある程度までは回復している。さらに強化魔法のおかげで痛みはほとんどない。
「俺達もおとなしくしちゃいられねーな!」
 ショウと小夜もまた立ち向かっていく。
「そうか、拳で語りあおうってことか。はは、これこそ友情への一歩!」
 フリードリッヒは何かを勘違いしたような事を呟きながら守護者へと迫っていく。
「……援護しよう。いかに強力な力だろうと、人数には勝てぬことを……教えてやる!」
 クルードも剣を構える。
「姉さん、援護は任せるよ。その攻撃型の魔道書は、切り札として取っといて」
「分かってますよ。ほんとにどうしようもなくなった時はお見舞いしてあげます」
 シャロットも前線に加わっていく。
「これだけの人数、それも強化魔法の力もあれば問題はなさそうですが……まだ気を引き締めた方がいいですね。月夜、頼みましたよ」
「……分かった」
 先んじた者達の様子を見つつ、刀真も守護者へと向かっていった。月夜は浮かぶ武器を撃ち落としたり、パワーブレスで前衛の力をさらに強化するなどのアシストをする。
「あたしもこうしちゃいられないね。よし、いっくよー!」
 再び力を得た葵が動き出す。
「ワタシもサポートするわ!」
 力を得たことで、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)もまた戦闘に参加する。彼女は前衛に加わらず、後方からの攻撃に回る。
「せめて気を逸らすことが出来れば……」
 弓矢を構えて守護者を狙う。だがそれ以上に迫り来る無数の武器の雨を防いでいく方が優先のようだった。
「は、こんな偽りの武器、いくら来ようが俺には効かないぜ!」
 最初に動き出した北斗が先制する。右拳を突き出し、パンチを食らわす。それに対し守護者はただ左手をそこへ差し出しただけだ。
「な、止められただと!?」
 二者の拳の間にはバリアのような障壁が存在していた。左手一つで敵は瞬時に結界を展開してみせたのだ。
 続いて右手で六芒星を結界と同じ位置に描き、そして、
「ち、危ねぇ!」
 結界を解除すると同時に魔力の波動が一直線に放出される。その間も武器の雨は止むことなく戦う者達を苦しめる。
「後ろがガラ空きですよ!」
 優梨子が守護者の背後に回りこみ、抜刀する。振り返った瞬間に見えるであろう仮面を狙っての事だ。
 敵は身体を翻した瞬間、左手の結界で刃を受け止める。
「さすがに前後を阻まれれば……防げまい」
 クルードが守護者が振り返った際に斬りつける。だが、それさえも届かない。
「両手で同時に結界を張り……あまつさえ武器の雨をコントロールするか……」
 隙を見つけては防がれる。今戦っている者達は、ここにきてこの敵の恐ろしさを真の意味で思い知る。
 強大な魔力でもなければ、遺跡の力を自在に操っている事ではない。どんな人数だろうが決して動揺せずただ精密機械のように的確に処理していく冷静さ。それこそが今自分達を苦しめていると悟った。
「それでもまだ……」
 今度はショウが攻撃を加えようとする。しかし、
「な!?」
 結界が使えなくなると、今度は攻撃用に展開している空中の武器でガードする。一度攻撃を食らった武器は四散し跡形もなく消えるが、浮かんでいるものは底なしのように沸いて出てくる。
「ぁー」
 何度弾かれようとも、よろよろと守護者へと立ち向かっていくディエーツ。彼女は結界はおろか、武器の雨によって進路を阻まれて身動きが取れない。
「魔道書が無防備よ!」
 葵がアルティマ・トゥーレで光を放ったまま浮かぶ魔道書に狙いを定める。
「これに遺跡の秘密があるはずです!」
 博季が狙うのも同様だ。ただ、彼はそれを手に入れたいようだ。
「今度は盾!?」
 魔道書の周囲に降ってきた剣は、その姿を盾に変えて二人の攻撃を防いだ。無数に浮かぶ武器の姿はあくまでも魔力によるもの、それは使用者の魔力がある限り自在に変化させることが出来るようだ。
 攻守一体の大魔法に、近接でも展開される結界、詠唱や予備動作をほとんど省いて繰り出される反撃の波動。
「でも、守りに徹せられるのには限界がある!」
 二人に続いてシャロットが魔道書を守る盾に打撃を加える。いくら形状が盾とはいえど、三度の攻撃によって消滅する。
「魔道書!」
 博季がそれに手を伸ばそうとする。もちろんそれこそが無貌の魔道士の力の根源だとも考えていたからだ。その考えはさほど間違ってはいなかった。そして瞬時にそれを切り裂いていればよかったのかもしれない。
「また、魔方陣が光って……!」
 魔道書は呼び寄せられるかのように、再び守護者の腕の中へ戻っていった。その際に何度も繰り出している不可視の波動により、魔方陣の外へ弾き出そうとした。
 そして、魔法の維持が難しかったのか、浮かぶ全ての武器が一斉に降り注いでくる。それらは全て結界として機能している魔方陣の外側だった。
「これ全部は厳しいですね……」
 ランツェレットは苦い顔をして切り札に手を出そうとする。
「でも、やれるだけやってみましょう」
 寸での所で思いとどまる。敵が魔道書を戻したということは、それが弱点であるという証拠であり――
「どうやら決着が着きそうですね」
 戦いの様子を見て、確信出来たようだ。
「あの敵を狙いに飛んだらこれですか。ちょっとまずいわね」
 パラソルチョコで守護者を空中から狙おうとしていたが、降り注ぐ武器の雨にかえってピンチに陥る小夜。
 そこへ爆炎波を纏った矢が飛んできて、周囲の武器を消滅させていく。
「強化されている状態なら、あの武器にも対抗出来るのね」
 アルメリアは本棚の陰から的確に空中の武器を狙っていく。
 続いてエレンディラとクリムリッテが手元にあった直接攻撃の魔道書を使用した。二つの強力な魔力は大部分の武器を消し飛ばしていく。その一部が守護者の結界に穴を空けていた。
 その時、結界の内側に動きがあった。
「ようやくこの時がきたか」
 守護者のすぐ足下に伏せていたのは、刀真だ。先程の衝撃波を彼はギリギリまで守護者に接近し、身を伏せることで防いでいたのだ。
 そしてもう一人、
「あんだけの口叩いといて軽く吹っ飛ばされてちゃ様になんねーからな!」
 北斗もまた、飛ばされないように堪えていたのだ。
「そろそろ頃合ね」
 その様子を見ていたベルフェンティータはダミーの魔道書を集め、準備をしている。
 二人の位置はほぼゼロ距離。しかも既に行動に移っている。下手に魔力を行使すると自らに反動も来かねない。強い力を持っているがゆえの欠点だった。それだけではなく、件の衝撃波は連続ですぐには放てないようである。
「終わりだ」
 刀真が乱撃ソニックブレードで魔道書を切り裂き、その刃はそのまま仮面に叩きつけられる。それと同時に、
「シャンバラ女王の加護が篭ってるってな曰くありの短剣だ。受け取りやがれぇえええ!!」
 叫びを上げながら、北斗は魔道書から腕にかけて斬撃を浴びせる。
 傷ついた魔道書はバチバチと火花のようなものを上げている。ダメージを負ったことで、中の魔力が行き場を失っているようだ。
 ヒビの入った仮面を押さえ、魔道書を持った手はだらりとぶら下がっている。
 そこへ結界の隙間からダミーの魔道書が入ってくる。
「ベル、何だってそんなもんを!?」
「二人とも、早くその結界から出て」
 促されるままに北斗と刀真は守護者から飛び退く。
「ねえ、電子機器なら電気、原子路なら放射線が漏れたら、果たしてどうなるかしら? しかもそこに新しくそれらを加えたら?」
 ダミーの魔道書は守護者が手にするものへ魔力を供給していた。しかしそれは先程の攻撃で傷付けられている。
「伏せて!」 
 供給される魔力を、壊れた魔道書には制御する事が出来なかった。
 
 大気が揺れるほどの轟音と衝撃。

 守護者をも巻き込み、敵の魔道書は爆発したのだ。結界を張っていた魔方陣の床は黒く焦げ、守護者の姿は跡形もない。
 周囲にはボロボロになった魔道書の残骸があるのみだった。
 改めて周囲を警戒するが、魔方陣の光は治まっていた。戦闘に有効だった魔道書も光を失っていたものの、未使用のものはまだ効力を持っているようだった。

「なんとか倒したようですね」
 刀真は安堵した。強化の効力も消え、今来られてもさっきのようにはいかないだろう。彼は月夜のところへ戻る。
「ぐふ、月夜……何を?」
 守護者を倒した者の一人として戻ったにも関わらず、パートナーからのボディブローを食らう。
「……本、盾にしてた」
 最初の突撃時、本を盾にしたのを月夜は見逃していなかった。
「あれはですね……」
「どんな理由があろうと……本を粗末にしては駄目」
 力強く刀真の目を見る月夜。彼はそれ以上言い訳はしなかった。
「あー、魔道書が……」
 博季はかつて魔道書だったものを見て残念そうにしている。
「はぅー、つ、疲れた……ちょっと休憩……スヤスヤ……」
 葵は満身創痍だったためか、その場にへたり込んでしまった。
「葵ちゃん、ご苦労様でした」
 エレンディラが葵を介抱する。
「ほんと、よく頑張ったにゃ」
 イングリットもそこへ駆け寄る。強大な敵を倒し、緊張の糸が切れたようだ。
「ふう、ようやく終わったようですね」
 ランツェレットもほっと一息をつく。
「大丈夫だった? よくがんばったわね」
 二人のパートナーを彼女は見遣る。
「姉ちゃーん」
 ミーレスが彼女の胸元に飛び込んでいく。光の矢が降り注ぐ中魔道書探しに奔走するのは大変なことだった。ランツェレットはスリスリとミーレスを撫でる。
「ふう、遺跡が生きていたとは驚いたな」
 ちょうどシャロットも戻ってくるところだった。
「シャロット、もぅ、頼りになるんだからぁ」
 思わずシャロットに抱きつくランツェレット。
「兄ちゃーん」
 ミーレスも便乗する。
「ああ、もう。まあ、あんなとんでもないのと戦ったんだ、まずは一息つこう」
 シャロットも疲れを隠せないようである。
「なんとか終わったようじゃの」
 マトーカも状況を見てほっとしているようだった。
「先程は魔道書ありがとうございます」
 すぐ近くにエレンディラがおり、その事でお礼を言っていた。
「いやいや、そう頭を下げなさるな。我にはあのくらいしか出来んからのう」
 そしてもう一人、
「さっきはありがとな。クリム一人じゃカバーし切れなかったぜ」
 北斗は手伝ってくれたエレンディラのもとへ駆け寄る。
「いえいえ。それよりもあの守護者を倒したじゃないですか。すごいですよ――お疲れ様です」
 今度は彼女が頭を下げる番だった。
「何、礼を言われるようなことはしてねーよ。強いヤツは超えていくだけだ」
 同じ時、刀真はランツェレットに歩み寄っていた。
「君の協力が無ければ勝てませんでした。ありがとうございます。魔道書が無事ならよかったんですが……」
 手に持っていたのは魔道書の残骸だった。完全に効力が切れたかは分からないため、先程さりげなく回収していたのだ。
「私にはあのくらしか出来ませんでした。それに他の皆さんの強力もあったからこそ、こうやって勝てたんです。最後、お見事でした」
 彼女が守護者の武器の雨に対して切り札を使わなかったのは、敵の死角をついた刀真の姿を捉えていたからだ。
「その守護者が持ってた魔道書の残骸、よろしいですか? そのような状態でも、何かのヒントになるかもしれません」
「ええ、俺は剣士ですから必要ありません。どうぞ」
 刀真から残骸を受け取るランツェレット。
「それでは俺はこれで」
 その場を彼は去っていった。
「あの守護者の使っていた魔道書……一体どのような仕組みで遺跡を操っていたんでしょうか?」
 
「刀真、皆が心配だから行こう」
 月夜は地下行ったと思しき友人達を心配しているようだった。
「彼らがどこにいるか分かればいいんですが」
 トランシーバーの類は持っていないため、どこへ行ったか分からない。
「……多分、奥」
 友人達のことだから、こういう遺跡では最深部へ向かうものだと推測した。
「皆無事かな……?」
「彼らが危険だとか、想像付かないんですけどね。恩を売っておきますか」
 二人は図書館から出て、この遺跡の最深部を目指すようだった。


「ぁー……」
 何度も結界に阻まれ全身傷だらけのディエーツはふらふらよろけながら螺旋階段を上っていった。その様子を吹き抜け越しにパートナーが見ていたが、決して助けようとはせず相変わらずじっと見つめるだけだった。


 図書館の戦闘が終わったのは、ちょうどリヴァルト達の戦いが終わるのと同じくらいだった。