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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 その少し前――。 
 【町民討伐隊】はトレントの攻撃にさらされていた。
 
「助けるぞっ!」
 彼らの背後をひそかにつけていた紗月、アヤメ、イルマ、千歳、レン、唯乃の6人は、「隠れ身」を解いて戦闘モードへと突入する。
 【町民討伐隊】の面々は既に傷だらけで虫の息だ。
 だが、その割には彼らを傷つけたはずの武器が見当たらない。
「敵が見えないぞっ!」
 千歳が叫ぶ。
 だから、固まって警戒しよう! ということなのだろう。
「怪我人保護が優先よ!」
 唯乃は重症者から安全地帯――つまり一行の中央へ運び込む。
「何てひどいことを!」
 彼女は「ヒール」や「ナーシング」を使って傷を癒そうとする。
 その手を掴み、患者は何事か言わんと口を動かす。
「え? 何? 苦しいの?」
 急いで直さなければ! 
 唯乃は焦ってヒールをかけた。
 その瞬間だった――。
 ヒュンッ。
 彼女の脇を黒く長い影かかすめる。
(え? 枝?)
 そう、どこからともなく現れた無数の太い枝は唯乃を通り過ぎて、イルマに向かう。
「はっ? 枝の大群? どうして!?」
 混乱した彼女は、枝の餌食となる。
 絡めとられて、あっという間に森の中へと連れ去られてしまった。
 その間、わずか数秒のこと――。
「イ、イルマ……イルマぁーっ!」
 返事をして! 千歳は血相を変えて追いかけるが、木々が邪魔をして前に進めない。
「何だ? 長くてぶっとい鞭なのか?」
「でも、あんな鞭なんて見たことがないぜ! 紗月」
 紗月とアヤメは背中合わせに立ち、攻撃を警戒する。
「俺の足元には、守りたい奴がいる」
 紗月の足元には、彼を信じた青年が息も絶え絶えにうずくまっていた。
 若い彼は戦闘の矢面に立たされたせいか、全身傷だらけだ。
「何としても、連れて帰るんだ!」
「ああ、俺達もな」
 
 唯乃は戻ってきた千歳に、病人達の看護を頼むと全力で敵に挑むことにした。
「とはいえ、どこに誰が潜んでいるのかもわからないのよね……」
 念のために「護国の聖域」を使い、「武術」や「白兵武器」の特技を駆使して戦闘に備える。
 
 その時だ――。
 
「何だ! こいつらは!!」
 叫びがあがったのは、後方だった。
 アヤメがイルマと同じく、枝々に絡め取られて引きずられてゆくではないか!
「アヤメさん!」
「アヤメを放せ! この野郎っ!」
 紗月は武器を使い、この見た目「太くしなやかな枝」の大群を薙ぎ払う。
 が、何せ数が数だ!
「紗月、紗月いいいいいーーっ!」
 アヤメは絶叫を残して、森の奥と連れ去られてゆく。
「アヤメッ! アヤメ……畜生、このっ!」
「爆炎波」の姿勢を取ろうとした時、その脚にすがりつく手があった。
 傷だらけの青年が必死にしがみついている。
「だ、駄目ですよ……坊っちゃん……」
 彼は息も絶え絶えに、声を絞り出して訴えた。
「あ、あれは……森の、主です……。スキルやアイテム、特技を使う度に、パラミタ人を蝋人形にしちまう……悪魔のような、魔物なのです……」
「な、何だって!!」
 その時、一行の携帯電話にシイナからのメールが入った。
 内容は青年が告げたものと同じ事実があり。
 森の主――トレントの退治方法は現状不明なので撤退して欲しい、というものだった。
「ふざけるなっ!」
 紗月は携帯電話を叩きつけた。
「俺は、アヤメを助けに行くんだ!」
 だが、その行動はレンによって阻まれた。
「行ってもいいぞ、紗月」
 だが、と付け加える。
「おまえがここでトレントにやられたら、その青年はどうなる?」
「ぐっ!」
「アヤメも、『折角体を張って、ようやく信頼を回復しかけたのに』と、さぞかし残念がることだろうな」
「私も、レンの意見に賛成です」
 千歳が後押しをする。
 唇をかみしめながら。
「残念ながら、私達には打つ手がありません。けれど! 全滅だけは避けなければ!」
 イルマを助け出すためにも! と拳を震わせる。
「生きてさえいれば、勝機は必ずきます!」
「気丈なお嬢ちゃんで良かったよ」
 で、とレンは足元を見る。
 そこにはガックリと足をついて、唯乃がうなだれていた。
「そんな! 私の所為で……私がスキルや特技を使ったせいで、イルマさんやアヤメさんや攫われてしまったなんてっ!!」
 レンは、そっと肩に手を置いて彼女に語りかけた。
「おまえの所為じゃない。運命だ。彼らはそうなる運命で、それでまた俺達に助けられるのさ」

 紗月、千歳、唯乃は重症者達に手を貸す。
 レンは予め銃型HCに館の位置を事前に登録してあった。
「ということは、こいつと反対側に行けば、外に出られるということだな」
 彼らはレンの機転により、多少の時間はかかったものの森からの脱出に成功した。
 そこへ、アイナの銃型HCのオートマッピング機能をたどってきた隼人と出くわした。
「アイナ……、アイナを、見なかったかっ!!」
 一行は力なく首を振った。
 おそらくは自分達のパートナーと同じ末路を辿ったことだろう、と察せられたので。
「アイナーーッ!」
 ガクリッと膝をつく。
 レンは手を貸して隼人を立ち上がらせた。
「大丈夫だ。俺達が、必ず取り戻す! だが今はキャンパスへ戻ることが先決だ」

 彼らの視線の先に、「野原キャンパス」へ先導するつもりでやってきた
アストライト、ヴィゼント、シルフィスティの3人組が、呑気に両手を振っている。