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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第3回/全3回)
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第5章 取り返した心

「おわっ」
 光条兵器の一撃に和原 樹(なぎはら・いつき)は足をもつれさせた。
 それでも。
 倒れ込みながら剣の花嫁に、グイとメイスを押し当てる。
 バチバチと目にまぶしい放電の後、ぐったりと剣の花嫁が崩れ落ちた。
 その体を押しのけ、額飾りを外して破壊。
 そこまでやってから、樹はパートナーに声をかけた。
「フォルクス、まだSP大丈夫か? メイスの帯電、切れちゃったみたいなんだ」
「『大丈夫か?』は樹の方だ。足にきてる。いつまでやるつもりだ、こんなこと」
 腕を組み、難しい顔をしたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が答えた。
「いつまでって……全員元に戻すまで、だろ? ティセラさんがどのくらい剣の花嫁さんを洗脳したのか知らないけどさ」
 樹の答えに、フォルクスは珍しくいらだちを示すように、クシャクシャと自分の髪をかき回した。
「それにさ、とりあえず目の前の出来ることに専念したいんだ。今けっこうぐちゃぐちゃでさ……カンバス・ウォーカーの気持ちとか……古王国が滅びたとき、ティセラさんはどう思ったんだろう……とか、放っとくと頭の中グルグル回り出すんだ。それでも、洗脳なんて手段が許せないのだけはわかるから、今やってることはとりあえず迷わずにすむ」

 グイ。

 顔を俯かせた樹の手を、ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が握る。
「痛いの……樹兄さん?」
 ショコラッテはそのまま樹に向かってヒールの準備をはじめた。
「ああっ! だ、大丈夫だよショコラちゃんっ!」
「……でも……」
「大丈夫。それは、剣の花嫁さんたちのためにとっておいてあげて。たぶんまだ、その機会が出てくるはずだから」
 ショコラッテは普段あまり表情を宿さない瞳に、しかしそれと分かる心配の色を浮かべたが、渋々といった様子でその腕を引いた。
 そのやり取りの様子に、フォルクスはやれやれと頭を振るう。
「樹。雷術をかけてやる。さっきみたいに驚いて手を離すなよ」
 樹の差し出したメイスに、フォルクスは雷術を発動させた。
「願いや利害が異なるならば、結局はどちらかが退くか、退かせるかしかない。これは道理だ。お前も言っていただろう? 一つの願いが叶う影には、必ず叶わぬ願いがある。そのことをお前は忘れない――それでいいのではないのか? まあ少なくともだ……剣の花嫁を傷つけたくないのは分かるが、もう当てていけ。ハンデがでかすぎる」
 フォルクスの言葉に、しかし樹は微笑んだ。
「でもさ、やられたからって、じゃあ全力でやり返して良いって道理は、ないからさ」


「キミにだって……罪は重ねさせないんだからっ!」
 小型飛空艇で小気味のよいターンを決め、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は手にした光条兵器を振るった。
 鞭状となったまばゆい光が空間を横切って、剣の花嫁を絡め取る。
「眠ってて、いいからね」
 玲奈は小さく呟いて、剣の花嫁の動きが止まるのを待った。
 しかし、その瞬間はいつまでもやってこない。
 むしろ、光条兵器を振りほどこうとする動きが玲奈の手元まで伝わってくる。
「ちょっと師匠? 私の光条兵器、帯電してるんじゃないの?」
「ひとつには、これは使い切りの代物で、エネルギー切れのようですね」
 レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は、洗脳を解いた剣の花嫁から外した額飾りを、思案顔で眺めた。
「もうひとつには、光条兵器にはライトニングウェポンは無効のようですね。いや、ありがとうございます、レナ。いい実験になりました」
「ちょっとーっ!」
 うんうんと頷くレーヴェに向かって玲奈は抗議と悲鳴の叫びを上げた。
 それが合図だった訳でもないだろうが、玲奈の手に伝わる剣の花嫁の動きが派手なものに変わる。
「アストレイっ! 氷術をっ!」
 そこへ、レーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)からの鋭い声が飛んだ。
 レーヴェはそれに応えて氷術を発動。
 戒めを解こうともがき続ける剣の花嫁の頭上に、氷の塊が現出。
 インフィニティーはそれに向かって火術をぶつけた。
 バッシャンと大量の水が剣の花嫁を濡らす。
「アストレイっ! 今度は雷術ですっ!」
「……一介の本のくせに、なかなかの態度ですね」
「玲奈の安全が優先ですっ!」
 インフィニティーから向き直ってレーヴェは雷術を展開、剣の花嫁を昏倒させた。

「今だ!」
 アーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つヴぁいんぜふぁー)の声を合図に久途 侘助(くず・わびすけ)は奈落の鉄鎖を発動させた。
「……ちょいと足止めさせてもらうぜ」
 追いかけてきていた剣の花嫁に急制動がかかったかと思うと、次の瞬間。

 ズボッ。

 その姿が視界から消えた。

「成功だな」

 ダムっ、ダムっ、と剣の花嫁が落ちた穴に、アーキスがさらにトリモチ弾を見舞う。

「よし、次だ。足下気をつけろ、まだその辺にたくさん落とし穴を仕掛けておいたからな」

 手際よく発砲を切り上げると、アーキスはさっさと駆け出していく。
 侘助は若干の冷や汗を拭ってから、その後を追った。

「よしよし……そうこっちだ……よく付いて来たな。ひい、ふう、みい……ふむ、三人か」
 くるりと振り返って背後を確認しながら、アーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つヴぁいんぜふぁー)は、自分についてきた剣の花嫁の数を数えた。
「物騒な追っ手だぜ? 不安とか……不満とかその辺無いのか?」
 アーキスの横で普段から眠そうな目をさらに半眼にし、侘助が聞いた。
「強いて言えばもっと追ってきて欲しいところだ。各学校及びヒラニプラの機晶石研究所……クイーン・ヴァンガードに……オレ個人。さっき落とし穴に落とした剣の花嫁の分を含めても、回収できる額飾りの数が足りん」
「どうするんだそんなもん」
「興味があるだろう?」
 ニヤリと笑うアーキスに侘助の眉が吊り上がる。
「さっきネット調べてたらあれは使い捨って話だったけど……おい、返答次第じゃ俺の協力はここまでだぞ!?」
「案ずるな。悪用しようとは思ってないし、エネルギー切れだろうがなんだろうが関係ない。目的は洗脳の研究と解析、そして情報の共有だ」
 その言葉に、侘助は若干見直すようにしてアーキスを眺めた。
「しかしだな。あいつら、全くいらんもんまでごろごろ抱えてるんだが……これはどういうことだ?」
 アーキスは、剣の花嫁から回収した像の一部らしき破片に、持てあますような視線を向けた。