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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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【第十二幕・最後の試練】

 にゃん丸の戦闘の後の職員室では、現在シン先生と三郎が向かい合っていた。
「我は望月三郎兼家が子孫、甲賀三郎なり! 教諭殿に恨みは無いがここで果てて戴く所存なり!!」
 三郎はその口上を切るが早いか、雑嚢の中から甲賀流特性火薬玉を数発放り投げた。
 直後室内に広がるまばゆい閃光、更に三郎は爆炎波もそこに叩き込んだ。
「ふむ。まさかとは思うが、これで視界を奪ったつもりか?」
 シン先生の言葉の途中、構わず三郎は光学迷彩で姿を消して一気に距離を詰める。
「言っておくが、私は戦闘において目に頼ってなどいない。ゆえにいくら煙や光などで姿を隠そうと無駄なことだ」
 斬りかかって来た三郎のカルスノウトを、シン先生は手にしたクナイで受け止め、そのまま白兵戦に持ち込まれていく。
(く……全く息をきらさないどころか、汗ひとつかいてないとは……よし、それなら!)
 三郎は額が触れるほどの至近距離までシン先生に近づくと、取り出した傷痍火薬玉を叩きつけた。
「むっ!」
 直後爆音が室内に轟く。三郎も若干の被害をその身に刻みながらも、すぐ体勢を整える。
(手応えあり…………いや、違う!?)
 爆破の煙が晴れると、そこには黒焦げで傷だらけになった木机が転がっていた。
「忍法、空蝉の術。初歩的ながら、なかなかに重宝している術だ」
 そしてシュタッと、三郎の目の前に着地するシン先生。どうやら爆発の直前に上に跳んでいたらしいと理解する三郎。
「さて、これで終わりかな?」
 余裕の言葉をかけるシン先生だったが。そのとき、三郎の背後から銃弾が飛んできた。
「ぐ……!?」
 使用されていたのは模擬用のゴム弾であったが、胸元にもろに命中したことで一歩後ろによろけるシン先生。
「ごめんちゃいw」
 てへ、と舌を出しながら姿を見せたのは、ハンドガンを手に持った天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)。そこへ更に死角に陣取った白 舞(はく・まい)が畳み掛けるように、火薬玉と煙玉をシン先生の左と右にそれぞれ放り投げていく。
「巻物ちょーだーい!!!」
 舞のその言葉は、爆音によって数秒の内にかき消された。
 ふらついているシン先生に、三郎が接近して斬りかかり。そこへまた篤子が狙って弾を連射していき。更に舞が火薬玉を投げる。というコンボを繋げて行く三人。その連携攻撃が繰り返され、ついにシン先生は膝を折って倒れ伏した。
「甲賀三郎、見事教諭殿を打ち負かしたり!」
 爆発で粉塵が舞う中、コロコロと転がった巻物を掴みとり堂々と掲げる三郎。
「やったやったあ! さすが甲賀先輩です!」
 わかりやすく手を挙げての喜びを示し、キラキラとした目で三郎を見つめる舞。
「わたくし達にかかればこのくらい容易いことでしたね。もっとも、思っていたより少々期待はずれで失望した面もありますけど……」
 シン先生を見下ろしながら、そんな言葉を漏らすのは篤子。
「そうか。だったら安心してくれ、まだまだ戦いは終わっていないからな」
 と。すぐさまほとんど予備動作なしに起き上がったシン先生。
「な!?」「嘘!」「……っ!」
 それに驚愕しながらも、すぐさま距離をとる三人。
「はは、なーるほど。ただ単にやられた振りだったわけだ、今までのは」
「ええっ、そんな! あんなにあたし達の攻撃と爆発を受けてたのに……!」
 ややひきつり笑いを浮かべる篤子と、更なる驚きを顔に出す舞。
「相手を欺くのは、忍者の初歩の初歩。加えて、相手を出し抜くのも同様に初歩の道だ」
 冷ややかに告げて、シン先生は見せびらかすように陶器の小瓶を前に晒していた。
 その意味を一瞬計りかねる三人だったが。すぐに煙に混じって周りに漂う赤銅色の粉末に気がついて、身を固くした。……というより、身体が固まったかのように動かないことに気づかされていた。
「三人の連携はなかなかだったが、さすがにあそこまで火薬を乱発して使うのはいただけない。こうした、しびれ粉などの小技に気がつきにくくなるからな」
 忠告をしながらシン先生はゆっくりと三人の後ろにまわり、
「今回は残念だったが、その悔しさをバネに一層励むことを期待している」
 トン、トン、トンと、肩でも叩くかのような軽さによる手刀で意識を失わせた。

 それからしばらくして。ようやく職員室へ辿り着いた利経衛。
 そして垂とアレキサンダー。更に、途中シン先生を探していた日比谷 皐月(ひびや・さつき)と、パートナーのルーシュチャ・イクエイション(るーしゅちゃ・いくえいしょん)もついてきている。尤も、ルーシュチャは魔道書ゆえ皐月以外は存在に気づいていなかったが。
 いざ中へ入ろうと利経衛が扉に手をかけようとしたとき、
「待ってください!」
 後ろから彼らを追いかけてきた人物が声をかけてきた。
 それは赤羽 美央(あかばね・みお)の声で。
「利経衛さん。あなたは戦闘に参加せずに、私や他の生徒とシン先生の戦いをじっくり見ていてください」
 彼女は更にそんなことを口走ってきた。
「あ……その。し、しかし拙者とて微力とて力になれるでござるからして」
「ああ、誤解しないでください。利経衛さんには、シン先生の動きの癖や弱点を見ぬいて貰いたいんです」
「え?」
 利経衛は美央の言葉にぽかんとするが、アレキサンダーは密かに口元に笑みを浮かべた。
「そもそも、多くの皆さんが強い忍者達と戦ってこれたのは、利経衛さんがそれぞれの長所などを把握してたからです。予備知識があるのとないのとでは、戦いにおいて格段に差が生まれます。そうでしょう?」
「それは、確かにそうでござるな……」
「ですから。いきなり勝負しても勝機は薄い筈。ですけど、もしも利経衛さんがシン先生の弱点を知ることができて。それを私達に教えて貰えれば、シン先生にもきっと勝つことができます」
「しかし……拙者に先生の弱点など知ることができるでござろうか?」
「大丈夫です、貴方ならできます。それとも、女王の意思に従わないおつもりですか?」
 美央は雪だるま王国の女王を名乗っているゆえそういう言い方をしたのだが、事情を知らない利経衛は単に女王という響きに押されて、こくこくと強制的に頷かされていた。
「ふふ、決まりですね」
 そして美央は扉を開け放って中へ踏み込んでいった。
 それに皐月(とルーシュチャも)続く。
 利経衛は言われた通り隠れて中を覗き見、垂とアレキサンダーも見学に徹していた。

「それじゃあ、まずはオレだけで行かせて貰っていいか。戦闘訓練も兼ねてるから、まずは単独で真っ向勝負といきたいんだ」
 佇むシン先生に、まず一歩歩み出たのは皐月。
 それを聞いて頷く美央。ルーシュチャの方も、
(ふん、貴様がどこまでやれるか、せいぜい見物させて貰おう)
 と、皐月の脳内に語りかけていた。
「そういうわけだから。よろしくお願いするぜ」
 そして光条兵器であるギター(漆黒ボディのフライングリバースV)を呼び出して、構える皐月。
「ほう、これはまた変わった武器だ。なかなか面白い戦いが期待できそうだな」
 それにシン先生は淡々と返答しつつ、自然体での構えをとった。
 皐月はすぐさまギターを掻き鳴らして驚きの歌を奏でながら突撃する。対するシン先生は本当に驚きながら、しかしそれを表情に出さずに回し蹴りを放った。
 皐月はディフェンスシフトを発動させてその蹴りをギターで防ぎこちらもお返しだとばかりに蹴りを返していた。補足しておくとその最中も驚きの歌は奏で続けている。そうした技巧にやっぱり驚きながら、シン先生は軽くバク天して蹴りを回避した。
 そこを一気にギターを用いての轟雷閃で仕留めようと試みるも、攻撃が当たる寸前に印を結んだシン先生はドロンという音が出そうなほどの煙を残して姿を隠した。
 キョロキョロと周囲を探りながらも、驚きの歌は奏でたまま使用したぶんのSP補給を欠かさない皐月。
「そちらが雷なら、こちらは火でいくとしようとか」
 と、頭上から声がして思わず見上げた皐月。その目に天井に上下逆さに張り付いたシン先生が両手拳を口の前重ねている様子が映った。
「忍法、火遁の術!」
「うああああああっ!」
 構えようとしたが、若干遅かった。
 目を焼かれることこそ避けられたものの、その身に火を喰らって動きを鈍らせる皐月。そこを見逃すシン先生ではなく……天井からくるりと回転して降りた勢いを乗せた蹴りを容赦なくその身体に叩き込んだ。
 辺りの机をなぎ倒しながら、壁に激突する皐月。
「くそ。オレだけの力じゃ、ここまでが限界か……」

 そんな攻防が繰り広げられていく中で、外の利経衛はというと。
「ああ、やはりさすがはシン先生でござる。実力に差がありすぎるでござるよ」
 また臆病風に吹かれ始めていた。
(ほんとに情けない奴……とは言っても、確かにあのシン先生には見た限り全然隙が無いよな。あんな本格の忍者にどう太刀打ちしたらいいのか)
 傍で見物している垂はそんなことを考えつつ、
「それじゃあ結局、弱点や隙は見あたらなかったのか」
 なんとなしにそう問いかけてみた。
「あ、いや……前々から調べていた情報と併せて、いくつか核心を得たことならあるでござる」
 と、利経衛がそんな予想外の答えをしたことに垂は驚き、同時にだったらさっさとそれを教えてあげればいいじゃないかと憤った。が、
「でも、拙者なんかの思い付きでは底が知れている気がするでござるし……余計なことをするよりは、いっそもう」
「もう、なんだってんだ? おい」
 と、そのとき背後からやや怒った感のある声が轟いた。
 利経衛と垂、あとアレキサンダーが振り向くと、そこには鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)がいつの間にか仁王立ちしていた。
「ウッチャリ、てめぇ、さっきから見てたら、何のんびりと構えてるんだ?」
「は? い、いやその」
「これは、てめぇの試練だろが! 男だったら、命を賭けてでもやんなきゃいけねぇ時があるだろうが!」
「だ、だからこれはそういう作戦でござって……」
「作戦だ? その割には今逃げようとしてた風だったじゃねぇか」
「え、そ、それは」
 確かにまた自分の中に恐怖心が沸いて、逃げたくなったのを自覚し言葉に詰まる利経衛。
「怖いのか? そん時はお前が守りたいもんを思い浮かべろ。何だっていい。それこそ、好きな奴を守りたいとか、そんなきれい事みたいなことでも、自分のちっぽけなプライドを守りたいとか、そういうことでもいい。とにかく、今てめぇが守りたいもんを思い浮かべてみろ。そうすれば、自ずと戦場に足を進められるもんだ」
 厳しい中にも優しさが見られる洋兵の助言に、改めて自分が何の為にここに立っているのかを考える利経衛。ふいに思い出されたのは、あろうことか分身姉弟の嘲りの顔だった。
 それを腹立たしく思いながら、いつも言い返せなかった自分。
 だがそれは、本当は理解していたから。腹立たしいのは、なにもできない自分自身であることが。それが嫌だったから、何か、できることを模索して。色んなことを調べたりしてきた。それがもし、本当に自分の資質であったなら――
 直後。気づけば利経衛は職員室の中へと足を踏み出して、
「おふたりとも!」
 いざここからルーシュチャの力を引き出そうと構えていた皐月と。
 自身に簡易雪だるまの加護という名のファイアプロテクトをかけて、戦闘の準備をしていた美央に向けて。
 声を張り上げていた。
「シン先生の弱点は『近代的なもの』でござる! そのギターをはじめ、銃や電子機器などの見知らぬ技術や知識にない情報に、戸惑うときがあるんでござるよ! 加えて、たいていの術に対して『古典的なこと』を重んじているでござる! わざわざ煙をあげて姿を隠したり、術の前に印を結んだりといった行為を必要不必要に関わらず高確率で行なっているでござる! その辺りのことをつけば、勝機が見出せるかもしれないでござるよ! 拙者も戦うでござるから! 一気に畳み掛けるでござる!」
 その声が届くのとほぼ同時に、
「よっしゃ、オレ達の第二楽章、披露してやろうじゃねーか!」
(ふん。鍛錬の為に私の力を使うなどと……おこがましいにも程が有るが、仕方有るまい。仮にも私の宿主が力の使い方すら知らんのでは困るからな。精々励め)
 皐月はルーシュチャの封印を解凍させる。
 すると皐月の右腕が異形化し始め、太さが胴回り程度にもなり、地に着く程度の長さの数式で縛られた、影のような形状となる。同時に皐月の瞳の色が黒から赤に変化していた。
 そうした変化にさしものシン先生も心中では驚きを隠せなかった。
 その隙を見逃さず、利経衛はなんと自分の携帯電話を放り投げた。
「む……!?」
 と、眼前に迫ったそれをシン先生は反射的に掌底で弾き飛ばそうとしたが、その寸前でアラーム音が鳴り響き。ビクリと身体を震わせてしまった。利経衛は洋兵に視線を投げかける。
「よし、任せろ!」
 その意を悟った彼は、後方よりスナイパーライフルで、シャープシューターを使っての狙撃を放った。弾丸がシン先生の足元をかすめて僅かに体勢を崩させ。そこを皐月の腕がリーチを生かして、そのへんの机をなぎ倒しながら横薙ぎの攻撃をかましていく。
「シン先生は、こういうときバク天、バク宙、宙にぶらさがるなどの行動で避けるでござるよ!」
「く――!」
 利経衛の情報公開に、思わずシン先生は初めて表情を苦しげなものにした。
(ふ……とうとう利経衛は、己の資質『情報収集能力』を生かせるようになったか。戦いにおいて、相手の情報はなによりも重要。それを的確に集められていては……私も、もはや気が抜けない!)
 喜び半分焦り半分のシン先生は、行動を読まれながらも回避しないわけにもいかず。皐月の腕を予想通りバク宙で後ろへ飛び退いてかわしていた。だがそれを事前に聞いていれば当然対処でき、間髪いれず着地点めがけ皐月は異形の腕に高周波ブレードを構え、
「あわせろ、ルーシュチャ!」
(命令などするな!)
 轟雷閃を放ち、そこにルーシュチャによる雷術を纏わせて、ふたりの合わせ技が炸裂していた。
 だが、その攻撃に貫かれて消し炭になったのはまたしても机。空蝉の術の効果だった。
「ふふ。惜しかったな」
 本当のシン先生は、既にその机を踏み台にして更に後ろへ飛び退いていた。
「いいえ、そうでもないでござるよ」
「なに!?」
 が。
 着地したところへ、美央が高周波ブレードでランスバレストによる突撃を敢行しようとしていた。彼女は密かに、利経衛からシン先生がどう動くかを聞いていたのである。
「くっ……忍法、火遁の――」
 対抗で自分も術を放とうとするシン先生。だが美央は自分に施した簡易雪だるまの加護に加え、相手が律儀に両手を口の前に構えるなどの動作をするとわかっていたため躊躇することなく突撃に専念でき、そしてついに――――!

「……っ、降参だ。利経衛」

 美央の剣は、顔の寸前で静止していた。
 勝敗が結したのを悟り、シン先生が呟くのと同時に職員室内に歓声が響き渡った。
「やった、で、ござる……」
 その直後。利経衛はいきなり後ろ向きにばったりと倒れていた。