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【十二の星の華】湯けむり! 桜! 宴会芸!

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【十二の星の華】湯けむり! 桜! 宴会芸!

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第5章


 旅館のある一室ではエルによって集められた人達が揃っていた。
 勿論、ホイップ自身もここにいる。
 この部屋の中にいたのは、エル、ホイップ、ここまでちょっと影の薄かったグラン、鄙、藍澤 黎(あいざわ・れい)、ソア、ベア、ケイ、カナタ、ルカルカ、美羽、ベアトリーチェ、カレン、ジュレール、和子、呼雪、ファル、ロザリィヌ、陣とかなりの人数になった。
 エルは予め用意していたネクタイスーツに着替えていた。
「集まってもらってありがとうございます」
 エルはいつもとは違って、礼儀正しく挨拶をする。
「ここに集まってもらったのは他でもない、ホイップちゃんとのことです」
 すぅ、と息を吸い込み、長く吐き出す。
「藍澤さん……いえ、お父さん! 皆さん! ボクは真剣にホイップちゃんのことが好きです、愛しています。絶対に浮気なんてせず彼女一筋になります。どうか結婚を前提としたお付き合いを認めてください!」
 エルは大声でそう言と土下座をした。
 皆、言葉を聞いてぽかんとしている。
 ホイップもだ。
 その中で1人だけ体を震わせている者がいた。
 黎だ。
「勘違いも甚だしい! 付き合ってくれと最初に言わなきゃいけないのは、他ならぬホイップ殿にだろうがーーっ!」
 この剣幕、きっとちゃぶ台が目の前にあったらひっくり返していたことだろう。
「貴殿は好きだと伝えた、だが、ホイップ殿に付き合ってくれと言ったのか? そして、それをホイップ殿が受けたのか? もう少し考えて行動しろーーーーっ! それに誰がお父さんかーーーっ!」
 本当にちゃぶ台をひっくり返しそうな勢いだ。
 黎と女性陣はうんうんと頷き、ホイップを部屋から出してしまった。
 ベアと陣は、崩れ落ちて灰になっているエルをぽんぽんと叩いてなぐさめたのだった。

■□■□■□■□■

 エルの騒動が終わると、大広間では宴会の準備が整っていた。
 ティセラは詩穂に無理矢理浴衣を着せられ、宴会にも参加している。


「山菜の天ぷら追加出来ました!」
 ファイリアが叫ぶとすぐに和服を着て仲居さんコスプレしているウィノナが返事をして持っていく。
 調理場では次々と料理が出来あがっており、また追加の料理なども作っている状態だ。
「鯛ご飯、誰か持って行ってくれ」
 涼介が言うと、やっぱり仲居さんコスプレしているウィルヘルミーナが笑顔で持っていった。
「手こね寿司が出来ましたので、持って行きますが、他に持っていくものありますか?」
 温泉を楽しんでから厨房に来た有栖がそう言うと、クレアがよそい終った潮汁を頼もうとしたのだが、ちょっと持っていける感じではなかったので断念。
 潮汁はクレア本人が持っていくことにしたらしい。


 大広間に料理を運ぶと、美羽とベアトリーチェが用意したカラオケが始まっていた。
 今は巽が熱くヒーローものを歌っている。
 料理をテーブルの上に置いて行くとそのそばから無くなっていく。
 温泉掘り、温泉入浴で意外と体力を使ったので、お腹が空いているのもあるだろうが、料理がみな絶品のせいだろう。
「こんなに美味しそうに食べてもらえると作ったかいがありますね」
「うん!」
 有栖の言葉にクレアが嬉しそうに頷いた。


「あれ? エルさんが見当たらない?」
 ホイップのテーブルまで来たセシリアがキョロキョロと辺りを見回すが、エルの姿はない。
 ホイップのそばに座っているルカルカやソアは苦笑いしているようだ。
「ま、いっか。はい! これ」
「わぁ! 美味しそう!」
 セシリアがホイップに差し出したのは苺大福だ。
「2人の甘酸っぱい恋をイメージしたものだから是非エルさんにも食べて欲しかったんだけど……?」
「えっと……」
「うん、良いよ! ともかく食べてみて! 絶対美味しいって言わせるから!」
 セシリアに促されるまま、ホイップは苺大福を口へと運ぶ。
「中の苺とホイップクリームが絶妙! 美味しい!」
「でしょ!」
 セシリアは満足そうに言うと、まだまだ料理を作るからと大広間をあとにした。


「ホイムゥ! 一緒に歌おうよ!」
 苺大福を食べ終わったばかりのホイップの手を取ったのは美羽だ。
 その手には何か、浴衣のようなものが見える。
「わ、私!?」
「うん!」
 あれよあれよと大広間を連れだされ、更衣室へと到着すると、美羽の手にしていた浴衣を手渡された。
「はい! プレゼント! お揃いのをベアトリーチェが作ってくれたんだ〜」
「いつもありがとう!」
 ホイップが浴衣を着ようと広げてみると、浴衣は思いのほか丈が短かった。
 裾と襟、袖の部分にフリルまであしらってある。
 美羽とはお揃いで美羽がピンク、ホイップが水色だ。
「これ、短すぎない?」
「大丈夫、大丈夫!」
 着替え終わると美羽はホイップを連れ、ステージへ。
 歌う曲は勿論――
「『魔法少女マジカルシスターズのテーマ』いくよー!」
 そう美羽がいうとベアトリーチェが番号を入力して、曲が始まった。
 歌とダンスを披露して、ステージは大成功のもと無事終了した。
「今度はわたくしと一緒に歌って下さい」
 美羽との歌が終わると同時にザイエンデが話しかけてきた。
「うん!」
 ホイップは快く引き受けるとそのままの衣装で2曲目に突入した。
 ザイエンデが選んだ曲は巷で有名なアイドルの曲。
 明るく、元気になれるようなリズムと歌詞だ。
「楽しそうですねー」
 ザイエンデを見て、永太はそう呟いた。
「すみませんが、こちらに追加のビールを」
「はいはいーー」
 ルイに言われて、永太は走り出した。
 宴会の席でもお世話係は変わらないようだ。
 歌が終わると、ザイエンデとホイップは2人でキラッ、とポーズを決めてステージを下りた。
「楽しかったです」
「こちらこそ!」
「今度も一緒に歌って下さい。よければ空京でカラオケなど」
「うん!」
 どうやらホイップとザイエンデの仲が少し縮まったようだ。
「ホイップさん、良かったらどうぞ。喉乾いてません?」
 ホイップが衣装のまま自分の席に戻るとベアトリーチェがキンキンに冷えたビールを差し出した。
「ありがとう!」
 ホイップは相当喉が渇いていたのか一気に飲み干してしまった。
「ふぅ……あれ? もしかしてこれ……お酒?」
 気が付くのが遅過ぎである。
「もしかして……ダメでした?」
「ううん。大丈夫だよ……たぶん」
 ホイップはほんのり頬がピンク色になっている。
「ここで、みんなを楽しませる余興があるんだけどー……そこの君、ちょっと手伝ってくれない?」
 カラオケが一通り終わったステージの上に上がったのはカオルだ。
 そして、指名されたのはホイップだ。
「私?」
「そう」
 ホイップは素直にステージの上に行き、カオルの指示に従う。
 カオルがホイップの背後に立つ。
「日本に伝わる伝統的な遊び、秘技・帯回し! とくとごらんあーれー!」
「えっ!?」
 ぎょっとしたホイップ、ステージを見ていた観客。
 止めることも出来ずにホイップは結び目を解かれ、一気に帯を引っ張られてしまった。
「きゃーーーっ!」
 ぐるぐると回るホイップ。
 やっと、回るのが止まり、へたり込んでしまったホイップの浴衣は帯がなく前がはだけて、客席に居るのぞき部から歓声が上がったが、もう少しで見えるというところでサイモンがホイップの前に立ちはだかり、壁となってしまった。
 カオルは真紀により、連行され、目が回っているホイップは和子とルカルカがサイモンの後ろで着つけ直した。
「ルカルカさん〜大好き〜」
 ホイップはいきなりルカルカに抱きついた。
「どうしたの!?」
 いつもと違う様子のホイップに少し面食らうルカルカだ。
 お酒が入ったばかりで、目を回されてしまい、酔いが回ってしまったのだろう。
 和子が鄙に聞いていたホイップの癖とは――抱きつき癖だったのだ。
 その後、何人もに抱きつき、最後はちょっと復活して宴会場に顔を出したエルだった。
 びっくりしていたが、エルはかなり嬉しそうだ。
 と、エルに抱きついたことで少し酔いが醒めてきたらしく、ホイップは赤面しながら、離れてしまった。


 満月の元、桜を臨みながら縁側で酔いを完全に醒まそうと涼んでいたホイップに近づいてきたのは、珠樹と実だ。
「ホイップ、これ受け取って欲しいのですわ」
 珠樹が差し出したのは鳥の羽でラッピングした花束だ。
「ミーからもあるんだぜ」
 実からはゴブレットに入ったホットチョコだ。
「嬉しいけど……もらって良いの?」
「これは、石化からの復活のお祝いでもありますが、5000年もの間台風を封印していたこと、お疲れ様の意味ですわ」
「ありがとう」
 ホイップは静かにお礼を言うと、珠樹から花束を受け取り、実からゴブレットをもらって、一口飲んだ。
「甘くておいしい」
「そう言ってもらえて何よりだぜ!」
 実は照れたように言う。
「我達はまた戻りますわね。まだまだやることがいっぱいありますもの!」
 珠樹はそう言うと、実と一緒に大広間へと戻り、お手伝いを再開したのだった。


 宴もたけなわ、その中でちょっと暗くしているのはケイだ。
 まだ足を引っ張り、何も出来なかった事を気にしているのだ。
 カナタはそんな様子を見ても、何も言わずただ酒を流し込んでいく。
「……うだうだ悩むのは俺らしくない!」
 しばらくすると何かを決意したらしく、ケイは立ち上がり、ホイップのいる縁側へと向かって行った。
 うんうんと、カナタは頷くと日本酒の一升瓶3本目に突入した。
 縁側ではホットチョコをちびりちびりと飲んでいるホイップを発見出来た。
 ちょうど、周りには誰もいない。
「あ、ケイさん!」
 ホイップはケイへと手を振る。
「ホイップ! この前は力になれなくてすまなかった!」
 ホイップは突然の謝罪に驚いて、言葉が出てこない。
「もしまたホイップが危なくなったときは、今度は絶対に俺もホイップのこと助けるからな!!」
「……うん! ありがとう」
 真剣なケイの表情にホイップは悩んでいた事を察し、柔和な笑顔を向けた。
 その後、2人は夜桜を見ながらぽつりぽつりと会話を楽しんだようだ。