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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)
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第1.5章 増える想い

「きゃー! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! なんかごめんなさいっ!」
 大通りから一歩奥へ、さらに細い通りへ。
 ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)は悲鳴をまき散らしながら駈け続ける。
「拾わなきゃよかった! みんなの役には立ちたいですけどっ! こんなの僕には荷が重すぎますぅ〜!」
 ティエリーティアは、偶然、さっき見つけた像の破片を、かなり恨めしそうに眺めやった。
「まだ? すり替え場所はまだ?」
「い、いいからほら、もっと焦って! 追っ手、増えてるよ!」
 ともすると失速しそうになるティエリーティアの背中を、つんつんとつつきながらミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が急かす。
 聞こえてくる足音は、確かに大きくなっている気配があった。
「ひぃぃぃぃぃ」
 もう怖くて振り返れない。
「急いでは欲しいですが、焦らなくていいですよっ。次、もう少し細い路地へ飛び込んでください」
 背後の状況を確認しながら、菅野 葉月(すがの・はづき)が落ち着かせるように声をかけた。
 葉月に言われたとおり、ティエリーティアは次の角からさらに細い路地へと飛び込む。 路地の幅は横に並んだら二人が限度というほどの幅しかない。
「これで、一度に襲いかかられることはありません」
 人数が制限された剣の花嫁の足下に向かって、葉月は機関銃を掃射した。
「それより、ダミーとのすり替えポイントは間違いないですね?」
「……こ、この先で、大丈夫だと思うんですけど……」
『女神像の胴部みつけましたっ!』
 という自分の連絡に対して、ダミー作戦を提案してきた政敏から連絡。
 そして、すり替え場所を示したメール。
 ティエリーティアは少し自信がなさそうに、ハンディコンピューター上の空京の地図を確認した。

「どれどれ?」
「君は見なくて良いんです」
 覗き込もうとするミーナの頭を、葉月が捕まえる。
「えー? なんでー?」
 自分の方向音痴を自覚していないミーナは不服の声を上げた。
「あっ! ありましたっ、あれですっ!」
 ティエリーティアの歓喜の声。
 路地を抜けた先に、ゴミ集積場が見えた。
 三人は転がり出るように路地を抜け――

『ああああ』

 揃って絶望の呻き声をもらす。

 ビルの林に空いた小さな広場。
 おそらくゴミを集めるためだけのこの小さなスペースに。
 あっさりと路地から追うのを諦めて回り込んだのだろう。
 十人に届きそうな剣の花嫁の無表情な顔が並んでいた。

 ザッ。

 その全員が、一斉に光条兵器を構える。

 次の瞬間。

「息を止めてっ!」
 警告の叫びと共にカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)がアシッドをミストを発動。

 酸の濃度は絞りに絞り、やたらと白いばかりの霧が辺りを包んだ。

「今だっ」

 トーンは落とし、しかし鋭い政敏の声が響いた。
 ティエリーティアは無我夢中で女神像の胴部をゴミ集積場に放る。

 ほどなく。

 酸の霧が晴れていく中、二つの塊を抱えた政敏と、一つの塊を抱えたカチェアが、それぞれ別の方向に散っていった。