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涼司と秘湯とエコーの秘密

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涼司と秘湯とエコーの秘密

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【10・最後は秘湯でまったりと】

 日が沈んでしばらく時間が経ったが。まだ洞窟には多くの生徒がいた。
まず洞窟の外にいる人はと言うと、
「ふぅ、たまらんのぉ。この為に生きていると言っても過言でないな」
「ほどとどにしないと、早く湯冷めするでありますよ」
 売店で買った、冷えたビールをごくごくと飲むのは野武。
 金烏も相伴に預かりつつ、ちゃんと度をわきまえて飲んでいた。
「温泉では必ずピンポンをしなければいけない? ラケットにはスリッパを使用する? そういうものなのですか」
「そうですぅ。さっそくやりましょぅ」
そしてシラノと十八号は、長テーブルとスリッパを借りて卓球をやり始めていた。
「うん、やっぱり風呂上りの牛乳はいいねぇ」
「……そうでございますね」
 それをぼんやり眺めて牛乳を飲んでいる北都。
そして傍らで未だに落ち込んでいるクナイは、牛乳を持って微動だにしていなかった。
「マナカ的には、風呂上りはやっぱりこれじゃん」
 その隣で真菜華はフルーツ牛乳を一気飲みしており、
「ええ。温泉のあとはフルーツ牛乳ですよね」
 アリアも同意しつつ、こちらは対照的にちびちびと飲んで楽しんでいた。
「あ、じゃあその温泉饅頭をみっつ」
 売店で買い物をしているのはレイディス。
ちなみに相棒のシュレイドの方は、なんだかズタボロになって椅子の上で燃え尽きていた。隣では、彼の相手をしていた大和もぐったりと座り込んでうたた寝をしていた。
「すげ〜温まった気がするぜ? んじゃ、湯ざめしないうちに帰るか? 温度差激しいと風邪引きそうだしな」
「ほんと良いお湯でしたね? なんか、ボロボロの人もおりますが、楽しかったので、良しとしましょう」
そんな話をして微笑んでいるのは、神楽坂翡翠とレイス。
「さぁさ、今買わないときっと後悔するですよぉ」
 一同に向けて声を張り上げている伽羅は、まだシャンバラングッズをオススメしていた。


次に、女湯の脱衣所では。
歌菜、ラキシス、忍がなにやら騒がしくしていた。
まず歌菜がふたりの身体をしっかりとタオルで拭き、そしてドライヤーで髪の毛もちゃんと乾かしていく。
「ちゃ〜んと乾かさないと、風邪引いちゃうからね?」
「は〜い」
(歌菜殿は、本当に気のきく子じゃな)
 歌菜に甘えた状態でいるふたりは、すっかりなすがままで。
 それをまた笑って受け止める歌菜は、乾かした二人の髪をブラッシングして、そのあとに持って来たリボンを付けてあげ、お洒落をコーディネートしていた。色はラキシスが赤、忍には黄色を飾りつける。
「うん、二人とも可愛いよ♪」
「えへへ〜、リボンって普段つけないからうれしいなぁ〜歌菜お姉ちゃんありがとうっ!」
「ふふ。少し照れるが、大切にさせてもらうかのう」
 本当に、仲良しな三人であった。もっとも着替えはさすがに各々自分で終わらせたのでそのあたりはあしからず。仲良くといっても、彼女達のそれは家族愛に近いものなのである。
「さ、お風呂あがりは水分補給しないとね。ふたりはなにがいい?」
「あ、ボクは…………んっと、歌菜お姉ちゃんと同じので!」
「わしもそうさせてもらうかのう」
 そして三人は自販機からフルーツ牛乳を購入し、
「わーい! いただきまーす!」
「歌菜殿! これは腰に手を当てて、こう、ぐいっと飲むんじゃよな?」
「うん。そうだよっ、これはもうお風呂あがりのお約束だもん!」
 仲良く堪能するのであった。

そして、女湯の中では。
「今回の戦い、それがしもまだまだでしたな」
「でも、本当にお疲れ様でした。涼司さんとの決着は、また改めてということで今はゆっくり温泉を楽しみましょう」
「そうですな!」
 戦い終わって、休息をとっている玲とレオポルディナ。
「はぁ……ひどいめに遭っちゃったわね」
「ええ。花音さんを騙すつもりが、こちらが騙されてしまうなんて思いませんでしたわ」
 同様に戦闘後の疲れを癒しに、望とノートも汗を流しにきていた。
 そんな彼女たちとは、少し離れた位置で湯に浸かっているのは朔。
 一緒に来た美央達は既に帰っていたが、彼女は戦闘の疲れを理由にここに寄ったのである。が、
「ふぅ……もっと、可愛くなりたいです」
 なにやら珍しく物憂げに溜め息をついていた。
 実のところ、パートナー三人と一緒に入ろうかとも思った彼女なのだが。身体に刻まれた刺青を少し気にしてか、結局ひとりで入ることにしたのだった。
「いずれ、何の気兼ねもなく皆と温泉に入れる日が来るのか、な」
 そんな呟きをし、ひとりたそがれる朔であった。
 ただ。
「ねー、やっぱり朔ッチと一緒に入ろうよー」
「うーん……そうでありますなぁ」
「いやいや。ああいう表情を敢えて影から見るのがよいのですな」
 そこから少し離れた位置に、パートナーの三人がしっかり陣取っていたりするのだが。それに朔が気づくことは無かった。

 そして。男湯でも、まだ入っている人はいる。
「ふぅ、ついつい時間を忘れてしまうでありますな」
 長風呂を満喫している剛太郎と、
「はぁ……今思い出しても恐ろしいです。こうして温泉でのんびりできる時間がとてつもなく心地よく感じます」
 先程の騒動の後、どうにか逃げ延びて目的の男湯に辿り着いた永太がいた。
 そしてもうひとりリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)も入っているのだが。
 彼の格好は、他とは明らかに異彩を放っていた。
 なぜなら上はストラップレスで下はローライズの、ピンク色のかわいい水着を着ており。そして舞い散る桜を描いた長いスカーフを腰に巻いていたからだった。
 しかし決してそういうシュミなのではなく、メンズ水着であうのがなかったためのチョイスであるが。それがいいわけとして他者に通じるかは別問題。
「よぉし……このあたりならいいかな……」
 なので彼はなるべく人がいない所を超感覚まで使用して探し、こっそりと入浴していた。
「はぁ、気持ちいいな……やっぱり普通のお風呂より温泉だね」
 そしてゆったりと疲れをとるリアトリス。
 だが、それは永く続かなかった。
「はぁ……くっそ、身体がガチガチ痛ぇ……やっぱ無理しすぎたな」
 男湯に、涼司が入ってきたからである。
 長丁場の戦闘を終え、その疲れを落とす為に来たらしかった。
 もちろんそれだけであれば誰に迷惑をかけることもないのだが。
 涼司は真っ直ぐリアトリスのつかる湯へと近づいてきたから問題なのだった。
(や、やば……見られたらきっとヘンなことになりかねないよ)
 考えるが早いか、慌ててその湯から出て別に移ろうとしたリアトリス。
 しかし。色んな意味で間が悪かった。
 焦るあまりリアトリスは上の水着をはらりと外してしまい。
 そこを絶妙のタイミングでやってきた涼司に目撃されてしまった。
「「………………」」
 両者、沈黙。
 もしもこのとき彼が疲労困憊でなく頭に冷静さが残っていれば、妙な誤解を生むこともなかったかもしれないが。

 ぶあっ

 残念ながら、涼司は思いっきり鼻血を出して気絶する運びとなっていた。
「わあああ! ちょ、ちょっと涼司君っ!?」
「うう……ありゃ? 向こうに……お花畑が……」
「ええええええ!? と、とりあえず、救急車――!」
 ここまでずっと格好よさげに決めてきた涼司だったが。
最後の最後で、締まらない結果となっていた。

『涼司、あり、が、と、う』

 そんな彼に、エコーの笑い声がかけられていた。

                                     おわり

担当マスターより

▼担当マスター

雪本 葉月

▼マスターコメント

 こんにちは。マスターの雪本葉月です。
 今回のテーマは『生と死』です。ちょっと重いテーマだけに、どう表現したものかと考えた末に以上のような作品になりました。上手くできたかどうかは難しい所です。
 特に温泉のシーンは、普段しないような描写が多々必要だったのであれでよかったのかどうか……??
 加えて執筆中に奥歯が痛み出したりして、それはもう四苦八苦してしまいましたし。
 今はもう大丈夫ですけど、やっぱり健康は大切ですね……そして普段はそれに気づかないんですよね……。
 皆さんも、病気などには十分気をつけてください。
 それでは。

▼マスター個別コメント