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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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第1章 いざ浮遊要塞【マ・メール・ロア】へ

 お茶会の日。
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と、彼女の護衛のために集った蒼空学園の学生たちを迎えに来たエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)は、ツァンダの街の郊外まで、皆を案内した。
 そこには、既に集まっている他校生と共に、皆が乗れるほど大きな、窓のない飛空挺が待機している。
「どうぞですよー」
 出入り口を開いて、その傍で中を指してエメネアが皆を促した。
「……ここが最後の確認。武装している人は居ないわね?」
 エメネアの傍に立ち、【ティセラ親衛隊】を名乗るリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が皆の武装を確認していく。
「そういうリカインさん、武装してますよねー?」
 取り上げますよ、と言いながら、彼女が佩いた一振りのバスタードソードをエメネアは指差した。
「私はお茶会には参加せず、外から警戒しておくから」
「それでも、乗り込むからには武器の類は置いていってもらいます。それが出来ないなら、残ってもらうしかないのですよー」
 お茶会の間にもしも襲撃があったらと危惧する彼女は、武装を解除することなく、パートナーのシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)と共に残ることとなった。
「その代わりにあんたが頑張ってきなさい。くれぐれも騒ぎの原因になるような真似はするんじゃないわよ?」
 猿ぐつわを噛ませた上に、逃げないように引き連れて来ていたアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)へとリカインは声を掛ける。
「何しやがんだバカ女! こんなことしなくても俺は逃げねーっつうの!」
 猿ぐつわを取り外されるなり、アストライトが声を上げた。
「非武装と言っておきながら、向こうは剣の花嫁、光条兵器持ち。それって不公平だよな? だが、俺も剣の花嫁だ。何かあれば、光条兵器を持てばいい。クイーン・ヴァンガードとしてカンナ様をお守りするために、連れて行ってくれ!」
「リカインさんとシルフィスティさんは残るのですよね? でしたら、パートナーが別行動を取るのはご遠慮くださいー」
 アストライトの願いも虚しく、契約者が残る以上は連れて行けない、とエメネアに断られてしまう。
「ボク、行けるかなぁ?」
 機晶姫であるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が飛空挺の入り口の傍で呟いた。
「これでも駄目なら、いっそ基本の装甲まで外して、基礎フレーム丸出しの素っ裸になれって言うの!?」
 武器は勿論、重装甲アーマーや固定具付き脚部装甲など、武器にできそうなものは全て外してきた。
 それでも機晶姫であるが故、武装しているのではないかというような出で立ちのため、不安になる。
「大丈夫ですよー」
 ロートラウトの呟きを聞いていたのか、エメネアが微笑んで彼女に告げる。
「ティセラさんだって、機晶姫のことは存じていますから、そういったものは武装には含まないと言ってましたー!」
「本当? ティセラちゃんからのお墨付きなら大丈夫なんだね、よかったよ」
 エメネアの言葉にロートラウトは嬉々として、飛空挺へと乗り込んでいく。
「俺がお前たちの分も楽しんでくるから、留守番はよろしくなー」
 共に武装解除の確認を行っていた久途 侘助(くず・わびすけ)は、飛空挺に乗り込みながら、手を振った。
 待ち合わせの場所に3人を残して、飛空挺の出入り口の扉は閉ざされた。
「では、お願いしますー」
 最後に乗り込んだエメネアが操縦席に座る者――深い緑色した長い髪を高い位置で纏めた女性、シャムシエルへと声をかけると、飛空挺は一路、マ・メール・ロアを目指し、飛び立つ。

  ***

 窓のない飛空挺では、外の確認を行うことが出来ない。
「ティセラは信用できないわ」
 環菜へと近付いた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、耳打ちするようにそっと告げる。
 思い出すのは『ティセラ一派が行ってきた数々のテロ行為』だ。それに対して、彼女は強い反感を、そして許せないという思いを抱いている。
 動きやすいという理由で制服のスカートを超ミニ丈にする美羽の今日の服装は、お茶会仕様としてスカートの短いドレスだ。もしものとき、環菜を連れて脱出するには動きやすい方が良い。
「環菜なら大丈夫だと思うけど……くれぐれもティセラの甘い言葉に乗せられないでね」
「大丈夫よ。ありがとう」
 美羽の言葉に、環菜は頷いて見せた。
「エネメア様、お茶会ではお気を付けくださいませ」
 侘助がエメネアへとそっと声をかける。
「ティセラ様に操られていると疑惑を抱く者もいるでしょう、くれぐれも隙をお見せにならないよう……まあ、私もその疑惑を抱く1人ですが、お茶会では何もないと信じておりますよ」
「それは……」
 彼の言葉に、エメネアは言い返そうとするけれど、彼の手で制された。
 次にエメネアの傍へと近付いてきたのは桐生 円(きりゅう・まどか)だ。
「なるほど、あれは正気でやってたんだね、キミが自分で決めたことなら、悪いことでもないと思うよ? 頑張ってね」
「え、あ、はい」
 微笑む彼女からの応援の言葉に、思わず、エメネアは上ずった声で返事をした。

 数時間経ち、どれくらいの距離を移動したのか皆に分からぬまま、飛空挺はゆっくりと速度を落とすと、着陸する。
 出入り口の扉が開かれると、総鉄製の要塞の一端に辿り着いたのだということが分かった。
「皆さん、降りましたかー?」
 エメネアが確認する声をかける。
 飛空挺の中を確認して、誰も残っていないことを確認すると、お茶会の会場に案内するから、と先導し始めた。
「この要塞には、魔術の発動を抑制するようなシステムは搭載されているの?」
 山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)が歩きながらエメネアへと問いかける。
「されていないかもしれませんが、ティセラさんたちに精神系の魔法は効きませんよ?」
 にゃん子がどういう意図で訊ねたのか分からず、エメネアはそう答えた。
「……ホントに空を飛んでる、写真撮って良い?」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が訊ねる。エメネアの「構いませんよー」との返事に、携帯電話のカメラ機能を起動させようとするが、ボタンをいくら押しても撮影されることはない。
「あれ?」
 何度も試してみるけれど、月夜の携帯電話に写真が収められることはなかった。
「……まあ、楽しくお茶会出来るのが一番だけどね」
 エメネアに連れられて中へと入っていく皆の背を見送って、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は呟いた。
 環菜を直接護衛する者はたくさん居る。それに最近の十二星華に関する事件は、各校の生徒による襲撃、妨害も多いと聞く。ティセラが何か起こそうとしないでも第三者が何か起こしたときのために、退路は守り抜く必要があるだろう。
 そのためにアリアは飛空挺の傍で、待機することを決めて、残ったのだ。
「校長、皆、頑張ってね!」
 皆の背にエールを送り、アリアは飛空挺へと視線を向けた。