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リアクション
■
シャノン達が館を捜索し、司が研究室を探していた頃。
攻撃隊は蝋人形化された仲間の導きにより、奥の部屋を目指していた。
■
美羽が言った。
「窓を割って、一気に突入しちゃおう!」
ガンッ、ガシャンッ!
石で叩き割って、窓を枠ごと外す。
「トラップはないみたいです。このまま行きましょう!」
陽太の声で、一斉に部屋へとなだれ込む。
そこには蝋人形達を背にペルソナ、メニエス、町長の姿があった。
片手に、護符の貼られた小瓶。
「あの瓶は、きっと例の泉のだよ! 気をつけて!」
美羽の言葉に、攻撃隊の動きは急に慎重になる。
液体を投げつけられては、ひとたまりもない。
「町長さん、目を覚まして!」
茅野 菫(ちの・すみれ)はけなげに叫んだ。
「奥さんは、町長夫人はもう解放されたんだって!」
え? という言葉と共に、町長の動きが固まる。
「そ……それは、本当の話なのかね?」
「本当も本当! 砦跡の石柱に縛られてて、今解放されたって!」
「砦跡、石柱……」
「そうだよ! 嘘なら砦跡はともかく、石柱の話なんか出来っこないじゃん?」
町長さんは、本当はいい人なんだよね? と畳み掛ける。
「だから町にオルフェウスやルミーナの蝋人形を持ってったり……何とかしようと努力したんだよね?」
「そ、それは……」
小瓶を落としてへたり込む。
そのまま動けなくなってしまった。
蒼也が動いた。
「よし、町長を確保だ!」
「そうは行かないもんねえ〜」
町長の前に立って、ペルソナはサッと小瓶を拾い上げる。
彼の背後に、ナナ・サイレントノームの蝋人形。
(あれが、お兄ちゃんの新しい「妹」……)
菫はエルの様子を思い出す。
菫が野原キャンパスに駆けつけてきた時、彼は拳を壁に叩きつけていた。
いつになく真剣な顔で悔しがって。、
それでエルのため、ナナを救出するため、作戦に参加したのだった。
(だから、ここで諦める訳にはいかないんだよ!)
だが頼みの町長は、安堵からか腰を抜かしてしまったらしい。
(どうすれば……っ!)
「大丈夫、俺達に策がある」
顔を上げた菫に、蒼也が耳打ちする。
「ここはまず、交渉が先だろ?」
そう言って、蒼也は陽太を伴い前に出た。
打ち合わせ通り、陽太が一歩前に出る。
「1番! 影野陽太、行きます!」
スッと息を吸い込む。
と、彼の視線の先に固まったエリシアの姿が。
(問答無用ですわ! 殺しなさいっ!)
大音量の思念にクラクラしながらも、陽太は駄目元で、と前置き。
「あ、あの、投降とか……て、ないです?」
2人の顔色をうかがった。
ペルソナとメニエスの表情は冷ややかなままだ。
「ですよね? あははは〜」
頭をかいて、陽太は引き下がった。
(こんの役立たず! 腰ぬけ! だからわたくしがあれほど……)
エリシアの罵倒が大音響で延々と続いたのは、言うまでもない。
……で、蒼也の番。
(つまりはペルソナさえ説得できればOK、って思っている訳なんだけど)
メニエスは首謀者じゃない。
蒼也はそう踏んでいる。
(親玉を崩せば、一件落着だよな? ふつー)
息を吸いつつ、自分の考えをまとめる。
「あんたは凄いなあ!」
極上の笑みで尊敬の目を送った。
蒼也の反応に、ペルソナはわずかに首を動かす。
(こいつ、自己顕示欲の強いタイプじゃないのか?)
情報を制する者が事を制する。
蒼也はそう考えていた。
つまりおだてて情報を引き出せば、優位に立てるのではないか、と。
「俺はイルミンの学生だが」
「ほう、魔法使い養成所か! 大したもんだ」
ペルソナは興味を持ったようだ。
魔術師だけに、魔法には興味があるのだろう。
「森の木を操る魔法は、かなり高レベルなウィザードでも習得していないと聞く」
「そうだ」
「しかもパラミタ人だけを選んで攫える。すごい技だよな!」
アーデルハイト様だって無理かもしれない。
そこまでおだてられれば、ペルソナも悪い気はしなかったらしい。
「そーお? 僕はあのくそガキババアのアーデルハイトより偉いかも? なんだねえ〜?」
「え? う、うん。お、俺はそう思うけど……」
ペルソナの頬は緩んでいる。
(これは、思っていたより単純バカなのかも?)
蒼也がそう思いかけた時、メニエスが咳払いをした。
「何を言ってるの? 世間知らずの坊や。ペルソナさんは偉大な魔術師。『小物』は相手にしないのよ。とっとと、失せなさい!」
ギンッと睨む。
ね? とペルソナに同意を求めた。
正気に返ったペルソナは尊大に、おお、と頷いた。
「ふふん、そんなの当たり前だもんね! 誰がおまえの様な『小物』にペラペラとしゃべるもんかい!」
(アヤメにはしゃべったくせに!)
紗月は小声で悪態をつく。
その後蒼也がいくら呼び掛けても、ペルソナは答えを返さなかった。
「俺も鏖殺寺院には知り合いがいるんだが……」
といった件に関してだけ反応したが。
「あらあ〜。何の証拠もない、『紋章』も浮かせられないような子供の戯言よ。信頼なさるのかしら?」
メニエスに切り返されて、退くしかなかった。
「じゃあ、あくまでも投降する気はないんだな?」
蒼也が最後宣告を通達する。
とはいえ、彼らの後ろには人質がいる。
(迂闊には動けない!)
その表情を読み取ったのだろう。
「じゃーあ、僕から御退散願おうとしちゃおうかなあ〜?」
ニイッと笑って、片手を振り上げる。
「トレントの皆さあ〜ん、お呼びで〜す! 早く、いらっしゃいなっ!」
それだけで、トレントの大群が館に押し寄せた。
「『森の魔』を自在に操れるってのだけは、本当のようだな」
だが。
「ノーン、竪琴っ!」
「ほいきた! おにーちゃん!」
ノーンがジャア――ンッ! と竪琴の弦を弾く。
ピタッとトレント達の行進は終わった。
「え? 何々? 君達! ふざけちゃ嫌だってば、ねえ!」
ペルソナが泣けど喚けど、トレント達は微動だにしない。
「ふん。僕の武器がトレントだけとは、考えんなよおー!」
ペルソナは薄汚いコートを羽織る。
「魔術師だけに、魔法対策は完璧だもんねえ〜!」
ベエッと舌を出す。
「どうして、こう可愛くないんだよ?」
菫の堪忍袋の緒が切れた。
「小次郎、着いてきな!」
「御意のままに」
「スカサハも、行くであります! 朔様」
スカサハは智杖を掲げた。
「杖は殴るものなのであります!」
いざ! と加速ブースターを全開にする。
そしてそのまま、蝋人形化してしまった。
ペルソナに「泉の水」を振りかけられてしまったのだった。
「何て事を!」
菫は怒りもあらわに、凄味を利かせてペルソナに近づいてゆく。
「攻撃すれば! 自慢の魔法で!」
「何だと! ふざけんな! 小娘の分際で!」
魔法に関しては「史上最強」と思い込んでいるペルソナは、自尊心を傷つけられて「氷術」を叩き込む。
「何だよ! こんなもの!」
菫は「氷術」で相殺しようとする。
「っ!!」
威力が違う。
同じ魔法を使っても、さすがは自称でも「史上最強」。
魔法防御力のある武装をしていたせいで多少の軽減はあるものの、ダメージはかなりのものだ。
(で、でも、こんなことで負けるもんか!)
お兄ちゃんのため、ナナのため、スカサハのため、と思う。
「あたしは、あんたなんかに負ける訳にはいかないんだ!」
だが相馬 小次郎(そうま・こじろう)がバスタードソードで庇ってさえ、ペルソナの魔法は防ぎきれない。
「ナナのために! こいつだけは、滅多斬りにしてやるんだっ!」
けれど2人とも一歩も動けない。
「負けぬ! 元縁結びの神様として! 愛する者を人質にするような卑劣な奴は!」
小次郎は叫んで、「ヒロイックアサルト」で祟りの恐怖をもたらそうとする。
ついで、力技の連続攻撃。
「だいぶ時間が経ちましたな?」
小次郎は冷ややかに笑う。
「こんなに足止めをされてしまっては、『生贄』を運ぶ刻限に間に合わないであろう?」
が、彼の足掻きもそれまで。
間に入った体力十分のメニエスの杖によってかわされてしまう。
「クッ! ここまでかっ!」
菫を庇うようにして、小次郎は片膝をついた。
菫は匕首を持ち上げ、肩で大きく息をする。
一歩も動けない。
その額に、ペルソナは液体を垂らした。
「こうしてまた2体の蝋人形ちゃんが出来ちゃったです〜。キャハハハッ!」
見せしめだ!
そう言って、ペルソナは魔法を使って3人を館の外に放り出す。
「スカサハーッ!」
朔が絶叫する。
そのまま火炎放射器を使おうとする彼女を、紗月が止めた。
「駄目だ! 今使ったら館が焼けて、人質の蝋人形達が溶けてしまう!」
「なら、魔法を使わせないってのは、どうですぅ?」
神代 明日香(かみしろ・あすか)はハンドガンを構えた。
パンッ!
弾丸はペルソナの仮面をかすめる。
仮面の傷をなぞって、ペルソナが戦慄く。
「おのれ! 小娘の分際で! 思い知らせてやるんだからね!」
ペルソナは明日香目掛けて、渾身の「氷術」を叩き込む。
こうして、明日香とペルソナの鬼ごっこは開始されたのだった。
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