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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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  ☆ ☆ ☆

 政敏の携帯が鳴ったころ、月詠 司にもウォーデンから連絡が入っていた。
「ああ、ウォーデンくん、そちらはどうなっていますか? 私はリフルくんたちと合流しましたよ」
 電話越しのウォーデンは、事の成り行きを司に説明する。
「ほほぉ、なるほど……それでは、その件については、後でスタナードさんと話した人から聞くとしましょう。私は私で予定通り調査を進めることにします。ええ、ええ。ではまた後ほど」
 司は会話を終えると、リフルに声をかけた。
「リフルくん、少しよろしいでしょうか? 羅針盤を見せていただきたいのですが……」
 リフルが無言で羅針盤を差し出す。司はそれを丁寧に受け取った。
「ありがとうございます。さてさて、何か手がかりになるような印や、記号・暗号なんかの類はっと……」
 司は、しばらくの間羅針盤を回したりひっくり返したりしていたが、やがて羅針盤から目を離した。
「うーん、残念。それらしきものは見つかりませんね」
「その羅針盤、僕にも見せてくれないか」
 今度は黒崎 天音(くろさき・あまね)が言った。
 司は目で合図してリフルに了承を得ると、天音に羅針盤を渡した。天音も羅針盤を観察していく。
「……ふぅん、無駄足だったかな」
 羅針盤をチェックし終わると、天音は急に興味を失ったような素振りを見せた。パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が彼に尋ねる。
「違うものだったか?」
「大きさも意匠も異なるし、類似性は見られないね。恐らく関係のないものだよ」
 天音は、この羅針盤がラウル・オリヴィエ博士の自宅から発見された『導きの羅針盤』と同じ物なのか
気になり、ヒラニプラまでやってきたのだ。しかし、どうやら両者は別物だったようだ。
「帰ろうか」
 天音はリフルに羅針盤を返し、さらりとそう言った。
「来たばかりだというのに、もう帰るのか。旅は嫌いではないが、こう動き回っていたのでは少々くたびれるぞ」
 ブルースが漏らす。
「もうここに用はないからね。この羅針盤が導きの羅針盤だったら、発掘作業を見学していくつもりだったけど」
「見学、というと、元から発掘作業に加わる気はなかったのか?」
「何故、僕に土いじりをする必要が?」
 ブルーズは言葉に詰まる。
「さあ、早く行こう。僕の知的好奇心を満たしてくれる物以外に興味はない」
「やれやれ……おまえはいつもそうだな」
 山を降り始めた天音に、ブルーズは渋々ついていった。
「信じられませんね。これほど魅力的な物を前にして、何もせず引き返すとは……さぁて、私は未知の解明といきますか。一体何が出てくるか、今から楽しみです♪」
 空飛ぶ箒にまたがった司は、天音とは対照的に嬉々として物体に近づいていった。

「はわ。このおっきいの、いったい、なに?」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は、物体のスケールに圧倒されていた。
 エリシュカのパートナーローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、彼女を連れてリフルの前に歩み出る。
「リフル? リフル・シルヴェリア? Nice to meet you. 【STG(Shambala Training Group=シャンバラ教導団の英名)】のローザよ。今回は宜しく頼むわね」
 ローザマリアとリフルは握手を交わした。
「それにしても、妙なものが出てきたわね。一体何なのかしら」
 ローザマリアは山の方を見ながら、何気なく言う。
「分からない。ただ、何か引っかかる」
「調べていけば手掛かりが見つかるかもしれないわ。そのために来たのだしね」
「そのことで提案なんだけど」
 二人の会話に、相田 なぶら(あいだ・なぶら)が加わった。
「リフル、俺たちも羅針盤を持ってあの物体の上に上ってみないか。ちょうど羅針盤を手に入れたころにあの物体が現れて、羅針盤自体もあれを指してるんだろ? やっぱこの二つは関係してると思うんだよねぇ。物体の上部が平らになってるのも、いかにも怪しくて気になるし」
 リフルが頷く。
「それならおっさんに任せな」
 そう胸を叩いたのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。
「ちょっくら下見してくるぜ!」
 言うが早いか、ラルクは軽身功で斜面を走り始める。が、パワーと体重がありすぎて足下が崩れ、下まで滑り落ちてしまった。
「うお、駄目か。ようし、これでどうだ! ふんっ」
 ラルクはとっかかりを利用し、ロッククライミングの要領で斜面を上っていく。
「おっしゃあ、今度はいけそうだ」
「……私にあんな僧帽筋はない」
 ラルクの盛り上がる筋肉を見て、リフルはそう呟いた。
「フィアナ、運んでやってくれよ」
「はい。リフルさん、私が上までお連れします」
 なぶらに頼まれ、ヴァルキリーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)がリフルに手を伸ばす。リフルが彼女の手を手を取ろうとしたとき、久世 沙幸(くぜ・さゆき)のストップがかかった。
「ちょっと待ったー!」
 一昔前のバラエティ番組のようである。
「あなた、覗く気でしょ」
「はい?」
 いきなりおかしなことを言われて、なぶらはわけが分からないといった声を上げる。沙幸は、リフルのスカートを指さして言った。
「とぼけてもダメなんだからね! このまま運んだら、その……丸見えじゃない」
 そう、前回の遺跡探索に引き続き、リフルは今回も超ミニスカートを履いているのだ。
「さ、リフル、私の箒に乗って。スカートはそう、こうして見えないように……」
 沙幸は、自分の空飛ぶ箒の後ろにリフルを乗せて飛び立つ準備をする。と、今度は藍玉 美海(あいだま・みうみ)が沙幸を止めた。
「沙幸さん、ご自分のことをお忘れになっていますわ」
「え? あ、いけない」
 沙幸は慌てて着物の裾を押さえる。沙幸も今日、裾の短い着物を着ているのだ。ちなみにスカートを履くときはマイクロミニである。
「ありがとう、美海ねーさま」
「沙幸さんはわたくしだけのものですから」
 美海が沙幸の太ももに細い指を這わせる。
「美海ねーさま、みんなが見てるのに……」
「あら、わたくしには沙幸さんしか見えませんけど?」
 見つめ合う沙幸と美海。沈黙が二人を包み込んだ。
「リフルちゃーん!」
 アルマ・アレフ(あるま・あれふ)は、その沈黙を破ってリフルに駆け寄り、彼女を抱きしめた。沙幸たちとはまた違った愛情表現だ。
「久しぶり〜! おねーさんのこと覚えてる?」
「……お弁当の人」
 リフルはそう答えた。ただし、アルマではなく、その隣の如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)を見て。以前遺跡調査に出かけた際、佑也はリフルのために弁当を作ってきた。リフルはそのことを忘れていなかったのだ。
「ん、覚えてたのか」
 佑也は嬉しさをこらえて、平静を装う。
「一応年長者になるからな。後輩たちが心配でついてきた」
「あーん、佑也だけずるい。この機会にあたしのこともしっかり覚えていってね!」
 アルマは更に強くリフルを抱きしめ、ほおずりをする。リフルの記憶にある限り、こんなスキンシップをされたのは初めてだ。彼女は、こんなときどんな顔をすればいいのか分からなかった。
 でも、「笑えばいいと思うよ」という声が、天から聞こえてくる気がした。
 やがてアルマがリフルから離れ、沙幸と美海も自分たちの世界から戻ってくる。沙幸が箒を発進させようとすると、今度はシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)がリフルに歩み寄ってきた。
「これを」
 シルヴィオはジャケットを脱ぐと、リフルの腰に巻いていく。それを見て、黙っていられない者がいた。
「ちょっと待ったあ!」
 リフルに超ミニスカートを履かせた張本人、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
「せっかくかわいくしたのに、台無しじゃない! 私とリフルは蒼空の2大アイドルを目指すんだから、邪魔しないでよね」
「そんなこと言ったって、このまま飛ぶのは問題があるだろう。嫁入り前なんだから大事にしないと」
「リフルはお嫁になんかいかないもん!」
「なんで君が決めるんだ」
 言い争う美羽とシルヴィオを何度か交互に見た後、リフルはぽつりと言った。
「私は剣の花嫁だけど」
「リフル……そういうことじゃないよ……」
 リフルの天然ぶりに、美羽は力が抜ける。結局、沙幸の説得もあって、今回は美羽が折れることになった。尤も、リフル本人は、動きにくいのでシルヴィオのジャケットを邪魔そうにしていたが。
 リフルを囲む生徒たちが物体に向かって飛び去っていくと、彼らに圧倒されていたなぶらがようやく口を開いた。
「なんだったんだろう、あの人たちは。リフルの親衛隊かなにかなのかねぇ」
「リフルさん、私にはあまり社交的な人には見えませんでしたが それなりの人望はあるようですね」
 フィアナはそう分析する。
「さて、私はなぶらを運ぶことにしましょう」
「ああ、そうだな。頼む」
 フィアナは、なぶらを抱えてゆっくりと浮かび上がった。飛行手段にはほとんどの生徒が空飛ぶ箒や小型飛空艇を選んでいるため、二人の姿は少々目立っていた。
 移動にはしばらく時間がかかる。なぶらは改めて物体を見回してみた。すると、彼の視界の隅に、これまた目立つ存在が飛んでいるのが写った。
「玲也じゃないか」
 名前を呼ばれて、巨大甲虫に乗る少年、月島 玲也(つきしま・れいや)が振り返る。
「あ、なぶらさん」
 二人は、共に【義剣連盟】に所属する仲間だった。
「どうしたんだい、ぼやっとして」
「いえ、その……」
 玲也は言葉を濁して目を伏せた。
「ふふ、玲也もリフルさんとお話がしたいのですわよね」
 代わりにヒナ・アネラ(ひな・あねら)が答える。
「ならば、さっさと話かければよいではないか」
 暁 出雲(あかつき・いずも)は簡単にそう言った。
「焦らなくとも、まだまだチャンスはありますわ」
 二人の乗り物も、サンタのトナカイというなかなか奇抜なチョイスだ。
「あの様子では、リフルさんのハートを射止めるまでの道のりはまだまだ険しそうです」
 リフルと生徒たちのやりとりを見ていたフィアナが、感想を述べる。
「ふうん」
 正直モテたことのないなぶらに、色恋沙汰はよく分からなかった。

「…みんな空から行ってしまったわね。リフルに個人的興味も出てきたし、他校生とも積極的に交流して、見識を広めたかったのだけれど」
 小さくなってゆくリフルたちの後ろ姿を、ローザマリアが見送る。
「まあ、先は長いし焦ることはないわね。エリー、上はあなたに任せたわ」
「うん、任せて!」
 ローザマリアの指示を受け、アリスであるエリシュカは、ゆっくりと宙に舞い上がっていった。
「では、わらわたちは下からじっくり行くとしよう。しかし、『物体』というのはいささか味気ない呼び方であるな。何かいい呼称はないものか」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は、しばし考える。
「上部は扁平――何やら劇場みたいだの。暫定的に『テアトル』とでも呼んでおくか。『ロミオとジュリエット』のテラスでのワンシーンを思い出すな。『おお、ロミオ、ロミオ』ふふ、あの上でそう叫んでみたいものよ」
「特殊部隊を外れてからも岩登りをする破目になるとは、思ってもみなかったわ」
 気の利いたことを言うグロリアーナのすぐ隣で、ローザマリアは杭を打ち込みながら斜面をよじ登り始めていた。