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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

リアクション

 飛空挺の中には、白いテーブルが10脚程積まれていた。それ以外は小物類だ。
「うっし! んじゃあ早速運ぶとするかな!」 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は腕まくりをすると、2脚をまとめて会場まで運んでいく。エメも協力しようと飛空挺に向かった。1脚に手をかけて持ち上げたところで、ラルクが戻ってきて声を掛ける。
「おっと、こういう重そうな物は俺が持つぜ?」
「え? でも1人では大変なんじゃ……」
「適材適所っていうだろ? やっぱ、筋肉を活かせるのは力仕事だからな。皆で協力すればそれだけスムーズに準備できるしよ!」
 そう言って、ラルクはまた2脚を持ち上げた。
「これなら、あと4往復もすりゃ終わるしな!」
「そ、そうですか? ではお願いしますね」
「おう、任せとけ!」
 歯を見せて笑うラルクを見送り、エメはその他の小物をざっと見回した。そして、飛空挺を離れる際に環菜に言ってみる。
「校長先生、青いガーターベルトなんて持ってきてないですよね? ファーシーさんへのプレゼントにと……」
「……そんなものは無いわ」
 一瞬、眉を跳ね上げた環菜は、プレゼントと聞いて矛を収めた。そして、エメは改めて買出しへと出かけていった。
 礼拝堂の前広場にテーブルを置くと、ここが廃墟ではなく演出された結婚式場の1つに見えてくる。脇に停まったスポーツカーも、リボンをあしらわれて飾られた綺麗に咲き誇る花も、準備をする皆の笑顔も、全てが幸せに包まれていた。
(おっさんももしかしたら結婚するかもしれねぇしな。どんなのか予め見ておくのも必要だろ!)
 ラルクにも結婚したい相手がいたが、今はまったくもってそんな状況ではない。それでもとりあえず、式の雰囲気を経験しておけばいざという時にも緊張せずに済むだろう。
 そんなことを考えていたら、優斗がクリップボード片手にやってきた。
「ご苦労さまです。えーと、テーブルは……うん、こんな感じでお願いします」
 配置図を渡してくる彼に、ラルクは言う。
「結婚式、成功するといいよな」
「そうですね、礼拝堂で銅板を合わせることがファーシーさんにとって良い思い出になればと思います。ルヴィさん自身は亡くなってもう存在していないけど……ルヴィさんのファーシーさんへの愛は永遠に無くならないものだし、ファーシーさんがルヴィさんからの愛に応えたいという気持ちが伝わってくるので……皆で、その愛を祝福しましょう」
 真剣さを含ませた優しい笑顔で話す優斗に、ラルクは頷く。
「テーブルを並べ終わったら、クロスをかけてフラワーアレンジメントを置きます。一層結婚式らしくなりますよ」
「祝福、か……」
 優斗と別れ、次のテーブルを取りに行こうと飛空挺に向かう。その途中で、ラルクは良い香りを漂わせているテントに近付いた。身を屈めて火加減をチェックしている楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)の側に日本酒の瓶を置く。
(祝福の場で一杯ひっかけるのも、悪くはねぇよな!)

「テーブルが着きましたか。そろそろ料理を載せる場所がなくなってきていたので、助かりますね。おや、これは……?」
 足元に置かれた日本酒の瓶を持ち上げて、フロンティーガーはきょとんとして、それから笑った。
 運動会で本部の拠点とかによく使われる屋根付きテント。その下で彼は、揚げ物作りに勤しんでいた。跡地にあった無事な机だけでは、約90人分の料理を載せるには全然足りない。
「フロンティーガーさん、キャベツのおすそわけですよぉ〜」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が千切りしたキャベツや人参の入った皿を持ってきた。続いて、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がくし型に切ったトマトを、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がスライスした玉ねぎを大きなボウルに入れて運んでくる。彼女達は隣のテントで野菜をひたすらに斬って……もとい、切って、サラダを作っていた。これから野菜スープを作るところだ。約90人分の……以下略。
「はい、これ! 乙カレーに使うんだよね! どこに置いとく?」
「あ、はい、ではそこにお願いします」
 セシリアは、フロンティーガーが指差した石机の上にボウルを置く。その横に玉ねぎを置くフィリッパ。
「結婚式にカレーというのは、珍しいですわよね」
「5000年前の結婚式じゃ、こういう素朴な料理が出たらしいぜ。あとはローストした肉とか、魚の塩漬けとかな」
 後ろのテントで、食欲のそそる匂いを風に乗せながら弁天屋 菊(べんてんや・きく)が言う。
「さっき、他の詳しいやつらとも話したけど、当時の料理は何処のやつもそんな感じだったみたいだったね。だから、ファーシーも喜ぶんじゃねえかな?」
「……食べれないけどね」
 ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)がぼそっと呟く。
「……いつまでふてくされてんだか」
「だってーーーーーー!」
 そこに、ルミーナ達が訪れた。
「みなさま、ご苦労さまです。とても良い香りがいたしますね」
「フロンティーガーさん! 久しぶりね、何て言ったらいいのか……あの時は本当にありがとう。フロンティーガーさんの言葉がわたしに勇気をくれたのよ。壊れたくないって本気で思えた。しかも今日は、こんなに一杯料理を用意してくれて……」
「いえいえ。試練を乗り越えたファーシー様の幸せをお手伝いさせていただけて、僕は嬉しいのですよ。ご結婚おめでとうございます」
「おめでとうですぅ〜」
「良かったね!」
「お幸せになってくださいね」
「ありがとう! えっと、初めまして、だよね。これからよろしくね!」
 ファーシーが言うと、メイベルとセシリア、フィリッパが口々に自己紹介をする。彼女達のやりとりに暖かい気持ちを抱きながら、フロンティーガーは思う。
(あのファーシー様がご結婚……はじめてお会いしたときには想像も出来ませんでした。結婚とは、人生の大きな舞台……僕に出来ることは、彼女の晴れ舞台を少しでも盛り上げることでしょう)
 とはいえ、肝心のファーシーは今、まだ飲食ができる状態ではない。
 だから。
「ファーシー様」
「ん? なに?」
「きっと美味しい料理を振舞うことを約束いたします。なので、必ず無事に身体を得て、そして再び会いましょう」
「…………」
 ファーシーは、驚いたように沈黙すると、明るく言った。
「うん、約束よ!」
 フロンティーガーの脳裏に自然と、屈託の無く笑う彼女が浮かび上がる。体内で破損した機体しか見ていない筈なのに――
「はい、約束です」